経済コラムマガジン 平成9年2月10日より
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14/12/19(825号)
総選挙後の動きと課題

  • 無党派層の浮動票の動き

    ちょつと遅くなったが総選挙の感想を述べる。選挙の結果は、与党自民・公明にとって議席の三分の二以上を占める勝利であった。自民党については事前のマスコミ予想(300議席を上回る勢い)を若干下回ったが、大勝だったと言える。筆者は、各党の勢いの推移を見るには比例代表の政党別得票数を見るのが適当と考える。そこで今回の選挙結果の分析にあたり、いつものようにこの数字を拾ってみた。

    各党の比例区の獲得投票数(万票)と増減率(%)
     政 党 名  今  回  前  回  前々回  増減率(対前回)
    自 民1,7661,6621,8816.8
    民 主9789632,5111.6
    維 新8381,226ーー▲31.6
    公 明7317128052.7
    共 産60636949464.2
    社 民131142237▲7.7
    みんなーー525ーーーー
    未 来ーー342ーーーー
    合 計5,3336,0187,037▲11.4


    今回の総選挙の特徴は、何と言っても記録的な低投票率である。前回の投票率も低かったが、投票数は、今回、さらに11.4%(比例区)も低下した。投票率の低下は事前に予想されたことであったが、ここまで低くなると予想した人は少なかったと思われる。

    低投票率の原因として、天候の影響も多少あるが、やはり有権者が投票したい政党がなくなったことが大きかったと言える。前々回は、自民党政治に反感を持つ票(無党派層の浮動票)が大量に民主党へ流れた。「民主党に一度政権を担わせてみよう」という雰囲気で溢れていたのである。


    前回は、その浮動票のほとんどが民主党から離れ、大半が維新などの第三局に流れ、残りの1,000万票程度が棄権に回った。前回、維新・みんな・未来の第三局は2,093万票も集めた。その第三局が有権者から早くもあきられた。みんなの党は消滅し、未来は生活の党に変ったが103万票しか獲得できなかった。

    第三局で残ったのは事実上「維新」だけであるが、維新の獲得票数は31.6%も減少している。おそらく前回の選挙まで第三局に向かっていた無党派層の浮動票は、維新の分を除き大半が棄権に回ったか、あるいは共産党に流れた(200万票程度と推測される)と見られる。投票率は低下したが、無党派層の浮動票が大幅に減少したため選挙結果は分りやすくなった。


    自民党は、獲得議席数を少し減らしているが、意外にも低投票率にかかわらず比例の獲得票数を多少伸ばしている(6.8%増)。議員定数が5議席減っていること(自民が強い地方の議席が減っている)を考えれば自民はかなり善戦したと言える。また投票率が下がったことによって、獲得票数は変らなかったが民主と公明は議席を少し増やした。

    やはり共産党は議席を倍増させた。消費税増税に一貫して反対してきたということが幸いしたと筆者は考える。もし安倍政権が再増税を延期せずに次の衆議院選に臨んでいたなら、共産党がさらに大量の浮動票を獲得し(自民党の支持層からも共産党に入れる者が出てくる)、歴史的な大勝をしていたと筆者は考える。自民党にとって極めて危ないところであった。


  • 厳しいアベノミクスの前途

    選挙後の政治の流れはまだはっきりしていない。ただ与党は内閣の改造を行わず、自民党の執行部も留任という報道が流れている。しかし何も変らないということは考えにくい。選挙結果を受けて、そのうち動きが出てくるものと筆者は思っている。

    一方、野党は大変である。小選挙区中心の現行の選挙制度では、野党が分裂していては自公に勝てないことがはっきりした。民主と維新の合流という話が出ているが、簡単には行かないと思われる。維新の橋下代表は労組抜きの民主党との合併を主張している。しかし民主党がそれを受入れるはずがなく、次の国政選挙(16年の参議院選)まで揉めると思われる。

    また維新は賞味期限を過ぎようとしている。それにしても魅力に欠ける両党の再編に、有権者はほとんど興味を持たないと見る。むしろ注目されるのは共産党である。安倍政権が大きなミスを犯せば、次の参議員選で共産党が一波乱を起こす可能性がある。


    やはり日本のマスコミ報道がおかしい。今回の選挙に関してもそうであった。物事の本質に迫ろうという気をみせず、むしろ真相報道を避けている。例えば、何故、安倍総理が解散・総選挙に打って出たか適切な分析を行わない。始めは「大義なき解散・総選挙」と間抜けなことを言っていたほどであった。

    特に総選挙のテーマであったはずの消費税に関しては酷いものである。日本のマスコミは増税が本当に必要なのかを正しく報道しない。「国の借金が1,000兆円もあって大変」とか「増税によって社会保障の財源を賄う」といった財務省の言い分をそのまま鵜のみした報道を続けている。


    本誌は14/10/13(第816号)「増税なんて必要ない」」などで、日本は財政を再建する必要がないことを散々説明してきた。しかし本誌で取上げるような事柄には、ほとんどマスコミは触れようとはしない。まるで日本のマスコミは何かを恐れているみたいである。

    今年4月の消費税増税の際のマスコミの扱いも杜撰であった。増税に対して、マスコミが取上げることは「増税前に何を買っておくと得するか」といった低次元なことばかりであった。決して「本当に日本の財政は最悪なのか」とか「欧州の軽減税率の実態(例えば英国は生活必需品の税率はゼロ)」といった本質に迫ることはテーマにしない。増税前でも税収に占める消費税の割合が既に欧州諸国の平均に近いといった話をするのは共産党くらいであった。

    消費税増税は社会保障との一体改革と言われているが、増税分のほとんどが社会保障の財源に回らないことをマスコミは言わない(一割程度という話さえある)。増税分のほとんどがプライマリーバランス回復という財政再建の数字合せに使われることを伝えないのである。そもそも消費税増税だけで将来の社会保障増の財源を賄うという発想がおかしい。


    デフレ脱却を目指す安倍政権も岐路に立たされている。まず4月の消費税増税と補正予算減額による経済の落込みに対する対策が必要である。さらにデフレ解消を目指すアベノミクスを前進させる政策が必要になる。

    ところが政府関係者から今のところ出ているものは「住宅取得に対するエコポインの復活」といった本当につまらない話だけである。また3兆円程度の補正予算も検討されている。しかしこの3兆円には前もって余ると分っていた予算を充てる。しかも昨年は今年度に向け補正予算を5.5兆円組んだ(その前の年は10兆円)。したがって補正予算に限ってはさらなる緊縮財政となり、補正予算に関しては2.5兆円のマイナスの乗数効果((5.5兆円−3.0兆円)×乗数値)が発生することになる。一体政府は何を考えているのかという話である。

    これも国債を増発しないと言った全く意味のない観念論に縛られているからである。アベノミクスの行く末は、この間違った考えからいつ脱却できるかに掛かっている。内閣改造を行わないというのなら、まともな考えの経済スタッフを揃える他はない。円安やいつ実現するか分らない経済戦略(小渕政権以来20年近く検討)だけに頼るなんて、アベノミクスの前途は真っ暗である。



来週は「国債発行を増やさない」という呪縛からの脱却について述べる。来週号が今年最後のコラムであり、26日前の発行を予定している。



14/12/8(第824号)「今回の総選挙の注目点」
14/12/1(第823号)「「今から嘘をつくぞ」の決まり文句」
14/11/24(第822号)「解散・総選挙の裏側」
14/11/17(第821号)「再増税は延期?」
14/11/10(第820号)「日本のぺらぺら族」
14/11/3(第819号)「財務省とマスコミの関係」
14/10/27(第818号)「増税派の素顔」」
14/10/20(第817号)「消費税増税と八代亜紀」」
14/10/13(第816号)「増税なんて必要ない」」
14/10/6(第815号)「日経新聞のねつ造解説」」
14/9/29(第814号)「メディアはねつ造だらけ」」
14/9/22(第813号)「人手不足は本当か」」
14/9/15(第812号)「経済学とニヒリズム」」
14/9/8(第811号)「サミュエルソンは新古典派?」」
14/9/1(第810号)「ハシゴを外されそうな日本」」
14/8/25(第809号)「ハシゴを外された話」」
14/8/4(第808号)「トマ・ピケティの「21世紀の資本論」」
14/7/28(第807号)「三教授のサマーズ論の解説」
14/7/21(第806号)「一家に一台が需要の天井」
14/7/14(第805号)「ポンコツ経済理論の信奉者達」
14/7/7(第804号)「経済成長の三つのパターン」
14/6/30(第803号)「サマーズとトマ・ピケティ」
14/6/23(第802号)「奇妙な話ばかり」
14/6/16(第801号)「石油は人々をおかしくさせる」
14/6/9(第800号)「ベトナム沖の一大事」
14/6/2(第799号)「金利低下の背景」
14/5/26(第798号)「政策目標の変更」
14/5/19(第797号)「「美味しんぼ」騒動」
14/5/12(第796号)「使えない経済指標」
14/4/28(第795号)「推理小説のような中国経済の実態」
14/4/21(第794号)「中国1〜3月期のGDP成長率」
14/4/14(第793号)「日本のマスコミの問題体質」
14/4/7(第792号)「ウクライナとロシアの関係」
14/3/31(第791号)「怪しくなったアベノミクスの行方」
14/3/24(第790号)「中国のバブル生成の過程」
14/3/17(第789号)「バブル経済崩壊の序章」
14/3/10(第788号)「中国経済にまつわる奇妙な話」
14/3/3(第787号)「中国経済に変調(その2)」
14/2/24(第786号)「中国経済に変調」
14/2/17(第785号)「経済戦略会議から15年」
14/2/10(第784号)「理論と現実の狭間・・金利編」
14/2/3(第783号)「経済理論と現実の狭間」
14/1/27(第782号)「なつかしい経済理論の復活」
14/1/20(第781号)「窮地に立つリフレ派」
14/1/13(第780号)「新春のトピックス」
13/12/23(第779号)「周辺国の異常行動」
13/12/16(第778号)「ピカピカのバランスシート」
13/12/9(第777号)「中谷巌氏の変心」
13/12/2(第776号)「何処に行った経済成長戦略」
13/11/25(第775号)「アベノミクスの行方」
13/11/18(第774号)「ここ一ヶ月の出来事」
13/10/14(第773号)「虚言・妄言の判断基準」
13/10/7(第772号)「消費税増税、次の焦点」
13/9/30(第771号)「消費税にまつわる諸問題」
13/9/23(第770号)「「声なき声」が届くか」
13/9/16(第769号)「利払い額のGDP比率の推移」
13/9/9(第768号)「利払い額で見る財政の健全性」
13/9/2(第767号)「消費税増税は雲行きが怪しくなった?」
13/8/26(第766号)「財政が危機という怪しい話」
13/8/10(第765号)「消費税増税は絶対に避ける道」
13/8/5(第764号)「消費税増税を促す包囲網」
13/7/26(第763号)「参議院選の結果を考える」
13/7/15(第762号)「アベノミクスの評価他2件」
13/7/8(第761号)「デフレに興味のない大新聞」
13/7/1(第760号)「日経新聞の論説の特徴」
13/6/24(第759号)「アベノミクスを牽制する人々」
13/6/17(第758号)「長期金利上昇で騒いでいる人々」
13/6/10(第757号)「雲行きが怪しいデフレ脱却」
13/6/3(第756号)「財政再建論者のサークル」
13/5/27(第755号)「財政の2010年問題」
13/4/29(第754号)「国民一律の年金」
13/4/22(第753号)「日銀のリスク資産購入」
13/4/15(第752号)「異次元の金融政策」
13/4/8(第751号)「久しぶりの「朝まで生テレビ」」
13/4/1(第750号)「不穏な中国と日本の安全保障」
13/3/25(第749号)「TPPの基本は友好」
13/3/18(第748号)「日本の雪崩的輸出の歴史」
13/3/11(第747号)「TPP交渉と日本警戒論」
13/3/4(第746号)「TPPの実態」
13/2/25(第745号)「有り得る軍事的衝突」
13/2/18(第744号)「群盲象をなでる」
13/2/11(第743号)「まず印紙税の廃止」
13/2/4(第742号)「「構造改革」と「規制緩和」の本当の姿」
13/1/28(第741号)「意志を持った「やじろべい」」
13/1/21(第740号)「金融政策に対する提言」
13/1/14(第739号)「年頭にあたり」


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