平成9年2月10日より
経済コラムマガジン


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98/9/21(第82号)


為替レートのトレンドを考える
  • 為替の決定要因
    日々の為替レートの動きを予想することは難しい。マスコミに登場するエコノミスト達がよく為替の動きを予想して色々コメントしているが、何を根拠に言っているのか解らないケースが多い。ここ一年の間では、今後もさらに円安傾向が続くと言う論調がほとんどであった。しかし最近の為替の動きはそれが怪しいことを示している。端的に言えば、為替水準は為替の需給で決定する。
    以前のように為替の需給の大半が貿易収支で決まる時代は、単純に貿易黒字の国の通貨が高くなり、反対に貿易収支が赤字の国の通貨は安くなった。しかし、今日では為替取引の内訳も変わり、資本取引の比率が大きくなっている。さらに為替取引で利差やを稼ごうとする投機的資金の動きも加わり、日々の為替の動きは極めて複雑である。つまり貿易収支以外の要素の動きのウエートが大きくなっており、為替の予想が難しくなっているのである。しかし為替の投機資金は、為替の動きにそのもので利益を得ようとするものであり、損益を確定するには、反対の売買が行なわれるので、一定の期間を通して通算すれば、その影響はプラスマイナスがほぼゼロになるはずである。
    資本取引はこれよりもっと長期的な観点での資金の流れとなる。日本は資金余剰国であり、ほぼ一貫して資本は流入より流出が大きい状態が続いている。これだけを見れば、資本取引は「円安」の要素となっている。一方、貿易は一貫して輸出が輸入を大幅に上回っており、この貿易収支の黒字は「円高」の大きな要素となる。つまり為替水準の動向を決定するものは、この貿易収支の黒字幅と資本取引の収支の赤字幅の大きさ比較で決まると言える。ここ2年くらいの「円安」傾向は資本収支の赤字額の絶対値が貿易収支の黒字額を上回っていたからである。この原因の一つは証券会社や銀行の営業努力であり、彼等が顧客に外債購入や外貨預金を勧めてきたからと考える。またマスコミの論調もこれを後押ししていた。「金利がほとんどゼロに近い国内で資金を運用するより国際投資をすべきである」とか「水が高い所から低いところに流れるように、資金も金利が低い国から高い国に流れる」と言った論理的に間違った理屈がまかり通っていたのである。彼等の主張するような資金の運用が有利になるのは、為替水準が一定であるか、あるいは資金の流出先の国の通貨が永久に高くなり続けると言う条件が必要なのである。しかし、これが続けば、資金の流出先の貿易収支の赤字幅はどんどん大きくなるはずであり、どこかで歯止めが掛かるはずなのである。これは何回か本誌で述べてきたことであるが、論理的に「金利差」は、長期的にどちらの国で運用しても同じ収益が得られる水準に落ち着くのである。表面的な金利差で資金を移動させることは間違いなのである。実際、金利の高いASEAN諸国やロシアで運用していた資金は、大きい金利を得ていたが、為替差損やキャピタルロスも大きく、運用成績は差し引きでチャラか、もしくは大幅なマイナスになっているはずである。米国も例外ではない。世間では米国での運用は別と考える傾向があるが、筆者はこれも間違いと考える。世界的には、米ドルとリンクしている通貨が多いことから、米ドルは安定していると思われるかもしれないが、対日本の関係は違うのである。むしろ日米の金利差くらい米国ドル建ての資金運用はリスクが大きいと考えるべきである。
    為替水準を決める要素として、これらの他に海外旅行の収支と資金運用に伴う利息などの収支がある。日本は海外旅行の収支は赤字であるが、その額は偶然ほぼ資金運用の収支の黒字額に一致している。つまりこの二つの要素の影響はほぼ打ち消し合っているのである。ただし、現在の景気動向を考えると今後は旅行収支の赤字額は大きくならないのに対して、資金の流出は額的に小さくなるとしても継続的に続くと予想されることから、資金運用の収支の黒字額はそれだけ大きくなり続けると考えられる。今後はこの要素が根強い「円高」の要因のなりうるが、当面はそれほど大きい要素ではないと思われる。
    このように今後の「円」の動きを予想するには貿易収支の動向と資本取引の動向を見極めることである。筆者は、ここ2年くらいの日本からの資本の流出額は異常と考えており、今後はこの異常な流出額も小さくなると考えている。日本全体に米国経済やアジア経済に実際以上の幻想を持つような風潮があったのではないかと思われるのである。日本人も目が覚めてくれば、資金の流出額も以前の水準に戻ると考えるのである。ただ今後注目される事柄の一つは来年のヨーロッパの通貨統合である。しかし筆者は、ユーロ取得のための資金の流れはあるとしても、それは一時的なものと考えている。これについては別の機会に述べることにしたい。
    こう考えてくると、資本流出が落ち着けば、やはり日本の「円」の動向は貿易収支の動きに一番影響を受けると言う結論になる。その貿易収支は記録的な黒字を続けている。つまり為替はいつ「円高」になってもおかしくないのである。そしてこれまで「円高」を阻止していた資本の流出額が以前の水準に戻れば、いつでも「円高」になるはずであると考えるのである。

  • 為替の均衡値
    仮に今後、為替が動くとしたらどの水準に向かうかが問題となる。いわゆる為替の適正値、つまり均衡点である。為替の適正値について色々な考えがある。「購買力平価」も一つの考えであり、これはその通貨の「使いで」に着目した考え方である。「円」の「使いで」は一般には150円から160円くらいと言われているが、算出方法によって結果は異なってくるはずである。国によって習慣や生活のスタイルが異なっており、消費項目のサンプルの取り方や消費数量の設定によって結果に違いが生じるのである。筆者は絶対的な「購買力平価」の算出式はないと考えている。
    たとえばアメリカ人が日本に住むとして、自国での生活スタイルを変えないとしたなら、日本での生活はとても経費のかかるものになり、「円」の「使いで」はとても小さいと考えられる。アメリカ人にとってある程度の広さの住居に住むのは当り前であるが、それが日本ではとても金がかかるのである。日本人は住居の狭さをあまり気にしないかもしれないが、住居の広さはアメリカ人にとって大きな問題なのである。また「購買力平価」の算出にのための消費項目に「牛肉」があるかもしれないが、習慣としてあまり「牛肉」を食べない国にとっては「牛肉」の価格などどうでも良いのである。さらに同じ「牛肉」であっても「質」に違いがある場合には単純に価格の比較はできないのである。このように「購買力平価」の計算式を一律に設定すること自体が無理と考えられる。ただ国同士が接しており、人の往来が比較的自由な国の間の為替レートはこの「購買力平価」に近い水準に落ち着くことは十分考えられるのである。
    日本にとって為替レートと言えば、米ドルレートと言って良いであろう。歴史的に見て、「円」が変動相場に移行後、ほぼ一貫して実際の為替レートは「購買力平価」より「円高」で推移している。日米間でもっと人の行き来や消費物資の輸出入が増えれば、為替レートはもっと「購買力平価」に近ずくと思われる。もっと正確に言えば、長期的には「購買力平価」の方が為替レートに近づくのである。しかし日米間にあっては、今後も実際の為替は「購買力平価」にあまり影響を受けない形で変動するものと考えられる。
    前段で説明したように、日本からの資本流出さえ落ち着けば、為替は貿易収支を意識した動きとなる。つまり為替の均衡値は貿易収支をゼロにする、もっと正確には言えば、どうしてもある程度の資本の流出は続くと考えられるので、この資本の流出額に見合う貿易収支の黒字幅まで減少させる為替レートの水準が「均衡値」と言うことになる。しかしこの水準を算出することは「購買力平価」の算出と同様難しい。
    そこで筆者は、この「均衡値」を近似的に輸出が急激に減少する為替レートと捉えても良いのではないかと考えている。また、最近の日本経済の構造も変化しており、この為替レートあたりから輸入も急激に増えるのである。つまり内外に生産拠点を持つ企業が為替レートによりどこで生産し、どこでその製品を売るのが有利かと判断する分岐点である。つまり日本の主要な輸出企業の採算分岐点が問題になると考える。
    4年前の「円高」時には為替レートは80円を超える水準になったが、当時の主要輸出企業の採算点は115円くらいと言われていた。現在の為替の「均衡値」を推定するには、それ以降の日米間の企業の競争力の推移を考えることになる。ここに世間の誤解がある。米国の方が生産性の向上が大きく、これが近年の「円安」の原因であると言われてきたのである。しかし、現実は逆で、8/18(第29号)「米国経済の生産性の向上を考える」で述べたように、ここ数年においては、米国経済よりも日本経済の方が生産性の向上は大きいのである。特に輸出企業は「円高不況」以来の合理化の手を緩めていない。さらに「円高」が進めば、輸入物価も下がり、生産コストもそれだけ下がり、均衡値もより「円高」の水準になる。これらを総合すれば、筆者は、一応の均衡値を105円から110円になると考えている。
    だだしこの値にはアジア諸国の為替変動の影響を加味していない。日本とアジア地域との交易は増えており、さらにこれらの国々の為替が米ドルとのリンクを止め、かなり下落しており、4年前と状況が大きく変わっているのである。当然貿易収支を考えるなら、このアジア経済の変化も考慮すべきである。この結果、筆者の考える現在の「為替の均衡値」は、115円から120円に修正すべきと考えている。さらにもう一つ加えると「原油価格」の動向である。しかし、今日では省エネの進展、原油価格自体の低下、円レート上昇などにより、「原油価格」の変動が日本経済や為替レートに及ぼす影響が以前に比べ小さくなっているので、現状では為替の動向を考える場合、「原油価格」についてはそれほど考慮することはないと思われる。
    山崎前政調会長が「130円が円の適正レート」と発言しているが、これは日本にとって都合の良い水準である。筆者の考えではもっと「円高」が進んでも不思議はないことになる。もちろん120円を超えるような為替水準となれば、日本の経済にも打撃となろう。さらに現在目標を失っているヘッジファンドなどの投機マネーが日本に向かって来れば、とんでもない「円高」も現出する可能性もある。そうなれば「円高不況」の悪夢の再来である。今、「円安」の弊害が言われているが、現状の日本経済にとっては「行き過ぎの円高」の方が衝撃は大きいのである。

金融再生関連法案も一応の結論が出そうである。話の成り行きは、表面的にはほぼ野党案を丸のみにしたものに見えるが、実際はどうも違うようである。これでより透明性が確保されたと言う論評が多い。しかし、この法律の「銀行の破綻処理」の部分が本当に機能するかは別問題である。また「長銀問題」にはまだ最終的な結論は出ていないようである。とにかく一週間くらいは様子を見る必要があるようである。




98/9/14(第81号)「バブルの清算と公金投入を考える」
98/9/7(第80号)「公金投入の整合性を考える」
98/8/31(第79号)「政治と経済の混乱を考える」
98/8/10(第78号)「今回の不況の原因を考える」
98/8/3(第77号)「新政権の人事を考える」
98/7/27(第76号)「小淵新自民党総裁誕生を考える」
98/7/20(第75号)「橋本総理退陣を考える」
98/7/13(第74号)「マスコミの驕りを考えるーーその2」
98/7/6(第73号)「マスコミの驕りを考えるーーその1」
98/6/29(第72号)「参院選と経済を考える」
98/6/22(第71号)「為替介入の背景を考える」
98/6/15(第70号)「橋本総理と円安を考える」
98/6/8(第69号)「日本の金融を考える」
98/6/1(第68号)「経済への関心を考える」
98/5/25(第67号)「世論と経済政策を考えるーーその2」
98/5/18(第66号)「世論と経済政策を考えるーーその1」
98/5/11(第65号)「アンケートと経済政策を考える」
98/5/4(第64号)「今回の景気対策を考える」
98/4/27(第63号)「消費の限界を考えるーーその2」
98/4/20(第62号)「消費の限界を考えるーーその1」
98/4/13(第61号)「恒久減税を考える」
98/4/6(第60号)「今回の自民党の景気対策を考える」
98/3/30(第59号)「米国の対日経済要求を考える」
98/3/23(第58号)「新日銀総裁の就任を考える」
98/3/16(第57号)「今回の不況の深刻さを考える」
98/3/9(第56号)「日米の景気対策を考える」
98/3/2(第55号)「日経新聞と経済を考えるーーその2」
98/2/23(第54号)「日経新聞と経済を考えるーーその1」
98/2/16(第53号)「貸し渋りと景気を考える」
98/2/9(第52号)「政治と経済を考える」
98/2/2(第51号)「官僚と経済を考える」
98/1/26(第50号)「「小さな政府」を考えるーーその3」
98/1/19(第49号)「「小さな政府」を考えるーーその2」
98/1/12(第48号)「「小さな政府」を考えるーーその1」
97/12/22(第47号)「需要不足の日本経済を考える」
97/12/15(第46号)「景気の現状と対策を考えるーーその8」
97/12/8(第45号)「景気の現状と対策を考えるーーその7」
97/12/1(第44号)「京都会議と経済を考える」
97/11/24(第43号)「景気の現状と対策を考えるーーその6」
97/11/17(第42号)「景気の現状と対策を考えるーーその5」
97/11/10(第41号)「景気の現状と対策を考えるーーその4」
97/11/3(第40号)「景気の現状と対策を考えるーーその3」
97/10/27(第39号)「景気の現状と対策を考えるーーその2」
97/10/20(第38号)「景気の現状と対策を考えるーーその1」
97/10/13(第37号)「市場の心理を考える」
97/10/6(第36号)「公共事業とマスコミを考える」
97/9/29(第35号)「リクルート事件と経済を考える」
97/9/22(第34号)「ロッキード事件と経済を考える」
97/9/15(第33号)「住宅と貯蓄を考える(その2)」
97/9/8(第32号)「住宅と貯蓄を考える(その1)」
97/9/1(第31号)「労働組合と経済を考える」
97/8/25(第30号)「競争時代の賃金を考える」
97/8/18(第29号)「米国経済の生産性の向上を考える」
97/8/11(第28号)「米国の景気を考える(その2)」
97/8/4(第27号)「米国の景気を考える(その1)」
97/7/28(第26号)「内需拡大と整備新幹線を考える(その2)」
97/7/21(第25号)「内需拡大と整備新幹線を考える(その1)」
97/7/14(第24号)「香港返還と中国経済を考える(その2)」
97/7/7(第23号)「香港返還と中国経済を考える(その1)」
97/6/30(第22号)「日本の米国債保有を考える」
97/6/23(第21号)「投機と市場を考える」
97/6/16(第20号)「規制緩和と日米関係を考える」
97/6/9(第19号)「ビックバンと為替を考える」
97/6/2(第18号)「内需拡大と公共工事を考える(その2)」
97/5/26(第17号)「内需拡大と公共工事を考える(その1)」
97/5/19(第16号)「金利と為替を考える」
97/5/12(第15号)「規制緩和と景気を考える」
97/5/5(第14号)「為替の変動を考える」
97/4/28(第13号)「日本の物価と金利を考える(その2)」
97/4/21(第12号)「日本の物価と金利を考える(その1)」
97/4/14(第11号)「日本の土地価格を考える」
97/4/7(第10号)「当マガジン経済予測のレビュー」
97/3/31(第9号)「日本の株式を考える」
97/3/24(第8号)「たまごっちと携帯電話を考える」
97/3/17(第7号)「政府の景気対策を考える」
97/3/10(第6号)「オリンピックと景気を考える」
97/3/3(第5号)「為替レートの動向を考える(その2)」
97/2/24(第4号)「為替レートの動向を考える(その1)」
97/2/17(第3号)「日本の金利水準と為替レートを考える」
97/2/10(第2号)「国と地方の長期債務残高を考える」
97/2/1(第1号)「株価下落の原因を考える」「今後の景気動向を考える」

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