経済コラムマガジン 平成9年2月10日より
経済コラムマガジン


新年のスタートは1月12日を予定

14/12/24(826号)
増税版バカの壁

  • ドーマー条件とボーン条件

    日本経済は、ここ30年くらい「財政破綻に瀕している」という完全に間違った妄想に引っ掻き回されてきた。「日本の財政は最悪」であり、「財政再建が急務」という脅迫観念が国中で蔓延している。ところが10年物の国債利回りは、0.335%と信じられない水準まで低下している(30年国債も1.3%台まで低下)。「これでどうして財政が破綻するのだ」というのが筆者達の意見である(もちろん日本の財政に大きな問題がないという指標は他にもあり、本誌でも何回も取上げた)。

    こんなに金利が低下しても「消費税増税が必要」「歳出のカットが重要」という声が強い。一方、デフレ脱却に必要な財政政策が実施されない(かろうじて財政政策が実施されたのはアベノミクスの一年目のみ)どころか消費税増税まで実施してしまった。またこの完全に間違った観念に振回され、「2020年度のプライマリーバランスの回復」「15年度の基礎的収支の赤字の半減」といった全く無意味(むしろ危険)な目標が設定され(民主党政権が騙されて設定)、これらの実現が迫られている。産経新聞の田村秀男氏は、このような勢力に対して「増税版バカの壁」と言っているが、筆者も全く同感である。


    財政の健全性の基準は数多くあり、プライマリーバラスなんてその一つに過ぎない。これを経済成長ではなく、増税と歳出カットで実現することにこだわっているのが、日本の財務省とその取巻きである。これがかえって日本経済を低迷させ、財政の悪化を招いているという自覚が彼等にはない。

    この他にも財政健全性の目安は色々とある。例えば財政赤字のGDP比率が3%以下なら健全という話がある。しかしこの3%という数字はどうやって、また誰が決めたのか不明である。これも一つの目安に過ぎない。


    財政に関しては、昔からドーマー条件(ドーマーの定理)・ボーン条件というものが有名である。これらは財政破綻が起らないための十分条件である。ドーマー条件は「名目GDP成長率が長期金利を上回れば財政赤字は維持可能」、またボーン条件は「前期に財政が悪化していた場合、今期はプライマリーバランス規模が改善するように財政が運用されていれば良い」といったものである。

    ボーン条件ついて一言付け加えるなら、プライマリーバランスを少しでも改善すれば良いのであり、今日の日本のようにバランス回復を目指す必要はないと言うことである。また前の期より少しでも改善すれば良いのだから、例えば一年目、二年目と大規模な財政政策(財政支出、減税)によって一時的に財政が悪化しても、三年目に少しでもプライマリーバランスが改善すれば財政破綻は起らないということになる。つまり数年で財政破綻が起らないのなら、大規模な財政政策を先行させてもかまわないと言える。つまり今日のように単年度で国債発行額に足枷をかけることは、本当にバカげたことである。


    03/3/31(第291号)「経済再生政策提言フォーラム」他で紹介した、日本経済復活の会(会長小野盛司氏)が行ったシュミレーション(日経needsを使用・・けっこう経費が掛かった)もこのドーマー条件(ドーマーの定理)・ボーン条件を踏まえたものである。このシュミレーションによって、財政政策(財政支出、減税)を先行させた方が財政状態は良くなるといった結果が得られた。

    これは当たり前の話である。日本のようにデフレギャップ(GDPギャップ)が大きい国では、財政政策によって需要が増えれば、遊休状態の設備の稼働率が上がりそのうち新規の設備投資が起る。また失業が減り、労働者はより良い条件の職に就く事が可能となり所得が増える。これらによって経済成長が高まり、最終的には税収も増え財政も健全化するという流れになる。


    このようなシュミレーション結果に対して、増税を推進する財務官僚とペラペラ経済学者・財政学者・エコノミストは、税収のGDP成長に対する弾性値(経済成長率1%に対して税収が何%増えるか)は極めて小さいと反論する(嘘ということが分っていてもこれに関しては水掛け論になる)。つまり「経済が成長しても税収はほとんど増えない」とか「消費税を増税しても経済に対する影響は極めて軽微」と言いたいのである。この間違った認識を根拠に昨年、今年と消費税増税を推進したのである。ところがやはり実際のところ、13年度の名目成長率が高まったため税収は想定の何倍も増えている(もちろん8%への消費税増税による反動はこれから起る)。


  • 日本は暗黒国家に

    先日、このシュミレーションや他のことで小野さんと久しぶりに話をした。まず小野さんはドーマー条件(ドーマーの定理)について、日銀が国債をどんどん買い始めたことでこれらの条件・定理さえあまり考慮する必要はなくなったと言っている。11年前のシュミレーションでは、今日のような日銀による国債の徹底的な買上げを想定していなかった。当時は、日銀の国債保有額に日銀券の発行額が限度といった縛りがあったのである。

    この制約がなくなれば、財政政策の財源を国債発行に頼っても金利がほとんど上昇しないということになる(これについては財政ファイナスという造語をつくって反論するバカ者が多い・・よほど自分達の言ってきた嘘がバレるのが恐いのであろう)。つまりシュミレーション上では、財政政策(財政支出の増大、減税)の規模さえ大きくすれば、単純に税収がストレートに増え、財政はどんどん良くなる。残る問題は物価の上昇だけである。しかし日銀が目標とする最低の(2%)物価上昇でさえ達成が難しい今日、今の段階でこれを心配する必要は全くない(そもそも日本の消費の形態が変り、通信費やIT関連などの消費が増え需要が増えても物価上昇が起きにくい体質になっている)。最悪のケースでも国民が容認できる物価上昇(筆者の感覚では5%程度)の限度までこの政策を実施すれば良い。


    日銀が国債を買い始めたことが大きい。これまで経済政策論議でシュミレーションを持出すとモデルの前提条件を巡って空中戦となり、議論がそこから進まなくなっていた。前段で取上げた異常に小さく現実離れをした税収のGDP成長に対する弾性値もその一つである。

    シュミレーションに関し、この他にも異常に小さいデフレギャップ(GDPギャップ)の問題がある(さらに現実離れした乗数値も同様・・とうとう内閣府から公表されなくなった)。11月のGDPギャップの推定値を内閣府は2.8%、日銀は0.3%と算出している(このような現実離れをした双方の数字を巡り、内閣府と日銀は自分達こそが正しいと目クソ鼻クソの闘いをしているのだらあきれる)。したがって04/11/1(第365号)「妄言・虚言の正体」で取上げたA教授のように、1兆円も財政支出を増やせば止めどもなく物価が上昇するといった間抜けな主張が跋扈する。


    ペラペラ経済学者・財政学者・エコノミストは日本のGDPギャップがほとんどないのだから、これ以上経済成長をするには構造改革しかないと主張し譲らない。このようなペラペラ族が集る会合にたまたま小野さんが出席した時の話である。「潜在成長率が小さいので日本はもう経済成長ができない」という話になったので、たまらず小野さんが「国民に50万円ずつ配れば、国民がこれを使うから経済は成長するでしょう」と述べたところ、このペラペラ族の全員が黙りこくって何も反論できなくなったという。大笑いである。

    筆者は、何も50万円ずつ配らなくとも、この発想に沿った経済政策を実行すれば良いと考える。サマーズが米国でさえGDPギャップが10%あると言っているくらいなのだから、デフレ経済とお墨付きの日本のGDPギャップが2.8%とか0.3%と言っている連中の頭がおかしいのである(内閣府が2001年あたりに導入したサプライサイドのシュミレーションモデル(IMFモデル・・発展途上国用モデル)が大問題である・・竹中平蔵氏が導入したという話がありそのうち本誌でも取上げる)。


    日銀の国債買入れが話題になったので、筆者は「今のペースで国債買入れが続けば、7〜10年で日本は実質的に無借金になる」という持論を小野さんに紹介したところ小野さんも笑っていた。またこれに関連し、小野さんは日銀の国庫への納付金が異常に小さいことに気付き、日銀に電話で理由を尋ねたという。これに関し日銀の担当者はもぞもぞと「日銀が保有する外貨建て資産などに評価損が出たので、剰余金をその補填に使い差引いて国庫に納付した」という(実はこの件は、日経新聞にも小さく出ていて筆者も知っていた)。

    日銀法で剰余金の5%を準備金として積立てることになっているが、2010年これを15%に引上げ、さらに今年から20%に引上げた(日銀に準備金が本当に必要かどうか大いに疑問であるが長くなるので割愛する)。ところが小野さんの話では、評価損処理はこの準備金を取崩すのではなく剰余金から直接差っ引いたことになる。小野さんはこれを日銀に直接確認してくれたのである。

    評価損が出た場合には国庫納付金を減額するが、おそらく評価益が出た時には国庫納付金を増やすということはないと見られる。たしかにこれこそ会計学上の保守主義の原則に則ったということになる。しかしこうやって日本の官僚機構は「埋蔵金」をどんどん増やしているのである。

    外為特別会計も大きな黒字となっているが、まずこれが話題になることはない。特に昨今の円安で10兆円ほど評価益が出ている計算になる(もちろんこれまでの円高で40兆円ほどの評価損を抱えていたが今日の円安で評価益に転換した)。これらの状況が明らかにされないまま日本では増税(8%への税率アップで8.1兆円の消費税増)などが押し進められてきたのである。日本は本当に暗黒国家になった。



今年は今週号が最後であり、新年のスタートは1月12日を予定しているがテーマは未定。今年も実に憂鬱な年であったが、辛くも消費税の再増税が延期された。それでは皆様も良いお年を。



14/12/19(第825号)「総選挙後の動きと課題」
14/12/8(第824号)「今回の総選挙の注目点」
14/12/1(第823号)「「今から嘘をつくぞ」の決まり文句」
14/11/24(第822号)「解散・総選挙の裏側」
14/11/17(第821号)「再増税は延期?」
14/11/10(第820号)「日本のぺらぺら族」
14/11/3(第819号)「財務省とマスコミの関係」
14/10/27(第818号)「増税派の素顔」」
14/10/20(第817号)「消費税増税と八代亜紀」」
14/10/13(第816号)「増税なんて必要ない」」
14/10/6(第815号)「日経新聞のねつ造解説」」
14/9/29(第814号)「メディアはねつ造だらけ」」
14/9/22(第813号)「人手不足は本当か」」
14/9/15(第812号)「経済学とニヒリズム」」
14/9/8(第811号)「サミュエルソンは新古典派?」」
14/9/1(第810号)「ハシゴを外されそうな日本」」
14/8/25(第809号)「ハシゴを外された話」」
14/8/4(第808号)「トマ・ピケティの「21世紀の資本論」」
14/7/28(第807号)「三教授のサマーズ論の解説」
14/7/21(第806号)「一家に一台が需要の天井」
14/7/14(第805号)「ポンコツ経済理論の信奉者達」
14/7/7(第804号)「経済成長の三つのパターン」
14/6/30(第803号)「サマーズとトマ・ピケティ」
14/6/23(第802号)「奇妙な話ばかり」
14/6/16(第801号)「石油は人々をおかしくさせる」
14/6/9(第800号)「ベトナム沖の一大事」
14/6/2(第799号)「金利低下の背景」
14/5/26(第798号)「政策目標の変更」
14/5/19(第797号)「「美味しんぼ」騒動」
14/5/12(第796号)「使えない経済指標」
14/4/28(第795号)「推理小説のような中国経済の実態」
14/4/21(第794号)「中国1〜3月期のGDP成長率」
14/4/14(第793号)「日本のマスコミの問題体質」
14/4/7(第792号)「ウクライナとロシアの関係」
14/3/31(第791号)「怪しくなったアベノミクスの行方」
14/3/24(第790号)「中国のバブル生成の過程」
14/3/17(第789号)「バブル経済崩壊の序章」
14/3/10(第788号)「中国経済にまつわる奇妙な話」
14/3/3(第787号)「中国経済に変調(その2)」
14/2/24(第786号)「中国経済に変調」
14/2/17(第785号)「経済戦略会議から15年」
14/2/10(第784号)「理論と現実の狭間・・金利編」
14/2/3(第783号)「経済理論と現実の狭間」
14/1/27(第782号)「なつかしい経済理論の復活」
14/1/20(第781号)「窮地に立つリフレ派」
14/1/13(第780号)「新春のトピックス」
13/12/23(第779号)「周辺国の異常行動」
13/12/16(第778号)「ピカピカのバランスシート」
13/12/9(第777号)「中谷巌氏の変心」
13/12/2(第776号)「何処に行った経済成長戦略」
13/11/25(第775号)「アベノミクスの行方」
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13/10/14(第773号)「虚言・妄言の判断基準」
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13/9/30(第771号)「消費税にまつわる諸問題」
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13/1/28(第741号)「意志を持った「やじろべい」」
13/1/21(第740号)「金融政策に対する提言」
13/1/14(第739号)「年頭にあたり」


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