経済コラムマガジン 平成9年2月10日より
経済コラムマガジン


ゴールデンウィークの連休につき来週号は休刊、次回号は5月12日を予定

14/4/28(795号)
推理小説のような中国経済の実態

  • 中国のGDP関連指標

    まず4月16日に公表された中国のGDP関連の各種指標を示す。これは中国国家統計局が公表し、17日の日経新聞に掲載されたものである。ただし形式は日本政府が定期的に公表する日本のGDP関連指標とはかなり違う。数字は前年同期、あるいは同月比伸び率である。また通貨供給量は期末比、投資の3月は1〜3月を示す。

    中国のGDP関連指標(1)
    14年1〜2月14年3月
    生産(工業生産)8.68.8
    投資(固定資産投資)17.917.6
    消費(小売売上高)11.812.2


    中国のGDP関連指標(2)
    13年通年14年1〜3月
    実質成長率7.77.4
    住宅販売額26.6▲7.7
    平均可処分所得(都市)7.07.2
    通貨供給量(M2)13.612.1


    数字を見る限り、先週号で述べたように住宅販売額を除き変哲のない結果と感じられる。たしかにこれまでのような高度成長とは言えないが、いまだに中国は世界でトップクラスの経済成長を続けていることを示している。


    ただ中国政府が正しく公表しているかは別として、日本などの先進国のGDP統計に慣れた者にとっては、中国の公表する数字には違和感を持つ。日本などは、消費、設備投資、公共投資などの需要項目の寄与度を積み上げてGDP成長率を公表している。また輸出は需要項目の一つとして加算され、輸入は反対に減算される。

    日中で共通するのは、実質成長率という「項目」だけである。日経新聞のスペースの問題なのか、中国が公表した数字として掲載されていたのはこれだけである。ともあれ日経新聞は、たったこれらの数字から「中国、安定成長へ手探り」「地方で不動産下落」「政府、融資抑制を主導」「3月生産・消費上向き」といった記事に仕上げているのだから驚く。実質成長率の構成がどうなっているのか、あるいはどのようにして算出されているのか外部からは分からない。


    中国の経済の実態については、中国政府首脳部もよく分からないという話をよく聞く。まず中央政府に届く地方政府のデータが信頼できないのである。比較的、信用できるデータは、電力の使用量や貨物輸送量など限られているという話である。

    また自動車の生産台数や販売台数は、外資系メーカのシェアーが大きいためある程度は信頼できると考えられる。1〜3月の新車販売台数が前年同期比9%増と一応プラスである。たしかにこれが本当なら、生産(工業生産)と消費(小売売上高)が底堅く推移していることの裏付けにはなるかもしれない。とにかく中国経済の実態把握は手探りである。


  • いまだに公表されない住宅価格動向

    中国経済の実態把握はまさに推理小説の世界である。比較的信頼できる経済数字を基に、全体を推理する他はない。比較的信頼できるのは、前段で取上げた自動車のように外資のシェアーの大きい産業の数字や貿易絡みの数字である(ただし最近まで香港向けの輸出額は、資金持込みのため実態より膨らんでいた)。しかし中国の輸出が不振になっているというデータはあるが、これがどの程度GDPに影響しているのか外部からは分からない。

    ただGDP統計の公表が遅れたという客観的事実自体が、中国経済に変調が起っている証拠と筆者は見なしている。筆者だけでなく、世界中の経済関係者は最近の中国経済の異変に気付いていると思われる。もちろんこのことを中国政府も意識して、公表に慎重となり、今回のGDP統計の公表遅れとなったと考えられる。


    先週、筆者は二つの中国経済に関する数字を待った。一つはHSBCが発表する3月の製造業購買担当者景気指標(PMI)の速報値である。これは予告通り23日に発表された。これによると2月の確定値48.0から3月は48.3とわずかに改善している。しかし好不況の分かれ目である50を依然下回っている。

    HSBCのPMIは、比較的信頼されている数値である。3月に若干上向いたと言え、50を下回っている。これと生産(工業生産)がわずにプラスになっていることと、はたして整合性が取れるのか疑問である。ただ今のところ中国の実態経済が急激に悪化している様子は見られない。ちょうど踊り場にあるのではと筆者は思っている。


    筆者が注目していたもう一つの数字は、主要70都市の3月の住宅価格動向である。これはGDP統計と同様、中国国家統計局が前月分を公表するもので、3月は18日に明らかになっている。しかし今月はいまだに3月分が公表されていない。

    筆者は、GDP統計と同じように「何事かあったのでは」と推理する他はないと考える。不動産バブルの崩壊が噂されている中国において、この数字は重要である。昨年12月になって、初めて不動産価格が2都市で下落した。それまで中国全土で不動産価格は上昇を続けてきただけに、この変調は注目された。これが1月になって下落が6都市に増えた。

    これを見て筆者は、さらに2月分(3月公表)に注目した。もちろん不動産価格下落の都市数がどれだけ増えるか興味のあるところであった。ところが予想に反して下落した都市は4ケ所と減ったのである。バブル状態の不動産価格というものは性質上、一旦下がり始めたらさらに下がり続けるものである。中国の公表では、価格が下がった都市で再び上昇したことになる。ちょっと有り得ない話である。つまり筆者は、2月分(3月公表)から数字は既に操作されていたと思っている。


    当然、3月分(4月公表)も操作されたものと考えている。しかもなかなか公表されないのである。この状況は、この統計の重要性に中国政府も気付いたからと筆者は解釈している。もし統計が不動産バプル崩壊の兆しを示すとしたなら、中国全土にパニックを起こす可能性がある。これを避けるには、統計を大きく操作するか公表を止めるしかないのである。しかし住宅販売額の急減を見ても分かるように、中国の不動産バブルの崩壊はほぼ確実である。

    このように中国に関しては、公表される数字だけではなく公表のされ方も大事である。同様に中国高官の発言も行間を読む必要がある。商船三井の輸送船拘束について、中国政府は「これは民間の問題であり、中国政府は関係がない。中国政府は日中共同声明(戦後賠償は解決済み)を断固守る立場」と弱気な発言をしている。以前なら「司法判断に政府は口出しはできず、全面的に日本の対応の方が悪い」と強弁していたはずである。興味があるのは供託された40億円の今後の行方である。

    おそらく外国からの対中投資がかなり減っていることが窺える(急激に増やしているのは韓国だけ)。中国にとって外国からの投資は、投資による乗数効果より技術移転といった面の方が重要である。商船三井の一件は、日本だけでなく他の国からの投資にも大きな影響があると考えられる。そうでなくても最近の外国からの投資の中心が、技術移転を伴う製造業から、いつでも撤退できるサービス業に変わっている。また今回の一件は、習近平政権が末端までコントロールできなくなっている現状を示しているのではと筆者は感じている。


    不動産価格の下落は、いずれ実態経済の悪化に繋がる。しかし自動車の販売動向などを見る限り、いまだに中国経済はそれほど大きな減速に到っていない。おそらく悪影響が出てくるのはこれからであろう。ちなみに上海総合指数は、中国政府の景気対策を期待して先日まで上昇していた(景気対策と言っているのだから経済状態は良くないのであろう)。しかし先週末にかけかなり下落し、2,000ポイントの大台に再び接近している。



ゴールデンウィークの連休につき来週号は休刊である。次回号は5月12日を予定。



14/4/21(第794号)「中国1〜3月期のGDP成長率」
14/4/14(第793号)「日本のマスコミの問題体質」
14/4/7(第792号)「ウクライナとロシアの関係」
14/3/31(第791号)「怪しくなったアベノミクスの行方」
14/3/24(第790号)「中国のバブル生成の過程」
14/3/17(第789号)「バブル経済崩壊の序章」
14/3/10(第788号)「中国経済にまつわる奇妙な話」
14/3/3(第787号)「中国経済に変調(その2)」
14/2/24(第786号)「中国経済に変調」
14/2/17(第785号)「経済戦略会議から15年」
14/2/10(第784号)「理論と現実の狭間・・金利編」
14/2/3(第783号)「経済理論と現実の狭間」
14/1/27(第782号)「なつかしい経済理論の復活」
14/1/20(第781号)「窮地に立つリフレ派」
14/1/13(第780号)「新春のトピックス」
13/12/23(第779号)「周辺国の異常行動」
13/12/16(第778号)「ピカピカのバランスシート」
13/12/9(第777号)「中谷巌氏の変心」
13/12/2(第776号)「何処に行った経済成長戦略」
13/11/25(第775号)「アベノミクスの行方」
13/11/18(第774号)「ここ一ヶ月の出来事」
13/10/14(第773号)「虚言・妄言の判断基準」
13/10/7(第772号)「消費税増税、次の焦点」
13/9/30(第771号)「消費税にまつわる諸問題」
13/9/23(第770号)「「声なき声」が届くか」
13/9/16(第769号)「利払い額のGDP比率の推移」
13/9/9(第768号)「利払い額で見る財政の健全性」
13/9/2(第767号)「消費税増税は雲行きが怪しくなった?」
13/8/26(第766号)「財政が危機という怪しい話」
13/8/10(第765号)「消費税増税は絶対に避ける道」
13/8/5(第764号)「消費税増税を促す包囲網」
13/7/26(第763号)「参議院選の結果を考える」
13/7/15(第762号)「アベノミクスの評価他2件」
13/7/8(第761号)「デフレに興味のない大新聞」
13/7/1(第760号)「日経新聞の論説の特徴」
13/6/24(第759号)「アベノミクスを牽制する人々」
13/6/17(第758号)「長期金利上昇で騒いでいる人々」
13/6/10(第757号)「雲行きが怪しいデフレ脱却」
13/6/3(第756号)「財政再建論者のサークル」
13/5/27(第755号)「財政の2010年問題」
13/4/29(第754号)「国民一律の年金」
13/4/22(第753号)「日銀のリスク資産購入」
13/4/15(第752号)「異次元の金融政策」
13/4/8(第751号)「久しぶりの「朝まで生テレビ」」
13/4/1(第750号)「不穏な中国と日本の安全保障」
13/3/25(第749号)「TPPの基本は友好」
13/3/18(第748号)「日本の雪崩的輸出の歴史」
13/3/11(第747号)「TPP交渉と日本警戒論」
13/3/4(第746号)「TPPの実態」
13/2/25(第745号)「有り得る軍事的衝突」
13/2/18(第744号)「群盲象をなでる」
13/2/11(第743号)「まず印紙税の廃止」
13/2/4(第742号)「「構造改革」と「規制緩和」の本当の姿」
13/1/28(第741号)「意志を持った「やじろべい」」
13/1/21(第740号)「金融政策に対する提言」
13/1/14(第739号)「年頭にあたり」
12/12/31(第738号)「中央銀行の働きの変化」
12/12/24(第737号)「日銀とFRBの違い」
12/12/17(第736号)「師走の総選挙の感想」
12/12/10(第735号)「建設国債引受け発言の波紋」
12/12/3(第734号)「先進国だからデフレ」
12/11/26(第733号)「総選挙の行方」
12/11/19(第732号)「残る経済成長路線」
12/11/12(第731号)「先進国における経済成長」
12/11/5(第730号)「投資と経済成長」
12/10/29(第729号)「プラスアルファーの議論」
12/10/22(第728号)「アラン・ブラインダー教授の文章」
12/10/15(第727号)「バランスを欠いた報道」
12/10/8(第726号)「中国からの撤退も視野に」
12/10/1(第725号)「中国の反日暴動に対する感想」
12/9/24(第724号)「本誌の中国問題ダイジェスト」
12/9/17(第723号)「技術流出と日本の伝承文化」
12/9/10(第722号)「技術流出の現状」
12/9/3(第721号)「知的所有権の話」
12/8/27(第720号)「最近の出来事」
12/8/6(第719号)「御用学者の話」
12/7/30(第718号)「増税マニア達は現実離れ」
12/7/23(第717号)「吉川洋東大教授の文章」
12/7/16(第716号)「消費税増税が待ち遠しい?」
12/7/9(第715号)「消費税は「鬼門」」
12/7/2(第714号)「増税騒動の感想」
12/6/25(第713号)「今日の諸情勢の変化」
12/6/18(第712号)「世界中「展望がない」」
12/6/11(第711号)「schole(スコレー、暇)の話」
12/6/4(第710号)「ギリシャ化の話」
12/5/21(第709号)「単式簿記の世界」
12/5/14(第708号)「文春と朝日の関係」
12/4/30(第707号)「続・増税論議と文芸春秋」
12/4/23(第706号)「増税論議と文芸春秋」
12/4/16(第705号)「増税論議と政界」
12/4/9(第704号)「増税派の人々」
12/4/2(第703号)「松下政経塾政治家と増税」
12/3/26(第702号)「英国の永久債発行」
12/3/19(第701号)「過去の号の修正」
12/3/12(第700号)「本誌700号に寄せて」
12/3/5(第699号)「投資顧問AIJの事件」
12/2/27(第698号)「橋下維新政党へのコメント」
12/2/20(第697号)「地方自治体と通貨」
12/2/13(第696号)「デフレ経済下での増税」
12/1/30(第695号)「無税国家への道」
12/1/23(第694号)「世界的な金利低下」
12/1/16(第693号)「過剰貯蓄による災い」
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