経済コラムマガジン 平成9年2月10日より
経済コラムマガジン




14/9/15(812号)
経済学とニヒリズム

  • どこへ行ったV字回復

    先週号で米国における経済学界と政治の関係について述べた。大切なことは現実の経済政策に携わっている経済学者やエコノミストは全てケインジアンということである(案外、このことが日本で知られていない)。対してニュークラシカル派と称される新古典派の学者の活動の場は、ほぼ学問の世界に限られている(いわゆる象牙の塔)。

    たしかにこのニュークラシカル系の学者が政治にある程度の影響を与えていた時代があった(例えばレーガンが大統領の頃)。しかし今日、彼等の影響を受けているのは、共和党の一部の政治家だけである。典型例はティーパーティ(茶会派)である。しかもこのティーパーティの勢いは衰えている。逆に共和党政権においても、影響力を発揮していた経済学者群はケインジアンである。例えばケインジアンのバーナンキが、共和党のブッシュ政権下でFRB議長に就いたことを見れば筆者の言っていることが理解できるであろう。


    ところが日本の現状は異常で悲惨である。本来「象牙の塔」に隠って学究生活を送るべきニュークラシカル系の経済学者が、現実の経済政策にしゃしゃり出て経済政策を混乱させてきた。特にこの傾向が目立つようになったのは、橋本政権の頃からである(ただこの萌芽はもっと前からあった)。逆に経済政策に関わるべきケインジアンの経済学者やエコノミストが政治決定の場から段々と遠ざけられてきた。

    経済学界がこれだから、ニュークラシカル派から学校で経済学を学んだエコノミスト、政治家、官僚、マスコミ人もほとんどが彼等の影響を強く受けている。この結果日本に新自由主義派や構造改革派が溢れることになった。そして20年間も日本経済が停滞を余儀無くされてきたこともこのことと無関係ではない。せっかくアベノミクス登場でこの克服が期待されたが、彼等は消費税増税でこれをぶち壊してくれた。


    以前、筆者は経済産業省の官僚とメールのやりとりを行い、また直接会って話をしたことがある。この官僚は、彼の周りは構造改革派ばかりと嘆いていた。おそらく他の官庁もこれに似たものであろう。

    政界も同様に構造改革派ばかりである。しかもこれは与野党を問わない。閣僚の発言を聞いても、現実離れした改革話ばかりである。まさにアベノミクスの前途は真っ暗である。


    経済予測も、現実の経済に口を出してはいけないニュークラシカル派であり構造改革派の経済学者やエコノミストが行う関係でいつも大きく外れる。ほんの数カ月前14/4/14(第793号)「日本のマスコミの問題体質」で、「ほとんどの経済学者とエコノミストは、消費税増税の悪影響は軽微であると言い張っている。また彼等は、年後半には増税の影響がなくなり日本経済はV字回復するとまで言っている」と筆者は述べた。しかしこの間抜けで役立たずの人々の予想は大きく外れそうである。彼等は慌てて7〜9月以降の成長率予測を大幅に下方修正している。筆者は4〜6月で在庫投資が増えていることをなどを考慮すると、7〜9月も厳しいと見ている(在庫投資増は4〜6月でプラスに働くが7〜9月にとってマイナス)。

    これに対して筆者は13/11/25(第775号)「アベノミクスの行方」で、はっきりしているのは「財政の13兆円と住宅投資の2〜3兆円のいずれもマイナスの項目」と指摘した。前年度の予算の使い残しの消化や大企業の給料アップである程度カバーしても、需要不足は残ると筆者は予想した。したがって今年度の経済成長率は、ゼロないしマイナスと予想した。


    筆者は、当然、4月頃には安倍政権内で補正予算の話が出てくると思っていた。しかしこのような話は一切出てこなかった。これもこのいい加減なエコノミスト達の「V字回復」という言葉に翻弄された面がある。

    唐突にも麻生財務大臣が、消費税の10%への増税のショックを和らげるため年末に補正予算を編成するという話を出してきた。例のように4兆円くらい予算が余るからである。この財源はいつもの通り、税収見積もりを過小に行い、また国債利回りを高く見積もってきたことから生まれる。このような小手先のことをずっと続けていてもしょうがない。筆者は、本予算でしっかりとした総合的な経済政策(例えば年金改革など)を打出すべきと主張したい。


  • ニュークラシカル派はサディストの集まり

    奇妙なニュークラシカル派の経済学が米国で生まれ、今日、これを日本人が有難く受入れている。しかしこの現実離れした経済理論は、社会科学の一つというより宗教的色彩が強い。この経済理論を唱えることが、自分達の考える理想郷を実現するための構造改革運動の一環と見られる。

    彼等のほとんどは「自分は優れている」と思い込み、また「劣っている人々や働きの悪い人々に足を引っ張られている」と感じている。したがって競争を促進してこのような人々や企業を排除することが必要と思っている。彼等の攻撃は極めてサディステックになる。ただ反撃が予想される力のある者(例えば宗教団体など)には向かわない。しばしば攻撃対象となるのは、赤字企業や地方である。


    ところで英国のスコットランド独立が話題になっている。独立運動の一つのきっかけがサッチャー政権のスコットランドに対する政策であった。炭鉱を潰すだけでなく、スコットランドに人頭税の先行導入まで行ったという(この話は筆者も知らなかった)。まさにサディステックな対応である。サッチャー首相は、スコットランドが英国経済の足を引っ張っていると考えたのであろう。

    ニュークラシカル系の論者は、サッチャー首相のお陰で英国経済は蘇ったとを言う。しかし筆者は、英国経済が蘇ったかの判断は難しいと思う。ただ英ポンドが対円で三分の一になったということは事実である(筆者の感覚ではポンドは500円であったが現在174円・・1992年にソロスが大暴落させた)。為替がここまで安くなれば、先進国なら多少なりとも経済は立ち直るであろう(実際、英国はポンド暴落後景気が良くなった)。

    ちなみにスコットランドだけでなく、欧州ではスペインのカタルーニアやバスクでも独立運動が活発になりそうである。筆者はこれもEU統合が影響していると考える。これらの地域がその国に止まっているのも安全保障の問題があると思っている。独立してEUに加盟すれば安全保障が確保できると考えれば、独立に拍車が掛かるものと筆者は思っている。


    日本のニュークラシカル派もサディスティックである。彼等は「赤字のゾンビ企業は潰せ」と主張する。しかしゾンビ企業も従業員に給料を払っているのである。また地方でのゾンビ企業問題は深刻である。都会と違い、地方でこのゾンビ企業を潰せば他に就業先がない(都会なら条件を下げれば何とか就職先が見つかる可能性はある)。また自殺率が高い地方の県は、自殺と失業との因果関係が強いと言われている。

    またサディステックな政治家はまた外形標準課税の強化を主張している。彼等の考えの根底には「働きが悪く劣っている者(企業)」を排除すれば、日本の生産性は高くなり経済が成長するという間抜けな信仰がある(本当のデフレギャップが極めて大きいのに・・だから設備投資は簡単には盛上がらない)。


    代表的なニュークラシカル派の経済学者は、日本の全ての労働者を派遣会社に登録しろと主張している。これによって労働者に支払われる賃金はその人物の働き、つまり生産性で決まると言う。つまり賃金が労働の限界生産力で決まるという経済理論そのものである。

    またこの学者はこれによって失業はなくなると言っている。失業がなくなるかどうか分らないが、冗談のようなサディスティックな政策ではある。しかし現政権の経済成長戦略には、たしかにこの考えに影響を受けたような政策が並んでいる。筆者は、別にサラリーマンの年俸制などに反対していないし、民間企業の労組もおかしいと思っている。しかし全労働者を派遣会社に登録とは驚く。


    昔、筆者は、どうしてこのような奇妙な変態経済学が米国で生まれたのか、丹羽春喜大阪学院大学名誉教授に伺ったことがある。教授はベトナム戦争の後遺症によって、当時、米国にはニヒリズムが広がっていたからと説明してくれた。筆者は「なるほど」と思った。

    ニュークラシカル派の経済学者やエコノミストは、現実の経済政策に口を出すべきではないと筆者は改めて言いたい。しかし日本の政策現場からニュークラシカル派が出て行っても、代わる者がいないのである。このような状況を勘案すると、当分の間、日本は経済の不調が続くと覚悟すべきと筆者は思っている。



来週は日本の人手不足という話の真偽を取上げる。



14/9/8(第811号)「サミュエルソンは新古典派?」」
14/9/1(第810号)「ハシゴを外されそうな日本」」
14/8/25(第809号)「ハシゴを外された話」」
14/8/4(第808号)「トマ・ピケティの「21世紀の資本論」」
14/7/28(第807号)「三教授のサマーズ論の解説」
14/7/21(第806号)「一家に一台が需要の天井」
14/7/14(第805号)「ポンコツ経済理論の信奉者達」
14/7/7(第804号)「経済成長の三つのパターン」
14/6/30(第803号)「サマーズとトマ・ピケティ」
14/6/23(第802号)「奇妙な話ばかり」
14/6/16(第801号)「石油は人々をおかしくさせる」
14/6/9(第800号)「ベトナム沖の一大事」
14/6/2(第799号)「金利低下の背景」
14/5/26(第798号)「政策目標の変更」
14/5/19(第797号)「「美味しんぼ」騒動」
14/5/12(第796号)「使えない経済指標」
14/4/28(第795号)「推理小説のような中国経済の実態」
14/4/21(第794号)「中国1〜3月期のGDP成長率」
14/4/14(第793号)「日本のマスコミの問題体質」
14/4/7(第792号)「ウクライナとロシアの関係」
14/3/31(第791号)「怪しくなったアベノミクスの行方」
14/3/24(第790号)「中国のバブル生成の過程」
14/3/17(第789号)「バブル経済崩壊の序章」
14/3/10(第788号)「中国経済にまつわる奇妙な話」
14/3/3(第787号)「中国経済に変調(その2)」
14/2/24(第786号)「中国経済に変調」
14/2/17(第785号)「経済戦略会議から15年」
14/2/10(第784号)「理論と現実の狭間・・金利編」
14/2/3(第783号)「経済理論と現実の狭間」
14/1/27(第782号)「なつかしい経済理論の復活」
14/1/20(第781号)「窮地に立つリフレ派」
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