経済コラムマガジン 平成9年2月10日より
経済コラムマガジン




14/2/24(786号)
中国経済に変調

  • 中国経済自体が世界的なリスク

    久しぶりに中国、特に中国経済を取上げる。ただ13/2/18(第744号)「群盲象をなでる」で述べたように、政治体制の違いもあり、専門家であってもなかなか実体を掴めないのが中国である。ところが中国の世界経済への影響は確実に大きくなっている。

    先日(2月20日)も中国の景況感が悪化したという市場の声によって、日経平均が大きく下落した。英国金融大手HSBCが発表した2月の中国の製造業購買担当者指数(PMI)の速報値が48.3と50を下回り、また前月より1.2ポイント悪化したのである。中国ウォッチャーはこの数字に注目している。しかしこのHSBCのこの数字とてどこまで真相を掴んでいるのか分からない。HSBCの数字は、中国政府が公表する同種のもの(国有企業中心)より信頼されているといった程度である。


    このよく分からない中国の経済に世界各国が振回されている。エコノミストや経済学者は、中国経済を色々と解説するがこれも何を根拠にしているのか分からない。中には中国の潜在成長率は7%と言う者がいるが、この数字もどこから持ってきたものなのか不明である。そもそも中国の経済成長の減速は、在庫増加に見られるように需要不足である。需要不足の経済を潜在成長率で説明しようということが無茶である。

    中国経済の世界への影響が大きくなっているにもかかわらず、実態が不明という現実が人々の不安を増大させている。例えば問題の理財商品の規模は大きくなっていて、この今後の展開が危惧されている。1月末には償還期限を迎える商品があり、その帰趨が注目された。ところが突然「謎の投資家」が現れ、それを買取り問題を収束させた。今後、どんどん危ない理財商品は償還日を迎えるが、はたして同様の処理がなされるのか不明である。


    中国の人民銀行(中央銀行)は、22日、23日のG20を前にして、市場からの資金吸収を行った。ダブついた資金が理財商品に流れている現状にG20各国が懸念を示すことに備えた措置という解説がなされている。しかし市場から資金を吸収すれば、一層理財商品市場の崩壊を誘発する危険性が高まる。

    中国政府は、理財商品などによる管理外の金融、つまり民間金融の縮小を狙ってきた。ところがこれが難しく、政府の意図に反しこの規模が限界まで大きくなっている。しかし銀行から資金が調達できる国有企業と違い、民間の企業はこのような理財商品に金融を頼らざるを得ないのである。つまり理財商品潰しは、民間企業潰しに繋がる。

    理財商品を発行して得た資金は、一般の事業だけでなく、不動産投資やリスクの高い資源開発などに多く向けられている。今後も資金の吸収を続けるなら、理財商品市場と不動産市場の崩壊が同時に起る事態が考えられる。中国政府がそのようなリスクを本当に採ろうとしているのか、外部には今のところ分からない。いつものようにG20の後には金融緩和を行い、問題の先送りを図るのではと筆者は見ている。


    中国の社会や経済には、理財商品などのような不透明な事柄が付きまとっている。これらに加え、大気汚染や水不足、さらには偽札の横行など数多くの問題が指摘されてきた。したがってそのうち中国経済は行き詰るという観測が何回もこれまでなされてきた。

    しかし今のところ中国経済が行き詰ったという事態には到っていない。それどころか他の国より高い経済成長を続け、中国経済の存在感はむしろ大きくなっている。他国の多くの企業経営者も、いまだに中国は有望な市場と見ている。しかし内実はよく分からないが、規模が大きくなった中国経済自体が世界的なリスクとなっているのが今日の姿である。


  • 中国の経済成長もそろそろ限界

    前段で理財商品の他に色々な中国リスクを取上げた。しかし例えば大気汚染や水不足は、程度の差はあれ新興国共通の問題である。日本に影響があるので、特に中国の問題がクローズアップされているのであろう。筆者は、これらの問題が中国経済にとって成長の制限になるとは今のところ思わない。

    一方、日本も高度経済成長期における公害問題は深刻であった。しかし日本は高度経済成長末期の71年までに基本となる公害防止関連法(大気汚染、水質汚濁、騒音)を整備した。財界や企業に近く対応が甘いと思われていた自民党政権が中心になって、かなり厳しい法律を定めたことは画期的であった。この効果は大きく、その後日本の公害の状況は年々改善して行った。

    中国にもこれに似た公害防止法があるが、人々が守らないだけである。工場に集塵機などの公害防止機器が設置されていても、生産効率が落ちるので排ガスをそれに通さない。また国有企業の石油会社でさえガソリンは脱硫装置を通さずに生産している。つまり問題点は分かっているのである。したがって日本の公害防止技術の中国への移転という話をよく聞くが、これらも無駄になる可能性が強い。


    偽札もけっこう流通していて、銀行のATMからも偽札が出てくるという話である。しかし人々は偽札と分かっていても平気でそれを使っている。日本のように偽札を警察に届けるということはない。つまり事実上、偽札の流通が黙認されている。

    偽札であっても、流通しているのなら立派な貨幣である。偽札は筆者の言っているまさに「所得を生むマネーサプライ」の増加である。一方、日本においてはマネーサプライが凍り付いているので、マネーサプライが増えても実体経済にほとんど影響がない。

    また日本のリフレ派が主張するようなさらなる金融緩和を行っても、日本では財政支出を伴わないので、このマネーサプライさえ増えない。反応するのは日本の株式市場だけである。その点中国の偽札の威力は凄く、直接有効需要を増やす。どの程度の偽札が流通しているのか不明であるが、筆者は、偽札の額によってはこれまでの中国の高い経済成長のかなりの部分を支えて来たのではないかと想像する。まさに民間によるセーニアリッジ政策である。


    どこまで中国経済が成長するのかは、これまでもずっと議論されてきた。多くの悲観論にもかかわらず、ここまで中国経済は成長してきた。10年前の04/12/13(第371号)「第一回財政研交流会」で述べた通り、三極経済研究所代表の齋藤進氏の「中国の経済成長があと20年くらい続く」という意見に筆者も賛同した。根拠は敢てここでは述べない(本誌を長く読んでおられる方は薄々お分かりであろうが)。齋藤進氏や筆者の予想通り、少なくともここまで中国経済は順調に成長してきた。

    ところが筆者が経済成長の根拠にしてきた事柄がここに来て怪しくなっている。たしかに公害や所得格差が人々の不満を増大させ、内乱が起り中国が崩壊するという説が根強くある。しかし軍事費より大きな公安予算を使っている中国では、このような動きは押え込まれると考えて良い。中国経済は他の原因で行き詰ると筆者は見る。


    どうも20年もの高度成長はやはり無理なようで、せいぜい10年程度となりそうである。その徴候があちこちで見られるようになっている。半年後に中国経済が行き詰っても不思議はないと筆者は思っている。今週、急遽、中国を取上げたのもいくつかの変調が気になったからである。

    しかし日頃から中国を接する人々の多くは、自分の目が届く範囲でしか中国を見ていない。したがって他の新興国経済の凋落を目の当たりにして、中国はまだましと筆者とは異なる見方をしている人も多いはずである。筆者の予想が当たるかどうかは、そのうち分かると思っている。



来週は、今週の話の続きである。



14/2/17(第785号)「経済戦略会議から15年」
14/2/10(第784号)「理論と現実の狭間・・金利編」
14/2/3(第783号)「経済理論と現実の狭間」
14/1/27(第782号)「なつかしい経済理論の復活」
14/1/20(第781号)「窮地に立つリフレ派」
14/1/13(第780号)「新春のトピックス」
13/12/23(第779号)「周辺国の異常行動」
13/12/16(第778号)「ピカピカのバランスシート」
13/12/9(第777号)「中谷巌氏の変心」
13/12/2(第776号)「何処に行った経済成長戦略」
13/11/25(第775号)「アベノミクスの行方」
13/11/18(第774号)「ここ一ヶ月の出来事」
13/10/14(第773号)「虚言・妄言の判断基準」
13/10/7(第772号)「消費税増税、次の焦点」
13/9/30(第771号)「消費税にまつわる諸問題」
13/9/23(第770号)「「声なき声」が届くか」
13/9/16(第769号)「利払い額のGDP比率の推移」
13/9/9(第768号)「利払い額で見る財政の健全性」
13/9/2(第767号)「消費税増税は雲行きが怪しくなった?」
13/8/26(第766号)「財政が危機という怪しい話」
13/8/10(第765号)「消費税増税は絶対に避ける道」
13/8/5(第764号)「消費税増税を促す包囲網」
13/7/26(第763号)「参議院選の結果を考える」
13/7/15(第762号)「アベノミクスの評価他2件」
13/7/8(第761号)「デフレに興味のない大新聞」
13/7/1(第760号)「日経新聞の論説の特徴」
13/6/24(第759号)「アベノミクスを牽制する人々」
13/6/17(第758号)「長期金利上昇で騒いでいる人々」
13/6/10(第757号)「雲行きが怪しいデフレ脱却」
13/6/3(第756号)「財政再建論者のサークル」
13/5/27(第755号)「財政の2010年問題」
13/4/29(第754号)「国民一律の年金」
13/4/22(第753号)「日銀のリスク資産購入」
13/4/15(第752号)「異次元の金融政策」
13/4/8(第751号)「久しぶりの「朝まで生テレビ」」
13/4/1(第750号)「不穏な中国と日本の安全保障」
13/3/25(第749号)「TPPの基本は友好」
13/3/18(第748号)「日本の雪崩的輸出の歴史」
13/3/11(第747号)「TPP交渉と日本警戒論」
13/3/4(第746号)「TPPの実態」
13/2/25(第745号)「有り得る軍事的衝突」
13/2/18(第744号)「群盲象をなでる」
13/2/11(第743号)「まず印紙税の廃止」
13/2/4(第742号)「「構造改革」と「規制緩和」の本当の姿」
13/1/28(第741号)「意志を持った「やじろべい」」
13/1/21(第740号)「金融政策に対する提言」
13/1/14(第739号)「年頭にあたり」
12/12/31(第738号)「中央銀行の働きの変化」
12/12/24(第737号)「日銀とFRBの違い」
12/12/17(第736号)「師走の総選挙の感想」
12/12/10(第735号)「建設国債引受け発言の波紋」
12/12/3(第734号)「先進国だからデフレ」
12/11/26(第733号)「総選挙の行方」
12/11/19(第732号)「残る経済成長路線」
12/11/12(第731号)「先進国における経済成長」
12/11/5(第730号)「投資と経済成長」
12/10/29(第729号)「プラスアルファーの議論」
12/10/22(第728号)「アラン・ブラインダー教授の文章」
12/10/15(第727号)「バランスを欠いた報道」
12/10/8(第726号)「中国からの撤退も視野に」
12/10/1(第725号)「中国の反日暴動に対する感想」
12/9/24(第724号)「本誌の中国問題ダイジェスト」
12/9/17(第723号)「技術流出と日本の伝承文化」
12/9/10(第722号)「技術流出の現状」
12/9/3(第721号)「知的所有権の話」
12/8/27(第720号)「最近の出来事」
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12/5/14(第708号)「文春と朝日の関係」
12/4/30(第707号)「続・増税論議と文芸春秋」
12/4/23(第706号)「増税論議と文芸春秋」
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