経済コラムマガジン 平成9年2月10日より
経済コラムマガジン




15/2/2(830号)
原油価格の動きに変調

  • 本誌が取上げてきた原油価格の推移

    原油価格の下落が続いている。今回の価格下落は、いわゆる日頃の価格変動の一つとは異なり、大きな流れの中での現象と見るべきと筆者は考える。したがって下がるところまで下がれば、元の100ドル(WTI)時代に戻るとか、以前よりいく分安い水準(80ドル程度)で安定するとは思っていない。

    下落が始まったのは、昨年6月にイスラム国がイラク北部に本格的な侵攻を開始し一時的に原油価格が上昇した直後であった。この上昇を最後に、7月あたりから原油価格は逆に下落を開始し9月以降はこの下落が加速した。原油価格の動きに変調が生じていることを筆者も認識していた。しかしちょうど消費税の再増税問題があり、これに筆者の関心が集中したため、原油価格のことを取上げるのが今日まで後回しになったしだいである。ちなみに昨年からの原油先物価格(WTI)の推移は、次の表の通りである。

    WTIの推移(ドル)
    年・月WTI
    14年4月102
      5月102
      6月105
      7月102
      8月96
      9月93
     10月84
     11月76
     12月59
     直近44



    本誌は昔からエネルギー関連として原油や原油価格の推移を度々取上げてきた。例えば08/6/16(第531号)「原油価格とファンド」」から5週間、当時の価格高騰の原因とその後の見通しを述べた。この頃(ちょうどリーマンショックの直前)、原油価格が上がり続け、ついに2008年7月11日にはWTIは147.3ドルという史上最高値を記録した。当時、燃料価格が高くなり過ぎて漁師が漁に出られないといった問題が起ったほどである。

    しかし本誌は08/6/23(第532号)「原油価格の暴落予想」で、この高値は続かないと主張した。オイルサンドのような代替エネルギーの開発が進んでおり、これらの生産コストがバーレル当り100ドルを下回っていることをこの説の一つの根拠として挙げた。


    また本誌は08/7/7(第534号)「原油価格高騰劇の背景」で原油先物市場の問題を指摘した。ゴールドマン・サックスやモルガン・スタンレーといった投資銀行が「非実需家」ではなく、「実需家」として活発に市場で取引を行っていることを取上げた。これらの投資銀行は、石油会社と同様に石油の貯蔵タンクを持ち、規制上は「実需家」として市場に参加していた。「非実需家」は純粋な投機家と見なされ持ち高が厳しく制限されている。つまりこれは明らかに規制を逃れるためである。

    必ずしも原油価格は需給を反映して決まっているわけではない。08/7/14(第535号)「市場参入阻止行動」」でこのことを筆者は説明した。つまり投資銀行などの市場参加者による価格操作によって高値に誘導されたり(いい加減なレポートなどによって)、高値が維持されている可能性について言及した。


    この5週間に及ぶ本誌の石油特集のきっかけは、テレビ朝日系のサンデープロジェクトに証券系エコノミストが出演し「原油価格は今後も上昇を続け、150ドルどころか200ドルになる」といい加減なことを言っていたことである。筆者は「一体お前に石油の何が分る」といささか感情的になった結果、5週間もこの特集を続けることになった。

    「150ドルどころか200ドルになる」とは、この証券系エコノミストが独自に分析したものではなく、ゴールドマン・サックスの当時のレポートに書いてあったことと筆者は認識している。このようなことは日本のエコノミストの生態をよく表している(ほとんどのエコノミストが消費税増税に賛成しているのも同様の流れ・・権威と騙しのインサイダー情報に弱い)。日本のエコノミストの中で経済をまともに自分で分析し発言している者は本当に稀である。

    原油価格はこの特集の最中にピーク(147.3ドル)を付け、この特集が終わった直後から暴落を開始した。さらに二ヶ月後の9月にリーマンショックが起り、原油価格は一時的に40ドルを付けるといった大暴落を演じた。ちなみにこの証券系エコノミストは修行僧になったように「資本主義経済の終焉うんぬん」とか言った本を最近出しているようである。


  • 「ある事情」で市場が変質

    今週から何週間か、原油価格の今後の推移予想やエネルギーに関連する問題を取上げるつもりである。これらを考えるにも、前段で触れた08/6/16(第531号)「原油価格とファンド」」から08/7/14(第535号)「市場参入阻止行動」」の5週に渡った本誌の特集が参考になると思っている。またこれらをよく理解するには、次の表で示すここ数十年の原油価格の推移を踏まえることが必要である。

    33年間のWTIの推移(ドル)
    年(暦年)WTI年(暦年)WTI年(暦年)WTI
    823393180441
    833194170556
    842995180666
    852896220772
    8615972108100
    871998140962
    881699191079
    892000301195
    902501261294
    912202261398
    922103311493



    上の表を見て分るように、6年半前の特集で行った筆者の原油価格見通しは半分当り半分外れている。たしかに特集直後の暴落は当ったが、2年も経つと元の100ドル時代に戻ったのである。しかもその価格水準が4年間も続いたのである。

    また筆者は、原油の有力な代替エネルギーとしてオイルサンドを考えていた。ところが実際に脚光を浴びたのはシェールオイルの方であった。ただシェールオイルが初めから注目されていたわけではない。最初はシェールガス(天然ガス)の開発が先行した。ところがシェールガスの登場によって、天然ガス価格が暴落した。天然ガスは貯蔵や運搬が難しく、また余剰の天然ガスを離れた国に輸出するには膨大なコストを掛けて液化(LNG)する他はないことがこの原因である。

    開発業者は、天然ガスの開発を止めシェールオイル掘削のリグを大幅に増やした。天然ガスと異なり原油価格は安定していたからである。米国でのシェールオイル産出量はかなり増えた。しかし不思議なことにシェールオイル産出量が増えているにもかかわらず、昨年の夏まで4年間も原油価格の高い価格が維持されてきたのである。


    シェールガス(天然ガス)登場によってガス価格は暴落したが、不思議なことにシェールオイルが増産されても市場での原油価格の高値が続くといった矛盾した状態が続いた。理由は天然ガス市場が需給を反映しやすいのに対して、原油市場はずっと操作されてきたからと筆者は考える。これまでもずっと供給力が需要を上回っていたのである。それにもかかわらず、いきなり価格が高騰したり高値が維持されてきた。だいたい石油の需要が短期間のうちに何十パーセントも増えたり減ったりすることはない。

    ところが原油価格が需給関係で決まると信じているバカなエコノミストや経済学者がいまだに多い。彼等は今回の原油価格の下落(もう暴落と言って良い)をいつものように需給関係で説明しようとしている。中国経済の成長の鈍化とか、ドル高が原因で発展途上国が高金利政策を行ったことによって石油需要が減退したとか妙なことを言っている。

    このタイプは既にポンコツになった新古典派経済学の信奉者に多い。今日の原油価格下落は、「ある事情」で原油市場が大きく変質したからと筆者は考える。「ある事情」は来週号から順に説明する。これを踏まえなければ、今後の原油価格の推移を適切には予想できない。



来週は、主要地域の原油生産の損益分岐点他について述べる。



15/1/26(第829号)「低調になった経済論議」
15/1/19(第828号)「「どんぶり勘定」の経済運営」
15/1/12(第827号)「IMFの借金取りモデルの導入」
14/12/24(第826号)「増税版バカの壁」
14/12/19(第825号)「総選挙後の動きと課題」
14/12/8(第824号)「今回の総選挙の注目点」
14/12/1(第823号)「「今から嘘をつくぞ」の決まり文句」
14/11/24(第822号)「解散・総選挙の裏側」
14/11/17(第821号)「再増税は延期?」
14/11/10(第820号)「日本のぺらぺら族」
14/11/3(第819号)「財務省とマスコミの関係」
14/10/27(第818号)「増税派の素顔」」
14/10/20(第817号)「消費税増税と八代亜紀」」
14/10/13(第816号)「増税なんて必要ない」」
14/10/6(第815号)「日経新聞のねつ造解説」」
14/9/29(第814号)「メディアはねつ造だらけ」」
14/9/22(第813号)「人手不足は本当か」」
14/9/15(第812号)「経済学とニヒリズム」」
14/9/8(第811号)「サミュエルソンは新古典派?」」
14/9/1(第810号)「ハシゴを外されそうな日本」」
14/8/25(第809号)「ハシゴを外された話」」
14/8/4(第808号)「トマ・ピケティの「21世紀の資本論」」
14/7/28(第807号)「三教授のサマーズ論の解説」
14/7/21(第806号)「一家に一台が需要の天井」
14/7/14(第805号)「ポンコツ経済理論の信奉者達」
14/7/7(第804号)「経済成長の三つのパターン」
14/6/30(第803号)「サマーズとトマ・ピケティ」
14/6/23(第802号)「奇妙な話ばかり」
14/6/16(第801号)「石油は人々をおかしくさせる」
14/6/9(第800号)「ベトナム沖の一大事」
14/6/2(第799号)「金利低下の背景」
14/5/26(第798号)「政策目標の変更」
14/5/19(第797号)「「美味しんぼ」騒動」
14/5/12(第796号)「使えない経済指標」
14/4/28(第795号)「推理小説のような中国経済の実態」
14/4/21(第794号)「中国1〜3月期のGDP成長率」
14/4/14(第793号)「日本のマスコミの問題体質」
14/4/7(第792号)「ウクライナとロシアの関係」
14/3/31(第791号)「怪しくなったアベノミクスの行方」
14/3/24(第790号)「中国のバブル生成の過程」
14/3/17(第789号)「バブル経済崩壊の序章」
14/3/10(第788号)「中国経済にまつわる奇妙な話」
14/3/3(第787号)「中国経済に変調(その2)」
14/2/24(第786号)「中国経済に変調」
14/2/17(第785号)「経済戦略会議から15年」
14/2/10(第784号)「理論と現実の狭間・・金利編」
14/2/3(第783号)「経済理論と現実の狭間」
14/1/27(第782号)「なつかしい経済理論の復活」
14/1/20(第781号)「窮地に立つリフレ派」
14/1/13(第780号)「新春のトピックス」
13/12/23(第779号)「周辺国の異常行動」
13/12/16(第778号)「ピカピカのバランスシート」
13/12/9(第777号)「中谷巌氏の変心」
13/12/2(第776号)「何処に行った経済成長戦略」
13/11/25(第775号)「アベノミクスの行方」
13/11/18(第774号)「ここ一ヶ月の出来事」
13/10/14(第773号)「虚言・妄言の判断基準」
13/10/7(第772号)「消費税増税、次の焦点」
13/9/30(第771号)「消費税にまつわる諸問題」
13/9/23(第770号)「「声なき声」が届くか」
13/9/16(第769号)「利払い額のGDP比率の推移」
13/9/9(第768号)「利払い額で見る財政の健全性」
13/9/2(第767号)「消費税増税は雲行きが怪しくなった?」
13/8/26(第766号)「財政が危機という怪しい話」
13/8/10(第765号)「消費税増税は絶対に避ける道」
13/8/5(第764号)「消費税増税を促す包囲網」
13/7/26(第763号)「参議院選の結果を考える」
13/7/15(第762号)「アベノミクスの評価他2件」
13/7/8(第761号)「デフレに興味のない大新聞」
13/7/1(第760号)「日経新聞の論説の特徴」
13/6/24(第759号)「アベノミクスを牽制する人々」
13/6/17(第758号)「長期金利上昇で騒いでいる人々」
13/6/10(第757号)「雲行きが怪しいデフレ脱却」
13/6/3(第756号)「財政再建論者のサークル」
13/5/27(第755号)「財政の2010年問題」
13/4/29(第754号)「国民一律の年金」
13/4/22(第753号)「日銀のリスク資産購入」
13/4/15(第752号)「異次元の金融政策」
13/4/8(第751号)「久しぶりの「朝まで生テレビ」」
13/4/1(第750号)「不穏な中国と日本の安全保障」
13/3/25(第749号)「TPPの基本は友好」
13/3/18(第748号)「日本の雪崩的輸出の歴史」
13/3/11(第747号)「TPP交渉と日本警戒論」
13/3/4(第746号)「TPPの実態」
13/2/25(第745号)「有り得る軍事的衝突」
13/2/18(第744号)「群盲象をなでる」
13/2/11(第743号)「まず印紙税の廃止」
13/2/4(第742号)「「構造改革」と「規制緩和」の本当の姿」
13/1/28(第741号)「意志を持った「やじろべい」」
13/1/21(第740号)「金融政策に対する提言」
13/1/14(第739号)「年頭にあたり」


12年のバックナンバー

11年のバックナンバー

10年のバックナンバー

09年のバックナンバー

08年のバックナンバー

07年のバックナンバー

06年のバックナンバー

05年のバックナンバー

04年のバックナンバー

03年のバックナンバー

02年のバックナンバー

01年のバックナンバー

00年のバックナンバー

99年のバックナンバー

98年のバックナンバー

97年のバックナンバー