平成9年2月10日より
経済コラムマガジン


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98/9/7(第80号)


公金投入の整合性を考える
  • 与野党の議論の進め方
    長銀への公金投入については、この一週間の間に状況が大きく変わってきている。野党の足並みが崩れ、長銀への公金投入は止むを得ないと言う空気に変わっているのだ。野党の三党合意では、銀行への破綻前の公金投入と言う考えはなかった。銀行の大小に拘わらず、公金投入は清算が前提になっていたのだから、この変化は大きい。筆者は、破綻前にも公金投入を行なうと言う与党と野党の考えには開きが大きく、妥協はちょっと無理と考えていた。ところがここ数日の動きでは、破綻前の銀行にも公金投入をしても良いが、資金投入のルールをより明確にしようと言う点で与野党は妥協をさぐっている。
    筆者は、野党の三党合意と言うものがもっと堅牢なもので、与党との妥協はないと考えていたくらいである。もっとも野党との妥協が成り立たなくても、現行法の範囲内で政府は長銀へ公金投入は可能である。「金融再生関連六法案」が成立しなくとも、破綻前の大銀行への資本投入は可能であり、銀行破綻による混乱を回避することは可能である。逆に「金融再生関連六法案」が成立しても、銀行の破綻が回避されたり、銀行の経営が安定すると言うことはない。この法案は不良債権の回収をスムーズにするとか、万が一銀行が破綻した場合の対処を規定するものであり、銀行の経営を急速に健全にしようとするものではない。現在、金融をめぐる重大事は、銀行の破綻が他に影響を与えることを阻止することと、今後さらに厳しくなると思われる「貸し渋り」である。「金融再生関連六法案」は残念ながらこの方面にはほとんど効果はない。政府与党の関心は、これ以上の銀行の破綻を回避することであり、「金融再生関連六法案」とは別に銀行が破綻しない方策を講じることである。「金融再生関連六法案」の目的は長期的、そして対外的なものである。このような法律さえ通せないと言うことになれば、外国政府からの信頼が失われることになるのである。筆者は、今回の法律案は外国、特に米国政府の意向を多分に意識していると考えている。つまり政府与党は米国の顔を立てながら、実際の銀行処理はいわゆる「日本流」のソフトランディングで行なおうとしていると筆者は考えている。銀行と貸し付け先企業との密接な関係は、日本と米国では大きく違うのである。筆者は、日本においては政府与党が進めているソフトランディング路線は、金融不安を回避する方法として適当であり、米国政府もそのうちこのことを理解するものと考えている。実際、先日の宮沢蔵相の説明で、日本が進めている方法の方が良いことをルービン財務長官も理解したらしく、金融安定資金を積み増すことさえ示唆しているようである。
    筆者は、「野党の三党合意」がもっと強硬なものと考えていたが、実際は違ったようである。自民党と社民党、さきがけが連立していた時には、法律案も三党の間で妥協が図られたものであり、非常に窮屈なものであった。当時の野党とは妥協の余地はなかったのである。野党との協議で修正をするとなると、与党三党の合意が崩れ、連立の体制までが危うくなるのである。したがって、連立時代には、野党を無視し、かなり強引に与党三党案を通してきたのである。筆者は、「野党の三党合意」なるものがこれと同様にギリギリの妥協の産物と考えていたが、実体はかなりいい加減なもののようである。
    政党間の議論では、互いに自分達の考えていることの前提条件を明らかにすることが重要である。前提条件を明らかにせず議論をおこなっても全くの無駄である。長銀への公金投入については、政府与党は長銀の破綻が各方面へ大きな悪影響を及ぼすと言うことを前提にしている。対する当初の「野党の三党合意」は、たとえ長銀が破綻しても影響はほとんどないと言うことが前提となっている。むしろ野党は長銀の処理の明瞭化のほうが重要と考えているのである。筆者の意見は、両者が前提条件としている事柄を出しながら議論を進めることである。長銀が破綻の影響がどの程度なのか予想されるデータを互い提出すればよいのである。前提条件になるものは、数量化できるものが多いのだから、それを示せばよいのである。政府与党には参考になるデータがあるはずである。つまり北海道拓殖銀行の破綻が及ぼした影響から長銀の場合の影響を類推できるのである。もっともこの作業をすれば、北海道拓殖銀行の破綻前になぜ公金投入を行なわなかったのかと言う非難が出で来ることが予想される。残念ながら当時は金融安定の資金が準備されていなかったのである。
    与野党の政策が対立すると、マスコミは「もっと議論を尽くすべき」と無責任な意見を主張する。日本の国会の議論では、互いに自分達の考えの前提条件をあまり明らかにしない。「防衛問題」が典型である。片方は国防上の脅威があると言う前提であるが、昔の社会党などは日本は外国から攻められるような脅威はないと言う前提で考えているのである。実のある議論をするには両者の前提条件のどちらが正しいか検証すれば良いのである。そのためには、両者は前提条件をできるだけ数量化して示し、脅威の大きさについて認識を近づける努力が必要なのである。これによって適正な防衛範囲や予算が考えられるべきなのである。それが日本においては、防衛問題がどうしてか憲法問題などにすり替わってしまい、実際の防衛に関する議論と言うものが形骸化してしまうのである。
    日本で「金融再生関連六法案」を議論している間に、ロシア経済の混乱が大きくなり、欧米の株式も大きく下落した。この状況が野党の行動にも影響したと考える。急速に世界経済の混迷の度合が増したのである。今、長銀が破綻すれば、当然思った以上の影響を海外にも及ぼし、海外から相当非難が来ることが解ってきて、野党はこれまでの元気がなくなったのである。「野党の三党合意」と政府与党が進めている長銀の処理の間には妥協点はない。筆者は、両者が互いに前提とする条件を明らかにせず議論を進めても、結論は出ないと考えていた。百万年議論を続けても妥協は成立しないのである。今流の言い方をすれば「市場」が野党の非現実的な考えをたたき潰してくれたおかげで、「金融再生関連六法案」と長銀への公的資金投入問題も解決の糸口は見えてきたのである。

  • 公金投入の是非
    今だに、長銀への公金投入を「長銀への税金投入」と表現しているマスコミがあることには驚かされる。長銀への資金投入は、金融安定化資金を使い、預金保険機構を通じ長銀の発行する優先株式を取得する方法が想定されている。優先株は優先的に配当を得る権利を持つが、議決権はない。つまり経済的優先権を持つが、持ち株による経営支配は目的としない方法である。これは株式取得が金融システムの安定化を第一の主旨としているからである。長銀がなんらかの形で再建されれば、この優先株を処分して資金を回収することになる。これが全損になるのは資金投入後に長銀が破綻するケースであるが、これは政府としてもどうしても回避したいことである。これは単に資金が回収されないと言うことではなく、金融システムに多大な悪影響が考えられるからである。実際、資金が回収されないと言うことよりも金融システムの崩壊の方が重大事なのである。
    現在でも邦銀は海外で資金調達が難しくなっている。不足する資金を国内で調達し、海外に送金しているのが実態である。ここで長銀が破綻すれば、邦銀の海外での資金調達がほとんどストップする事態が予想される。昨年のASEAN諸国の通貨危機も邦銀の資金調達が難しくなっていることが一つの原因と言われている。邦銀同士はこれらの地域でわずかの利差やで貸し出し競争を行なっていた。ところが日本の金融の信用不安で、資金調達の際ジャパンプレミアムが上乗せされるようになり、採算が合わなくなったため、邦銀は短期資金の回収を始めたのである。ASEAN諸国の通貨危機の原因はこのジャパンプレミアムだけではないが、たしかに日本の金融不安も間接的に影響しているのである。しかしプレミアムが付いても、資金を調達できるのならまだましなのである。長銀の破綻で、邦銀の国際市場から資金調達がストップする事態が起こると、どのような影響があるか予想がつかないのである。つまり公金の回収の可能性を議論する余裕は今ないのである。
    米国でも30年代、銀行が危機に陥った際、政府は公金を銀行に投入した。しかしそれ以降銀行が立ち直り、政府はその株式を処分し、むしろ利益を得たのである。公金投入がイコール税金投入と表現するマスコミは経済のことを全く知らないか、それとも一定の意図を持って事実を歪曲し、報道を行なっていると判断される。いずれにしてもそのようなマスコミは経済関係の報道をする資格はないと考えている。
    これまで述べてきたように、日本では金融システム安定を目的に政府が支出をすることの是非について議論がなされている。もちろん筆者は、これまで述べてきたように公金の投入には賛成である。さらにそれが最終的に政府の負担、つまり残念ながら税金の投入となるケースになってもこれは仕方がないと考えている。これについては来週号で引き続き述べたい。






98/8/31(第79号)「政治と経済の混乱を考える」
98/8/10(第78号)「今回の不況の原因を考える」
98/8/3(第77号)「新政権の人事を考える」
98/7/27(第76号)「小淵新自民党総裁誕生を考える」
98/7/20(第75号)「橋本総理退陣を考える」
98/7/13(第74号)「マスコミの驕りを考えるーーその2」
98/7/6(第73号)「マスコミの驕りを考えるーーその1」
98/6/29(第72号)「参院選と経済を考える」
98/6/22(第71号)「為替介入の背景を考える」
98/6/15(第70号)「橋本総理と円安を考える」
98/6/8(第69号)「日本の金融を考える」
98/6/1(第68号)「経済への関心を考える」
98/5/25(第67号)「世論と経済政策を考えるーーその2」
98/5/18(第66号)「世論と経済政策を考えるーーその1」
98/5/11(第65号)「アンケートと経済政策を考える」
98/5/4(第64号)「今回の景気対策を考える」
98/4/27(第63号)「消費の限界を考えるーーその2」
98/4/20(第62号)「消費の限界を考えるーーその1」
98/4/13(第61号)「恒久減税を考える」
98/4/6(第60号)「今回の自民党の景気対策を考える」
98/3/30(第59号)「米国の対日経済要求を考える」
98/3/23(第58号)「新日銀総裁の就任を考える」
98/3/16(第57号)「今回の不況の深刻さを考える」
98/3/9(第56号)「日米の景気対策を考える」
98/3/2(第55号)「日経新聞と経済を考えるーーその2」
98/2/23(第54号)「日経新聞と経済を考えるーーその1」
98/2/16(第53号)「貸し渋りと景気を考える」
98/2/9(第52号)「政治と経済を考える」
98/2/2(第51号)「官僚と経済を考える」
98/1/26(第50号)「「小さな政府」を考えるーーその3」
98/1/19(第49号)「「小さな政府」を考えるーーその2」
98/1/12(第48号)「「小さな政府」を考えるーーその1」
97/12/22(第47号)「需要不足の日本経済を考える」
97/12/15(第46号)「景気の現状と対策を考えるーーその8」
97/12/8(第45号)「景気の現状と対策を考えるーーその7」
97/12/1(第44号)「京都会議と経済を考える」
97/11/24(第43号)「景気の現状と対策を考えるーーその6」
97/11/17(第42号)「景気の現状と対策を考えるーーその5」
97/11/10(第41号)「景気の現状と対策を考えるーーその4」
97/11/3(第40号)「景気の現状と対策を考えるーーその3」
97/10/27(第39号)「景気の現状と対策を考えるーーその2」
97/10/20(第38号)「景気の現状と対策を考えるーーその1」
97/10/13(第37号)「市場の心理を考える」
97/10/6(第36号)「公共事業とマスコミを考える」
97/9/29(第35号)「リクルート事件と経済を考える」
97/9/22(第34号)「ロッキード事件と経済を考える」
97/9/15(第33号)「住宅と貯蓄を考える(その2)」
97/9/8(第32号)「住宅と貯蓄を考える(その1)」
97/9/1(第31号)「労働組合と経済を考える」
97/8/25(第30号)「競争時代の賃金を考える」
97/8/18(第29号)「米国経済の生産性の向上を考える」
97/8/11(第28号)「米国の景気を考える(その2)」
97/8/4(第27号)「米国の景気を考える(その1)」
97/7/28(第26号)「内需拡大と整備新幹線を考える(その2)」
97/7/21(第25号)「内需拡大と整備新幹線を考える(その1)」
97/7/14(第24号)「香港返還と中国経済を考える(その2)」
97/7/7(第23号)「香港返還と中国経済を考える(その1)」
97/6/30(第22号)「日本の米国債保有を考える」
97/6/23(第21号)「投機と市場を考える」
97/6/16(第20号)「規制緩和と日米関係を考える」
97/6/9(第19号)「ビックバンと為替を考える」
97/6/2(第18号)「内需拡大と公共工事を考える(その2)」
97/5/26(第17号)「内需拡大と公共工事を考える(その1)」
97/5/19(第16号)「金利と為替を考える」
97/5/12(第15号)「規制緩和と景気を考える」
97/5/5(第14号)「為替の変動を考える」
97/4/28(第13号)「日本の物価と金利を考える(その2)」
97/4/21(第12号)「日本の物価と金利を考える(その1)」
97/4/14(第11号)「日本の土地価格を考える」
97/4/7(第10号)「当マガジン経済予測のレビュー」
97/3/31(第9号)「日本の株式を考える」
97/3/24(第8号)「たまごっちと携帯電話を考える」
97/3/17(第7号)「政府の景気対策を考える」
97/3/10(第6号)「オリンピックと景気を考える」
97/3/3(第5号)「為替レートの動向を考える(その2)」
97/2/24(第4号)「為替レートの動向を考える(その1)」
97/2/17(第3号)「日本の金利水準と為替レートを考える」
97/2/10(第2号)「国と地方の長期債務残高を考える」
97/2/1(第1号)「株価下落の原因を考える」「今後の景気動向を考える」

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