平成9年2月10日より
経済コラムマガジン


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97/3/24(第8号)
たまごっちと携帯電話を考える
  • 筆者は米国株式がいつ下落してもおかしくないと3/10(第6号)「オリンピックと景気を考える」で主張していた。たしかに米国の株式はここのところ下げてきているが、まだ下落幅は3%位である(ナスダックはもっと下げているが)。また、筆者の予想するシナリオは、「資金の日本からの流出のストップ」あるいは「資金の日本への逆流」により「米国債券の下落=金利の高騰」が起き、株式が下落することである。まだ円レ-トに大きな変動がないところを見ると、この動きは今のところ起こっていないようだ。いずれにしても米国株式に大きな動きがあった場合は、本誌の「緊急版」を発行しますのでご注目願いたい。

  • さて、今週号は、タイトルから受ける印象のようにくだけた内容ではない。むしろ先週号の続編と考えていただきたい。
    財政赤字の経済に及ぼす負の面の一つとして「借金の負担が次世代に引き継がれる」ことを挙げられるが、この点についての筆者の反論は本誌の2/10(第2号)「国と地方の長期債務残高を考える」で述べた通りなのでご参照願いたい。
    次に言われるのはクラウディングアウトの問題、つまり民間企業の資金需要と競合し、結果的には金利が上がることである。しかし実際は、日本において資金が余っており、国債の利回りも2%の底に張り付いている。またマネ-サプライも極めて低位に推移している。つまりクラウディングアウの心配はないのである。
    また最近よく喧伝されるれるのが「赤字国債発行増大により、ハイパ-インフレ-ションが起こる」と言うことである。この点についてははっきり反論しておきたい。

  • まずその前に世間でインフレ-ション(インフレ)と言う言葉があいまいに使われているので一言いっておきたい。
    元来インフレは、「生産物の裏付けなく、中央銀行が通貨の発行量をドンドン増やしたり」また、「なんらかの理由で需要が急激に増加」し、結果として価格が上昇することを意味しているはずである。ところが最近では単純に物価の上昇のことをインフレと言っている場合が多い。しかし物価の上昇は、それこそいろんな要因で起こるのであり、市場の競争状態により起こることもある。また代替物が少ない輸入品(例えば原油など)価格が上昇しても、物価の上昇は起きる。極端な場合は需要が減退している時(デフレの状態)でも物価の上昇は起こりうるのである。このようなケ-スをスタグフレ-ションと言うらしい。つまりインフレを伴うデフレと言うことらしい。
    ただ筆者はインフレとデフレはまったく逆の概念で、両者が同時に起こると言うことは、有りえないことであり、ばかげたことであると考える。この場合は「物価上昇を伴うデフレ」または「デフレ下の物価上昇」と言うべきだ。筆者は、両者を使い分けており、インフレと言う言葉はなるべく使わないようにしているが、もし使うとしたら、元来の意味でのみ使用するつもりである。
    筆者は、政治家や官僚がこの言葉をあいまいに使うのは一向にかまわないと思っている。しかしいやしくもエコノミストと呼ばれている人々が、「物価上昇」と言うべきところを「インフレ」と言うのは問題である。なぜこんなところにこだわるかと言えば、不況下において物の値段が上がった場合(たとえたまごっちの闇値が上がって)も、全て「財政の赤字」が原因と言うエコノミストが一部現われそうであるからである。

  • 現在の日本は総じて供給力が需要を上回っており、余った物は輸出されている。また、資金的にもそれに応じて余剰があり、一部は海外に流出している。もし、政府の消費がさらに減少すれば、一段と輸出が増えるか、在庫が増えることになる。
    携帯電話は近年にないヒット商品である。その普及の速度を誰が予想しただろうか。問題は価格の推移である。価格も驚くほど安くなったのである。携帯電話は部品から組み立てまでほとんど国内生産である。つまりものすごい需要に対して国内の供給がみごとに対応し、さらに価格が大幅に下がったのである。筆者は、本当に、まだまだ日本の製造業が健全であると思われる(今後はどうなってしまうかわからないが)。
    このヒットの原因の一つに「規制緩和」が挙げられている。具体的には「参入者の増加」と「買い取り制」である。筆者も一部それを認めるが、大きな要因は別と考えている。と言うのは、94年度から2社が市場に新規参入したが、これがなくても、現在の普及に近いものがあり、価格もかなり下がっていたと考えられるからである。その証拠にこの2社が進出していなかった地域でも、普及がものすごい勢いで進んだこと見ればわかるであろう。「買い取り制」についても、先行して大変普及した「ポケベル」が長い間レンタルであったことを考えると、説得力は弱い。
    筆者は、携帯電話のヒットがパソコンと同様に一種の技術的なイノベ-ションによると考えている。また、これは日本にはまだまだ生産力があり、資金も十分あることの証明ではなかろうか。つまりビジネスチャンスが小さい日本においては、ちょっとしたチャンスがあるとどっと資金や人が流れこんでくるのである。そしてたちまちのうちに儲からない業界になるのである。だから「財政赤字によりインフレが起こる」と言うことが万が一でも本当なら、「待ってました」とばかり、同様に、資金と人が集まってきて、たちまちのうちに供給過多となるであろう。携帯電話のヒットは日本経済の現状を象徴しているのである。

  • 先日新聞にある財政学者のコメントが気になった。つまり「日本の財政危機は富士山登山に例えると、八合目か九合目」と言うことである。しかし、もし八合目か九合目まで危機が来ているなら日本経済になんらかの影響が現われてよいはずだ。例えばそんな国の国債なんて危なくて買われるはずがないのである。円もどんどん安くなるはずである。実際は「内需拡大を条件に円高是正を米国と取り交わした」のはほんの2年前であり、ほっとけばどんどん円高が進むのが現状である。
    こういう「財政均衡主義者」はそもそも国債を発行すること自体に反対しているのである。たぶん国債の発行残高が50兆円を超える時も、100兆円、200兆円を超える時も「財政赤字でそのうちにインフレになる」と警告していたはずだ。しかし一度として予想が当っていないのである。何年か後には「危機は今九.五合目にある」と言うのであろうか。
    むしろ彼等が言うようなデフレ政策を続けば、日本から製造業はなくなってしまうかもしれない。こちらの方が「日本経済の危機」と筆者は考える。

  • もう一つのヒット商品が「たまごっち」である。ただこちらの方は商品の供給がうまくいかないで、闇市場では1万円とか10万円のプレミアムが付いていると言う噂である。よく似た現象に米国製の有名シュ-ズのケ-スがある。後者は供給量を絞り、価格を高く維持すること自体が販売戦略らしい。前者は、海外での生産であることを供給遅れの理由としている(本当かどうか筆者には分からない)。
    だだ、筆者には購入者の動機にも多少不純な動機を感じるが、思いすぎであろうか。つまり、それ自体の価値だけでなく「将来の値上がり期待」と言うものを感じるのである。供給が極端に制限されている物や、再生産が不可能なものに人気が集まり、その時資金に余裕があれば(最近の高校生はお金を沢山持っている)、価格がとんでもなく高騰することはよくあることである。
    過去に「切手ブ-ム」があった。わずか数年前に発行された切手が数十倍になったこともあり、皆「にわか切手マニア」になったのである。残念ながらマニアが急増したため、その頃発行された切手は現在でも大量に保存されており、価格はまったく上がっていない(もちろん下がったものも多い)。つまり、ブ-ムと言われる物を買って保存しておいても価格は上がらないのである。

  • 再生産が不可能な物と過剰な資金と言う組み合わせは、バブル時の土地を思いださせる。当時「前川レポ-ト」の主旨に沿う「内需拡大による円高不況対策」の一環として「低金利政策」が採られたが、資金は設備投資や消費にそんなに向かず、圧倒的に土地に向かったのである。
    筆者は「前川レポ-ト」の主旨そのものには賛成である。採用された政策も全部が間違ったとは思わないし、効果もある程度はあったと思われる。しかし今日の「不良債権問題」を考えると、「前川レポ-ト」の通りには進まなかったことに反省も必要と考える。もちろん一番の責任者は土地取り引きに係わった関係者であろう。まるで「たまごっち」を買うために行列を作っている高校生とそんなに変わらないことをやっていたのである。一体、そんなに高くなった土地にビルを建てても、採算が採れるか考えていたのだろうか。ちょっと計算すればわかることである。この点については「投機について」と言うテ-マで後日述べたい。
    次に政府の対策で間違ったり、不足していたと思われることを検証してみよう。筆者に特に問題と思われるのは次の2点である。
    1. 政府の政策があまりにも金融政策に偏重しており、財政出動が可能な限り削られた。要するに政府にとって安上がりの政策であった。そのためかバブルの最盛期には「赤字国債の発行」も瞬間的になくなったのである。地方の景気がいま一つ盛り上がらなかったのもこのせいであろう。(もっとも地方はバブル崩壊の悪影響も受けなかったが)
    2. 各種の既得権や制限が温存されたまま、政策が行われたため、内需の拡大に繋がりにくかった。
    現在の日本人の家庭には必要な物はほとんど揃っており(実際、日本のように家の中に置いてある品物のアイテム数が多い国は他にちょっとないであろう)、内需の拡大と言っても難しいだろうが、次に「内需拡大策」が採られる場合には、上記の2点に留意される必要があると筆者は考える。(たぶん無理と思われるが)
    日本では「円高局面」において流動性が過剰となりがちであるが、次の円高では資金がどこに流れるか大いに注目される。つまり次の「たまごっち」や「切手」は何かと言うことである。



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97/3/17(第7号)「政府の景気対策を考える」
97/3/10(第6号)「オリンピックと景気を考える」
97/3/3(第5号)「為替レ-トの動向を考える(その2)」
97/2/24(第4号)「為替レ-トの動向を考える(その1)」
97/2/17(第3号)「日本の金利水準と為替レ-トを考える」
97/2/10(第2号)「国と地方の長期債務残高を考える」
97/2/1(第1号)「株価下落の原因を考える」「今後の景気動向を考える」