経済コラムマガジン 平成9年2月10日より
経済コラムマガジン




14/12/8(824号)
今回の総選挙の注目点

  • 財政再建派ではなく増税派

    再増税延期を受け11月30日の日経新聞は、これまで増税を推進してきた御用学者や御用エコノミストの不満を示す文章のオンパレードであった。まず「日曜に考える」というコーナで、みずほ総合研究所チーフエコノミストの高田創氏とBNPパリバ証券チーフエコノミスト河野龍太郎氏が「アベノミクス2年間の成否」というテーマで夫々語っている。アベノミクスの効果があったと主張する高田氏に対して、効果は一時的で所得の先食いと河野氏は否定的であり、アベノミクスの成果に関しては両者は対立する。しかし消費税の再増税延期には両者とも反対で一致している。

    また「経済論壇から」の「消費再増税先送りの影響」では、井掘利宏東大教授、吉川洋東大教授、佐藤主光一橋教授が経済誌などで展開している再増税延期に対する批判を土居慶大教授という財政学者が紹介している。これらのエコノミストや経済・財政学者は、消費税増税は経済の動きとは切離して実施すべきということが共通認識である。つまり不況であっても、また経済に悪影響が考えられても、増税は断固実施すべきと恐ろしいことを彼等は主張している。本当に倒錯した経済観の持ち主ばかりである。


    土居慶大教授が紹介するこれらの学者の主張は、部分的なので全体は分らないが、学者達は2期連続のマイナス成長を全く気にしていないと推測される。また再増税延期決定後、長期金利が上昇するどこかむしろ予想に反して低下していることにも触れていないようである。つまりこれらの学者は現実の経済には全く興味がないのであろう。

    そしてこれらのエコノミストや経済・財政学者が、昨年の8%への増税決定の際、「増税の影響は軽微」「4月の増税実施で一時的に消費が縮小しても、それ以降、経済はV字回復する」といい加減なことを言っていたのである。現実の経済に興味がないのなら何とでも言える。もちろん11月30日以降も増税延期に対する反対論が日経新聞には非常に目立つ。


    これらの主張を見るにつけ筆者を含め、多くの人々が今日まで彼等を誤解してきたことが分る。筆者達は、財政再建派を財政再建を目指す勢力で、その手段の一つが増税と認識してきた。しかし日本の増税派は決して財政再建を目指していないということがはっきりして来た。このことが一連の消費税増税騒動で分かったのである。これらの御用学者や御用エコノミストは、財政再建という言葉を並べているが、それは餌であり本当の狙いは「増税」だけである。増税原理主義者と言った方が適切であろう。実際、消費税を増税しても大して国の借金は減らず、逆に税収が全体では減る事態さえ有りうる(97年の橋本増税のケース)。

    また一方に財政再建を、経済成長で達成しようというグループがある。しかしこの勢力は、増税派に押され年々弱くなって来ていた。しかし今回の再増税延期決定によって一矢を報いたということになる。そこでこのグループの考えを「ドーマー条件・ボーン条件」をからめてそのうち取上げる。ちなみに筆者もこのグループの一員であるが、筆者はもう一歩進んで「日本は特に財政に問題はない」あるいは「日銀の国債買入れが今のペースで続けば7〜10年で日本は実質的に無借金になる」と主張してきた。


    増税派の特徴は、言っていることが浮き世離れし支離滅裂ということである。冒頭のBNPパリバの河野龍太郎氏の言っていることなんか、何回読んでもよく分らない。河野氏は「日本経済は生産能力の天井に達しており、実質金利のマイナスが広がり円安が進む結果、インフレが加速する。4〜5%の物価上昇で済めば良いが、リスクシナリオは10%程度の物価上昇だ」と現実離れしたことを言っている(在庫整理が進まず新車の販売なども不調な今日、どうして生産能力の天井に達したと言っているのか皆目分らない)。

    むしろこのような物価上昇という現象は、リフレ派(黒田日銀等)が目指しているところである(筆者は金融政策だけでは困難と見ているが)。実際、本来のインフレターゲットは、物価上昇の局面でこそ有効な政策である。むしろ今後の経済論壇を考える上で、奇妙な経済理論を連発するBNPパリバの河野龍太郎氏なんかこそ格好の研究対象になると筆者は考える。


  • 浮動票は二度と戻らない

    先々週号14/11/24(第822号)「解散・総選挙の裏側」で、「安倍総理の周辺も政権の真の敵は財務省とこれに支配されている増税派(要するに財政再建派)という認識を深めたと思っている。いきなりの解散も、これしか選択肢がなくなっていたからと筆者は理解」と書いた。これに対して読者の一部は、経済コラムマガジンもとうとう陰謀論趣味に堕落したと思ったかもしれない。また一部の週刊誌や小泉元首相の息子なんかも「大義なき解散」と薄っぺらく叫んでいる。

    しかし安倍総理は11月30日フジテレビの番組に出演し、衆院解散を決めた背景に財務省による消費増税の多数派工作があったことを明らかにした。首相は「責任を持っているのは私だ」と強調し、「(増税延期に)方向転換する以上、解散・総選挙という手法で党内一体で向かって行く。民意を問えば、党内も役所もみんなでその方向に進んでいく」と説明した。少なくとも2年前の衆議院選では自民党は消費税の10%への増税を掲げて闘ったのである。これを御破算にするには解散・総選挙が必要と筆者は考える。

    残念ながら筆者はこのテレビ番組を観なかった。翌日の日経新聞の極めて小さな囲み記事からこれを抜粋した。さすがに増税推進派の日経だけにこれほど重要なことを目立たない記事にしていると言えるし、反対に日経でさえ記事にせざるを得なくなったとも言える。後世、振返れば、今回ほど意味のある解散・総選挙はなかったと人々も気付くものと筆者は思っている。


    大手の新聞は各紙「自民大勝」を予想している。しかしねつ造記事が溢れる日本の新聞の書くことを簡単には信用できない。また大勝予想が出ることによって、自民党支持者が棄権に回ることが考えられる。やはり選挙結果は、フタを開けてみないと分らないということであろう。

    ただ共産党を除く野党は、無党派層と呼ばれる浮動票に依存してきた。たしかに民主党には労働組合票という組織票があると反論があるかもしれない。しかしさすがに再増税を主張する組合幹部に対して既に一般組合員はあきれている。筆者は、選挙活動を熱心に行っているのはそのうち民主党から立候補して政治家(国会議員、地方議員)になろうという野心を持つ者に限られ、組合票なんてほとんど幻になっていると思っている。もし民主党に入るとしたなら反自民という浮動票だけである(さすがに今回は少ないであろう)。


    筆者は、野党候補の一本化とか選挙協力といったことの意味が分らない(浮動票のバータなんて有りえない)。これまで民主党や維新の会などは無党派層の浮動票で支えられてきた。たしかに民主党なんか浮動票を大量に集めて大勝し、政権に就いた。しかし民主党に集った大量の浮動票は、3年間の民主党政権の間に完全に離れた。

    筆者には「無党派層の浮動票は、集めた政党から一旦離れた場合、二度とその政党には戻らない」という確信がある。これは長い間国政選挙を見てきた筆者の結論である。新党の場合は、2〜3回目までの国政選挙(衆院、参院)でピークを迎え、その後は浮動票が離れ必ず落ちぶれる。新自由クラブ、日本新党、みんなの党、日本維新の会がその好例であろう。

    昔の社会党や民主党は新党とは言えないが、何らかの事由(例えば自民党の失政)で浮動票を大量に集め大勝した場合、次の選挙からこれらの票が徐々に離れ、党は消滅危機に瀕する(つまりへたに浮動票で大勝しない方が良い)。浮動票というものは常に新しい政治勢力を求め動き回り、元の政党には二度と戻らない傾向があると筆者は思っている。今回の選挙では、民主党から一旦離れた浮動票は、民主党には戻らず棄権に回ると筆者は見ている。

    共産党はある程度伸びると予想される。ただ共産党にとって、安倍総理が再増税を延期したことが痛かったと筆者は見ている。もし再増税を実施していたなら、次回選挙で共産党は大勝していたと考えられる。つまり自・共対決という政治図式が生まれていたかもしれないのである。



来週は総選挙結果の分析を行う。結果を見てからなので2〜3日遅れる。



14/12/1(第823号)「「今から嘘をつくぞ」の決まり文句」
14/11/24(第822号)「解散・総選挙の裏側」
14/11/17(第821号)「再増税は延期?」
14/11/10(第820号)「日本のぺらぺら族」
14/11/3(第819号)「財務省とマスコミの関係」
14/10/27(第818号)「増税派の素顔」」
14/10/20(第817号)「消費税増税と八代亜紀」」
14/10/13(第816号)「増税なんて必要ない」」
14/10/6(第815号)「日経新聞のねつ造解説」」
14/9/29(第814号)「メディアはねつ造だらけ」」
14/9/22(第813号)「人手不足は本当か」」
14/9/15(第812号)「経済学とニヒリズム」」
14/9/8(第811号)「サミュエルソンは新古典派?」」
14/9/1(第810号)「ハシゴを外されそうな日本」」
14/8/25(第809号)「ハシゴを外された話」」
14/8/4(第808号)「トマ・ピケティの「21世紀の資本論」」
14/7/28(第807号)「三教授のサマーズ論の解説」
14/7/21(第806号)「一家に一台が需要の天井」
14/7/14(第805号)「ポンコツ経済理論の信奉者達」
14/7/7(第804号)「経済成長の三つのパターン」
14/6/30(第803号)「サマーズとトマ・ピケティ」
14/6/23(第802号)「奇妙な話ばかり」
14/6/16(第801号)「石油は人々をおかしくさせる」
14/6/9(第800号)「ベトナム沖の一大事」
14/6/2(第799号)「金利低下の背景」
14/5/26(第798号)「政策目標の変更」
14/5/19(第797号)「「美味しんぼ」騒動」
14/5/12(第796号)「使えない経済指標」
14/4/28(第795号)「推理小説のような中国経済の実態」
14/4/21(第794号)「中国1〜3月期のGDP成長率」
14/4/14(第793号)「日本のマスコミの問題体質」
14/4/7(第792号)「ウクライナとロシアの関係」
14/3/31(第791号)「怪しくなったアベノミクスの行方」
14/3/24(第790号)「中国のバブル生成の過程」
14/3/17(第789号)「バブル経済崩壊の序章」
14/3/10(第788号)「中国経済にまつわる奇妙な話」
14/3/3(第787号)「中国経済に変調(その2)」
14/2/24(第786号)「中国経済に変調」
14/2/17(第785号)「経済戦略会議から15年」
14/2/10(第784号)「理論と現実の狭間・・金利編」
14/2/3(第783号)「経済理論と現実の狭間」
14/1/27(第782号)「なつかしい経済理論の復活」
14/1/20(第781号)「窮地に立つリフレ派」
14/1/13(第780号)「新春のトピックス」
13/12/23(第779号)「周辺国の異常行動」
13/12/16(第778号)「ピカピカのバランスシート」
13/12/9(第777号)「中谷巌氏の変心」
13/12/2(第776号)「何処に行った経済成長戦略」
13/11/25(第775号)「アベノミクスの行方」
13/11/18(第774号)「ここ一ヶ月の出来事」
13/10/14(第773号)「虚言・妄言の判断基準」
13/10/7(第772号)「消費税増税、次の焦点」
13/9/30(第771号)「消費税にまつわる諸問題」
13/9/23(第770号)「「声なき声」が届くか」
13/9/16(第769号)「利払い額のGDP比率の推移」
13/9/9(第768号)「利払い額で見る財政の健全性」
13/9/2(第767号)「消費税増税は雲行きが怪しくなった?」
13/8/26(第766号)「財政が危機という怪しい話」
13/8/10(第765号)「消費税増税は絶対に避ける道」
13/8/5(第764号)「消費税増税を促す包囲網」
13/7/26(第763号)「参議院選の結果を考える」
13/7/15(第762号)「アベノミクスの評価他2件」
13/7/8(第761号)「デフレに興味のない大新聞」
13/7/1(第760号)「日経新聞の論説の特徴」
13/6/24(第759号)「アベノミクスを牽制する人々」
13/6/17(第758号)「長期金利上昇で騒いでいる人々」
13/6/10(第757号)「雲行きが怪しいデフレ脱却」
13/6/3(第756号)「財政再建論者のサークル」
13/5/27(第755号)「財政の2010年問題」
13/4/29(第754号)「国民一律の年金」
13/4/22(第753号)「日銀のリスク資産購入」
13/4/15(第752号)「異次元の金融政策」
13/4/8(第751号)「久しぶりの「朝まで生テレビ」」
13/4/1(第750号)「不穏な中国と日本の安全保障」
13/3/25(第749号)「TPPの基本は友好」
13/3/18(第748号)「日本の雪崩的輸出の歴史」
13/3/11(第747号)「TPP交渉と日本警戒論」
13/3/4(第746号)「TPPの実態」
13/2/25(第745号)「有り得る軍事的衝突」
13/2/18(第744号)「群盲象をなでる」
13/2/11(第743号)「まず印紙税の廃止」
13/2/4(第742号)「「構造改革」と「規制緩和」の本当の姿」
13/1/28(第741号)「意志を持った「やじろべい」」
13/1/21(第740号)「金融政策に対する提言」
13/1/14(第739号)「年頭にあたり」


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