平成9年2月10日より
経済コラムマガジン


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98/8/31(第79号)


政治と経済の混乱を考える
  • 長銀への公金投入
    本誌は2週間の間休刊していたが、その間に経済をめぐる情勢は大きく変化している。世界的な株安の連鎖は続いており、円の為替レートも動きだしたようである。今週号では取り敢えず、長銀の問題と不況のきっかけとなった財政の再建問題について述べたい。
    金融再生関連六法案に関連して、野党は、政府の長銀への公的資金投入方針を攻撃している。一部マスコミも「破綻銀行への税金の投入」と、これも政府自民党への非難を強めている。政府自民党の構想は、今年始めに既に決定している「金融安定化への30兆円」の資金を使い、長銀に資本の注入を行なおうとするものである。この30兆円の内訳は、破綻前の銀行の資本充実のための13兆円と、銀行が破綻した場合の預金者保護を目的とした17兆円になっている。したがって今回長銀に投入しようとしている資金はこの資金である。投入には金融危機管理審査委員会の承認が必要である。そしてこの承認にはその銀行が債務超過ではない、つまり健全であることと経営のリストラ案が必要であり、今回については合併による大幅な合理化が前提となっていると考えられる。筆者は合併だけが大手銀行の再建方法とは考えないが、大きな資本投入には合併することが暗黙のルールになっているようである。
    したがって現在「金融再生関連六法案」が審議されているが、与野党間に「すれ違い」が生じているのである。与党は、大手銀行の処理には、この「金融再生関連六法案」にあるブリッジバンク制度の適用を考えていないからである。かりに適用があるとしたら、その破綻銀行に合併相手が全くないケースだけであろうが、しかしそのような事態は想定していないようである。つまり大手銀行は破綻する前に、公的資金を使うことにより、破綻の回避を行なうのである。まさしくこれがソフトランディングである。一方、野党は、与党の「ブリッジバンク構想」が当然大手の銀行にも適用されるものと誤解していたのではないかと思われる。つまり今回の長銀への公的資金の投入の方針は、野党にとって全くの「肩透かし」なのである。野党の案は、実質的に基本的に預金者を保護するだけであり、破綻しそうな銀行は清算されることになる。
    たしかに与党の方法では経営責任についてはあいまいである。高額の役員退職金の返還も話題になっているが、これもこれらの旧役員の自主性に期待する他はないのである。しかし、旧経営者への責任追及といっても難しいことである。明らかに法律に違反する行為があったらなら別であるが、形式的に正しく段取りをとって経営が行なわれていたのなら、法的にこれらの人々の責任を追及するのは困難である。ましてこれから新しい法律を作って、過去の行為を罰することは不可能である。
    野党案では清算に伴う融資先の混乱を考慮していない。現在野党はこの欠陥をカバーするため、国の出資による信用保証機関の設置などを検討しているらしいが、全くの泥縄である。今後銀行の破綻が続けばこの機関がどんどん大きくなるのである。実質的にはこれは新たに国家公務員が日々貸し付け業務を行なう巨大銀行ができると言うことであり、全く現実的ではない。これだけ信用不安が広がり、全ての銀行が自己資本比率を維持するため貸し出しを渋っている現状では、全ての融資先が簡単に代りに融資をしてくれる銀行を見つけることはできない。そしてこれが社会に与える影響の大きさはちょっと予想がつかない。デリバティブなどの清算さえどのような影響があるのか不明である。民主党はデリバティブなどの清算は担保が差し入れてあるから問題がないと主張するであろうが、当の民主党も最近デリバティブの契約書を手にいれて勉強中と言うことであるから全く当てにならない。
    筆者は、金融の安定にはソフトランディングしかないと考えている。これは北海道拓殖銀行の破綻で学習済みのことである。北海道経済は危機的状況と言われているが、本格的に悪くなるのはこれからである。拓殖銀行の業務を引き継いだ北洋銀行の融資先の選別が最終局面を向かえるからである。拓殖銀行が存続していたら融資が継続されていたかもしれない企業も、北洋銀行では融資対象から外れるケースも出てくるのである。このようなケースがどれだけあるのかが注目されている。長銀は事実上破綻状態であるが、住友信託への吸収合併にこだわるのも、日本では融資元の移動がなかなかスムーズには進まないからである。
    野党は、長銀への資金投入には、長銀の経営内容が十分開示されていないと主張している。これはもっともなことと聞こえるが、どれだけ状況が開示されても、これでよいと言うことにはならないはずである。そもそも野党は金融安定のために用意された30兆円にも反対なのである。特に民主党は金融安定法の廃止を主張しているくらいなのだから、議論がかみ合うはずはないのである。日本は昨年からのアジアの金融危機に対して、既に長銀への資金投入予定額の数倍の資金を支出している。これらの資金は政府系金融機関からの融資の形をとっているが、最終的には政府が責任を持つ。しかし、これらの融資が実効される際には、その国の経済状況の開示が問題にはされることはない。実際これらの融資が無事に回収されるかどうか現状では不明である。他国への融資には寛大であるのに、どうして自分の国の金融機関には過剰に厳しいのか理解できない。
    長銀への資金投入は、長銀が発行する優先株の取得と言う形をとっている。ところがマスコミは、これを「我々の税金の投入」と言う表現を使っている。合併銀行により再建がうまく行き、この優先株を処分すれば投入資金は回収されるのである。結果的に税金の投入となるのは、この合併銀行が破綻するケースである。マスコミは「税金の投入」と言う言葉を使うことによって、国民をミスリードしているのである。
    長銀への資金投入がこれだけ問題となることが、間違いなくこれからの金融再編に悪影響を与える。経営陣への追及が厳しくなれば、次に手を挙げる金融機関がなくなることが考えられる。持ちこたえるだけ我慢しようと考えるのが自然である。これも住専処理で経験済みである。住専処理の大騒ぎで、それ以降の金融機関の整理がストップしてしまったのである。今回も長銀の整理だけで終わってしまう可能性があるのである。
    野党は、大手の銀行が破綻してもそれほど影響はないとしている。むしろ明瞭な処理の方が大事と言う立場である。筆者には、野党の主張する整理方法による影響の大きさを正確に予測することができない。野党も自分達の考えにとても自信があるとは思えない。経済の世界では実験ができないのである。そのような場合は、なるべくリスクを回避する方法を採るのが常識と考える。北海道拓殖銀行と山一証券の破綻には、少なからず三洋証券の破綻が影響している。これは金融機関である三洋証券に初めての「会社更正法」を適用させようとしたことに端を発している。当局にとってはこれは一種の実験であったが、これが全くの裏目に出たのである。金融機関の破綻の影響の広がりを、事前に正確に予測することは難しい。したがって銀行の対処には実験的な手法は極力避けるべきと考えるのである。
    最後に、長銀への資金投入で今後問題となろう点を指摘しておく。一つは長銀の大口融資先に農林係の金融機関も貸し込んでいることである。長銀が債権放棄することが、これらの金融機関の救済と採られるおそれがあることである。つまり住専処理問題の再現である。もう一つは、長銀のようなケースがあれば、その銀行の大口融資先に大手ゼネコンが存在することが考えられることである。この場合には公金で大手ゼネコンを救済するのかと言う議論が出てくることになる。そしてこれらの議論が政治的に行なわれたら、また金融機関の不良債権の処理がストップすることになりかねないのである。

  • 財政再建路線の立役者
    自民党の総裁選時、各候補に対する田中真紀子議員の辛辣なコメントが注目された。この時田中真紀子議員は、梶山元官房長官を「氏は経済には素人であったはずであり、最近の経済に関するコメントは付け焼き刃である」と評していた。田中議員の父親である角栄元総理が、彼等に裏切られたことを割り引いても、この評価には筆者も賛成であった。それほど経済に強くないはずの梶山元官房長官が、金融機関の不良債権問題に色々なところで積極的に発言していることが奇異に感じられたのである。
    ところが最近ある雑誌で、橋本政権の政策決定の内幕を書いた記事を読み、これまで不思議に思われた疑問点が氷解したのである。橋本総理は「六つの改革」を掲げ、これを政策の中心に据えた。この記事によれば、この中の「財政の改革、つまり財政再建」を強く主張し、推進したのは橋本総理ではなく、実は梶山氏だったと言うことである。政権の発足当時、梶山氏が大蔵官僚に国の財政状況を尋ねたのが発端だった。梶山氏は、官僚に今後の財政赤字の予想のシュミレーションを作成させたのである。経済にそれほど強くない氏はその結果を見て、これは大変と直ぐに財政の再建計画を当局、つまり大蔵省に作らせたのである。大蔵官僚もこれには半信半疑であった。これまで政治家は予算をもっと出せとは言うが、予算を削れと言うことはなかったのである。そう言えば当時、梶山氏は「子々孫々」に借金を残してはいけないと色々な所で発言していたのを覚えている。
    筆者は、財政再建路線と言うものは官僚が作ったシナリオに橋本総理が乗ったものと理解していた。そして世間では同じような受け止め方をした人は結構多かったのではないかと考えている。事実はどうも違っていたようである。当時自民党内での氏の発言力は強く、彼に反対する者はいなかった。彼が実質的な総理総裁であったのである。そして彼の手足となって活動したのが、当時の官房副長官であり、現在の通産相である与謝野氏であった。彼等は自民党の長老を全面にひっぱり出すことにより、党内の反対意見を封じ、財政再建路線を強引に進めたのである。しかし橋本前総理が全くこれにタッチしていなかったわけではない。彼は、当初の案で2,005年に予定されていた赤字国債発行をゼロにする期限を2年早めることを追加指示したのである。しかし財政改革法で中心的に動いたのは梶山氏であったことには変わりはない。
    この記事が真実であれば、これまで疑問に思われた全ての事柄の辻つまが合うのである。なぜ自民党内にそれほど抵抗が表面化せず、財政改革法なるとんでもない法律が通ったのか長く疑問であった。これが橋本元総理のアイディアならもっと党内に反対する意見があったはずなのである。また財政改革法が成立して、間を置かず橋本総理は特別減税を行なうことを決めた。今となっては、橋本総理は「財政改革は自分が言い出したことではない」と当時から考えていたのではないかと思われる。それ以降、橋本総理はさらに4兆円の追加減税を、自民党執行部に諮らず決めたのも同じ理由である。
    本誌では以前、財政再建を推進した人々は今回の不況の原因を「金融機関の不良債権」としていることを指摘した。財界人にこのタイプが多いのである。梶山氏もまさしくこれに該当する。彼の主張する不況対策は、金融機関の不良債権の解決に異常に重きを置いているのである。彼等にとって財政の再建路線が不況の原因とする考えに同調するわけにはいかないのである。筆者は、当然、財政再建政策が今回の不況の大きな原因の一つと考えている。特に97年度は、96年10月にピークを向かえた住宅の着工件数が急速に減少することが予想され、むしろ内需拡大のための財政支出の増加が必要だったのに、反対に緊縮予算を組んだのである。世間では、97年度の緊縮予算が不況の原因としている論者が多いが、筆者は97年度の予算がたとえ緊縮型にならなくても景気は後退したと考えている。
    そして今回の不況については梶山氏に重大な責任があることには変わりがない。梶山氏が官房長官を辞めた後、テレビで持論の財政再建論を展開しながら「これだけ財政の累積赤字が大きいのに金利が上昇しないのが不思議である」と付け加えていたのが印象に残っている。つまり彼は経済、特にマクロ経済を全く理解していないのである。力はあるが経済を知らない政治家が、直接経済の運営にタッチすることが、今日ではいかに危険なことか教訓にはなったのである。これに関連し、自民党の総裁選では三人の候補者の中で梶山氏は、会社経営者の支持を圧倒的に集めていた。どうして日本の会社経営者が彼を支持するのか、筆者にはとうてい理解できないのである。とにかく氏は現在自民党の中では反主流派のキーマンであるが、今後も持論に固執するようだと政府与党の経済運営における撹乱要因になると考えている。






98/8/10(第78号)「今回の不況の原因を考える」
98/8/3(第77号)「新政権の人事を考える」
98/7/27(第76号)「小淵新自民党総裁誕生を考える」
98/7/20(第75号)「橋本総理退陣を考える」
98/7/13(第74号)「マスコミの驕りを考えるーーその2」
98/7/6(第73号)「マスコミの驕りを考えるーーその1」
98/6/29(第72号)「参院選と経済を考える」
98/6/22(第71号)「為替介入の背景を考える」
98/6/15(第70号)「橋本総理と円安を考える」
98/6/8(第69号)「日本の金融を考える」
98/6/1(第68号)「経済への関心を考える」
98/5/25(第67号)「世論と経済政策を考えるーーその2」
98/5/18(第66号)「世論と経済政策を考えるーーその1」
98/5/11(第65号)「アンケートと経済政策を考える」
98/5/4(第64号)「今回の景気対策を考える」
98/4/27(第63号)「消費の限界を考えるーーその2」
98/4/20(第62号)「消費の限界を考えるーーその1」
98/4/13(第61号)「恒久減税を考える」
98/4/6(第60号)「今回の自民党の景気対策を考える」
98/3/30(第59号)「米国の対日経済要求を考える」
98/3/23(第58号)「新日銀総裁の就任を考える」
98/3/16(第57号)「今回の不況の深刻さを考える」
98/3/9(第56号)「日米の景気対策を考える」
98/3/2(第55号)「日経新聞と経済を考えるーーその2」
98/2/23(第54号)「日経新聞と経済を考えるーーその1」
98/2/16(第53号)「貸し渋りと景気を考える」
98/2/9(第52号)「政治と経済を考える」
98/2/2(第51号)「官僚と経済を考える」
98/1/26(第50号)「「小さな政府」を考えるーーその3」
98/1/19(第49号)「「小さな政府」を考えるーーその2」
98/1/12(第48号)「「小さな政府」を考えるーーその1」
97/12/22(第47号)「需要不足の日本経済を考える」
97/12/15(第46号)「景気の現状と対策を考えるーーその8」
97/12/8(第45号)「景気の現状と対策を考えるーーその7」
97/12/1(第44号)「京都会議と経済を考える」
97/11/24(第43号)「景気の現状と対策を考えるーーその6」
97/11/17(第42号)「景気の現状と対策を考えるーーその5」
97/11/10(第41号)「景気の現状と対策を考えるーーその4」
97/11/3(第40号)「景気の現状と対策を考えるーーその3」
97/10/27(第39号)「景気の現状と対策を考えるーーその2」
97/10/20(第38号)「景気の現状と対策を考えるーーその1」
97/10/13(第37号)「市場の心理を考える」
97/10/6(第36号)「公共事業とマスコミを考える」
97/9/29(第35号)「リクルート事件と経済を考える」
97/9/22(第34号)「ロッキード事件と経済を考える」
97/9/15(第33号)「住宅と貯蓄を考える(その2)」
97/9/8(第32号)「住宅と貯蓄を考える(その1)」
97/9/1(第31号)「労働組合と経済を考える」
97/8/25(第30号)「競争時代の賃金を考える」
97/8/18(第29号)「米国経済の生産性の向上を考える」
97/8/11(第28号)「米国の景気を考える(その2)」
97/8/4(第27号)「米国の景気を考える(その1)」
97/7/28(第26号)「内需拡大と整備新幹線を考える(その2)」
97/7/21(第25号)「内需拡大と整備新幹線を考える(その1)」
97/7/14(第24号)「香港返還と中国経済を考える(その2)」
97/7/7(第23号)「香港返還と中国経済を考える(その1)」
97/6/30(第22号)「日本の米国債保有を考える」
97/6/23(第21号)「投機と市場を考える」
97/6/16(第20号)「規制緩和と日米関係を考える」
97/6/9(第19号)「ビックバンと為替を考える」
97/6/2(第18号)「内需拡大と公共工事を考える(その2)」
97/5/26(第17号)「内需拡大と公共工事を考える(その1)」
97/5/19(第16号)「金利と為替を考える」
97/5/12(第15号)「規制緩和と景気を考える」
97/5/5(第14号)「為替の変動を考える」
97/4/28(第13号)「日本の物価と金利を考える(その2)」
97/4/21(第12号)「日本の物価と金利を考える(その1)」
97/4/14(第11号)「日本の土地価格を考える」
97/4/7(第10号)「当マガジン経済予測のレビュー」
97/3/31(第9号)「日本の株式を考える」
97/3/24(第8号)「たまごっちと携帯電話を考える」
97/3/17(第7号)「政府の景気対策を考える」
97/3/10(第6号)「オリンピックと景気を考える」
97/3/3(第5号)「為替レートの動向を考える(その2)」
97/2/24(第4号)「為替レートの動向を考える(その1)」
97/2/17(第3号)「日本の金利水準と為替レートを考える」
97/2/10(第2号)「国と地方の長期債務残高を考える」
97/2/1(第1号)「株価下落の原因を考える」「今後の景気動向を考える」

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