経済コラムマガジン 平成9年2月10日より
経済コラムマガジン




14/4/7(792号)
ウクライナとロシアの関係

  • 平板なマスコミの報道・解説

    今週は予定通りウクライナを取上げるが、ウクライナ状勢は落着きいささか時期を失した感はある。しかし今後もこの地域は世界から注目を集めると思われる。したがってウクライナについて言及することが無意味ということにはならない。

    筆者は、マスコミのウクライナ報道とこの解説がちょっと平板過ぎることが気になっている。もっと違った角度からの分析が必要な気がする。もっとも筆者にウクライナ・ロシアについて専門的な知識・知見があるわけではない。ただ日本のマスコミには、暗黙のうちに物事の解釈を一定の方向に持って行こうという問題のある性癖がある。今回のウクライナ問題でも同様の動きがあることが垣間見られる。

    ウクライナに関して専門家も色んな考えや予測があり、筆者も色々と聞きたいと思っている。しかし彼等もマスコミが敷いた路線からはみ出したコメントは難しい状況に置かれていると見られる。この結果、前述のようにウクライナ問題の捉え方が極めて平板なものになってしまっている。


    日本のマスコミの報道と解説は大体次のようになっている。「ウクライナは、東部と南部に多くのロシア人が住みその他の地域に住むウクライナ人との間に対立がある。ウクライナ人はEUに近付くことを望み、一方、ロシア系の人々はロシアとの関係を強化したがっている」「東部出身でロシア人のヤヌコビッチ前大統領は、それまでのEU加入というウクライナの方針を覆し、ロシアに接近しロシアから資金援助の約束を獲得した。これにウクライナの対露強行派(保守派、あるいは極右勢力と呼ばれる)が強く反発し、最終的に大統領を追い出した。特に大きな不正蓄財をしていたことが改めて明らかになり、一般のウクライナ国民の強い反感を買い彼等もこれに同調した」。

    「ロシアのプーチン大統領は、ウクライナの混乱に乗じ、クリミア半島併合に動いた。クリミア半島(クリミア自治共和国)は1954年までロシア管轄であった。ここにはロシア人が多く住み、重要な黒海艦隊の基地であるセバストポリがある」「ソ連崩壊後の1997年にロシアは、ウクライナとの間でセバストポリにロシア艦隊が2017年まで駐留する契約を結んだ。ただヤヌコビッチ前大統領は、2010年、ロシアとさらに25年の駐留延長を約束している。ところがヤヌコビッチ政権を倒す主役となったウクライナの対露強行派は、基地の即刻返還をロシアに要求していた。ロシアはこれに危機感を抱いた」。

    「国際世論は、ロシアに対して厳しい。ロシアの行動を世界秩序を力で変更するものという解釈である。このような動きを黙認すれば、他の国、例えば中国などにも間違ったメッセージを与えることになると考えられる」「米国を中心に対露制裁が策定された。しかしG7の中でも足並みが揃っていないのも現実である。EUはロシアから天然ガスの供給を受けており、日本はロシアと北方領土の問題を抱え、またプーチン大統領の来日予定がある。米国は対露制裁のさらなる強化と唱えているが、他の主要国との間には温度差がある」。ざっと簡単にまとめればこのようなものになろう。


    しかし対露制裁と大袈裟に言われている割には、腰の引けた内容である。市場も、ロシアのクリミア半島併合の動きが明らかになった瞬間はさすがに動揺した。しかし事が進むにつれ落着きを取り戻し、ウクライナ状勢の影響はほとんどなくなったと言える。


  • 生っ粋のロシア人

    筆者は、前段のようなウクライナ状勢の捉え方は決して間違ってはいないが、何か物足りないと感じていた。そこで筆者もウクライナとロシアについて少し調べてみた。手間の掛からない方法としてネットの情報も参考にした。すると両国に関して今日マスコミが伝えるものとは少し違った姿が見えてきた。


    筆者達、日本人はロシアやロシア人に対してある形のイメージを持っている。まず崩壊前のソ連も現在のロシアと同じようなものといった見方をしていた。正直言って、ウクラナイ人とロシア人の違いが重要とは思っていなかった。昔の大鵬の片親が白系ロシア人(共産主義革命に反発・拒否したロシア人)という話は誰でも知っている。しかし実際はウクライナ人(つまり正確には白系ウクライナ人)だったという話を今回の騒動で始めて知ったほどである。

    筆者と同様にほとんどの人は、ソ連はロシア人が中心となり周辺国を巻込んだ共産主義国家という認識を持っていたと思う。また筆者達には「生っ粋のロシア人」、つまりロシア生まれのロシア人というイメージがある。そしてこの「生っ粋のロシア人」こそがソ連をも支配していたといった思い込みが筆者にも有り、これがほぼ世間の常識となっていたと考える。漢人が他民族国家である中国の全体を支配しているのとちょうど同じという発想である。


    ところが調べてみると、驚くことにソ連の主要な歴代のトップには「生っ粋のロシア人」がいないと言えるのである。ちなみに主要な歴代のトップとはレーニン、スターリン、フルシチョフ、ブレジネフを指す。トップという表現したのは、ソ連の場合最高権力者の呼称が書記長、第一書記など時とともにコロコロ変わったからである。

    レーニンはロシアのボルガ河畔生まれので、ドイツ・スウェーデン系ユダヤ系のロシア人と言われている。父方の曾祖父はモンゴル系と言う話まである。スターリンはグルジア系ロシア人と言われているが、グルジア語を話すグルジア人といった方が良い。フルシチョフとブレジネフは同じウクライナの東部出身(つまりロシア人が多く住む地域)であるが、前者がウクライナ人で後者がロシア人である。たしかにソ連、またはロシアにしても多くの民族が交錯した地域だけにとても複雑である。

    そしてこのような血筋だけででなく、宗教や言語・習慣が違う人々(民族)を超越してたばねてきたのが「共産主義」という観念(イデオロギー)である。しかしソ連崩壊によって、これが空中分解したのである。ちなみにユーゴスラビアの分裂によって、数々の民族対立が生じたがこれもイデオロギーの重しがとれた際の出来事と捉えられる。


    今回のクリミヤ半島のロシア併合に関しては、フルシチョフが深く関係している。ウクライナ生まれのウクライナ人のフルシチョフが1954年に半島をウクライナに編入したのである。ただソ連は一つという観念があり、当時、この強引な編入にあまり抵抗はなかったと推察される(それどころか世界はそのうち一つの共産主義国家になるといったユートピア思想があった)。しかしこれがソ連崩壊後の今日まで問題を残したとも言えるのである。ちなみにフルシチョフは、ナチスドイツの侵入に備えウクライナの主要産業をロシア人が多く住む東部に移した。このため現在ウクライナ人が多く住む地域には農業しかなくなったという問題も残している。

    共産主義というイデオロギーが支配していたソ連という国家においては、出身地、宗教・言語・習慣など民族的な事柄は軽くあしらわれるか否定された。ところが前述のようにソ連崩壊によって、このような隠れた民族主義的発想が高揚してきたのである。これがウクライナとロシアの対立の根底にある。


    しかし両国の間に対立点しかないという考えも間違いと筆者は考える。少なくとも長年のソ連邦時代のしがらみあるだけでなく、両国には強い経済的な結び付きがある。つまり生活や経済というリアリズムによって両国の間になんらかの歩み寄りが見られるはずと筆者は考える。

    筆者の感想では、ロシアによるクリミヤ半島併合に関して、ウクライナの抵抗は極めて薄い。元々この半島には多くのイスラム教徒のタタール人が住んでいたが、スターリンがナチスとの協力関係を疑い彼等を中央アジアに強制移住させた。しかしロシアの方は、過去にクリミア戦争などで多大な犠牲を払った思い入れのある地である。対してウクライナ人とって関心が薄い地域とも言える(フルシチョフが気紛れで半島をウクライナに編入したと見られる)。またこの半島のほとんどは砂漠で、産業がなくウクライナからの水と電気に頼っている。


    筆者は、ウクライナとロシアの間では、現実的な解決がつくものと考えている。ウクライナでは大統領選が予定されているが、ヤヌコビッチ大統領追放の立て役者だったはずの対露強行派への支持はほとんどないという話である。ロシアと全面対決しても得られるものはないという冷静な判断が一般市民にあるからと見られる。

    ロシアの方も、建前上は現在のウクライナ政権を認めないと言っているが、次の選挙で選ばれた大統領は承認せざるを得ないであろう。プーチン大統領は、ウクライナに対してロシア系住民保護のために連邦制を要求している。ウクライナの新大統領しだいであるが、筆者はロシアとの間ではさらなる深刻な軍事対立はほぼないと思っている。米国オバマ大統領は何を考えているか分からないが、EUと日本は現実的な対応をする他はないと考える。



来週は、久しぶりに消費税を取上げる。

これまで中国のGDP成長率は、4半期が終わると直に公表されてきた。ところが1〜3月に関しては、4月も一週間過ぎるのにいまだ公表されていない。何事かあったのか。



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