経済コラムマガジン 平成9年2月10日より
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15/2/9(831号)
代替資源(非在来型資源)のインバクト

  • 説得力がない原油安の解説

    ここ4年間ほど100ドルという高値を維持し、また昨年6月には110ドル近辺まで高騰していた原油価格が、先日には44ドルと大暴落を演じている。さすがに週刊東洋経済や週刊ダイヤモンドといった経済専門誌も、先週号でこのショッキングな「原油安」を特集している。筆者も両方を本屋でザッと立ち読みしたが、週刊ダイヤモンドの方が多少核心に迫っていると感じられた。色々な所で原油安の原因が語られている。ところが筆者に言わせれば、説得力のある説がほとんどない。

    それどころか中にはドンデモない珍説が横行している。先々週もテレビ東京系のモーニングサテライトにバークレイズ証券のチーフ・ストラジスト北野一氏が登場し、原油安に対する奇妙な解説を行っていた。北野氏によれば、原油安の原因は米国金利の先高感がスタートという。これによってドル高となり、このドル高に対して新興国や発展途上国が高金利政策で対抗している。そしてこの高金利政策によって石油の需要減退招き原油安となったと北野氏は説明していた。朝っぱらからこの解説を聞き筆者も驚いた。


    北野氏の説で唯一正しいのはドル高であろう。ドル高が続いているので、たしかに中東の産油国もこの原油安をギリギリ我慢しているところがある。そもそもドル高に対しては、自国通貨の下落を防ぐため金利を高くした国と、反対に通貨安を目論んで金融緩和を行っている国(EUなど)がある。つまり原油安をドル高だけで説明することは所詮無茶である。

    筆者にとって説得力がないと感じる説の共通点は、原油価格が需給関係(実際の需給)だけで決定されるという思い込みである。日経新聞も2月2日夕刊の2面で「原油価格、なぜ下がった」という特集を組んでいた。これによれば以前は石油メジャーやOPECが原油価格を決めていた。しかし今日、代表油種(WTI、ブレトン、ドバイ)の先物が市場で取引され、需給を反映しこれらの価格が市場で決まる(先物価格が決まれば現物価格が決まる)と解説している(ここまではオーソドックスな解説)。

    中国や欧州を中心に世界の景気は良くないため石油需要が伸びない。一方、シェールオイルなどの原油の代替資源(非在来型資源)の開発が進み、供給が増えた。つまり今日、原油の需給のバランスが崩れ価格が下落していると日経はこの特集で結論付けでいる。。

    しかし実際のところ、世界の総需要は9,000万b/d(b/dは一日当たりの量(バレル))程度であり、毎年、原油の需要は100万b/dくらい増え、一方、供給もほぼ100万b/dくらいずつ増えてきた。このように需給の変動と言っても全体から見ればほんの僅かであり、需要や供給が一年で何十パーセントも増えたり減ったりすることはない。


    だいたいシェールオイルが本格的に生産され始めたのは4年も前の2011年からである。それ以降、シェールオイルはどんどん増産され、今日では400万b/dを超えるほどである。もし需給のバランスが崩れたからと言うのなら、それは前からの話ではと筆者は感じる。

    むしろ4年間も需給を反映しない異常な高値が続いたため、シェールオイルの開発に拍車がかかったと筆者は認識している。だいたい本当に需給を反映して常に市場価格(原油価格)が決まっているのなら、わずか半年余りで110ドル近辺から44ドルに大暴落するはずがない。おそらく市場が常に正しいと思い込んでいる観念論者達には、このような現象はとうてい理解できないのであろう。

    筆者は、4年間も高値が続いたことの方が異常だったのであり、今日の下落はむしろ正常化への過程と思っている。筆者は、もし本当に実際の原油の需要や供給だけで市場価格が決定されてきたのなら、昨年までの高値と今日の大暴落という事態はなかったと思っている。ところが現実は原油市場に実際の需給とは関係のない資金が大量に流入していて、この動きによって市場価格が概ね決まってきたと筆者は見ている。今回はこの資金が動いたので暴落が起ったと筆者は理解している。週刊東洋経済と週刊ダイヤモンドでは、後者がこの点にある程度踏込んだ解説を行っている。


  • 主要地域の原油生産の損益分岐点

    先週号で今回の原油価格暴落の理由を、「ある事情」で原油市場が大きく変質したからと述べた。「ある事情」を理解してもらう上でも、前段の説明が必要である。そのためにまず供給サイドの話として、主要地域の原油生産(代替資源(非在来型資源)を含む)の損益分岐点(ドル・1バレル当り)を次の表で示す(出所は米IHS)。これは2020年までに生産開始予定の新規プロジェクトに関する数字である。ただこれらの数字は、ちょうど1年前(14年2月7日)の日経新聞の記事から採ったので多少古くなっていることをご承知願いたい。

    損益分岐点(1バレル当り)
     地  域 損益分岐点
     中  東 23
     北アフリカ 30
     ブラジル沖 50
     ベネズエラ 62
     米メキシコ湾 63
    北米シェールオイル65
     北  海 68
    西アフリカ沖72
     カスピ海 96
     ロ シ ア 98
    カナダ・オイルサンド104


    まずこの表の見方として注意が必要な点は、上表の数字はあくまでも2020年までに生産開始予定の新規プロジェクトに関するものである。おそらく既存の設備のコストはこれらより低いものが多いと見られる(例えば北海油田などもこの数字よりずっと低いと考えられる)。また数字はその地域の平均値であり、この表より高い開発案件と低い案件が混在していると見る。さらに損益分岐点の考え方としては、変動費に固定費を加味したものと理解する。開発費用や設備費用といった固定費は一定の年限(例えば10年とか・・ただしシェールオイルはもっと短い)で償却することを前提にしていると考える。


    筆者が注目しているのは、シェールオイルとオイルサンドといった原油の代替資源(非在来型資源)である。特に数年前までは、本誌で何回か取上げたように筆者はオイルサンドの方に関心があった。しかし現実には、シェールオイルの方が開発が進んだ。ただ米IHSによればオイルサンドの損益分岐点を104ドルとしているが、既存の設備のコストは75ドル程度という情報も有り、米IHSの数字はちょっと高過ぎると感じる。これについては真偽を確かめる必要があるが、とりあえず今週号の話を進めるには大きな障害とはならない。

    シェールオイルとオイルサンドに注目する理由は、両者の埋蔵量がほぼ無尽蔵という事実である。このことは昔からよく知られていたことである。原油の可採埋蔵量が1.7兆バレル(既に採掘済みの量を差引くと約1兆バレル)に対して、シェールオイルが3.13兆バレル、オイルサンドも2.12兆バレルある。しかし昔は原油価格が安く推移していたので、高コスト(双方ともバレル当り70〜80ドルと言われていた)である両者の開発に手が付かなかっただけである。筆者が08/6/23(第532号)「原油価格の暴落予想」」で高騰していた原油価格の暴落を予想した根拠はこれである。当時、「そのうち原油価格は150〜200ドルになる」といった明らかなデマが広がっており、いい加減なエコノミスト達もこれを吹聴していた。

    ところが不可解にも原油価格が高値の100ドルという時代が7年近くも続いたのである(途中リーマンショックで一時的に40ドルまで下落したが)。しかし掘削技術に飛躍的な進歩が有り、特にシェールオイルについてはコストが40ドルの油井まである。シェールオイルとオイルサンドについては、今後も採掘技術の進歩の可能性が十分考えられる。今後の原油価格の推移を予想するに当り、このほぼ無尽蔵の原油の代替資源(非在来型資源)は絶対に考慮すべきことである。


    ちなみにオイルサンドも捨てたものではない。シェールオイルに及ばないが、2013年で195万b/dの生産量がある。

    今日、米国では「キーストンXL」というパイプラインの建設を巡って、オバマ大統領と議会が対立している。このパイプラインはカナダのオイルサンドから抽出された重質油分を軽質石油製品にするため、メキシコ湾岸の石油分解装置のある石油精製設備に送るためのものである。オバマ大統領は環境問題を盾に反対しているが、共和党を中心とした議会は建設を推進している。とうとう先月の1月29日に建設承認の法案は圧倒的多数で上院が可決した(つまり民主党の中にも賛成に回る議員がかなりいた)。はたしてオバマ大統領がこの法案に拒否権を発動するか注目されるところである。


    来週はいよいよ議論の核心である「ある事情」について述べる。







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