平成9年2月10日より
経済コラムマガジン


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98/9/28(第83号)


経済の「あいまいさ」を考えるーーその1
  • 「金融再生関連法案」の方向
    「金融再生関連法案」の方向と同時に「長銀」の処理の方向がようやく見えてきた。しかし、一旦決まったと思われた先週の「与野党合意」が一転あやしくなったように、今回の合意が、今後実質的にひっくり返ることも十分ありうるのである。だいたい与党と野党との間には現状認識に大きな「差」がある。政府与党は「長銀」の破綻が他の金融機関の破綻に次々と波及すると考え、灰色の状態の「長銀」に公的資金を投入し、この流れをなんとかくい止めようとしている。一方、野党は「長銀」は実質的に破綻しているので、公的資金の投入は法的に無理であり、そもそも「金融安定化資金」のうち銀行に対する資本投入自体に反対なのである。また、野党は「長銀」の破綻が及ぼす影響は軽微と考えており、むしろ「長銀」の処理の明瞭化の方が大事と考えているのである。もちろん野党も口先では金融システムの安定の必要性を唱えているが、本心では「処理の明瞭化の方が大事」と考え、またこの方が一般受けが良いのである。今回の合意が、けっして両者の認識が一致した結果で行なわれたものではなく、ほぼ全面的な与党からの歩み寄りで成り立ったものと考えられる。つまり与党の大半の者の考えは変わったわけではなく、最後まで「長銀」への公的資金投入の道をさぐる動きは続くと考えられる。筆者もこれに賛成である。実際、13兆円の資本投入に資金を用意を定めている法律は、今のところ来年の春先まで廃止されないのであるから、この資金が使用される事態が全くないわけではない。実際、野党も一時は長銀への公的資金の投入を黙認しようと言う場面もあったのである。
    野党との合意を急いだ勢力の狙いの一つは、今後の国会運営のスムース化である。たしかに今回の協議においては、これまでの野党三党の布陣から一番強固な自由党が離れ、野党は分断されたのである。これは今後景気対策を行なう上で、政府与党にとって国会運営がより容易になる可能性があることを意味する。今回の与野党の協議で野党がかろうじて与党に歩み寄った点は、破綻前の金融機関への資金投入の可能性を認めたことである。しかし、新しくできるかもしれない法律は、現行の「13兆円の金融安定化資金」より格段に適応条件が厳しくなる可能性が強い。
    筆者は、今回の与野党合意には反対であり、極めて危険な合意と考えている。そもそも今回の「金融再生関連法案」と言うものは効果の点で即効性に疑問のあるものである。たしかに不良債権の流動化とか、どうしても引き取り手のない破綻してしまった銀行の処理に対応しようとしたものであるが、これらは緊急に必要な法律ではない。ただ米国が日本の金融システムの不安を強く訴えていた事情を勘案して、これまで欠けていた銀行の破綻後の処理方法を定めたものである。もともと政府与党は大手行の破綻を避ける方針であり、この法案は大手行を対象にしたものではなかった。むしろ日本の金融システムに懸念を示す米国へのポーズと言う一面は否定できない。しかし米国も最近では、日本においては破綻銀行の処理策より銀行に直接資本を投入する方が、金融の安定に重要と言うことを理解するようになったのである。したがって、筆者はこの「金融再生関連法案」と言うものが、全く緊急性のない宙に浮いた存在と考えている。原案も参院選の直前に取り急ぎ作ったものである。世間ではこの法律は金融機関の不良債権問題を解決するものではないかと言う錯覚がある。与党も、成り行きとして米国を意識し、一旦提出した法案を通すと言った面子を優先したのである。国会も会期末にせまり、野党にかなり妥協し、このとんでもない法案が成立しそうなのである。そもそも米国の認識も変わったのだから振出に戻るべきである。今一番必要なことは、破綻が表面化する前の対策である。
    この法案の一番の問題点は「金融安定化法」の廃止を伴うことである。たしかにこの法律で13兆円の資本投入資金が用意されたが、実際に使われたのは2兆円くらいであり、効果も限定されたものであった。つまりこの用意された資金がもっと使われるような運営上の工夫が必要だったかもしれない。しかし、一番の障害は銀行経営者の認識が甘かったことである。資本投入による国からの干渉が強まることを避けたかったのである。また突出した金額の資本投入を要請すると、市場から「この銀行は危ない」と標的にされると思い込んでいたのである。また経済に理解のないマスコミも銀行への資本投入に対して否定的であった。銀行経営者は、それ以降の金融をめぐる環境の急速な悪化を予知できなかったのである。もっとも銀行経営者が先を読めるくらいなら、現在問題となっているような「不良債権の山」を作ることはなかったはずである。今となっては、当時、長銀も当時1兆円を超える資本の導入の申請を行なっておけば、現在の状況もかなり違ったと思われるのである。
    この安定資金13兆円は形を換え存続する可能性があるが、資金投入の要件がもっと厳格になり、国の関与も大きくなるはずである。つまりもっと使いにくくなるのである。もっと徹底的に資産内容が調べられ、経営責任を追及されそうな資金投入に手を挙げる銀行経営者はまずいないのではないかと思われる。もし適用申請を行なうとしても、ほとんど「死に体」になった銀行に限られるであろう。つまりせっかく資金が用意されても、とても金融の安定化に寄与しないと考える。筆者は、「金融再生関連法案」は廃案となっても、「金融安定化法」の13兆円は残すべきであったと考える。野党の認識が変わらない以上、全く妥協は不要だったのである。
    自民党政権は、橋本梶山コンビが景気対策が必要な時期に、反対に緊縮財政を行なうと言う重大なミスを行なった。そして今回は、銀行に資本投入を行なう施策を講じることが必要な場面で、反対に資本投入を困難にすると言うとんでもない法案を通そうとしているのである。少なくとも、野党との妥協を進めているメンバーの責任は重大である。与党の交渉担当者は、野党の交渉担当者と現状認識は一致していると主張しているが、これは誤解であろう。交渉を行なっている者は、今回の作業を政治主導で行なっていると言う自負はあるかもしれない。また、特に「長銀処理」についての政府与党の当初のスキーム作成には大蔵官僚が関与している。しかし、筆者は、今回は総合的に見て大蔵官僚のスキームに乗るべきと考えている。たしかに大蔵官僚のスキームは世間からの非難の対象になりうるものである。つまり大蔵官僚のスキームは政治家に泥をかぶってくれと言うものである。しかし、政治家は野党と与党の交渉担当者は、「これではとても国民の合意を得られない」と言って、見た目には「小綺麗」な与野党合意案を作成しているのである。実際にはこんな物は何の役にも立たない。政治家は「次の選挙が恐い」と逃げ出しているのである。これも「小選挙区制の弊害」ではないかと筆者は考えるのである。

  • 「長銀」の処理の方向
    「長銀」の処理は、当初の「長銀に不良債権の償却させ、公的資金を補填した後、住信に吸収合併させる」と言うスキームから変わりそうである。現在のところ「一時国有化した後、他の金融機関の子会社」と言う案が有力と言われている。野党の元の案では、銀行を国有化後清算することになっていた。これを破綻させない形で国有化し、整理を行なった後に他の銀行に子会社として売却する方法に修正している。この措置に伴う法的な困難を別にして、この修正案にも色々問題があると思われる。
    当初の案のポイントは、長銀を存続させたまま現在の融資先を住信に移すことである。しかし、新しいスキームではこれがスムースに行かない可能性が強いことである。よく言われているように灰色債権の取り扱いが難しいのである。正常債権とはっきり不良化している債権の取り扱いは比較的はっきりしている。後者は、ストレートに整理回収銀行に移されことになろう。一方正常債権は別の銀行に引き継がれること想定されている。ただ別の銀行にスムースに移行できるかはちょっと疑問である。どの銀行も自己資本比率を維持しようとしているわけであり、正常な取引先と言えど、簡単に新規の融資に応じられないことも考えられるのである。さらにメーン銀行制を採っている日本においては大口融資先が取引銀行を簡単に替えること自体が難しい。また正常債権と見なされたもののが、国有化した際、灰色債権に変わることもありうる。
    しかし一番の問題は灰色債権である。一時国有化の後、他の銀行の子会社にすると言ってもこの灰色債権を付けたままでは無理である。これらの融資先は自力で新しい融資銀行を確保するか、さもなくば整理回収銀行に移されるのである。そのようになれば影響は甚大である。当初の案ではこの灰色債権の大部分を「あいまいなまま」住信に移そうと言う構想だったはずである。ところが新しいスキームではこれができないのである。新しいスキームを進めるとどうしても灰色債権が白日のもとにさらされるのである。もし灰色債権と認定されている融資先が他の銀行から融資を受けていたなら、融資が打ち切られ倒産に至ることも十分考えられる。つまり一旦国有化し、正常債権を子会社に移すと同時に灰色の融資先に「実質的に国が破産宣告」を行なうことになるのである。「あいまいさ」を排するとしたならば、どうしてもこのような結論になるのである。
    ここからは筆者の深読みかもしれないが、政府与党がこのような表面的には「ばかげたスキーム」になぜ乗ったのか考えてみたいのである。ポイントは「一時国有化」の「一時」である。「一時」と言う言葉も十分「あいまい」なのである。筆者はこの「一時」が実質的に相当の期間になると認識しているのである。つまり国有化したまま時間が過ぎて行くうちに、灰色債権もそのうち白黒がはっきりしてくるのである。かりに「一時」が長すぎると言う非難が出ても、「国が破産宣告」する事態に賛成する者も少数派であろう。つまり国有化と言うプロセスを通すことによって時間を稼ぐことができるのである。そして筆者は、自民党がここまで考え、野党の作ったこの修正案に乗ったのなら、なんとなく納得できるのである。もっともこれはあくまでも筆者の憶測である。
    最後に長銀の処理で問題になるもう一つの点である。子会社ノンバンクの処理である。当初は長銀を始めとする大手銀行の債権放棄が予定されていた。資本投入がされないと言うことになれば、これらのノンバンクは法的整理となろう。そのような事態となれば、融資元の金融機関の債権は一律カットとなり、これによって中小の金融機関の打撃は大きくなる。また国内には多数の銀行に融資残のある似たようなノンバンクがまだいくつもある。この影響で、これらのノンバンクに対する債権の回収競争が始まる気配がある。このような動きは次の金融不安を助長するものである。これらについては引き続き来週号で述べたい。






98/9/21(第82号)「為替レートのトレンドを考える」
98/9/14(第81号)「バブルの清算と公金投入を考える」
98/9/7(第80号)「公金投入の整合性を考える」
98/8/31(第79号)「政治と経済の混乱を考える」
98/8/10(第78号)「今回の不況の原因を考える」
98/8/3(第77号)「新政権の人事を考える」
98/7/27(第76号)「小淵新自民党総裁誕生を考える」
98/7/20(第75号)「橋本総理退陣を考える」
98/7/13(第74号)「マスコミの驕りを考えるーーその2」
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98/6/29(第72号)「参院選と経済を考える」
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98/6/8(第69号)「日本の金融を考える」
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98/4/27(第63号)「消費の限界を考えるーーその2」
98/4/20(第62号)「消費の限界を考えるーーその1」
98/4/13(第61号)「恒久減税を考える」
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98/3/9(第56号)「日米の景気対策を考える」
98/3/2(第55号)「日経新聞と経済を考えるーーその2」
98/2/23(第54号)「日経新聞と経済を考えるーーその1」
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98/2/9(第52号)「政治と経済を考える」
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97/12/15(第46号)「景気の現状と対策を考えるーーその8」
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97/11/17(第42号)「景気の現状と対策を考えるーーその5」
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