経済コラムマガジン 平成9年2月10日より
経済コラムマガジン




14/3/24(790号)
中国のバブル生成の過程

  • 6,000万戸のマンション在庫は本当か?

    中国のバブル経済の崩壊が間近いことは、世間もほぼ認めていることと考える。ただ同様の観測がこれまで何回もなされてきたが、本格的なバブル崩壊に到ってこなかった。しかしこれは経済発展の段階において中国経済がまだ「若かった」ことや他の諸事情があったためであり、今回こそは本当のバブル崩壊は避けがたいと筆者は思っている。

    ただ統計などの信頼性の低い国だけに、何が真相なのか注意を払う必要がある。特に中国の場合、中央政府が自国の実情をどこまで掴んでいるのか不明であり、分析を一層難しくしている。


    ともあれ中国経済のバブル崩壊は、不動産バブルの崩壊に始まると筆者は予想している。ところがこの中国の不動産に関わる不可解な数字がいくつかある。一つが中国国家統計局が今月18日に発表した主要70都市の2月の住宅価格動向である。

    これによると2月に対前月で価格が下落したのは4都市となっている。しかしこの数字は昨年12月が2都市、そして1月は6都市に増えていた。筆者は2月は下落する都市数がもっと増えると予想したが、これに反し下落の都市数は逆に減少した。これまで世界の多くの国で不動産バブルの崩壊があったが、バブル崩壊が始まっているのに逆行して不動産価格が高くなるケースは稀と考えられる。だいたいマンションの値引き騒動があった杭州市が下落ポイントに入っていないということが解せない(下落していないということは杭州市の不動産価格が上昇したということなのか)。


    このように中国政府当局の公表する数字が怪しい。ただこの数字を伝える日経の特派員の小さな記事の最後に「今年に入り地方都市で住宅が値下がりする兆しが出ている」というコメント付け加えられている。ただしこれが中国当局の発言なのか日経特派員の感触なのか不明であり、むしろこのような点にこそ興味が引かれる。筆者は、この種の数字が極めて重要であるということに中国の当局がようやく気付いたのではと推理する。したがって当局発表の数字が脚色されていることが十分考えられる(かと言って脚色し過ぎると相手にされなくなる)。

    もし2月の下落した都市数がさらに増えたと発表した場合、これがパニックの引き金にも成りかねないのが今の中国と筆者は考える。どうも中国当局の発表は、色々なバランスを考慮した結果と筆者は見ており、来月の当局発表に注目するしかないと見ている。またこの記事によって、主要70都市以外の中小都市の不動産価格がかなり下落している様子が窺える。公表されていない中小都市の不動産価格の動向が何となく分かるのである。中国経済を考える時、このような中小都市の動きは案外重要である(中国政府はこのような地方の様子を正しく把握していない可能性がある)。


    もう一つの不可解な数字は、先週号で触れた「中国の6,000万戸のマンション在庫」である。筆者は、この数字に接した時、桁が一つ違って600万戸の間違いではないかと思った。しかしネットなどで調べると7,000万戸という数字まであるくらいなのである。どうも真相に近い数字のようである。

    たしかに中国では、全く人が入居しないマンションがどんどん建てられているという話はよく聞く。しかしその実態がよく分からないのである。しかしバブル生成の過程において、さすがに先進国ではやらないことが中国では平気で行われている可能性がある。この一つが地方政府主導の不動産開発である。


    まず6,000万戸程度の在庫があるということが異常である。ちなみに02/12/16(第278号)「零細企業・個人の借入金問題」の表で示したように、日本での最高の年間住宅新設着工戸数は170万戸くらいである(欧米の場合は住宅の耐用年数が長く、中古住宅の売買が盛んなため住宅新設着工戸数は日本に比べ少ない)。これから類推すると中国の年間住宅需要は、人口を考慮して10倍の1,500〜2,000万戸と推定される。つまり需要の3年分以上の異常な住宅在庫を中国は抱えていると見られる。

    ところで6,000万戸の在庫について、そのような住宅建設が可能なのかといった供給サイドからの疑問がある。しかしばかばかしいと感じる人がいるかもしれないが、これに関して筆者は、たまたま見ていた日テレ系のバラエティー番組イモト・ネプチューンの「世界番付け」に出演していた中国人女性の発言に注目した。彼女は、中国のビルは個々の部屋を工場で別に作りこれらを積み重ねて建設すると言っていた(先進国の建築基準法ではとても認められないであろう)。これによって一つのビル(マンション)建築の工期が数カ月(日本なら数年)と異常に短縮されるという話である(これはユニット建設という言うものなのか?)。しかしものによっては日本でも取り入れて良い工法かもしれない。

    つまり中国のビル(マンション)建設は諸外国に比べ異常に速いということである。また中国は、地権者の権利が軽く、地方政府は好きな所で不動産開発をバンバン進められる。そしてこのような状況から6,000万戸といった異常な過剰在庫を生んだといったストーリが成立つのである。


  • 日本のバブルとの相違

    リーマンショック後の中国経済の推移について述べる。リーマンショックは世界中の国に打撃を与えた。そこまで経済発展を続けていた新興国(BRICS)にも悪影響が及び、各国の経済成長率が落ちた。しかし新興国(BRICS)の中でしつこく経済成長を続けたのが中国であった。

    リーマンショック後も中国が経済成長を続けられたのは、4兆元(約60兆円と推算)の経済対策とそれに続く施策が効いたからと筆者は考える。ただし中国政府が財政支出したのは1兆元だけであり、残りの3兆元(約45兆円)は地方政府が捻出した。そして地方債が発行できないため地方政府は、理財商品を発行して(実際発行するのは信託会社)資金を調達した。どうも今日問題になっている理財商品は、そんなに古い金融商品ではないようである。


    地方政府は、その資金で空港をどんどん造ったり、不動産開発を進めた。特に不動産価格が上昇したので、借金(理財商品)の返済を考えて地方政府は不動産開発に傾注して行ったと見られる。その後も理財商品増発で資金の調達を行い、今日でも不動産開発をかなり強引に続けているのである。この結果、中国だけが新興国(BRICS)の中で高度成長を続けられてきたと筆者は推理する。

    理財商品は、地方政府だけでなく民間の石炭採掘業者なども発行するようになった。また金融機関の資金繰りのためにも発行されている。この結果、45兆円程度から始まった理財商品の発行総額は、最低でも170兆円(中国当局が把握している分)を大きく越えることになった。

    理財商品の購入者は、中国の富裕層だけでなく海外の投資家も加わっている。ただ海外投資家といっても一旦中国から資金を流出させタックスヘブンなどに資金を貯えていた中国人が大半と筆者は見ている。特に中国は、経常黒字が膨大であり、これには異常な人民元安が原因と国際的な批難が寄せられている。つまり元の先高観が根強くある。これに対し当局は、投機目的の海外からの資金流入を阻止しようと、最近、元売り介入まで行っている。しかし筆者は、元売り介入によって資金が国内にダブつき、これがまた理財商品購入などに流れるのではないかと思う。


    地方政府による異常な不動産開発は、多分に地方同士の競争に触発された面が大きい。地方政府のキャリア幹部は2〜3年の間隔で転勤する。出世するにはその短い期間で業績を上げる必要がある。その業績の一番の評価基準がこれまではより高い経済成長率であった。

    経済成長ための手っ取り早い手段が空港建設や不動産開発であったと考えれば良い。地方政府のキャリアは、今日までこの方針に沿ってばく進して来た。そしてこの結果、飛行機が飛ばない空港や6,000万戸ものマンション在庫が残ったというのが筆者の分析である。


    ただバブル生成の過程が、日本などと似ていることに筆者は注目している。日本の場合、円高不況を克服するためにの金融緩和に過度に依存する政策を採った。消費税導入などによって財政再建を目指す勢力が強く、円高不況対策への財政支出はセーブされたからである。このためバブル期においては、税収も増え財政は一旦黒字化したほどである。このことは「日本の財政は悪い」と洗脳されていた国民のほとんどが気付いていない。これはリーマンショックに対する経済対策で中国の中央政府が財政支出を1兆元にケチったことに似ている。

    一方、日本の民間は、東京が世界の金融センターになるといった怪しい話に踊らせられ、商業ビルをどんどん建てた。またこの時期、団塊の世代が住宅を購入し始めた。それまで住宅融資に見向きもしなかった都市銀行(チマチマした住宅融資ではなく、産業投融資こそが花形と思い込んでいた・・特に金融債を発行する債券発行銀行)も住宅融資は儲かると気付き、住宅融資を増やした。都市銀行は系列に住宅融資のための住宅融資専門会社(住専)を作っていたにもかかわらず、自ら住宅融資を拡大させたのである。このため系列の住専はよりリスクの高い不動産開発にのめり込むことになる。後にこのような不動産融資によって多額の不良債権が発生する。

    バブル崩壊で特に大打撃を受けたのが、長銀や興銀といった債券発行銀行である。これらの銀行が発行する金融債は、一見中国の理財商品と似ている。しかし日本の債券銀行は発行した金融債をちゃんと償還している。そのため溜め込んでいた資産を取崩し、また外資に身売りまでした。さすがに日本である。しかしこの金融債に似た理財商品を野方図に発行してきた中国はどうなるのか、筆者は静かに見守りたい。



中国関連の話は、一旦中断し、来週は日本の経済を取り上げる。



14/3/17(第789号)「バブル経済崩壊の序章」
14/3/10(第788号)「中国経済にまつわる奇妙な話」
14/3/3(第787号)「中国経済に変調(その2)」
14/2/24(第786号)「中国経済に変調」
14/2/17(第785号)「経済戦略会議から15年」
14/2/10(第784号)「理論と現実の狭間・・金利編」
14/2/3(第783号)「経済理論と現実の狭間」
14/1/27(第782号)「なつかしい経済理論の復活」
14/1/20(第781号)「窮地に立つリフレ派」
14/1/13(第780号)「新春のトピックス」
13/12/23(第779号)「周辺国の異常行動」
13/12/16(第778号)「ピカピカのバランスシート」
13/12/9(第777号)「中谷巌氏の変心」
13/12/2(第776号)「何処に行った経済成長戦略」
13/11/25(第775号)「アベノミクスの行方」
13/11/18(第774号)「ここ一ヶ月の出来事」
13/10/14(第773号)「虚言・妄言の判断基準」
13/10/7(第772号)「消費税増税、次の焦点」
13/9/30(第771号)「消費税にまつわる諸問題」
13/9/23(第770号)「「声なき声」が届くか」
13/9/16(第769号)「利払い額のGDP比率の推移」
13/9/9(第768号)「利払い額で見る財政の健全性」
13/9/2(第767号)「消費税増税は雲行きが怪しくなった?」
13/8/26(第766号)「財政が危機という怪しい話」
13/8/10(第765号)「消費税増税は絶対に避ける道」
13/8/5(第764号)「消費税増税を促す包囲網」
13/7/26(第763号)「参議院選の結果を考える」
13/7/15(第762号)「アベノミクスの評価他2件」
13/7/8(第761号)「デフレに興味のない大新聞」
13/7/1(第760号)「日経新聞の論説の特徴」
13/6/24(第759号)「アベノミクスを牽制する人々」
13/6/17(第758号)「長期金利上昇で騒いでいる人々」
13/6/10(第757号)「雲行きが怪しいデフレ脱却」
13/6/3(第756号)「財政再建論者のサークル」
13/5/27(第755号)「財政の2010年問題」
13/4/29(第754号)「国民一律の年金」
13/4/22(第753号)「日銀のリスク資産購入」
13/4/15(第752号)「異次元の金融政策」
13/4/8(第751号)「久しぶりの「朝まで生テレビ」」
13/4/1(第750号)「不穏な中国と日本の安全保障」
13/3/25(第749号)「TPPの基本は友好」
13/3/18(第748号)「日本の雪崩的輸出の歴史」
13/3/11(第747号)「TPP交渉と日本警戒論」
13/3/4(第746号)「TPPの実態」
13/2/25(第745号)「有り得る軍事的衝突」
13/2/18(第744号)「群盲象をなでる」
13/2/11(第743号)「まず印紙税の廃止」
13/2/4(第742号)「「構造改革」と「規制緩和」の本当の姿」
13/1/28(第741号)「意志を持った「やじろべい」」
13/1/21(第740号)「金融政策に対する提言」
13/1/14(第739号)「年頭にあたり」
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12/12/24(第737号)「日銀とFRBの違い」
12/12/17(第736号)「師走の総選挙の感想」
12/12/10(第735号)「建設国債引受け発言の波紋」
12/12/3(第734号)「先進国だからデフレ」
12/11/26(第733号)「総選挙の行方」
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