経済コラムマガジン 平成9年2月10日より
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15/1/26(829号)
低調になった経済論議

  • 再増税延期の決定がきっかけ

    最近、日本の経済論議が低調になってきたと感じる。このきっかけは昨年11月の消費税再増税延期の決定と筆者は思っている。少なくともその前までは、新聞・テレビなどのメディアに増税を推進する論調や意見で溢れていた。これに対し少数派であるが本誌など再増税に強く反対する考えを表明する者もいた。両者の議論は噛み合ってはいなかったが、税や財政、そして経済成長に関する議論はそれなりに活発であった。しかし再増税について一応の決着を見たということで、人々の消費税や経済に対する興味が薄れたようである。

    たしかに再増税延期という結果は曖昧で中途半端である。しかし増税反対論者は少なくとも当面の増税が避けられたということで、内心でホッとしている。一方、増税派はかなり落胆していると筆者は見ている。昨年の秋口までは再増税は必至と思われていただけに、彼等の受けたショックはかなり大きかったと推察される。つまり増税派は意気消沈し、反対派は内心ではホッとすると同時に疲れがドッと出たという状態である。人々の関心も経済から離れ、これでは経済論議が低調になっても仕方がない。


    ともあれ今後の再増税の行方が気になる(世間ではあまり関心がないようであるが)。そこで再増税の今後の行方を筆者なりに予想してみる。まず安倍政権の現時点の基本方針は17年4月から10%への増税である。

    しかし筆者は、すんなりと10%への税率アップが実施される確率は極めて小さく、せいぜい10%程度と見ている。反対に増税が「再々延期」されるか「増税が取り止め」となる可能性は40%程度と筆者は見ている。最も可能性が高いのは軽減税率導入を伴った10%への増税である。これが50%ということになる。もちろんこれらの可能性の数字も状勢の変化によって変る。しかし軽減税率導入の議論は避けられないと筆者は見ている。


    軽減税率導入を伴った10%への増税が正しいかどうかを別にして(後で述べるが日本は理屈や理論では動かない)、安倍政権にとって増税派と増税反対派の双方の顔を立てるには都合の良い政治的選択肢である。ただ日本経済の低迷がこのまま続けば、「再々延期」や「増税取り止め」の可能性が高まる。また軽減税率の対象品目で揉めれば、これも「再々延期」の理由になり得る。

    増税の最終決定の判断は来年度(15年度)の経済の状況を見て行われると筆者達は認識している。しかし15年度の当初予算案を見る限り、来年度の日本経済の低空飛行はほぼ確実である。したがって少なくとも10%への増税(軽減税率なし)という基本方針の実施は極めてハードルが高くなったと見ている。


    14/11/10(第820号)「日本のぺらぺら族」で述べたように、日本では「理屈や理論」で物事は決まらない。もし日本で「理屈や理論」が通用するのなら、先週号で述べたように宍戸教授が二人の主要経済閣僚に行ったような警告(消費税税率を5%から8%、そして10%と上げると2020年で56兆円も需要が減る)が完全に無視されるようなことはない。それにしても宍戸教授のシミュレーション結果が完全に正しいと思わないとしても、大きな増税による民間の購買力の政府への移転を考えれば、教授の警告に近いことが起ることは容易に想像できたはずである(何を勘違いしたのか今年度は増税に加え補正予算の大幅な減額を行った)。そして実際に、シミュレーション結果に近いことが起ったのである。

    安倍政権は「理屈や理論」で消費税の再増税延期を決めたのではない。4〜6月に続き、7〜9月もマイナス成長というショッキングな出来事(宍戸教授の警告に近い)が現実に起ったからである。このように日本には、昔から現実に叩きのめされなければ考えを変えないという愚かな風潮がある。橋本政権の逆噴射政策の哀れな末路を忘れ、また同じような間違いを繰返そうとしたのである。


  • 経済同友会の提言

    前段で述べたように人々の消費税に関する関心が薄れているのにもかかわらず、最近、経済同友会が消費税の17%への増税と社会補償費の減額といったとんでもない提言を行った。10%への増税さえ極めて難しくなっているのに、今頃になって一体何を考えているのかという話である。元々経済同友会が観念論者の集りと筆者は理解していたが、単なる大バカ者の集りと見られても仕方がないと感じられる。

    増税と社会補償費の減額の目的は財政再建ということになっている。しかしそもそも今日の日本にとって財政の再建が必要かという議論が必要であるが、経済同友会はこれを全く無視している。まるで財政均衡教という新興宗教の信者の集りである。


    ところが現実の世界では、大量の資金が余り行き場がない状態にある。10年物国債の利回りはとうとう0.2%台まで低下している。5年物の国債の利回りがマイナスになるのも時間の問題である。つまり政府は国債を発行して借金を増やした方が儲かるという状況になっているのである。

    このような現実を見ようとしないのが経済同友会である。おそらく自分達の考えは完全に正しいが、現実の方が間違っているとでも思い込んでいるのであろう。そして彼等の口癖は、間違っている現実を糺すために構造改革が必要ということである。


    驚くことに経済同友会の試算では毎年1%の経済成長をすることが前提になっている。消費税17%への増税(毎年1%ずつ税率をアップ)と社会補償費の減額を行って需要を減退させても、毎年、経済は成長すると信じているのである。

    とにかく経済同友会のような観念論者の集りは、現実を見ることを極端に嫌う。したがって今回のように消費税増税などで日本の経済成長率が2期連続してマイナスになっても全く気にしていないようである。ひょっとすると天候不順で消費が落込んだという嘘話を彼等は信じ込んでいるのかもしれない。

    経済同友会の提言は、あまりにも浮き世離れしているので世間でも全く相手にされていない。たしかにこれと同じくらい低レベルの増税推進論が、再増税延期が決まるまで大手メディアの紙面を埋め尽くしていた。しかし再増税延期が一旦決まった後、このような議論は徐々に消えて行った。それだけに今回の経済同友会の提言の唐突さが際立っている。


    人々が経済に全く興味を示さなくなったという話ではない。他にも経済に関して大きな出来事が起っていて、関心がそれらに移ったと言える。原油価格の急落はその一つである。

    また世界的な異常な金利低下も興味のあるところである。日本の長期金利もとうとう0.1%台を付けたが、スイスの長期金利は何と0.06%というから驚く。しかしこの異常な低金利に対する適切な解説を見かけない(中央銀行の金融緩和だけでは説明がつかない)。そもそも世界中のエコノミストの中でこのような低金利を予想した者は皆無であり、彼等も金利の推移をただ呆然と眺めているだけである。金利低下の過程で債券をカラ売りした投資家も多く、少なくともこのカラ売りが清算されるまでは金利低下が続くものと筆者は見ている。

    ギリシャの政治状勢とEUやユーロの行く末も要注意である。ギリシャの総選挙の結果しだいで一波乱ありそうである。筆者は、前から言っているように解決策はギリシャのユーロ離脱しかないと思っている。中国経済の行く末も面白い。このように経済の世界はけっこう忙しいので、本当は経済同友会のバカ提言などに付合う余裕はない。



来週は、久しぶりに原油価格の下落を取り上げる。



15/1/19(第828号)「「どんぶり勘定」の経済運営」
15/1/12(第827号)「IMFの借金取りモデルの導入」
14/12/24(第826号)「増税版バカの壁」
14/12/19(第825号)「総選挙後の動きと課題」
14/12/8(第824号)「今回の総選挙の注目点」
14/12/1(第823号)「「今から嘘をつくぞ」の決まり文句」
14/11/24(第822号)「解散・総選挙の裏側」
14/11/17(第821号)「再増税は延期?」
14/11/10(第820号)「日本のぺらぺら族」
14/11/3(第819号)「財務省とマスコミの関係」
14/10/27(第818号)「増税派の素顔」」
14/10/20(第817号)「消費税増税と八代亜紀」」
14/10/13(第816号)「増税なんて必要ない」」
14/10/6(第815号)「日経新聞のねつ造解説」」
14/9/29(第814号)「メディアはねつ造だらけ」」
14/9/22(第813号)「人手不足は本当か」」
14/9/15(第812号)「経済学とニヒリズム」」
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14/9/1(第810号)「ハシゴを外されそうな日本」」
14/8/25(第809号)「ハシゴを外された話」」
14/8/4(第808号)「トマ・ピケティの「21世紀の資本論」」
14/7/28(第807号)「三教授のサマーズ論の解説」
14/7/21(第806号)「一家に一台が需要の天井」
14/7/14(第805号)「ポンコツ経済理論の信奉者達」
14/7/7(第804号)「経済成長の三つのパターン」
14/6/30(第803号)「サマーズとトマ・ピケティ」
14/6/23(第802号)「奇妙な話ばかり」
14/6/16(第801号)「石油は人々をおかしくさせる」
14/6/9(第800号)「ベトナム沖の一大事」
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14/5/19(第797号)「「美味しんぼ」騒動」
14/5/12(第796号)「使えない経済指標」
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14/4/21(第794号)「中国1〜3月期のGDP成長率」
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