経済コラムマガジン 平成9年2月10日より
経済コラムマガジン




15/1/12(827号)
IMFの借金取りモデルの導入

  • 2001年問題

    日本経済に対する、政府や経済の専門家(経済学者やエコノミストなど)の言う事が著しくおかしくなった時期がある。それは2001年(平成13年)のことである。この年の4月には小泉政権が発足した。

    経済白書は経済財政白書になり、白書の様相が一変した。ちなみに平成13年度の白書のサブタイトルは「改革なくして成長なし(翌14年度は改革なくして成長なし)」であった。まさに小泉首相のキャッチフレーズそのものである。この頃から「需要があるから経済が成長する」という常識が否定され、「日本は今のままでは成長できず、経済成長のためには構造改革が必要」という虚言・妄言が幅を利かすようになった。


    日本の経済論壇や日経新聞の論調がおかしくなったのはもっと早かった。例えば橋本政権の周りには奇妙な経済学者が集い「財政出動を行わなくとも規制緩和による構造改革で経済が成長できる」といった浮き世離れした経済理論をまき散らした。このばかげた経済理論を橋本首相だけでなく、橋本政権幹部全体(加藤紘一幹事長や与謝野官房副長官など)が信じ込み、政府は97年度には消費税増税と緊縮財政という行財政改革を強行した。この結果、日本経済は急速に冷え込み、自民党は参議院選で大敗し橋本首相は退陣した。

    経済の急激な落込みと金融機関の不良資産問題の浮上によって、この構造改革運動は一旦頓挫したかのように見えた。しかし小渕政権の後半あたりから構造改革派は経済戦略会議などを通じ復活してきた。むしろ2001年の経済企画庁の内閣府移行に伴って、全ての政府の経済官庁は構造改革派と構造改革派を装う財政均衡主義者(財政再建派と呼ばれているが実態は増税派)に占拠されてしまったと言える。反対に積極財政派や経済成長によって政府債務のGDP比率を下げると主張するまともな者は、ことごとく政策決定から遠のけられることになった。


    この2001年以降、政府の経済見通しが全く当らなくなった。また政府エコノミストだけでなく、民間のエコノミストもおかしな者ばかりになった(どう言う訳かまともなエコノミストはどんどん排除された)。この状況は今日に到っても変っていない。今回の消費税増税の影響についても「4月の増税後は落込むがその後はV字回復する」と主張する間抜けなエコノミストばかりになったのである。

    「財政出動を行わななくとも経済は成長するというファンタジー(大嘘)」を実現させるため、財務官僚は緊縮財政を指向する小泉政権下で、円高でもないのに常軌を逸した為替介入(短期間で30兆円を軽く超えた・・この結果小泉政権下で政府の債務は急増した)を行って支援した。この円安維持政策によって輸出が急増し小泉政権下では経済が回復したような錯覚(まさにファンタジー)を与えた。しかしこれによる経常収支の大幅黒字によって、小泉首相退陣後、日本経済は1米ドル75円という超円高に苦しむことになった(円安に目を瞑ったブッシュ共和党政権からオバマ民主党政権に交代)。今日、円高が解消しても、なかなか輸出が伸びないのもこの時の後遺症みたいなものである(生産拠点がことごとく海外に移転)。

    ちなみに「財政出動を行わななくとも経済は成長するというファンタジー(大嘘)」を実現させるため、過去にも日本はとんでもない大間違いを犯している。85年のプラザ合意後の円高不況に対して、日本政府は財政支出を渋り過度の金融緩和だけに頼った政策を押し進めたのである(ケチケチ財政の土光臨調を持ち上げ、新幹線建設などの公共投資を異常に嫌った)。政府・日銀は金融機関に貸出増加を半ば義務付けた行政主導を行い(大半が土地融資に回った)、その後のバブル経済を生んだ。この時期、たしかに日本の財政は一時的に黒字となったほどである。しかしこのような政策が、バブル崩壊後の悲惨な状況を招いたと言える。

    このような完全に間違った経済理論に基づく経済思想が集大成として結実したのが2001年と筆者は思っている。では2001年に何があったかということになる。この年に政府(内閣府)のマクロ経済シュミレーションモデルの変更が行われたのである。


  • 当らなくなった経済予測

    一ヶ月ほど前であったろうか、ベネズエラのスーパーの様子がテレビで流れていた。スーパーの棚にはめぼしい商品がほとんど並んでおらず、牛肉を買うにも何軒もの店を尋ね回る必要がある(金を出せばなんとか買える)。もちろん牛肉だけでなく全ての消費物資が不足している。国内の生産能力が極めて低いベネズエラは、かなりの一般の消費物資が輸入されている(最近は中国からの輸入が多い)。原油価格が高かった時代にはこれらの消費物資は順調に輸入され市場に流通していたが、原油価格が下落した今日国民生活は困窮している。

    ほとんどの中南米諸国(ベネズエラだけでなくブラジルやアルゼンチンなど)の経済構造は、このベネズエラと同じように石油や農産物といった第一次産業に頼る形になっていて、一次産品の価格が高い時だけ成立つ。しかし一旦一次産品の価格が下落すると経常収支(つまり貿易収支)は赤字になり、また消費物資の価格が上昇し、失業が増える。これらの国で物価が上昇するのは、景気が良いのではなく「物」が不足しているからである。


    消費物資の国内生産能力が乏しく、慢性的に経常収支・貿易収支が赤字の中南米諸国は、昔からよくIMFの救済対象になった。そもそもIMFは、第二次世界大戦中にケインズなどによって各国の経常収支の調整を目的に構想されたものであるが、今日のIMFの姿はケインズが想定したものと異なっている。

    筆者が理解しているIMFの救済パターンは次のようになる。まず欧米の金融機関が慢性的に経常収支が赤字の中南米諸国などに無理な貸出を行う。これらの国では高利回りが期待できるのでどうしても無茶な貸出となる。案の定、これらの国はそのうち資金繰りに窮する。そこからがIMFの出番となる。

    IMFは立替融資を行い、欧米の金融機関はこのIMFの融資金で貸出金をほぼ無傷で回収する。一方、IMFはこの立替融資金を回収するため、対象国に徹底した緊縮財政を伴う再建計画を強いる。つまりIMFから救済を受けた国の人々は、この緊縮財政によって塗炭の苦しみを味わうことになる。


    IMF救済対象国は、中南米諸国だけでなくアフリカ諸国といった最貧国まで及ぶ。ただでさえ失業が大きいのに、IMFの緊縮財政の強要でさらに経済が低迷し最悪の状態になることもよくある。また1997年のアジアの金融危機の際にはアジア諸国もIMFの救済を受けた。

    まずIMF管理下に入った国は一律の再建計画を強いられる。そもそもIMFの職員やエコノミストは、個々の国の経済状態や状況を全く考慮しない。スティグリッツの話では、IMFのメンバーは高級ホテルから一歩も外に出ず、政府からペーパーを受取りこれだけを基に再建計画を策定するという。したがって単に短期資金が国外に逃げ当座の資金繰りに窮した国も、生産力が決定的に不足する国にも全く同じ再建計画が示されることになる。まさにスティグリッツの「世界を不幸にしたグローバリズムの正体」の主役がこのIMFである。

    IMFの救済を受け酷い目に会ったアジア諸国は、これに懲りその後は外貨準備をため込むようになった(韓国などがその典型・・為替介入によって米ドルをため込んだ)。ちなみにこのアジア諸国のこのため込んだ資金が米国に大量に流れサブプライム問題の一因となったとさえスティグリッツは指摘している。このように評判が極めて悪いのが今日のIMFである。


    とにかく融資金を回収できれば良いのであり、IMFにとって救済対象国の経済や社会がどうなろうとも一向に構わない。ところが何を勘違いしたのか、このIMFのマクロ経済シュミレーションモデルを日本が導入しているのである。それが前段で話をした2001年のことである。それまで使っていたマクロ経済シュミレーションモデルは旧モデルと呼ばれ使われなくなった。しかしこれ以降、前段で述べたように政府や周辺エコノミストの経済予測が全く当らなくなった。

    このIMFのシュミレーションモデルはまさに借金取りモデルである。筆者は11/12/19(第691号)「シミュレーションモデルの話」で新古典派一般均衡モデルについて述べた。それにしても内閣府が導入したのが、よりによって 新古典派一般均衡モデルの中でも極端なモデルと見られるIMFのシュミレーションモデルとは、筆者も最近まで知らなかった。たしかに財務省や周辺のエコノミストにとって借金(財政債務)を回収することが全てであり、日本の経済や社会がどうなろうとも構ったことではない。つまりその目的を達成するにはIMFの借金取りモデルの導入が一番相応しいと判断したのであろう。



来週は今週の続きである。



14/12/24(第826号)「増税版バカの壁」
14/12/19(第825号)「総選挙後の動きと課題」
14/12/8(第824号)「今回の総選挙の注目点」
14/12/1(第823号)「「今から嘘をつくぞ」の決まり文句」
14/11/24(第822号)「解散・総選挙の裏側」
14/11/17(第821号)「再増税は延期?」
14/11/10(第820号)「日本のぺらぺら族」
14/11/3(第819号)「財務省とマスコミの関係」
14/10/27(第818号)「増税派の素顔」」
14/10/20(第817号)「消費税増税と八代亜紀」」
14/10/13(第816号)「増税なんて必要ない」」
14/10/6(第815号)「日経新聞のねつ造解説」」
14/9/29(第814号)「メディアはねつ造だらけ」」
14/9/22(第813号)「人手不足は本当か」」
14/9/15(第812号)「経済学とニヒリズム」」
14/9/8(第811号)「サミュエルソンは新古典派?」」
14/9/1(第810号)「ハシゴを外されそうな日本」」
14/8/25(第809号)「ハシゴを外された話」」
14/8/4(第808号)「トマ・ピケティの「21世紀の資本論」」
14/7/28(第807号)「三教授のサマーズ論の解説」
14/7/21(第806号)「一家に一台が需要の天井」
14/7/14(第805号)「ポンコツ経済理論の信奉者達」
14/7/7(第804号)「経済成長の三つのパターン」
14/6/30(第803号)「サマーズとトマ・ピケティ」
14/6/23(第802号)「奇妙な話ばかり」
14/6/16(第801号)「石油は人々をおかしくさせる」
14/6/9(第800号)「ベトナム沖の一大事」
14/6/2(第799号)「金利低下の背景」
14/5/26(第798号)「政策目標の変更」
14/5/19(第797号)「「美味しんぼ」騒動」
14/5/12(第796号)「使えない経済指標」
14/4/28(第795号)「推理小説のような中国経済の実態」
14/4/21(第794号)「中国1〜3月期のGDP成長率」
14/4/14(第793号)「日本のマスコミの問題体質」
14/4/7(第792号)「ウクライナとロシアの関係」
14/3/31(第791号)「怪しくなったアベノミクスの行方」
14/3/24(第790号)「中国のバブル生成の過程」
14/3/17(第789号)「バブル経済崩壊の序章」
14/3/10(第788号)「中国経済にまつわる奇妙な話」
14/3/3(第787号)「中国経済に変調(その2)」
14/2/24(第786号)「中国経済に変調」
14/2/17(第785号)「経済戦略会議から15年」
14/2/10(第784号)「理論と現実の狭間・・金利編」
14/2/3(第783号)「経済理論と現実の狭間」
14/1/27(第782号)「なつかしい経済理論の復活」
14/1/20(第781号)「窮地に立つリフレ派」
14/1/13(第780号)「新春のトピックス」
13/12/23(第779号)「周辺国の異常行動」
13/12/16(第778号)「ピカピカのバランスシート」
13/12/9(第777号)「中谷巌氏の変心」
13/12/2(第776号)「何処に行った経済成長戦略」
13/11/25(第775号)「アベノミクスの行方」
13/11/18(第774号)「ここ一ヶ月の出来事」
13/10/14(第773号)「虚言・妄言の判断基準」
13/10/7(第772号)「消費税増税、次の焦点」
13/9/30(第771号)「消費税にまつわる諸問題」
13/9/23(第770号)「「声なき声」が届くか」
13/9/16(第769号)「利払い額のGDP比率の推移」
13/9/9(第768号)「利払い額で見る財政の健全性」
13/9/2(第767号)「消費税増税は雲行きが怪しくなった?」
13/8/26(第766号)「財政が危機という怪しい話」
13/8/10(第765号)「消費税増税は絶対に避ける道」
13/8/5(第764号)「消費税増税を促す包囲網」
13/7/26(第763号)「参議院選の結果を考える」
13/7/15(第762号)「アベノミクスの評価他2件」
13/7/8(第761号)「デフレに興味のない大新聞」
13/7/1(第760号)「日経新聞の論説の特徴」
13/6/24(第759号)「アベノミクスを牽制する人々」
13/6/17(第758号)「長期金利上昇で騒いでいる人々」
13/6/10(第757号)「雲行きが怪しいデフレ脱却」
13/6/3(第756号)「財政再建論者のサークル」
13/5/27(第755号)「財政の2010年問題」
13/4/29(第754号)「国民一律の年金」
13/4/22(第753号)「日銀のリスク資産購入」
13/4/15(第752号)「異次元の金融政策」
13/4/8(第751号)「久しぶりの「朝まで生テレビ」」
13/4/1(第750号)「不穏な中国と日本の安全保障」
13/3/25(第749号)「TPPの基本は友好」
13/3/18(第748号)「日本の雪崩的輸出の歴史」
13/3/11(第747号)「TPP交渉と日本警戒論」
13/3/4(第746号)「TPPの実態」
13/2/25(第745号)「有り得る軍事的衝突」
13/2/18(第744号)「群盲象をなでる」
13/2/11(第743号)「まず印紙税の廃止」
13/2/4(第742号)「「構造改革」と「規制緩和」の本当の姿」
13/1/28(第741号)「意志を持った「やじろべい」」
13/1/21(第740号)「金融政策に対する提言」
13/1/14(第739号)「年頭にあたり」


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