経済コラムマガジン 平成9年2月10日より
経済コラムマガジン




14/3/17(789号)
バブル経済崩壊の序章

  • 6,000万戸のマンション在庫?

    先週号で中国の「銅コロガシ」の話をしたところ、週明けからいきなり銅の国際価格が急落し、筆者も少々驚いた。原因は、本誌が指摘したように輸入した銅の売却代金が、理財商品などの投機に使われていたことである。またこの急落のきっかけとなったのは、大手太陽光発電パネル製造会社(上海超日太陽能科技)の社債のデフォルト容認発言である。

    しかしあくまでもこれはきっかけであり、銅取引を使った資金繰りといったファイナンスモデル自体が限界に来ていたと筆者は考える。中国には70万トンの銅の在庫があると言われている。このうちどれだけが「銅コロガシ」に使われていたのかは推定するしかない。銅1トンが70万円とすると、おそらく金額的には数千億円の規模と推定される。銅の他に鉄鉱石などの輸入資源も同様の手口でファイナンスに使われている。筆者の推定では、これらの合計は1兆円程度となる。


    筆者の推定する金額(1兆円)なら、決して大きな額とは言えない。しかしこの銅などのコロガシの破綻は、各方面に影響を与えている。まず銅などの商品市場で価格下落が起っている。さらにここまで堅調に推移してきた船運賃市況(例えばバルチック海運指数)が一転下落に転じた。

    実態のない銅輸入などに係わるユーザンス(支払猶予)の決済は既に始まっている。そして輸入量の推移から決済のピークは4月辺りからと筆者は見ている。貿易金融の要となるユーザンスのデフォルトということになれば、中国の輸入企業全体に係わる問題となりかなりの大事になる。今後の中国政府の対応が注目されるところである。


    本誌でも何回か取上げたが、中国政府は経済や社会の細部をほとんど把握していない存在と感じられる。例えば今日、理財商品というものが問題になっているが、中国政府はこの全体を把握していない。これも中国政府というものが中国を統治(統制)することにしか関心がないとしたなら、当然のことと考えられる。

    理財商品の総額は170兆円という話が独り歩きしている。しかしこれは半年も前の昨年9月時点で銀行が販売していて金融当局が把握しているものだけである。理財商品は銀行以外でも販売されており、これについては政府は把握していない。これ以外にも、今回破綻で話題になった企業の社債がある。

    しかし筆者は、理財商品や社債といったある程度形式が整ったものはまだましな方と見ている。これら以外に中国には実態が不明な「闇金融」というものがある。ここまで行くと中国における怪しい金融取引額の総額は文字通り闇の中である。

    このような理財商品への懸念に対して、理財商品の中には金融機関間の資金繰りのために発行された先進国のMMFに該当する安全なものもあるという専門家の解説がある。しかし筆者は、中国の金融機関全体が信用できないのだから、これは我々が認識しているMMFとはちょっと違うのではないかと見ている。


    「銅コロガシ」の破綻は、中国のバブル経済崩壊の序章に過ぎない。バブル崩壊の本体はやはり不動産バブルの崩壊であり、これが中国経済全体にどの程度の悪影響を及すかである。その中国の不動産バブルの様子が筆者達が考えるものとかなり違っている。日本や欧米で起った不動産バブルは、需要の急増に供給が追い付かないことがスタートであった。

    ところが中国では、業者(地方政府も含め)が大量の不動産物件の在庫を抱えたまま、不動産価格が上昇してきたという話がある。これも資金繰りさえ付けば、売惜しみをしている方が値が吊り上がり大きな利益が得られるという思惑を業者が持っているからであろう。ところが業者が値上がりを待っている間に、今日、不動産価格が逆に下落に転じようとしているのである。一説によれば昨年の9月時点で居住用マンションの在庫は全国で6,000万戸(この数字は信じがたいものであり確認を要する)もあるという。

    先々週14/3/3(第787号)「中国経済に変調(その2)」で杭州のマンションの値下げ販売騒動を取上げたが、杭州市では騒動の起っている傍で新築マンションの建設がいまだに続いているという話である。このようなことになるのも、中国人の間で不動産価格は絶対に下がらないといった信仰に近い思い込みがあるからという。これは昔の日本における土地神話に似ている。


  • 海外取引と不明朗な資金の流れ

    中国には海外取引を使った不明朗な資金の流れがある。まず輸出業者は、100の価格(請求書の金額)の製品を他国に輸出する。他国の輸入業者は代金100のうち90を中国の輸出業者に送金し、残りの10は輸出業者が指定する別の口座(タックスヘブンが頻繁に使われていると見て良い)に振込む。つまり輸入業者の仕入原価はあくまでも100である。一方、中国の輸出業者は、国内向けに90で輸出した形を取る。このような取引を続ければ、輸出業者の海外に持っている闇口座にどんどん資金が貯まることになる。また輸入取引を使っても同様に資金を流出させることができる(輸入品価格を実際より高くする)。さらに複雑なのは、逆に輸出入取引を使って国内に資金を持込むケースも有りうる。

    またこの闇口座の資金が、海外からの投資という形をとつて中国に舞戻ってくることがある。特に特区では外資が優遇されるからである。このような不明朗な取引を通じ毎年数兆円の資金が中国から持出されているという話である。このような状態が10年以上続いているので、このような取引で海外に持出された資金は数十兆円以上と推定される。さすがに中国政府も近年このような取引の摘発を始めたが、実効があがっているのか定かではない。


    また資金の大きな流れとして、このような海外の闇口座の資金が香港の金融機関を通じて中国本土に流れているという観測がある。そしてこの資金が理財商品などによって運用されているという話になる。しかし話が中国と言っただけで分かりにくいのに、これに香港まで加わるようならまさに闇の世界そのものになる。

    次に中国の不動産バブルがはじけた場合の影響を考える。中国国内においては、バブル崩壊の影響として、一つは信用収縮による金融の逼迫であり、もう一つは経済活動への打撃が考えられる。しかし日本などの外国の金融機関は理財商品による運用は行っていないので、金融に問題は生じないという楽観した観測がある(経済活動への影響についてはここでは割愛する)。

    ところが香港の金融機関が、もし理財商品などのリスク資産を大量に保有しているなら話はちょっと違ってくる。つまり香港の金融機関と取引のある外国の金融機関に、香港を通じ、中国経済のバブル崩壊の煽りを受ける可能性が生まれることが考えられる。最近、上海総合株価指数と香港のハンセン指数の連動性に筆者は着目している。

    先日、人民元が急落した。筆者は、とっさに、香港経由で資金が逃げ出したのではと思った。しかしこれは中国への資金の流入(人民元高を狙った資金流入)を牽制するための当局による為替介入と解説されている。ただ筆者が思ったような香港経由の資金流出という事態は、今後、有り得ることと考えている。


    先週号で「中国のような国の行く末を予想するには、色々な徴候を見つけ、これらからあらゆる可能性を推理するしかない」と述べた。先週号の銅コロガシの話には、2月21日の日経新聞夕刊の商品ウオッチという欄の記事に興味を持ち切抜いてあったので、これを使った。結果的には、滑り込みセーフのタイミングで発信できた。

    中国に関しては虚々実々の情報が流れている。6,000万戸の居住用マンション在庫の話も嘘みたいであるが、中国なら有り得るかもしれないのである。しかし本当に6,000万戸のマンション在庫ということになれば、これは大事であり、マスコミが何故これまで報道してこなかったかという話になる。



来週は、中国の政治体制とバブル生成の過程を取り上げる。



14/3/10(第788号)「中国経済にまつわる奇妙な話」
14/3/3(第787号)「中国経済に変調(その2)」
14/2/24(第786号)「中国経済に変調」
14/2/17(第785号)「経済戦略会議から15年」
14/2/10(第784号)「理論と現実の狭間・・金利編」
14/2/3(第783号)「経済理論と現実の狭間」
14/1/27(第782号)「なつかしい経済理論の復活」
14/1/20(第781号)「窮地に立つリフレ派」
14/1/13(第780号)「新春のトピックス」
13/12/23(第779号)「周辺国の異常行動」
13/12/16(第778号)「ピカピカのバランスシート」
13/12/9(第777号)「中谷巌氏の変心」
13/12/2(第776号)「何処に行った経済成長戦略」
13/11/25(第775号)「アベノミクスの行方」
13/11/18(第774号)「ここ一ヶ月の出来事」
13/10/14(第773号)「虚言・妄言の判断基準」
13/10/7(第772号)「消費税増税、次の焦点」
13/9/30(第771号)「消費税にまつわる諸問題」
13/9/23(第770号)「「声なき声」が届くか」
13/9/16(第769号)「利払い額のGDP比率の推移」
13/9/9(第768号)「利払い額で見る財政の健全性」
13/9/2(第767号)「消費税増税は雲行きが怪しくなった?」
13/8/26(第766号)「財政が危機という怪しい話」
13/8/10(第765号)「消費税増税は絶対に避ける道」
13/8/5(第764号)「消費税増税を促す包囲網」
13/7/26(第763号)「参議院選の結果を考える」
13/7/15(第762号)「アベノミクスの評価他2件」
13/7/8(第761号)「デフレに興味のない大新聞」
13/7/1(第760号)「日経新聞の論説の特徴」
13/6/24(第759号)「アベノミクスを牽制する人々」
13/6/17(第758号)「長期金利上昇で騒いでいる人々」
13/6/10(第757号)「雲行きが怪しいデフレ脱却」
13/6/3(第756号)「財政再建論者のサークル」
13/5/27(第755号)「財政の2010年問題」
13/4/29(第754号)「国民一律の年金」
13/4/22(第753号)「日銀のリスク資産購入」
13/4/15(第752号)「異次元の金融政策」
13/4/8(第751号)「久しぶりの「朝まで生テレビ」」
13/4/1(第750号)「不穏な中国と日本の安全保障」
13/3/25(第749号)「TPPの基本は友好」
13/3/18(第748号)「日本の雪崩的輸出の歴史」
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13/1/14(第739号)「年頭にあたり」
12/12/31(第738号)「中央銀行の働きの変化」
12/12/24(第737号)「日銀とFRBの違い」
12/12/17(第736号)「師走の総選挙の感想」
12/12/10(第735号)「建設国債引受け発言の波紋」
12/12/3(第734号)「先進国だからデフレ」
12/11/26(第733号)「総選挙の行方」
12/11/19(第732号)「残る経済成長路線」
12/11/12(第731号)「先進国における経済成長」
12/11/5(第730号)「投資と経済成長」
12/10/29(第729号)「プラスアルファーの議論」
12/10/22(第728号)「アラン・ブラインダー教授の文章」
12/10/15(第727号)「バランスを欠いた報道」
12/10/8(第726号)「中国からの撤退も視野に」
12/10/1(第725号)「中国の反日暴動に対する感想」
12/9/24(第724号)「本誌の中国問題ダイジェスト」
12/9/17(第723号)「技術流出と日本の伝承文化」
12/9/10(第722号)「技術流出の現状」
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12/6/18(第712号)「世界中「展望がない」」
12/6/11(第711号)「schole(スコレー、暇)の話」
12/6/4(第710号)「ギリシャ化の話」
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12/5/14(第708号)「文春と朝日の関係」
12/4/30(第707号)「続・増税論議と文芸春秋」
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