経済コラムマガジン 平成9年2月10日より
経済コラムマガジン




14/6/23(802号)
奇妙な話ばかり

  • 踏み上げ相場?

    最近、経済を巡って従来の常識では説明がつかない出来事や奇妙な現象がいくつも起っている。今週は、それらの中から特に筆者が関心を持ったものをいくつか取上げることにする。


    先日、スペインの国債利回り、つまり長期金利が何と米国債の長期金利を下回った。欧州各国の長期金利が低下傾向であることは、14/6/2(第799号)「金利低下の背景」で取上げたばかりであった。わずか2年半前まで、スペインなど南欧諸国は財政破綻と騒がれ金利が高騰していた。

    スペインだけでなく、騒ぎの発端となったギリシャの長期金利も5%の後半まで低下している。3週間前、本誌で筆者は南欧諸国の金利がまだ低下すると予想したが、ここまで順調に低下するとは想いが及ばなかった。

    この逆転現象は米国の金利が上昇したからではない。米国の方も今年1月の金融の量的緩和縮小開始の頃から低下している(3%程度から2.5〜2.6%程度まで低下)。つまり米国よりスペインの金利低下のスピードが大きく上回っているのである。


    このように長期金利は、これまでの常識に反した動きを見せている。繰返すがスペインの財政状態が格段に良くなったわけではない。また米国も毎月量的緩和を100億ドルずつ削減している。それなのに両国の国債の利回りは揃って低下している(ただスペインの長期金利低下の速度が際立っている)。

    米国国債の金利低下については、もっともらしい説明がある。米国は、景気回復によって税収が増え、新規の国債発行が減少しているという指摘である。つまり国債市場での需給が締って、国債価格が上昇しているという説明である。

    しかしFRBの債券(米国債と住宅担保証券)の買上げ額が毎月100億ドルずつ減額されているのである。また1年半先には利上げが想定されている。この状況で10年物国債が買われ続けているのである。これを新規国債の発行減少だけで説明することは所詮無理がある。


    米国債の金利低下には、もう一つカラ売りの買戻し説がある。今年1月から量的緩和が減額されることが分かっていた。したがって資金運用者は、当然、長期金利は上昇(つまり国債価格の下落)するという予想を前提に資金運用を行ってきた。したがって国債の現物や先物を売るといったスタンスである。

    ところが一向に国債価格は下落しないのである。常識に沿った運用を行っている者達より大きな資金力を持つ運用主体が、売られた国債を全て買上げていたと思われる。したがって国債の売り方が、いつまでたっても国債が下落しないので痺れを切らして買戻しに走り、これが国債価格をさらに押上げるという結果になっている(つまり踏み上げ)。つまり買い方の勝利と売り方の敗北である。


    これによく似た奇妙なことが株式市場でも起っている。米国の株価がこれまでの経験則(常識)に反し、6月になっても下落せず、逆に上昇を続けている。ほぼ毎年、6月のヘッジファンドの決算を睨み、5月頃から株価は下落していた(清算目的に株式が売られることに先回り)。ちなみに昨年は5月23日のバーナンキFRBの量的緩和終了を示唆する発言をきっかけに株価の下落が始まった。

    ところが今年は6月ももう終わるのに株価は上昇を続けている。この原因の一つが売り方の買戻しと思われる。つまり株式市場でも踏み上げ相場が起っていると見られるのである。資金運用者が常識(5,6月は株価は下落するという常識)に沿って、カラ売りしたり先物を売ってきた。ところが一向に株価は下落せず、むしろ最高値を付ける始末である。

    株価が上昇させるような有力な材料は見当たらない。むしろイラク状勢悪化による原油先物の上昇などの悪材料が出ているのに株価は上昇を続けている。なんとなく売り方はハメられているという状況である。6月もあと一週間である。また7月になればどうなるのか、日米とも債券市場と株式市場からは当分の間目が離せない。


  • 世界中、低金利により運用難

    筆者は、11/9/26(第679号)「世界的な「日本化」」などで相当前から世界経済が変質してきたと述べてきた。その背景に極端な金余りがあると筆者は指摘した。前段で取上げた債券市場と株式市場の奇妙な動きも世界的な金余りと関係していると筆者は考える。

    ブラジルやロシアなど信用不安のある一部の国を除き、世界の長短金利は極端に低くなっている。まことに資金運用者(ファンドなど)にとって難しい時代になっている。しかも資金の運用難にもかかわらず、運用担当者には資金がどんどん集まってくるのである。また資金運用者同士の競争が一段と厳しくなっている。

    したがって資金運用は、多少リスクがあっても高利回りが期待される方向に向かわざるを得ない状況に追い込まれている。昔から株式市場には鉄火場的、あるいはカジノ的な要素があった。しかし今日、債券市場もこの傾向が強まっている。今日の金融市場は、互いの資金運用者を食合うような状況になっていると考えれば良い。今は常識的な運用を行っている者が皆カモになっているのである。


    市場関係者の声というものは昔からいい加減であった。さらに今日、従来の常識も怪しくなっているのである。ましてや日本の新古典派や財政学者の経済理論なんてまるでお呼びではない

    ちなみに彼等は「日本の財政は最悪なのだから金利上昇は必至」「日本は高齢化で貯蓄が減り、将来、金利は上昇する」などと実にいい加減なことを何十年にも渡り言い続けている。彼等は、現実の経済から目を背け、時代遅れで役立たずになった昔の教科書だけを頼りに発言をしているのである。ところがこの種の言論が少なからず日本の経済政策を間違った方向に導いて来た(政治家や官僚もこの使い物にならない経済学を勉強してきたから)。デフレ下における今回の消費税増税もその一つである。


    今日の株式市場は、鉄火場(カジノ)であり、ここではゼロサムゲームが行われている。しかも単なるゼロサムゲームではない。大手の投資家によって相場はほぼ操作されていると考えて良い。彼等は、株式の先物だけでなく、為替や原油相場をも使って株価操作していると疑われる。

    このような魑魅魍魎が跋扈する株式市場に、素人の資金を誘導しよう(NISA・・少額投資非課税制度)とする日本政府の政策は異常である。また公的年金の運用成績を上げるためには株式運用に振向ける割合を大きくしようという声がある。しかし株式市場は鉄火場であり、ゼロサムゲームが行われているのである。高い運用が実現するには、一方で損をする者がいないと成立たないのが今日の株式市場でのゲームである。公的年金だけが高い運用成績を収めることができるという根拠を聞きたい。まさか公的年金が株価操作やインサイダー取引を行うつもりではないと思うが。


    奇妙な話をもう一つ。「国債が暴落」するという本を昔から何回も日経新聞に載せていた怪しい著者が、また日経新聞に出版物の大きな広告を掲載している。11/8/29(第676号)「円相場の今後の動き」で取上げた「何々隆」氏である。この人物が「日本国債が暴落して金利が高騰する」と言い始めてから、逆に国債利回りは一貫して下がり続けている。

    つまり現実は彼の言っていることと正反対の方向に動いている。これは一回だけでなく毎回のことである。どうもこの人物は読者の資金運用をアドバイスする立場にあるようだ。これらの本を買って、過去の予想が完全に外れた経緯や弁明まで調べようとは思わない。ただ「この人物は問題」と筆者はずっと思ってきた。


    しかし筆者が一番奇妙に思うのは、日経新聞がこの種の怪しい本の広告を平気で掲載していることである(他の新聞はほとんど読まないので、この広告が掲載されているのか不明)。何ヶ月か前、何年間振りにこの広告を見た時、正直に言って筆者は驚いた。またこんな本を日経で宣伝し始めたのかと思った。

    最初にこの広告を見た時、何かの手違いと思った。しかしそれ以降、ここ数カ月、同じ広告が掲載され続けているのである。これを見ると日経は全てを承知していると見られる。もっとも日経は、経済学者・財政学者や論説委員の同じレベルの文章で溢れているが。



来週も今週の続きである。



14/6/16(第801号)「石油は人々をおかしくさせる」
14/6/9(第800号)「ベトナム沖の一大事」
14/6/2(第799号)「金利低下の背景」
14/5/26(第798号)「政策目標の変更」
14/5/19(第797号)「「美味しんぼ」騒動」
14/5/12(第796号)「使えない経済指標」
14/4/28(第795号)「推理小説のような中国経済の実態」
14/4/21(第794号)「中国1〜3月期のGDP成長率」
14/4/14(第793号)「日本のマスコミの問題体質」
14/4/7(第792号)「ウクライナとロシアの関係」
14/3/31(第791号)「怪しくなったアベノミクスの行方」
14/3/24(第790号)「中国のバブル生成の過程」
14/3/17(第789号)「バブル経済崩壊の序章」
14/3/10(第788号)「中国経済にまつわる奇妙な話」
14/3/3(第787号)「中国経済に変調(その2)」
14/2/24(第786号)「中国経済に変調」
14/2/17(第785号)「経済戦略会議から15年」
14/2/10(第784号)「理論と現実の狭間・・金利編」
14/2/3(第783号)「経済理論と現実の狭間」
14/1/27(第782号)「なつかしい経済理論の復活」
14/1/20(第781号)「窮地に立つリフレ派」
14/1/13(第780号)「新春のトピックス」
13/12/23(第779号)「周辺国の異常行動」
13/12/16(第778号)「ピカピカのバランスシート」
13/12/9(第777号)「中谷巌氏の変心」
13/12/2(第776号)「何処に行った経済成長戦略」
13/11/25(第775号)「アベノミクスの行方」
13/11/18(第774号)「ここ一ヶ月の出来事」
13/10/14(第773号)「虚言・妄言の判断基準」
13/10/7(第772号)「消費税増税、次の焦点」
13/9/30(第771号)「消費税にまつわる諸問題」
13/9/23(第770号)「「声なき声」が届くか」
13/9/16(第769号)「利払い額のGDP比率の推移」
13/9/9(第768号)「利払い額で見る財政の健全性」
13/9/2(第767号)「消費税増税は雲行きが怪しくなった?」
13/8/26(第766号)「財政が危機という怪しい話」
13/8/10(第765号)「消費税増税は絶対に避ける道」
13/8/5(第764号)「消費税増税を促す包囲網」
13/7/26(第763号)「参議院選の結果を考える」
13/7/15(第762号)「アベノミクスの評価他2件」
13/7/8(第761号)「デフレに興味のない大新聞」
13/7/1(第760号)「日経新聞の論説の特徴」
13/6/24(第759号)「アベノミクスを牽制する人々」
13/6/17(第758号)「長期金利上昇で騒いでいる人々」
13/6/10(第757号)「雲行きが怪しいデフレ脱却」
13/6/3(第756号)「財政再建論者のサークル」
13/5/27(第755号)「財政の2010年問題」
13/4/29(第754号)「国民一律の年金」
13/4/22(第753号)「日銀のリスク資産購入」
13/4/15(第752号)「異次元の金融政策」
13/4/8(第751号)「久しぶりの「朝まで生テレビ」」
13/4/1(第750号)「不穏な中国と日本の安全保障」
13/3/25(第749号)「TPPの基本は友好」
13/3/18(第748号)「日本の雪崩的輸出の歴史」
13/3/11(第747号)「TPP交渉と日本警戒論」
13/3/4(第746号)「TPPの実態」
13/2/25(第745号)「有り得る軍事的衝突」
13/2/18(第744号)「群盲象をなでる」
13/2/11(第743号)「まず印紙税の廃止」
13/2/4(第742号)「「構造改革」と「規制緩和」の本当の姿」
13/1/28(第741号)「意志を持った「やじろべい」」
13/1/21(第740号)「金融政策に対する提言」
13/1/14(第739号)「年頭にあたり」
12/12/31(第738号)「中央銀行の働きの変化」
12/12/24(第737号)「日銀とFRBの違い」
12/12/17(第736号)「師走の総選挙の感想」
12/12/10(第735号)「建設国債引受け発言の波紋」
12/12/3(第734号)「先進国だからデフレ」
12/11/26(第733号)「総選挙の行方」
12/11/19(第732号)「残る経済成長路線」
12/11/12(第731号)「先進国における経済成長」
12/11/5(第730号)「投資と経済成長」
12/10/29(第729号)「プラスアルファーの議論」
12/10/22(第728号)「アラン・ブラインダー教授の文章」
12/10/15(第727号)「バランスを欠いた報道」
12/10/8(第726号)「中国からの撤退も視野に」
12/10/1(第725号)「中国の反日暴動に対する感想」
12/9/24(第724号)「本誌の中国問題ダイジェスト」
12/9/17(第723号)「技術流出と日本の伝承文化」
12/9/10(第722号)「技術流出の現状」
12/9/3(第721号)「知的所有権の話」
12/8/27(第720号)「最近の出来事」
12/8/6(第719号)「御用学者の話」
12/7/30(第718号)「増税マニア達は現実離れ」
12/7/23(第717号)「吉川洋東大教授の文章」
12/7/16(第716号)「消費税増税が待ち遠しい?」
12/7/9(第715号)「消費税は「鬼門」」
12/7/2(第714号)「増税騒動の感想」
12/6/25(第713号)「今日の諸情勢の変化」
12/6/18(第712号)「世界中「展望がない」」
12/6/11(第711号)「schole(スコレー、暇)の話」
12/6/4(第710号)「ギリシャ化の話」
12/5/21(第709号)「単式簿記の世界」
12/5/14(第708号)「文春と朝日の関係」
12/4/30(第707号)「続・増税論議と文芸春秋」
12/4/23(第706号)「増税論議と文芸春秋」
12/4/16(第705号)「増税論議と政界」
12/4/9(第704号)「増税派の人々」
12/4/2(第703号)「松下政経塾政治家と増税」
12/3/26(第702号)「英国の永久債発行」
12/3/19(第701号)「過去の号の修正」
12/3/12(第700号)「本誌700号に寄せて」
12/3/5(第699号)「投資顧問AIJの事件」
12/2/27(第698号)「橋下維新政党へのコメント」
12/2/20(第697号)「地方自治体と通貨」
12/2/13(第696号)「デフレ経済下での増税」
12/1/30(第695号)「無税国家への道」
12/1/23(第694号)「世界的な金利低下」
12/1/16(第693号)「過剰貯蓄による災い」
12/1/9(第692号)「バーチャルな話」


11年のバックナンバー

10年のバックナンバー

09年のバックナンバー

08年のバックナンバー

07年のバックナンバー

06年のバックナンバー

05年のバックナンバー

04年のバックナンバー

03年のバックナンバー

02年のバックナンバー

01年のバックナンバー

00年のバックナンバー

99年のバックナンバー

98年のバックナンバー

97年のバックナンバー