経済コラムマガジン 平成9年2月10日より
経済コラムマガジン




14/11/10(820号)
日本のぺらぺら族

  • 「今さら理屈や理論を言っても始まらない」

    日本では、物事の決められ方が危ういことがよくある。しばしばまともな理屈や理論を無視したまま事が決まって行くのである。たしかに理屈や理論が全くないというわけでないが、時には驚くような非論理的な理屈・理論がまかり通ったりする。

    このような時には理屈や理論という言うより、「空気」というものが日本全体を支配している。そしてこの「空気」というものを掴んだ者が、最終的に日本を支配し間違った方向に日本を向かわせる。非論理的な政治判断だから、結果はさんざんである。無謀にも日本が第二次世界大戦に突っ込んで行ったのも、これと同様の経緯を辿ったからと筆者は思っている。


    第二次世界大戦ほどの大事ではないが、郵政民営化の騒ぎの時もこれに似たことが起っていた。民営化の推進派は「巨額の郵政の資金が財政投融資を通じて官にだけ流れている。この資金が民間に流れないないから日本の投資が活発にならない」「郵政を民営化して、資金を民間に流せば設備投資も活発化する」といったもっともらしいことを言っていた。

    しかし当時から民間の金融機関は貸出先がなく国債ばかり買っていた。特に有力な貸出先のない地方銀行は、当時から預貸率が極めて小さかった。これは金融機関に資金的な余裕がなかったのではなく、民間企業の資金需要が乏しかったからである。つまり民営化推進論者の言っていることは非論理的であった。

    当時、筆者はこのような理不尽な理由で郵政の民営化が推進されていることに強い憤りを感じた。そこでこのような非論理的な理屈で物事が決められようとしていることを、知っている週刊誌の記者に説明した。しかし彼は冷たく「もうこの話は決まったことである」「今さら理屈や理論を言っても始まらない」と言い放った。さすがに彼は日本での物事の決められ方を熟知している記者であり、彼の言う通り郵政民営化は決まった。ただ結果は、筆者が主張したように郵政民営化が実現しても郵政の資金が民間企業に流れ投資が活発になることはなかった。

    筆者は、元々郵政の民営化うんぬんにはあまり興味はなかった(このことは本誌をずっと読んでいる読者も分ると思う)。ただ非論理的な小泉首相の言動に日本のマスコミが無批判的に乗って、世論を煽るといった行動に強い反感を筆者は憶えた。そこで「理屈や理論が無視されたまま事が決まる」という日本の風潮の危うさを訴えたかったのである。


    今回の消費税増税の動きもこれらに似ている。「日本の財政は危機的だ」「日銀の国債買入れは財政ファイナンスと見なされ、そのうち国債は暴落する」「20年度のプライマリーバランス回復と15年度の財政赤字の半減は国際公約」「次の世代に借金を残したくない」といったもっともらしい嘘や非論理的な話がまず飛出し、いつの間にかこれらがまかり通るようになる。この嘘話に「ぺらぺら有識者」「ぺらぺら財政学者・経済学者」「ぺらぺらエコノミスト」「ぺらぺらマスコミ人」「ぺらぺら政治家」といった日本の「ぺらぺら族」が乗っかかり、「増税は必至」という風潮を作り上げるといった構図である。

    もちろんこのような動きの陰には官僚(財務当局)がいる。そして昨年はこの「ぺらぺら族」の活躍も有り、8%への消費税引上げが実現した。つまり「もうこの話は決まったことである」「今さら理屈や理論を言っても始まらない」といった話が通用したのである。そして今日の注目点は、消費税の再増税と「ぺらぺら族」の動向である。


    昨年から「ぺらぺら族」は、「増税の経済への影響は軽微」「4月の増税で経済成長が一時的にマイナスになっても、その後はV字回復する」と間抜けなことを言い続けてきた。ところが現実の経済はそうなっていない(ぺらぺら族は天候不順のせいにしているが)。一般の国民も少しずつとそのことが分ってきた段階である。つまり政治判断として、再増税は微妙になってきたと筆者は感じている。


  • 7〜10年で日本の財政は無借金に

    たしかに消費税の再増税についても「もうこの話は決まったことである」「今さら理屈や理論を言っても始まらない」という声が出ているかもしれない。どうも今の段階となつては理屈や理論を蒸し返しても無駄という雰囲気である。しかし筆者は、無駄かもしれないが今一度この理屈や理論を示したい。

    過去、本誌は日本の財政状況を本格的に取上げたことが数回ある。ちょっと古くなるが、その一つが10/1/25(第600号)「日本の財政構造」である。ここで国の債務を問題にするなら単純な債務残高の合計ではなく、純債務残高を用いるべきと筆者は主張した。たしかに日本の債務残高は世界的に見ると大きいが(日本の債務残高の名目GDP比率は188%)、一方で政府の持っている金融資産(主に外貨準備)と公的年金の積立金が突出して大きい。したがってこれらを差引いた純債務残高はかなり小さくなる。日本の債務残高の名目GDP比率は、188%ではなく104.6%(当時の日経新聞に掲載された数字)である。

    さらに筆者は、日本の中央銀行である日銀が保有する国債残高をここから差引くべきと考える。これは日銀が保有する国債が実質的に国の借金にならないからである。したがって「実質的な純債務残高の名目GDP比率は90.6%(104.6%−14.0%)となり欧米諸国と遜色ないものになる」とここで述べた。


    そして4年半が経ち、状況が変化している。大きく変ったのが日銀の国債保有額と外貨準備高である。日銀の国債保有額(公債と表現した方が良いかもしれない)は14年3月末で201兆円と132兆円も増えている(直近ではさらに増えている)。また外貨準備高は14年3月末で、12,793億ドルと2,299億ドルも増えている。さらに直近で大きく為替レートが変動したので、今日のレート(115円)で換算した方が適切と考える。これで計算すると、外貨準備高は当時より52兆円多い147兆円となる。これら両者の変動(184兆円=132兆円+52兆円、これを当時の名目GDP493兆円で割返すと37.3%)を加味し、実質的な純債務残高の名目GDP比率を再計算すると、53.3%(90.6%ー37.3%)となる。この数字は先進国の中でも優秀な方に入る。

    たしかにこの計算は、筆者にとって都合の良いものだけを修正した形になっている。したがって筆者の算出した数字をある程度再修正する必要がある。まず純債務残高が増えているはずである。また公的年金の積立金も残高が少し減っていると見られる。さらに名目GDPが伸びていないことも問題となろう(むしろ名目GDPは多少減っている)。したがっておそらく実質的な純債務残高の名目GDP比率は65%前後に悪化するものと考えられる。しかしこの数字でも、本当に他の先進国並ということになる。


    13/9/16(第769号)「利払い額のGDP比率の推移」では、見かけの政府債務の金額の割には実際の利払い額が小さいことを取上げた(日本の金利が突出して低いので当たり前と言えば当たり前)。しかもここ20年くらい国の借金が増えるにつれ利払い額が逆に減少していると述べた(金利の低下が続いたから)。また13/9/9(第768号)「利払い額で見る財政の健全性」で、他の先進国に比べても日本の利払い額のGDP比率が極めて小さいことを説明した(ドイツに次いで第二位)。

    一年が経ち、これらの数字の変動を財務省のホームページで確認した。相変わらず予想の数値は跳ね上がったように悪く表示し、実績値は必ず予想値より良くなっている。12年度の利払い額は予想数値の8.4兆円から8.0兆円の実績値に置き換わっている。これは11年度の8.1兆円よりさらに減っていることを意味する。

    また財務省の利払い額は、単純に公債への利払い額を示しているに過ぎない。一方の金融資産の受取り利息や収益は、雑収入に計上されていたり、特別会計で処理されていて実態が見えない。さらに実質的に借金にならない日銀保有の公債への利払い額も差引くべきであろう。おそらく筆者の推測では、これらを加味し実質的な日本の利払い額GDP比率を算出すれば、ドイツを追い抜き日本の利払い額GDP比率は先進国の中で一番小さくなる。


    このように日本の財政破綻説がいかにばかばかしいものか分る。それどころか日銀の国債買入れが現在のペースで続くと7〜10年で日本の実質的純債務はゼロになる。つまり日本の財政は晴れて実質で無借金となる。

    ところで今週号で筆者が行った作業なんかは、本来、日本の財政学者や経済学者が行うべきである。しかし御用学者に堕落した日本のぺらぺら財政学者やぺらぺら経済学者は、このような数字に触れようともしない。ただひたすら消費税の増税が必要と主張しするためのインチキ数字を示すことが、自分達の役目と思っているのである。



来週は、消費税増税は必須と叫んでいるぺらぺら族の研究を行う。



14/11/3(第819号)「財務省とマスコミの関係」」
14/10/27(第818号)「増税派の素顔」」
14/10/20(第817号)「消費税増税と八代亜紀」」
14/10/13(第816号)「増税なんて必要ない」」
14/10/6(第815号)「日経新聞のねつ造解説」」
14/9/29(第814号)「メディアはねつ造だらけ」」
14/9/22(第813号)「人手不足は本当か」」
14/9/15(第812号)「経済学とニヒリズム」」
14/9/8(第811号)「サミュエルソンは新古典派?」」
14/9/1(第810号)「ハシゴを外されそうな日本」」
14/8/25(第809号)「ハシゴを外された話」」
14/8/4(第808号)「トマ・ピケティの「21世紀の資本論」」
14/7/28(第807号)「三教授のサマーズ論の解説」
14/7/21(第806号)「一家に一台が需要の天井」
14/7/14(第805号)「ポンコツ経済理論の信奉者達」
14/7/7(第804号)「経済成長の三つのパターン」
14/6/30(第803号)「サマーズとトマ・ピケティ」
14/6/23(第802号)「奇妙な話ばかり」
14/6/16(第801号)「石油は人々をおかしくさせる」
14/6/9(第800号)「ベトナム沖の一大事」
14/6/2(第799号)「金利低下の背景」
14/5/26(第798号)「政策目標の変更」
14/5/19(第797号)「「美味しんぼ」騒動」
14/5/12(第796号)「使えない経済指標」
14/4/28(第795号)「推理小説のような中国経済の実態」
14/4/21(第794号)「中国1〜3月期のGDP成長率」
14/4/14(第793号)「日本のマスコミの問題体質」
14/4/7(第792号)「ウクライナとロシアの関係」
14/3/31(第791号)「怪しくなったアベノミクスの行方」
14/3/24(第790号)「中国のバブル生成の過程」
14/3/17(第789号)「バブル経済崩壊の序章」
14/3/10(第788号)「中国経済にまつわる奇妙な話」
14/3/3(第787号)「中国経済に変調(その2)」
14/2/24(第786号)「中国経済に変調」
14/2/17(第785号)「経済戦略会議から15年」
14/2/10(第784号)「理論と現実の狭間・・金利編」
14/2/3(第783号)「経済理論と現実の狭間」
14/1/27(第782号)「なつかしい経済理論の復活」
14/1/20(第781号)「窮地に立つリフレ派」
14/1/13(第780号)「新春のトピックス」
13/12/23(第779号)「周辺国の異常行動」
13/12/16(第778号)「ピカピカのバランスシート」
13/12/9(第777号)「中谷巌氏の変心」
13/12/2(第776号)「何処に行った経済成長戦略」
13/11/25(第775号)「アベノミクスの行方」
13/11/18(第774号)「ここ一ヶ月の出来事」
13/10/14(第773号)「虚言・妄言の判断基準」
13/10/7(第772号)「消費税増税、次の焦点」
13/9/30(第771号)「消費税にまつわる諸問題」
13/9/23(第770号)「「声なき声」が届くか」
13/9/16(第769号)「利払い額のGDP比率の推移」
13/9/9(第768号)「利払い額で見る財政の健全性」
13/9/2(第767号)「消費税増税は雲行きが怪しくなった?」
13/8/26(第766号)「財政が危機という怪しい話」
13/8/10(第765号)「消費税増税は絶対に避ける道」
13/8/5(第764号)「消費税増税を促す包囲網」
13/7/26(第763号)「参議院選の結果を考える」
13/7/15(第762号)「アベノミクスの評価他2件」
13/7/8(第761号)「デフレに興味のない大新聞」
13/7/1(第760号)「日経新聞の論説の特徴」
13/6/24(第759号)「アベノミクスを牽制する人々」
13/6/17(第758号)「長期金利上昇で騒いでいる人々」
13/6/10(第757号)「雲行きが怪しいデフレ脱却」
13/6/3(第756号)「財政再建論者のサークル」
13/5/27(第755号)「財政の2010年問題」
13/4/29(第754号)「国民一律の年金」
13/4/22(第753号)「日銀のリスク資産購入」
13/4/15(第752号)「異次元の金融政策」
13/4/8(第751号)「久しぶりの「朝まで生テレビ」」
13/4/1(第750号)「不穏な中国と日本の安全保障」
13/3/25(第749号)「TPPの基本は友好」
13/3/18(第748号)「日本の雪崩的輸出の歴史」
13/3/11(第747号)「TPP交渉と日本警戒論」
13/3/4(第746号)「TPPの実態」
13/2/25(第745号)「有り得る軍事的衝突」
13/2/18(第744号)「群盲象をなでる」
13/2/11(第743号)「まず印紙税の廃止」
13/2/4(第742号)「「構造改革」と「規制緩和」の本当の姿」
13/1/28(第741号)「意志を持った「やじろべい」」
13/1/21(第740号)「金融政策に対する提言」
13/1/14(第739号)「年頭にあたり」


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