経済コラムマガジン 平成9年2月10日より
経済コラムマガジン




14/2/17(785号)
経済戦略会議から15年

  • 積極財政を否定する人々の集い

    三ヶ月前13/11/25(第775号)「アベノミクスの行方」で、アベノミクスの前途を危惧したが、筆者の予想通りの展開になってきた。アベノミクス、つまり「三本の矢政策」はまさに正念場を迎えている。三本の矢は「大胆な金融政策」「機動的な財政政策」「民間投資を喚起する成長戦略」である。一応、これまでに金融政策と財政政策は実行されたものと見なされている。

    まず財政政策こそが、本来アベノミクスの中心となるべきものと筆者は考えてきた。ところが補正予算の減額(対前年度比)に見られるように、この肝心の財政政策はむしろ後退している。それどころかこの時期に消費税増税といったトンデモないおまけまで付いた。それにもかかわらず財政政策に元々抵抗感のある人々は、金融政策や成長戦略でこれを十分補えるとまたいい加減な事を言っている。


    しかし第三の矢と見なされている成長戦略は、いくつかの関連する法案が成立しただけである。一年も経つのに未だ実体が見えないのである。そんなものに頼って、本当にデフレ脱却を目指すアベノミクスを進められて良いのか大いに疑問である。

    正月明けから、日本の株価も冴えない動きとなっている。その理由の一つが、鳴りもの入りで囃し立てられてきた成長戦略への失望ということになっている。ただしこれは外資などの投資家のセリフであり、まともには受取れない。筆者は、彼等は成長戦略なんて始めから相手にしていなかったという印象を持っている。もし成長戦略に価値を持ったというのなら、他の市場参加者が価値があると感じると思ったからに過ぎない。ここに来て成長戦略がつまらないと言い始めたのは、彼等が株価を下げたいからであろう。


    「成長戦略」なるものは、今日、突然現れたものではない。筆者の見方では、このルーツは小渕内閣の「経済戦略会議」である。当時、既に本誌はスタートしていたが、筆者はこれに全く興味がなく、ほとんど取上げなかった。

    当時、会議のテーマとメンバーを見て、筆者はここからまともなアイディアが生まれるとは思わなかった。案の定、結果は予想通りである。今日、この会議で話合われていたテーマさえ覚えている者はほとんどいないと思われる。

    しかしこの種の会議は、形を変え呼称を変え連綿と15年後の今日まで続いてきた。しかしその度に集うメンバーとテーマ(規制改革、特区、移民受入れなど)もほとんど変わらない。そしてその成れの果てが今日の経済成長戦略に関連する諸会議と考えて良い。


    大体、筆者は「戦略」「諮問会議」「骨太の方針」といった大袈裟な表現が出てくると自然と全てを疑うようになった。内容の薄い会議をこのような大袈裟な表現を使って誤魔化していると見られるのである。まさに詐欺師達が好んで使いそうな名称ばかりである。

    大体この種の会議に集うメンバーは、構造改革派と財政再建派である。つまり財政政策に重きを置く積極財政派を牽制し、抑え込むことを目的とした会議と理解すれば良い。時々、両者が揉めて会議を盛り上げるパフォーマスを行うことが恒例になっている。


    この種の会議の「罪」はいくつかある。一つは時間を無駄に使うことである。今日のアベノミクスにおいても、この一年間を既に無為に過ごした。彼等は、「成長戦略」など大袈裟な表現を使って、日本国民に何か頭を使って経済が成長する手段をあるといった完全に間違った幻想と錯覚を与え続けてきた。つまり小渕内閣の「経済戦略会議」から数えると、彼等は実に15年間も国民を騙し続けてきたことになる。

    彼等は、規制改革が進まず経済が成長しないことを抵抗勢力のせいにしている。筆者は、彼等の言っている大半の規制改革はどんどん進めれば良いと本誌で何度も言ってきた。筆者はつまらない余計な規制は緩和ではなく撤廃すべきと考える。しかしそれによって経済が成長することはないと何度も言ってきたのである。しかし彼等は「鉄板規制」といった新語を作って、「規制改革が進まないから」といった新たな言い訳を始めている。


  • 会議の解散か機能停止を

    本当のところ規制緩和が進まないから彼等は生き残っているようなものである。ただ彼等がいい加減な事を言っていたのに、実現した政策が過去にはあった。例えば郵政の民営化である。彼等は、郵政が民営化すれば郵政事業に集まっている資金が民間に流れ、日本経済が成長すると強く主張していた。

    筆者は、民間の金融機関でさえ資金需要がなく貸出に苦労していると、彼等のセリフを即座に否定した。郵政の民営化の結果はご覧の通りである。郵政の民営化によって経済が成長したなんて誰も感じない。しかしどこまでも卑怯な構造改革派は、この郵政の民営化の結果に関しては沈黙したままである。


    今日、話合われている成長戦略や規制改革も酷いものばかりである。「女性の活用」のような陳腐なものはましな方である。「薬のネット販売」には、さすがに筆者も唖然とした。そのようなどうでも良い話は、他でやってくれということである。「薬のネット販売」とデフレ克服と何の関係があるというのだろうか。「特区」や「薬のネット販売」は参加メンバーの利害がからんでいるだけと考えざるを得ない。

    成長戦略でまた「移民」の話が出ている。欧米各国は、この「移民」で苦労してきて今もこれで国内が混乱している。それを日本でも経験しろとは尋常ではない。無責任な企業経営者は賃金が安くて若い労働者が必要と安易に考え、国の経済成長のためと誤魔化して「移民」の話をまた持出しているのである。

    このように無責任でいい加減な話ばかりが飛び交っているのがこの種の会議である。話の内容が酷いことに加え、膨大な時間を無駄にしてきたことが本当の「罪」と筆者は考える。15年間もの間、一体何をやってきたのかという話である。


    しかしこの種の会議の最大の「罪」は、必要な財政政策の実行をずっと邪魔してきたことである。会議に集まっている構造改革派と財政再建派は、そもそも「財政支出を増やさなくとも頭を使って経済成長が可能」といったファンタジーの持ち主達である。彼等が財政支出を否定するのは、当たり前の務めと考えているのである。

    彼等は、日本政府の借金が大き過ぎるという理由で財政支出を抑制しようとする。しかし国の借金が大きいのは、日本国民の金融資産が大きいことの裏が返しである。したがって日本国民の金融資産がもっと小さければ、国の借金も小さかったというだけの話である。そして国民の金融資産が増えるほどには日本の財政支出が増えなかったから、デフレが深刻になったと考えるべきだ。つまり日本では有効需要が不足した状態がずっと続いているのである。


    社会保障経費が増えるからという理由で他の政策経費は毎年削られてきた。公共投資だけでなく、防衛費や教育費までもが減額され続けてきた。つまりこのような日本の弱体化を進めてきたのが、この種の会議の成果である。筆者は、この種の会議には日本の弱体化を狙った反日勢力が紛れ込んでいるのではないかとさえ、ずっと思って来たほどである。

    15年間も日本の弱体化を進めれば日本が沈没するのが当たり前である。デフレを脱却し日本経済を復活させるには、この反対の事を行えば良いのである。例えば防衛費や教育費を増やすことは簡単にできることである。


    アベノミクスの狙いは、デフレの克服と日本経済の復活である。これに一番有効な政策は、財政支出の大幅な増額である。ましてや日銀が国債をもっと買うというのだから金利の上昇は回避される。つまり財政支出を大胆に増やすのが当たり前の政策である。

    この当たり前の財政政策の邪魔をしているのが今日の成長戦略である。筆者は、アベノミクスの実現のためには、まずこの種の会議の解散か機能停止が必要と考える。



来週は「実質」と「名目」というものを取上げたい。しかしこれは極めて難しいので、テーマは変わるかもしれない。



14/2/10(第784号)「理論と現実の狭間・・金利編」
14/2/3(第783号)「経済理論と現実の狭間」
14/1/27(第782号)「なつかしい経済理論の復活」
14/1/20(第781号)「窮地に立つリフレ派」
14/1/13(第780号)「新春のトピックス」
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13/12/9(第777号)「中谷巌氏の変心」
13/12/2(第776号)「何処に行った経済成長戦略」
13/11/25(第775号)「アベノミクスの行方」
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13/9/2(第767号)「消費税増税は雲行きが怪しくなった?」
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13/8/10(第765号)「消費税増税は絶対に避ける道」
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13/7/26(第763号)「参議院選の結果を考える」
13/7/15(第762号)「アベノミクスの評価他2件」
13/7/8(第761号)「デフレに興味のない大新聞」
13/7/1(第760号)「日経新聞の論説の特徴」
13/6/24(第759号)「アベノミクスを牽制する人々」
13/6/17(第758号)「長期金利上昇で騒いでいる人々」
13/6/10(第757号)「雲行きが怪しいデフレ脱却」
13/6/3(第756号)「財政再建論者のサークル」
13/5/27(第755号)「財政の2010年問題」
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