経済コラムマガジン 平成9年2月10日より
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14/6/2(799号)
金利低下の背景

  • 世界中が低金利に

    あまり注目がなされていないが、いつの間にか日本の長期金利が0.57%まで低下している。長らく0.6%台でウロウロしていたが、先々週あたりから0.6%を切ってきた。市場の解説では、金利上昇を期待していた投資家が、なかなか金利上昇が起らないので痺れを切らし次々と日本国債を買ってきているという。

    市場参加者は、アベノミクスによって経済活動が活発になり資金需要が増えると予想していたと考えられる。したがって投資家は、一旦国債を売って様子を見ていたと思われる。たしかに日経新聞などは「消費税増税後に一旦落込むが、その後V字カーブを描いて日本経済は回復する」と連日しつこくキャンペーンを続けている(狙いは消費税10%への増税)。日経が言っているように本当に日本経済がV字回復するのなら、一旦日本国債を売るのが正解ということになる。

    しかし市場参加者は、日経の描く回復シナリオに疑問を持つようになっている。6月に公表されるという「成長戦略」に期待する者もほとんどいないのであろう。またかりに経済が成長するとしてもそれがわずかなら(年1%程度)、資金需要は出てこない。つまり市場参加者が経済の急回復を疑い始めていると筆者は見ている。


    日本だけでなく、米国でも長期金利が低下傾向にある。一年前(5月23日)、バーナンキFRB議長のQE3出口戦略への言及によって長期金利は3%までハネ上がった。しかしその後、市場は落着きを取り戻した。特に量的緩和の縮小が始まってから、逆に長期金利は低下している。直近の長期金利は2.47%と2.5%を切って来た。

    金利低下の理由は、日本の場合とほぼ同じと見られる。米国経済の回復が伝えられているが、各種の経済指標を見る限り、かってないほど回復力が弱いのである。またQE3の終了が金融緩和の終了とは考えないムードが出始めている。「終わり」が次の金融緩和の「始まり」と考えても良いのである。したがってQE3が終了すれば、長期金利が上昇するのではなく次のQE4を先取りして金利が低下する事態さえ有り得る。つまり直近の金利低下はこの先取りをさらに先取りしていると考えても良いのではないかと筆者は密かに思っている。


    金利が低下しているのは日米だけでない。欧州の金利低下が顕著である。特に2〜3年前財政破綻と騒がれた南欧諸国の長期金利(国債利回り)の低下が目立つ。ギリシャの長期金利の推移がこの代表である。

    ギリシャの国債利回りは09年10月まで安定的に5%程度で推移していた。しかしギリシャで政権交代が起り、新政権が前政権による財政の粉飾の実態をバラした。これをきっかけにギリシャ国債が叩き売られ、一時は金利が35%まで高騰した。ギリシャが財政破綻した影響は、同様に財政に問題を抱える南欧諸国に波及した。南欧諸国の国債も叩き売られ国債利回りは、ギリシャほどではないが上昇し、各国は新規の国債を発行できない事態に陥った。


    また間が悪く、欧州はリーマンショック後のバブル経済崩壊の最中にこのギリシャの財政破綻騒動に直面した。またEUの対応が遅く、有効な手が打たれなかった。それどころか10/7/5(第622号)「サミットの変質」で述べたように、何を勘違いしたのか欧州各国は、バブルが崩壊しているにもかかわらず緊縮財政に転換したのである。

    ギリシャ経済は極めて小さい。ところがこの極小のギリシャ経済に振回されたのがここ数年の欧州経済であった。通貨のユーロ統合や金融政策のECB(欧州中央銀行)集中によって、各国の金融政策の機動性が失われていた。そしてギリシャ野問題は財政赤字が原因といった極めて単純な連想ゲームで、南欧諸国の国債が次々と売られたのである。

    筆者は、これに対するEUの対応のまずさもさることながら、欧州各国が緊縮財政に転換したことを問題にしたい。南欧諸国の国債利回りは上昇したが、むしろドイツや英国の国債は買われ金利が低下したにもかかわらず、欧州各国が緊縮財政に走った。この出来事の影響は日本にも及び、財政再建論がまさに「正義」という完全に間違ったムードが日本中に広がった。この結果、野田政権によって消費税の10%への増税が押し進められたのである。ちなみに13/9/16(第769号)「利払い額のGDP比率の推移」で示したように、ギリシャ危機の間、日本の長期金利は1.4%から1.2%に低下している。


  • ますます資金の運用は困難に

    ところがギリシャなどの南欧諸国の長期金利(国債利回り)がここ一年半の間に急速に低下している。この動きにECBによるEU各国国債の買入れが効いたことはたしかである。しかし南欧諸国の財政状態が特段良くなったということではない。

    筆者は、ギリシャのケースは例外中の例外だったと理解している。国債が利回りが35%に上昇する事態(他の南欧諸国も10%を越えた)は通常有り得ない。あれは単なるパニックだったのである。もしギリシャがユーロに参加していなかったら、このようなパニックには直面することはなかったと筆者は考える。


    5%であったギリシャ国債は、一旦35%まで高騰したが、直近では6.5%程度まで低下している。また他の南欧諸国の長期金利も5%を切る水準まで低下している。筆者は、これらの国々の国債利回りは今後さらに低下するものと見ている。

    ECBが各国の国債を買うことを決断したため、国債市場は一転して落着いたのである。これでEU加盟国の国債のデフォルトはないという判断が市場に広まった。それなら「EU加盟国への融資の基金」など面倒な回り道をせず、最初からこれをやっておけば良かったと筆者子は思っている。おそらく中央銀行が国債を買うという経験がなかったドイツとフランスの拒絶感が強く、この政策の実施が遅れたのであろう(ドイツ人はそれをやるとインフレ(物価上昇)が起るといった間抜けたことを言っていたと考えられる)。


    今日の世界の金利動向を見る際、世界的な金余りの存在を認識しておく必要がある。たしかにギリシヤの財政危機が一時的なパニックで収まり、あまり時を置かず平静を取り戻したのは、適切なECBの金融政策の大きな成果である。しかしギリシャなど南欧諸国の国債利回りがここまで低下した背景には、世界に膨大な資金の余剰が存在するからと筆者は理解している。

    たしかにECBの国債買入れは国債価格安定のきっかけを提供した。しかしそれ以降の長期金利低下は、投資家がギリシヤなどの南欧諸国の国債をどんどん買ったからである。ところが前述のように南欧諸国の財政が良くなった訳ではない。単にデフォルトは回避されそうという観測だけで国債が買われているに過ぎない。


    とにかく今日の世界では膨大な資金が余っている。4年前10/8/9(第627号)「世界に広がるデフレ」で、当時でも世界の金融資産が200兆ドルもあると述べた。おそらく今日では300兆ドル(3京円)程度まで膨らんでいると想定される。

    しかしそのような膨大な資金を使い切ることは不可能である。新興国の経済も一頃のような勢いはない。その次の発展途上国の経済規模はずっと小さくなる。投資家(金融機関)も金融資産を預かるのは良いが、一定の利回りを得る運用先を探し出すことがますます難しくなっているのである。


    したがってデオルトの可能性さえ低いのなら、高利回りのギリシャ国債なんて格好の運用対象なのである。むしろ35%の時にギリシャ国債を買っておくべきだったと、資金運用の担当者はほぞを噛んでいるに違いない。ギリシャ国債の例でも分かるよう、一旦中央銀行が国債を買い入れるとなれば、極端な高金利という事態は有り得ない。


    ましてや日本国債の金利が高騰するといったことは考えられない。ところが日本の御用学者は、また国債利回りの高騰を警告する論を展開している。日経5月25日の「経済論壇から」(土居丈朗慶大教授担当)では、深尾光洋慶大教授の文章(週刊エコノミスト)を紹介している。

    これによると長期金利が2%上がれば、日銀は7年間で26兆円の損失を抱えると読者を脅している。しかしこの文章の紹介者である土居教授は2%の金利上昇の道筋や原因を全く示していない。もちろん筆者はそちらの方に関心がある。これから消費税の10%への増税ムードを作るため、また御用学者の得体の知れない文章が頻繁に世間に現れそうである。



来週は、今週の続きを予定している。



14/5/26(第798号)「政策目標の変更」
14/5/19(第797号)「「美味しんぼ」騒動」
14/5/12(第796号)「使えない経済指標」
14/4/28(第795号)「推理小説のような中国経済の実態」
14/4/21(第794号)「中国1〜3月期のGDP成長率」
14/4/14(第793号)「日本のマスコミの問題体質」
14/4/7(第792号)「ウクライナとロシアの関係」
14/3/31(第791号)「怪しくなったアベノミクスの行方」
14/3/24(第790号)「中国のバブル生成の過程」
14/3/17(第789号)「バブル経済崩壊の序章」
14/3/10(第788号)「中国経済にまつわる奇妙な話」
14/3/3(第787号)「中国経済に変調(その2)」
14/2/24(第786号)「中国経済に変調」
14/2/17(第785号)「経済戦略会議から15年」
14/2/10(第784号)「理論と現実の狭間・・金利編」
14/2/3(第783号)「経済理論と現実の狭間」
14/1/27(第782号)「なつかしい経済理論の復活」
14/1/20(第781号)「窮地に立つリフレ派」
14/1/13(第780号)「新春のトピックス」
13/12/23(第779号)「周辺国の異常行動」
13/12/16(第778号)「ピカピカのバランスシート」
13/12/9(第777号)「中谷巌氏の変心」
13/12/2(第776号)「何処に行った経済成長戦略」
13/11/25(第775号)「アベノミクスの行方」
13/11/18(第774号)「ここ一ヶ月の出来事」
13/10/14(第773号)「虚言・妄言の判断基準」
13/10/7(第772号)「消費税増税、次の焦点」
13/9/30(第771号)「消費税にまつわる諸問題」
13/9/23(第770号)「「声なき声」が届くか」
13/9/16(第769号)「利払い額のGDP比率の推移」
13/9/9(第768号)「利払い額で見る財政の健全性」
13/9/2(第767号)「消費税増税は雲行きが怪しくなった?」
13/8/26(第766号)「財政が危機という怪しい話」
13/8/10(第765号)「消費税増税は絶対に避ける道」
13/8/5(第764号)「消費税増税を促す包囲網」
13/7/26(第763号)「参議院選の結果を考える」
13/7/15(第762号)「アベノミクスの評価他2件」
13/7/8(第761号)「デフレに興味のない大新聞」
13/7/1(第760号)「日経新聞の論説の特徴」
13/6/24(第759号)「アベノミクスを牽制する人々」
13/6/17(第758号)「長期金利上昇で騒いでいる人々」
13/6/10(第757号)「雲行きが怪しいデフレ脱却」
13/6/3(第756号)「財政再建論者のサークル」
13/5/27(第755号)「財政の2010年問題」
13/4/29(第754号)「国民一律の年金」
13/4/22(第753号)「日銀のリスク資産購入」
13/4/15(第752号)「異次元の金融政策」
13/4/8(第751号)「久しぶりの「朝まで生テレビ」」
13/4/1(第750号)「不穏な中国と日本の安全保障」
13/3/25(第749号)「TPPの基本は友好」
13/3/18(第748号)「日本の雪崩的輸出の歴史」
13/3/11(第747号)「TPP交渉と日本警戒論」
13/3/4(第746号)「TPPの実態」
13/2/25(第745号)「有り得る軍事的衝突」
13/2/18(第744号)「群盲象をなでる」
13/2/11(第743号)「まず印紙税の廃止」
13/2/4(第742号)「「構造改革」と「規制緩和」の本当の姿」
13/1/28(第741号)「意志を持った「やじろべい」」
13/1/21(第740号)「金融政策に対する提言」
13/1/14(第739号)「年頭にあたり」
12/12/31(第738号)「中央銀行の働きの変化」
12/12/24(第737号)「日銀とFRBの違い」
12/12/17(第736号)「師走の総選挙の感想」
12/12/10(第735号)「建設国債引受け発言の波紋」
12/12/3(第734号)「先進国だからデフレ」
12/11/26(第733号)「総選挙の行方」
12/11/19(第732号)「残る経済成長路線」
12/11/12(第731号)「先進国における経済成長」
12/11/5(第730号)「投資と経済成長」
12/10/29(第729号)「プラスアルファーの議論」
12/10/22(第728号)「アラン・ブラインダー教授の文章」
12/10/15(第727号)「バランスを欠いた報道」
12/10/8(第726号)「中国からの撤退も視野に」
12/10/1(第725号)「中国の反日暴動に対する感想」
12/9/24(第724号)「本誌の中国問題ダイジェスト」
12/9/17(第723号)「技術流出と日本の伝承文化」
12/9/10(第722号)「技術流出の現状」
12/9/3(第721号)「知的所有権の話」
12/8/27(第720号)「最近の出来事」
12/8/6(第719号)「御用学者の話」
12/7/30(第718号)「増税マニア達は現実離れ」
12/7/23(第717号)「吉川洋東大教授の文章」
12/7/16(第716号)「消費税増税が待ち遠しい?」
12/7/9(第715号)「消費税は「鬼門」」
12/7/2(第714号)「増税騒動の感想」
12/6/25(第713号)「今日の諸情勢の変化」
12/6/18(第712号)「世界中「展望がない」」
12/6/11(第711号)「schole(スコレー、暇)の話」
12/6/4(第710号)「ギリシャ化の話」
12/5/21(第709号)「単式簿記の世界」
12/5/14(第708号)「文春と朝日の関係」
12/4/30(第707号)「続・増税論議と文芸春秋」
12/4/23(第706号)「増税論議と文芸春秋」
12/4/16(第705号)「増税論議と政界」
12/4/9(第704号)「増税派の人々」
12/4/2(第703号)「松下政経塾政治家と増税」
12/3/26(第702号)「英国の永久債発行」
12/3/19(第701号)「過去の号の修正」
12/3/12(第700号)「本誌700号に寄せて」
12/3/5(第699号)「投資顧問AIJの事件」
12/2/27(第698号)「橋下維新政党へのコメント」
12/2/20(第697号)「地方自治体と通貨」
12/2/13(第696号)「デフレ経済下での増税」
12/1/30(第695号)「無税国家への道」
12/1/23(第694号)「世界的な金利低下」
12/1/16(第693号)「過剰貯蓄による災い」
12/1/9(第692号)「バーチャルな話」


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