経済コラムマガジン 平成9年2月10日より
経済コラムマガジン




15/1/19(828号)
「どんぶり勘定」の経済運営

  • 宍戸教授の憤り

    先週号で、内閣府が2001年に導入したシミュレーションモデルがIMFのものという話をした。今週は、これを含め日本の経済運営の「どんぶり勘定」振りを取り上げる。まず11/12/19(第691号)「シミュレーションモデルの話」で述べたように、今日、主に経済シミュレーションモデルは二つあり、一つは新古典派一般均衡モデルであり、もう一つはケインズモデル(旧来のマクロ経済モデル)である。IMFのモデルは、当然、新古典派一般均衡モデルの一つと見られる。

    このIMFのモデルの導入に憤っておられるのが、宍戸駿太郎筑波大名誉教授である。宍戸さんは、IMFのモデルが発展途上国の財政再建計画策定を目的に作られたものと指摘している。こんなものをことによって日本に導入したことが大きな間違いと批難しているのである。


    世界には消費物資の生産能力が極めて乏しく、大半のこれらを輸入に頼っている国々がある。中南米やアフリカ、そしてアジア金融危機当時のアジア諸国などがこれに該当する(ギリシャも含まれる)。これらの国は概して外貨準備が不足していて、外資を呼込むために不相応に高い為替レートを維持している。

    また経済を一次産品に頼る国が多いため、農産物の不作や一次産品価格の急落によって外貨不足に陥ることがある(度々外資の国外脱出も起る)。また政府の放慢財政というケースも有る。このような国に対する財政再建計画を作るために使うシミュレーションモデルこそがIMFモデルである。


    日本は外貨準備に問題はなく、経済不調の原因はこれらの国々とは全く異なる。日本の問題は、巨大なデフレギャップによるデフレである。これは需要不足に起因している。ところが日本は、何を勘違いしているのか消費税増税(5%から8%へ)や財政支出の削減(補正予算に限りれば、一昨年の10兆円から昨年は5.5兆円、そして今年はさらに3.1兆円に減額)と緊縮型の財政運営を実施している。国債の発行額が減額されているのを見ても来年度予算も緊縮財政傾向であることは明らかである。この緊縮財政によってさらに内需が不足し、デフレギャップを拡大させる。これによって今年度の経済成長率の見通しもマイナス0.5%という惨状に陥っている。

    財政再建派(増税派)は、円安によって輸出が急増(過去に何回か経験したパターン)し、内需不振をカバーするものと期待したのであろう。しかし彼等の目論みは見事に外れている。おそらくこれからも予測をずっと外し続けることは見えている。


    宍戸教授は計量経済モデルのプロであり、経済企画庁時代にマクロ経済モデル構築に携わっていた。また現在も経済シミュレーションを専門とする学者の集いを主催している。ここに集る学者の目的は、現実の経済をより正しく予測するシミュレーションプログラムの開発である。彼等は極めて真面目で真摯であり、今日、日経新聞などのメディアによく登場するいい加減な経済・財政学者やエコノミストと対極にある。

    ところが2001年の内閣府発足に際し導入されたのが、問題のIMFのシミュレーションモデルである。このモデルの導入は財政再建を目的に財務官僚が主導したと見られる。ただしこのモデルを使って政府の経済見通しを策定しているのかは不明である(IMFモデルは単に財政再建計画策定だけに使っている可能性がある)。ただ重要なことは、IMFモデル導入によって経済企画庁時代の旧来のマクロ経済モデルが使われなくなったということである。

    たしかにシミュレーションモデルというものを、筆者も細かいところまでは信用していない。時代とともに経済の構造が変化し方程式も修正が必要になるが、その修正が現実に追い付くことがなかなか難しいからである。しかし旧来のマクロ経済モデルは、現実の経済構造の変化を取込み、少なくともより正確な予測ができるようプログラムの改良がなされていた。ところが今日の内閣府は、どれだけ予測(財政再建計画においても)を外してもプログラムを修正する気は全くないようである。


  • いい加減な経済見通し

    宍戸教授は、1年半ほど前、二人の主要経済閣僚に消費税税率を5%から8%、そして10%と上げると2020年で56兆円も需要が減る(リーマンショック時の41兆円の減少を上回る)というシミュレーション結果を説明した。しかしこの御両人は、この説明を受けてもピンとこなかったという話である(筆者はこの話をある人を通じ以前に聞いた)。8%への増税でさえもマイナス成長に陥ったくらいだから、おそらく10%まで上げると宍戸教授のシミュレーション結果に近い需要減少が起っても不思議はないと見られる。

    1年半前の増税(5%から8%)に際し広く意見を聞くという目的で60名の有識者会合(公聴会)が開かれたが、招聘された経済学者の中で増税にはっきりと異義を唱えたのは宍戸教授だけであった。ところが昨年の秋口に増税(8%から10%への増税)に関する同様の有識者会合(公聴会)が再び開かれたが、今度は宍戸さんが呼ばれなかった。しかし賛成派ばかりが招聘されている有識者会合(公聴会)に不信感を持った安倍総理は、反対派も入れろと命じた。そこで急遽反対派の学者・エコノミストが3人追加された。その中の一人が宍戸教授であった。今回の増税延期は、宍戸さん達にとっても一応の成果と言える。


    ところで、今日、経済の見通し策定に関しては、どのようなシミュレーションモデルが使われていてもあまり影響がないとさえ筆者は思っている。だいたい前段で述べたように、経済見通し策定にIMFモデルを使っているかさえも不明である。

    官僚と政治家にとって都合の良い数字がまず決定されることが全てであり、その数字に合わせるようにシミュレーションが行われているだけではないかと筆者は見ている。実際、乗数値なんかも都合の良い結果が出るように適当に変えているという話を昔聞いたことがある(おそらく本当の話であろう・・乗数値が公表されなくなったのもこの影響と考えられる)。まさに日本の経済運営は「どんぶり勘定」で行われているのである。

    ちなみに今年度(26年度)の政府の経済成長の当初の見通しは、実質1.4%、名目3.3%(うち消費税率アップ分は2.1%)であった。ところが今日、実質経済成長率の見通しはマイナスの0.5%に大幅に下方修正されている。しかしこれだけ経済見通しが狂っても、誰も責任を取ろうとはしない。また日経新聞を始め、日本の主要メディアはこの政府の大きな失態を全く責めない。それどころか昨年策定した経済見通し(閣議決定した)の数字をほとんどの人々が忘れ去っているかのようである。日本中がおかしくなっていると筆者は思っている。


    たしかに政府が経済見通しをどれだけ間違えても、日本の経済シンクタンクやエコノミストのほぼ全員も政府と同様に予測を大きく外しているのだから、誰も政府を責められないのであろう。その代わり、日本のエコノミストの信用は地に落ちた(信用がないのは昔からであるが)。もっとも「消費税増税の影響は軽微」、「増税後はV字回復」とか「日本は供給制約によって経済成長ができない」といった間抜けなことばかり言っているようでは、日本のエコノミストが信頼されないのは当たり前である。

    先日閣議決定された来年度(27年度)の経済見通しは、実質で1.5%、名目で2.7%のプラス成長である。しかしどうやって今年度のマイナス成長から1.5%のプラス成長になるのかが謎である。まず補正予算は昨年の5.5兆円から3.1兆円へと2.4兆円減額されている。また消費税増税の悪影響は、半分くらい来年度に持ち越される。

    来年度の経済成長にとって確実にプラスの材料となるのは、原油価格の下落と原発再稼動による発電用燃料の輸入減少である。輸出もこれだけ円安になれば多少は伸びると思われる。全てが外需要因である。ただこれらのプラス要素が補正予算の減額と消費税増税のマイナス要素をどれだけ打ち消せるかということになる。

    また所得の伸びがないので消費はほとんど変らないと予想する。さらに設備投資と住宅投資には大きな変動はないと見ている。これらをトータルして来年度の経済成長率はゼロ近辺と筆者は予想する。もし第二次補正予算が組まれればその分がプラスとなる。為替は投機によって変動するが、購買力平価と経常収支の推移から、現在より多少円高の105〜110円程度が均衡値と筆者は見ている。



来週は、最近、経済論議が不調なことを取り上げる。



15/1/12(第827号)「IMFの借金取りモデルの導入」
14/12/24(第826号)「増税版バカの壁」
14/12/19(第825号)「総選挙後の動きと課題」
14/12/8(第824号)「今回の総選挙の注目点」
14/12/1(第823号)「「今から嘘をつくぞ」の決まり文句」
14/11/24(第822号)「解散・総選挙の裏側」
14/11/17(第821号)「再増税は延期?」
14/11/10(第820号)「日本のぺらぺら族」
14/11/3(第819号)「財務省とマスコミの関係」
14/10/27(第818号)「増税派の素顔」」
14/10/20(第817号)「消費税増税と八代亜紀」」
14/10/13(第816号)「増税なんて必要ない」」
14/10/6(第815号)「日経新聞のねつ造解説」」
14/9/29(第814号)「メディアはねつ造だらけ」」
14/9/22(第813号)「人手不足は本当か」」
14/9/15(第812号)「経済学とニヒリズム」」
14/9/8(第811号)「サミュエルソンは新古典派?」」
14/9/1(第810号)「ハシゴを外されそうな日本」」
14/8/25(第809号)「ハシゴを外された話」」
14/8/4(第808号)「トマ・ピケティの「21世紀の資本論」」
14/7/28(第807号)「三教授のサマーズ論の解説」
14/7/21(第806号)「一家に一台が需要の天井」
14/7/14(第805号)「ポンコツ経済理論の信奉者達」
14/7/7(第804号)「経済成長の三つのパターン」
14/6/30(第803号)「サマーズとトマ・ピケティ」
14/6/23(第802号)「奇妙な話ばかり」
14/6/16(第801号)「石油は人々をおかしくさせる」
14/6/9(第800号)「ベトナム沖の一大事」
14/6/2(第799号)「金利低下の背景」
14/5/26(第798号)「政策目標の変更」
14/5/19(第797号)「「美味しんぼ」騒動」
14/5/12(第796号)「使えない経済指標」
14/4/28(第795号)「推理小説のような中国経済の実態」
14/4/21(第794号)「中国1〜3月期のGDP成長率」
14/4/14(第793号)「日本のマスコミの問題体質」
14/4/7(第792号)「ウクライナとロシアの関係」
14/3/31(第791号)「怪しくなったアベノミクスの行方」
14/3/24(第790号)「中国のバブル生成の過程」
14/3/17(第789号)「バブル経済崩壊の序章」
14/3/10(第788号)「中国経済にまつわる奇妙な話」
14/3/3(第787号)「中国経済に変調(その2)」
14/2/24(第786号)「中国経済に変調」
14/2/17(第785号)「経済戦略会議から15年」
14/2/10(第784号)「理論と現実の狭間・・金利編」
14/2/3(第783号)「経済理論と現実の狭間」
14/1/27(第782号)「なつかしい経済理論の復活」
14/1/20(第781号)「窮地に立つリフレ派」
14/1/13(第780号)「新春のトピックス」
13/12/23(第779号)「周辺国の異常行動」
13/12/16(第778号)「ピカピカのバランスシート」
13/12/9(第777号)「中谷巌氏の変心」
13/12/2(第776号)「何処に行った経済成長戦略」
13/11/25(第775号)「アベノミクスの行方」
13/11/18(第774号)「ここ一ヶ月の出来事」
13/10/14(第773号)「虚言・妄言の判断基準」
13/10/7(第772号)「消費税増税、次の焦点」
13/9/30(第771号)「消費税にまつわる諸問題」
13/9/23(第770号)「「声なき声」が届くか」
13/9/16(第769号)「利払い額のGDP比率の推移」
13/9/9(第768号)「利払い額で見る財政の健全性」
13/9/2(第767号)「消費税増税は雲行きが怪しくなった?」
13/8/26(第766号)「財政が危機という怪しい話」
13/8/10(第765号)「消費税増税は絶対に避ける道」
13/8/5(第764号)「消費税増税を促す包囲網」
13/7/26(第763号)「参議院選の結果を考える」
13/7/15(第762号)「アベノミクスの評価他2件」
13/7/8(第761号)「デフレに興味のない大新聞」
13/7/1(第760号)「日経新聞の論説の特徴」
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13/6/17(第758号)「長期金利上昇で騒いでいる人々」
13/6/10(第757号)「雲行きが怪しいデフレ脱却」
13/6/3(第756号)「財政再建論者のサークル」
13/5/27(第755号)「財政の2010年問題」
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13/1/28(第741号)「意志を持った「やじろべい」」
13/1/21(第740号)「金融政策に対する提言」
13/1/14(第739号)「年頭にあたり」


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