経済コラムマガジン 平成9年2月10日より
経済コラムマガジン




14/3/3(787号)
中国経済に変調(その2)

  • 上海総合株価指数の急落

    先週、中国経済の変調を急遽取上げたところ、図らずもその直後、上海総合株価指数が急落した。原因は、不動産価格値下げによる騒動や、シャドーバンク(信託会社)の理財商品の償還に対する不安である。

    不動産価格の下落による騒動の発端は、マンションの売行きが悪くなった地域が出現し、価格を下げなければ売れなくなったことである。売れ残りを心配した業者が価格を2割ほど値引きして販売したところ、既に定価で購入した人々が怒り、一悶着が起ったのである。バブル崩壊後、日本でも住宅価格の下落が続いた時代、同様のことがあった。


    中国の不動産価格の推移はちょっと変わっていた。リーマンショック後、一旦中国の不動産価格は下落した。その時には、中国の土地バブルはとうとう終了したと多くの人々は感じた。いわゆるバブル崩壊の過程に入ったと思われたのである。ところがしばらくすると再び不動産投資が盛り上がってきた。

    特に昨年(13年)は全調査地点で不動産価格が上昇した。さすがに昨年の暮れになってわずかな地域(70都市の中で2都市)で価格の下落が始まった。そして1月になって値下がり地点が6都市に増えた。2月は値下がりした都市がもっと増えたと思われる。おそらく値下げ販売騒動が起った都市(杭州)は、既に不動産価格がかなり下がっているところである。


    今日、中国では不動産価格が依然上昇しているところと、既に下落を開始したところが混在している。おそらくそのうち全地域で不動産価格は大幅に下落するものと筆者は見ている。つまり今度こそ本物のバブル崩壊である。

    リーマンショック後、中国でバブル崩壊までに到らなかったのは、不動産需要のかなり大きい部分をまだ実需が占めていたからと筆者は見る。中国は経済の発展に伴って都市部に大量の人々が流入した。この人々が住宅を求めたことによって、活発な不動産取引が続いたのである。リーマンショックによる価格下落は、むしろ不動産ブームを再び引き起したと考えられる。


    しかし不動産価格は、昨今、既にかなり高い水準に達していたようである。マンションの値引き騒動が起ったケースでは、一戸2,500万円もしている。もはや住宅は一般の人々の手に届くものではなく、投資家の投機の対象となっている。

    中国も慢性的な金余り状態である。しかし中国の株価はずっと低迷しており、また金の価格も冴えない(今日、世界的に金からダイヤに資金が移っているという話である)。したがって余剰資金は、勢い良く価格が上昇している不動産に流れていると見られる。

    富裕層だけでなく、一般の事業者も事業が儲からなくなったため投資家として不動産投資を行っている。彼等は、投資目的で住宅を購入したり理財商品を買っている。シャドーバンク(信託会社)は理財商品を販売して集めた資金を、高利で不動産開発会社に融資している。不動産開発会社は、これを運転資金にしてマンション建設などを行っている。しかしこのような余剰資金の循環がずっと成立つには、不動産価格が一定以上の上昇率で上がり続ける必要がある(これによってこの資金の循環に参加している全ての人々に利益が生まれる)。しかしどうやらこの肝心の不動産価格が天井に達したようである。


    中国は、昨年も低くなったと言え7%台であり、新興国の中でも一番高い経済成長率を記録した。筆者は、これがどうも不思議で腑に落ちなかった。しかし昨年まで異常な不動産投資がなされ、不動産バブルが起っていたと言うのならば納得できる。

    中国のGDPは、高い経済成長率によってそのうち米国を追い抜くという観測が根強くある。しかし先週号で「筆者が経済成長の根拠にしてきた事柄がここに来て怪しくなっている」と述べたように、中国経済は既に変調をきたしている。むしろ、今後、中国経済が世界経済の撹乱要因になると思っている。


  • 人民元の急落

    先週は、中国の株価の下落に加え、週末に人民元の急落があった(一時0.85%の下落)。変動幅が極めて小さく抑えられている人民元相場にしては、大きな変動である。日経新聞は、原因を当局による為替介入によるものと解説している。元高に不満を持つ輸出企業への配慮と、元高を見込んだ投資資金の流入を阻止するため、中国政府が為替介入に踏切ったと言うのである。

    仮にこの解説が正しいとしても、これで中国経済が安泰ということには決してならない。筆者は、むしろ中国経済のリスクが一段と増したと見ている(理由は来週あたりに述べる)。また中国政府が、どこまで自国の経済の実体を把握して諸政策を実行しているのかずっと疑問に思ってきた。筆者は、中国経済の実体を、我々のような外部の者だけでなく中国政府も正しくは把握していないのではと思っている。


    中国は、建て前は社会主義国で有り、国家(共産党、政府そして軍)が全てを把握し統制していると一般の人々は考える。しかし国家が統制(統治)していることは間違いないが、正しい情報を持って行政を行っているかは大いに疑問である。つまりどれだけの勝算をもって実際の政策を実施しているのか分からないのが今日の中国である。

    実際、昨年6月に人民銀行(中央銀行)が突然資金供給を絞り、これによって短期金利が急騰した。この目的は資金管理にずさんな国内銀行に「おきゅう」を据えるというものであった。まさに統制(統治)の発想である。しかし市場が大混乱したため、後にこの政策をいとも簡単に転換した。


    中国の上層部は閉ざされていて、あまり情報も漏れてこない。そのせいもあってか、打出される政策は「考えに考えぬいたもの」と外部の者は誤解しがちである。しかし大部分は、一部の幹部の思い付きの政策や浅はかなアイディアを強引に実行しているに過ぎないと筆者は見ている。

    したがって今回の人民元安を狙った為替介入もいつ撤回されるか分からないと筆者は思っている。だいたい先々週のG20前に金融引締めをやっておきながら、為替介入による資金放出といった矛盾した政策を平気で行うことがおかしい。また経常収支が大幅黒字である中国が自国通貨安政策を採るとは、国際的な批難を受けるはずである。さらに不動産バブルが崩壊する寸前の今頃になって、資金の流入を阻止するなんてこれほど間抜けな話はない。既に手遅れもよいところである。

    ただ中国人は異常に面子にこだわり、仮に判断を間違えても、自分のミスを絶対に認めない。もっとも今日の中国においては、ミスを認めることは現在の地位を失うことに繋がる。前述した昨年6月の人民銀行(中央銀行)の金融引締め政策も、「市場の安定を守る」という苦しい言い訳をして撤回した。


    中国経済が異常をきたした場合の影響を筆者は考える。日本にとって、中国は一番の貿易相手国である。したがって少なからず日本経済は影響を受けることになる。以前、中国の株価が高かった時代には、中国の株価の変動が日本の市場にも一定の影響を与えていたものである。ところが今回の中国の株価の下落の日本の株式市場への衝撃は、意外に小さいものであった(他の国の株式市場も同程度の反応)。

    まず市場参加者も中国経済と政府の政策の混乱に慣れてしまっていることが考えられる。たしかに市場が混乱すると、中国は直に政策変更を行ってきた。今回は人民元が急落したが、今のうちに人民元を買っておけば儲かると思う者もいるはずである。このように実際のバブル崩壊寸前までは、案外、市場参加者は冷静に対処するのかもしれない。



来週は、中国経済のおかしなところをいくつか取上げる。



14/2/24(第786号)「中国経済に変調」
14/2/17(第785号)「経済戦略会議から15年」
14/2/10(第784号)「理論と現実の狭間・・金利編」
14/2/3(第783号)「経済理論と現実の狭間」
14/1/27(第782号)「なつかしい経済理論の復活」
14/1/20(第781号)「窮地に立つリフレ派」
14/1/13(第780号)「新春のトピックス」
13/12/23(第779号)「周辺国の異常行動」
13/12/16(第778号)「ピカピカのバランスシート」
13/12/9(第777号)「中谷巌氏の変心」
13/12/2(第776号)「何処に行った経済成長戦略」
13/11/25(第775号)「アベノミクスの行方」
13/11/18(第774号)「ここ一ヶ月の出来事」
13/10/14(第773号)「虚言・妄言の判断基準」
13/10/7(第772号)「消費税増税、次の焦点」
13/9/30(第771号)「消費税にまつわる諸問題」
13/9/23(第770号)「「声なき声」が届くか」
13/9/16(第769号)「利払い額のGDP比率の推移」
13/9/9(第768号)「利払い額で見る財政の健全性」
13/9/2(第767号)「消費税増税は雲行きが怪しくなった?」
13/8/26(第766号)「財政が危機という怪しい話」
13/8/10(第765号)「消費税増税は絶対に避ける道」
13/8/5(第764号)「消費税増税を促す包囲網」
13/7/26(第763号)「参議院選の結果を考える」
13/7/15(第762号)「アベノミクスの評価他2件」
13/7/8(第761号)「デフレに興味のない大新聞」
13/7/1(第760号)「日経新聞の論説の特徴」
13/6/24(第759号)「アベノミクスを牽制する人々」
13/6/17(第758号)「長期金利上昇で騒いでいる人々」
13/6/10(第757号)「雲行きが怪しいデフレ脱却」
13/6/3(第756号)「財政再建論者のサークル」
13/5/27(第755号)「財政の2010年問題」
13/4/29(第754号)「国民一律の年金」
13/4/22(第753号)「日銀のリスク資産購入」
13/4/15(第752号)「異次元の金融政策」
13/4/8(第751号)「久しぶりの「朝まで生テレビ」」
13/4/1(第750号)「不穏な中国と日本の安全保障」
13/3/25(第749号)「TPPの基本は友好」
13/3/18(第748号)「日本の雪崩的輸出の歴史」
13/3/11(第747号)「TPP交渉と日本警戒論」
13/3/4(第746号)「TPPの実態」
13/2/25(第745号)「有り得る軍事的衝突」
13/2/18(第744号)「群盲象をなでる」
13/2/11(第743号)「まず印紙税の廃止」
13/2/4(第742号)「「構造改革」と「規制緩和」の本当の姿」
13/1/28(第741号)「意志を持った「やじろべい」」
13/1/21(第740号)「金融政策に対する提言」
13/1/14(第739号)「年頭にあたり」
12/12/31(第738号)「中央銀行の働きの変化」
12/12/24(第737号)「日銀とFRBの違い」
12/12/17(第736号)「師走の総選挙の感想」
12/12/10(第735号)「建設国債引受け発言の波紋」
12/12/3(第734号)「先進国だからデフレ」
12/11/26(第733号)「総選挙の行方」
12/11/19(第732号)「残る経済成長路線」
12/11/12(第731号)「先進国における経済成長」
12/11/5(第730号)「投資と経済成長」
12/10/29(第729号)「プラスアルファーの議論」
12/10/22(第728号)「アラン・ブラインダー教授の文章」
12/10/15(第727号)「バランスを欠いた報道」
12/10/8(第726号)「中国からの撤退も視野に」
12/10/1(第725号)「中国の反日暴動に対する感想」
12/9/24(第724号)「本誌の中国問題ダイジェスト」
12/9/17(第723号)「技術流出と日本の伝承文化」
12/9/10(第722号)「技術流出の現状」
12/9/3(第721号)「知的所有権の話」
12/8/27(第720号)「最近の出来事」
12/8/6(第719号)「御用学者の話」
12/7/30(第718号)「増税マニア達は現実離れ」
12/7/23(第717号)「吉川洋東大教授の文章」
12/7/16(第716号)「消費税増税が待ち遠しい?」
12/7/9(第715号)「消費税は「鬼門」」
12/7/2(第714号)「増税騒動の感想」
12/6/25(第713号)「今日の諸情勢の変化」
12/6/18(第712号)「世界中「展望がない」」
12/6/11(第711号)「schole(スコレー、暇)の話」
12/6/4(第710号)「ギリシャ化の話」
12/5/21(第709号)「単式簿記の世界」
12/5/14(第708号)「文春と朝日の関係」
12/4/30(第707号)「続・増税論議と文芸春秋」
12/4/23(第706号)「増税論議と文芸春秋」
12/4/16(第705号)「増税論議と政界」
12/4/9(第704号)「増税派の人々」
12/4/2(第703号)「松下政経塾政治家と増税」
12/3/26(第702号)「英国の永久債発行」
12/3/19(第701号)「過去の号の修正」
12/3/12(第700号)「本誌700号に寄せて」
12/3/5(第699号)「投資顧問AIJの事件」
12/2/27(第698号)「橋下維新政党へのコメント」
12/2/20(第697号)「地方自治体と通貨」
12/2/13(第696号)「デフレ経済下での増税」
12/1/30(第695号)「無税国家への道」
12/1/23(第694号)「世界的な金利低下」
12/1/16(第693号)「過剰貯蓄による災い」
12/1/9(第692号)「バーチャルな話」


11年のバックナンバー

10年のバックナンバー

09年のバックナンバー

08年のバックナンバー

07年のバックナンバー

06年のバックナンバー

05年のバックナンバー

04年のバックナンバー

03年のバックナンバー

02年のバックナンバー

01年のバックナンバー

00年のバックナンバー

99年のバックナンバー

98年のバックナンバー

97年のバックナンバー