平成9年2月10日より
経済コラムマガジン


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98/9/14(第81号)


バブルの清算と公金投入を考える
  • 続「公金投入の整合性」
    今週号は、引き続き長銀の公金投入の整合性について述べたい。さらに、ここに来て為替も大きく変動しているので、為替動向についても一言述べることにしたい。
    さて日本の登記上の措置で「錯誤」と言う手続きが採られることがある。これは登記に係わり、関係者が勘違いをしていたり、あるいは事務的なミスがあった場合、後日その登記の内容を修正することである。今日の金融機関が抱える不良債権問題は、バブル期に高騰した土地などの資産の価格が大幅に下落したことが原因である。もし経済取引にも登記と同様に「錯誤」と言う手続きが許されるなら、今日のような金融機関の問題は発生していない。この場合には「バブル期に購入した土地は高く買い過ぎたのは勘違いだったから、もっと安く買ったことにしたい」と言う主張を認めることになる。そしてそれができるなら、不動産業者のように銀行から多額の借入を行なって土地を購入していた者への貸し付けも、桁違いに小さくなるのである。一方、土地を売った方も土地の売却代金はそれだけ小さくなったはずである。ところでバブル期に銀行の預金額も飛躍的に増加した。この大きい部分は土地の売却代金である。特に大都市近郊の農林系の金融機関には預金額が急速に増え、これらの金融機関は運用先に困ったほどであった。
    今日「預金者保護」と言うことが声高に叫ばれている。現在、銀行預金には、この勘違いのように高騰した土地の売却代金が相当含まれているはずである。本来物事の筋を通し、バブルの清算を全ての方面で行なうとしたなら、銀行が破綻する一方で、この土地の売却代金が一定割合を占める預金も減額されてしかるべきである。つまり銀行が潰れれば、預金も全額までは保証されないなら全体に辻つまがあうのである。しかし、世間では預金の方は全額保護されることが常識となっている。少なくとも金融ビックバンが始まるまでは預金は全額保護されるのが当然と考えられている。預金の保護のための公金投入に反対する者はいないのである。しかし、経済を市場にゆだねるなら、預金だけを保護するのはおかしいと言う論理も成り立つのである。原則に戻れば、預金は預金契約でなされているのであり、預金者もリスクを前提に利息などの経済メリットを受けることになっているはずである。市場経済至上主義を唱える野党は銀行への公金投入に反対しているが、預金の保護については無条件で賛成と言うのは全体で考えると、矛盾しているのである。市場経済至上主義を主張するなら預金もある程度の損害を被ることもしかたがないとするのが一貫性のある考えである。
    たしかに過去の経済取引に「錯誤」と言う概念を持ち込むことは「夢物語」であり、非現実的である。預金には色がついておらず、どの部分を減額の対象にするも技術的に困難である。またバブル期の土地売却による預金だけを無理に減額するなどの措置を行なおうとすれば、当然預金者はあわてて預金を引き出そうとし、金融界は大混乱に陥ることになる。そして筆者も現実を考えると預金の保護には賛成である。ただバブルの清算と言うことを一段高い地点から眺めるとバブル期の経済で、誰が得をし、誰が損をしたかを考えることも必要と考えるのである。地価はバブル期に上昇し、現在は元に戻ったのである。土地取引をしなかった者にとってバブルはほぼ無縁のことであった。そして預金が全額保護されるとしたなら、得をしたのはバブル期に土地などの資産を売却した者であり、損をしたのはその土地などを購入した者とそれらに資金を貸し付けた銀行である。
    ここで見落とされているのが、バブル期に最大の利益を受けたはずの「政府」の存在である。バブル期には当然、所得税や法人税は大幅に伸びた。その他にも株式の取引が活発で、有価証券取引税も大きくなった。しかし、なんと言っても土地取引に伴う譲渡所得課税が莫大であったはずである。また、空前の株価でのNTT株の放出と言うおまけもあったのである。日本において、バブルによる最大の受益主体は日本国政府と言えるのである。これらのおかげで、政府は、バブル期に念願の赤字国債発行ゼロを実現したほどである。
    もちろんバブルが崩壊したからと言って、法的に政府がバブル経済で得た利益を返すきまりはない。しかし、今日「長銀への公的資金投入」を「我々の税金で救済するのか」と声高に非難するマスコミもバブル期に政府が莫大な収入を得ていた事実を指摘することは全くないのである。「長銀への公的資金投入」が最終的に政府に損害を与えるかどうか、議論が分かれるところである。しかし、かりに損を被っても、バブル期に得た政府の利益に比べれば、極めて小さいものであるはずである。バブル期の土地の売却代金からなる預金を減額することは不可能であるが、筆者は、政府が得た莫大な利益を考えると、政府が何らか負担を負う可能性があっても、今日危機状態の金融システムを守ることに整合性を認めるのである。
    長銀への公的資金の投入を事実上認めたと思われた野党が、一転態度を変え、「長銀は清算する」と言う主張に戻ってしまった。長銀の清算による影響は小さいと言うことが根拠らしい。これでは9/7(第80号)「公金投入の整合性を考える」で述べたように、百万年議論を行なっても、与野党で妥協点を見つけることは不可能である。こうなっては筆者は、政府与党は腹を決め、当初の方針、つまり長銀への公的資金の投入を進めるしかないと考える。野党の主張に変化がない限り、どれだけ妥協案を作っても時間の無駄である。

  • 為替レートの動き
    円レートもここへ来て「円高」に推移している。筆者は、本誌で何度も主張しているように、日々の為替レートや一ヵ月後のレートを予想することは困難であり、あまり意味のないことと考えている。ただ為替レートのトレンドとか推移と言うものはある程度予測が可能と考えている。筆者は、これまでの「円安」の状態が続いたこと自体がおかしく、いつ「円高」に推移しても当然と主張してきた。これまでの「円安」は証券会社や銀行の営業努力により外債投資や外貨預金が増えたことが大きな要因と考えている。一旦資金の流れが変われば、さらに資金の逆流の動きが加速されるのである。だいたい経常収支が大きく黒字の国の通貨が長らく安い水準にあることが非合理的なのである。たしかに今日投機を目的とする資金は大きいが、これらの資金も利益を求めて動くのである。今後「円高」路線が定着すると見ると円を買う動きは活発化するであろう。「金利差」や「成長率」と言ったものは資金移動のほんの一つの要因に過ぎないのである。市場関係者が話しているとマスコミ伝える為替の変動の要因もコロコロ変わり、一貫性がないのである。
    投機資金にとって一番大事な関心事は今後の資金の流れる方向である。筆者は、6/22(第71号)「為替介入の背景を考える」で述べたように、6月17日の日米政府の為替介入で、為替の方向性ははっきりしたと考えていた。これまで何回も為替動向の変換点があったが、2/24(第4号)「為替レートの動向を考える(その1)」3/3(第5号)「為替レートの動向を考える(その2)」で述べたように、ほぼ同じパターンを経ている。「円安」や「円高」が進むと政府日銀がまず介入するが、しばらく効果がない。しかしそのうちある日をもって為替動向は転換するのである。最近では国際協調介入がこの転換のキーワードになっているようである。
    今回も日米協調介入が転換のきっかけとなっていると考えられる。筆者は、6月17日の日米政府の為替介入以降、円高への転換も秒読み段階と認識していた。ところがマスコミにはそれ以降も、一段の「円安」を予想するエコノミストと称される人々が度々登場するのである。特に外資系の金融機関のエコノミストとかストラテジストの多くがそうであった。これらの人々のどの辺がエコノミストなのかよくわからないが、判で押したように「為替介入の効果は限定されており、日本の景気は簡単には良くならないのだから円安の傾向に変化はない」と主張していたのである。もっともこれらの発言に反して、自分達は「ドル売り円買い」をしていたかもしれないが、実態は不明である。日本の機関投資家の中で一番人気があると言われている日本人であるが外資系金融機関所属のストラテジストは「現在の為替レートの146円は直ぐに150円となるが、これもさらなる円安へのステップに過ぎず、そのうち160円を超える」と自信たっぷりに述べていた。このストラテジストは人気があると言うのだから、この言葉を信じて為替売買を行なった機関投資家も多いはずである。もちろんこれによって大損しているはずである。このストラテジストは昨年暮れあたりから頻繁にマスコミに登場して色々発言している。筆者は、このストラテジストが「かなりいい加減なこと」を言っていると言う感想をいつも持っていた。このストラテジストを登場させるに当って、マスコミはこのストラテジストの過去の発言内容をどこまでチェックしているのか全く疑問なのである。またこれらのエコノミストとかストラテジストの所属する金融機関がこれらの発言が行なわれた同時期にどのような為替取引をしていたかを調べるべきである。マスコミは自分達の主張に同調的に発言する者なら誰で良いと考え、発言をさせていると感じられるのである。一方、これらのエコノミストとかストラテジストが、本来「ゼロサムゲーム」である厳しい金融市場での取引で平均以上の利益を得ようとすれば、マスコミをも利用しようと考えるのは当然のことなのである。最近は、これらのいい加減なエコノミストとかストラテジストとマスコミは案外利害が一致しているのではないかとさえ考えられるのである。つまりマスコミは自分達の主張に沿う発言なら誰でも良く、一方、エコノミストとかストラテジストはマスコミを通じ発言できるなら、思ってもいないことを主張するのである。
    筆者は、短期的な為替の動きを予想することは難しいが、長期的な為替動向の基準となりうる「為替の均衡値」についてはある程度想定できると考えている。来週号では筆者が現在想定している「為替の均衡値」について述べたい。






98/9/7(第80号)「公金投入の整合性を考える」
98/8/31(第79号)「政治と経済の混乱を考える」
98/8/10(第78号)「今回の不況の原因を考える」
98/8/3(第77号)「新政権の人事を考える」
98/7/27(第76号)「小淵新自民党総裁誕生を考える」
98/7/20(第75号)「橋本総理退陣を考える」
98/7/13(第74号)「マスコミの驕りを考えるーーその2」
98/7/6(第73号)「マスコミの驕りを考えるーーその1」
98/6/29(第72号)「参院選と経済を考える」
98/6/22(第71号)「為替介入の背景を考える」
98/6/15(第70号)「橋本総理と円安を考える」
98/6/8(第69号)「日本の金融を考える」
98/6/1(第68号)「経済への関心を考える」
98/5/25(第67号)「世論と経済政策を考えるーーその2」
98/5/18(第66号)「世論と経済政策を考えるーーその1」
98/5/11(第65号)「アンケートと経済政策を考える」
98/5/4(第64号)「今回の景気対策を考える」
98/4/27(第63号)「消費の限界を考えるーーその2」
98/4/20(第62号)「消費の限界を考えるーーその1」
98/4/13(第61号)「恒久減税を考える」
98/4/6(第60号)「今回の自民党の景気対策を考える」
98/3/30(第59号)「米国の対日経済要求を考える」
98/3/23(第58号)「新日銀総裁の就任を考える」
98/3/16(第57号)「今回の不況の深刻さを考える」
98/3/9(第56号)「日米の景気対策を考える」
98/3/2(第55号)「日経新聞と経済を考えるーーその2」
98/2/23(第54号)「日経新聞と経済を考えるーーその1」
98/2/16(第53号)「貸し渋りと景気を考える」
98/2/9(第52号)「政治と経済を考える」
98/2/2(第51号)「官僚と経済を考える」
98/1/26(第50号)「「小さな政府」を考えるーーその3」
98/1/19(第49号)「「小さな政府」を考えるーーその2」
98/1/12(第48号)「「小さな政府」を考えるーーその1」
97/12/22(第47号)「需要不足の日本経済を考える」
97/12/15(第46号)「景気の現状と対策を考えるーーその8」
97/12/8(第45号)「景気の現状と対策を考えるーーその7」
97/12/1(第44号)「京都会議と経済を考える」
97/11/24(第43号)「景気の現状と対策を考えるーーその6」
97/11/17(第42号)「景気の現状と対策を考えるーーその5」
97/11/10(第41号)「景気の現状と対策を考えるーーその4」
97/11/3(第40号)「景気の現状と対策を考えるーーその3」
97/10/27(第39号)「景気の現状と対策を考えるーーその2」
97/10/20(第38号)「景気の現状と対策を考えるーーその1」
97/10/13(第37号)「市場の心理を考える」
97/10/6(第36号)「公共事業とマスコミを考える」
97/9/29(第35号)「リクルート事件と経済を考える」
97/9/22(第34号)「ロッキード事件と経済を考える」
97/9/15(第33号)「住宅と貯蓄を考える(その2)」
97/9/8(第32号)「住宅と貯蓄を考える(その1)」
97/9/1(第31号)「労働組合と経済を考える」
97/8/25(第30号)「競争時代の賃金を考える」
97/8/18(第29号)「米国経済の生産性の向上を考える」
97/8/11(第28号)「米国の景気を考える(その2)」
97/8/4(第27号)「米国の景気を考える(その1)」
97/7/28(第26号)「内需拡大と整備新幹線を考える(その2)」
97/7/21(第25号)「内需拡大と整備新幹線を考える(その1)」
97/7/14(第24号)「香港返還と中国経済を考える(その2)」
97/7/7(第23号)「香港返還と中国経済を考える(その1)」
97/6/30(第22号)「日本の米国債保有を考える」
97/6/23(第21号)「投機と市場を考える」
97/6/16(第20号)「規制緩和と日米関係を考える」
97/6/9(第19号)「ビックバンと為替を考える」
97/6/2(第18号)「内需拡大と公共工事を考える(その2)」
97/5/26(第17号)「内需拡大と公共工事を考える(その1)」
97/5/19(第16号)「金利と為替を考える」
97/5/12(第15号)「規制緩和と景気を考える」
97/5/5(第14号)「為替の変動を考える」
97/4/28(第13号)「日本の物価と金利を考える(その2)」
97/4/21(第12号)「日本の物価と金利を考える(その1)」
97/4/14(第11号)「日本の土地価格を考える」
97/4/7(第10号)「当マガジン経済予測のレビュー」
97/3/31(第9号)「日本の株式を考える」
97/3/24(第8号)「たまごっちと携帯電話を考える」
97/3/17(第7号)「政府の景気対策を考える」
97/3/10(第6号)「オリンピックと景気を考える」
97/3/3(第5号)「為替レートの動向を考える(その2)」
97/2/24(第4号)「為替レートの動向を考える(その1)」
97/2/17(第3号)「日本の金利水準と為替レートを考える」
97/2/10(第2号)「国と地方の長期債務残高を考える」
97/2/1(第1号)「株価下落の原因を考える」「今後の景気動向を考える」

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