経済コラムマガジン 平成9年2月10日より
経済コラムマガジン




13/11/25(775号)
アベノミクスの行方

  • 財政は13兆円のマイナス
    今週は、いわゆるアベノミクスの今後の行方についてごく簡単に述べる。その方法として経済成長を需要面から捉えた積み上げ方式を採る。まず財政の経済に対する影響を考える。来年度の本予算は、まだ未確定であるがほぼ今年度並と想定する。また消費税増税と引換えとなった補正予算は5兆円程度である。さらに消費税の増税額は8兆円程度である。

    この他の事項で経済への影響のある財政関連のものがある。例えば公的年金の財政である。もし年金支給の増加額が年金保険料徴収額の増加額より大きい場合には、マクロ経済にとってその分プラスである。同様の事が他の社会保障の特別会計にも言える。経済成長への寄与ということになれば、今年度のプラス分と来年度のプラス分の差額ということになる。この差額がプラスなら、その分が経済成長への寄与ということになる(マイナスの場合にはマイナスが小さくなれば、その分がプラス)。ただこのような所まで言及すると話が無駄に複雑になるため、これらの金額が一定の範囲に収まるものと割切り、この影響は割愛する(ただしこのような事柄もマクロ経済に影響を与えることを常に念頭に置いておくことが必要)。


    このような割切りを行えば、財政のマクロ経済への影響は、補正予算の5兆円のプラスと消費税増税の8兆円のマイナスということになる(本予算は同額と仮定しているから)。ひょっとするとこれから財政の経済成長への影響は差引き3兆円のマイナス(財政支出と増減税の乗数値は異なるが、これも話を簡単にするため同じと想定)と思う人が多いかもしれない。しかしこれは乗数効果についての知識のない人の間違いであり、ここが重要なポイントになる。

    昨年度成立した12兆円の補正予算は、今年度に効いている。この真水部分は約10兆円程度と見られる(補正予算には国民年金財政への拠出額が含まれているのでそれを差引く)。したがって補正予算だけを見れば5兆円のマイナスである。つまり財政は合計で3兆円ではなく13兆円のマイナスとなる。

    乗数効果の知識がない人や政治家の一部は、来年度に向け5兆円の経済対策(補正予算)を打ったのだから大丈夫と勘違いしている。10兆円の補正予算がなくなることによる逆乗数効果のことに気付いていないのである。つまり来年度は消費税の増税によるマイナスと補正予算の減額によるマイナスが重なる。


    財政以外の需要項目は、消費、設備投資、住宅投資、そして貿易・サービスということになる。この中ではっきりとマイナスになるのは、住宅投資である。消費税増税に伴う駆け込み需要の反動が考えられる。今年度9月までの新設住宅着工件数は、久々に年率で100万戸程度で推移しているが、既に10月からの急減が予想されている。

    住宅関連業界は、来年度からは住宅減税を目玉に営業活動を行うが、消費税増税に比べインパクトは弱い。筆者は、住宅投資は2〜3兆円程度のマイナスと考えている。


    消費は金額的に一番大きな需要項目であるが、消費が所得の関数とすれば(つまり消費性向がほぼ一定)、所得の伸び程度しか増えない。つまり所得が2%程度伸びれば、消費も2%の伸びということである。しかし消費税増税による今年度の駆け込み需要の反動があるため、たとえ所得の伸びがあっても年間合計の消費額はほとんど増えないという事態が考えられる。また消費税増税の影響がどの程度あるのか分かりにくい(筆者は増税の影響を世間で言われているほど大きくないと見ているが、マイナスであることはたしかと思っている)。消費は所得の関数ということなので、後ほどまた触れることとする。


    多少伸びることが予想されるのが設備投資である。日本の設備投資のGDP比率は、90年代前半までは15%以上であったが(バブル期は20%を越えていた)、今日では12〜13%まで下がっている(これでも先進国の中では大きい方)。金額は65兆円程度である。

    所得の関数で地味な動きをする消費と違い、本来、設備投資額の増減は激しいため、設備投資額の動向は景気への影響が大きかった。しかし今日、設備投資のGDP比率が小さくなっているため影響力もそれだけ小さくなっている。政府は投資減税など、設備投資を刺激しようとしているが、民間企業がどれだけ設備投資を増やすか不透明である。


  • ゼロないしマイナスの低成長
    11月22日の日経新聞に主要上場企業へのアンケート結果が掲載されている。これによると全体の5割超の企業が手元資金を設備投資に使うと景気の良い回答をしている。たしかに設備投資の先行指標となる機械受注は、ここ数カ月前年比で10%程度伸びている。

    しかし「手元資金を設備投資に使う」と言っても、国内に投資されるとは限らない。むしろ海外での設備投資が大きく伸びることが考えられる。ましてや日本の民間企業は、一方で過剰設備を抱えており、昔のような設備投資ブームは考えられない。日経新聞のアンケートだから、企業は日経新聞が喜ぶような回答をしているのだろう。

    08年のリーマンショック直前まで、円安と世界的好景気(欧米のバブル)によって輸出企業の設備投資がかなり伸び、ピークの08年には設備投資額が75兆円を越えた。ところがこの時の投資による過剰設備を抱えた企業(特に電機関係)が、経営破綻寸前まで追い込まれたのである(その後の民主党政権の無策による円高でこれらの企業が痛手を被ったことも影響)。この教訓もあり、民間企業がどんどん設備投資を増やすことは考えられない。


    最後が貿易・サービスである。まず円安になっているのに、日本の輸出が伸びないことに注目する。これは人件費の安い新興国・発展途上国との競争が厳しくなっているからと考えられる。日系企業もこれらの国々に次々と生産拠点を設け、製品を各国に輸出していて、一部は日本にも流れて来ている。

    例えば日本国内で販売されている日産のマーチはタイで生産されている。技術移転が容易になった今日、日系企業の海外の生産拠点からの日本への製品輸出は今後も増えると考えられる。今日の円安は、この流れを多少なりとも緩和していると思われる。

    貿易赤字の大きな要因は、原発停止による発電用の化石燃料の輸入増大である。来年度から休止中の原発が少しずつ再稼動するので、貿易赤字が少し減る可能性はある。ただ日本政府が力を入れているインフラ輸出は、結果が出るまで長い時間がかかるため、来年度の日本の経済成長への寄与はほとんど期待できない。また多少外国人の観光客が増えても、金額的効果は微々たるものである。


    以上、需要面から見て、来年度の日本経済成長で、比較的はっきりしているのは、財政の13兆円と住宅投資の2〜3兆円のいずれもマイナスの項目だけである。設備投資は、期待だけは大きいが、プラスとなったとしても大きなものにはならないと筆者は見ている。また貿易・サービスもプラスと考えられるが小さなものであろう。GDPへの影響額は、これらの需要項目の金額に乗数値を掛けたものである。

    数多くの機関から日本経済の来年度の予想が出ている。もちろんマイナス成長を予想するところは皆無である。しかし筆者のこれまでの分析ではゼロ成長かマイナス成長となる(今年度の名目経済成長率を2%程度と見ている)。予想が大きく異なるのは設備投資と考えられる。筆者は、経済が低成長なのに国内向けの設備投資だけが大きく伸びることはないと判断している。また低成長によって、所得の関数である消費もほとんど増えないと見ている。

    たしかに今年度執行中の12兆円の補正予算の効果や株価上昇による資産効果の波及が来年度にも及ぶことも考えられる。しかしその程度ではゼロないしマイナス成長からの脱却は無理と見る。むしろ筆者は、財政が13兆円もマイナスになるのにプラスの経済成長を予想する人々にその根拠を聞きたい。


    筆者と同様に、日本経済の失速を予想する人は政権与党の中にもいるであろう。ただ消費税増税と5兆円の補正予算が決まってから時間が経っていないので黙っていると思っている。筆者は、ゼロないしマイナスからプラス成長に持って行く唯一の方法は大型の補正予算しかないと思っている。

    タイミングは来年4月から急速に経済が下降するので、その時と考えている。もしそれで足らなければさらに第二次補正予算を組めば良い。また予算の成立から執行まで時間を要するのだから、今から準備をしておく必要がある。

    13/2/11(第743号)「まず印紙税の廃止」で予想した通り、第三の矢である成長戦略はボロボロである。このようなものにかまけていては、時間の無駄である。もしアベノミクスを成功に導きたいなら、大胆な財政出動しかないと筆者は考える。大胆な金融緩和はこのためにあると思っている。



今週はマスコミを取上げるつもりであったが、来週に先送りした。



13/11/18(第774号)「ここ一ヶ月の出来事」
13/10/14(第773号)「虚言・妄言の判断基準」
13/10/7(第772号)「消費税増税、次の焦点」
13/9/30(第771号)「消費税にまつわる諸問題」
13/9/23(第770号)「「声なき声」が届くか」
13/9/16(第769号)「利払い額のGDP比率の推移」
13/9/9(第768号)「利払い額で見る財政の健全性」
13/9/2(第767号)「消費税増税は雲行きが怪しくなった?」
13/8/26(第766号)「財政が危機という怪しい話」
13/8/10(第765号)「消費税増税は絶対に避ける道」
13/8/5(第764号)「消費税増税を促す包囲網」
13/7/26(第763号)「参議院選の結果を考える」
13/7/15(第762号)「アベノミクスの評価他2件」
13/7/8(第761号)「デフレに興味のない大新聞」
13/7/1(第760号)「日経新聞の論説の特徴」
13/6/24(第759号)「アベノミクスを牽制する人々」
13/6/17(第758号)「長期金利上昇で騒いでいる人々」
13/6/10(第757号)「雲行きが怪しいデフレ脱却」
13/6/3(第756号)「財政再建論者のサークル」
13/5/27(第755号)「財政の2010年問題」
13/4/29(第754号)「国民一律の年金」
13/4/22(第753号)「日銀のリスク資産購入」
13/4/15(第752号)「異次元の金融政策」
13/4/8(第751号)「久しぶりの「朝まで生テレビ」」
13/4/1(第750号)「不穏な中国と日本の安全保障」
13/3/25(第749号)「TPPの基本は友好」
13/3/18(第748号)「日本の雪崩的輸出の歴史」
13/3/11(第747号)「TPP交渉と日本警戒論」
13/3/4(第746号)「TPPの実態」
13/2/25(第745号)「有り得る軍事的衝突」
13/2/18(第744号)「群盲象をなでる」
13/2/11(第743号)「まず印紙税の廃止」
13/2/4(第742号)「「構造改革」と「規制緩和」の本当の姿」
13/1/28(第741号)「意志を持った「やじろべい」」
13/1/21(第740号)「金融政策に対する提言」
13/1/14(第739号)「年頭にあたり」
12/12/31(第738号)「中央銀行の働きの変化」
12/12/24(第737号)「日銀とFRBの違い」
12/12/17(第736号)「師走の総選挙の感想」
12/12/10(第735号)「建設国債引受け発言の波紋」
12/12/3(第734号)「先進国だからデフレ」
12/11/26(第733号)「総選挙の行方」
12/11/19(第732号)「残る経済成長路線」
12/11/12(第731号)「先進国における経済成長」
12/11/5(第730号)「投資と経済成長」
12/10/29(第729号)「プラスアルファーの議論」
12/10/22(第728号)「アラン・ブラインダー教授の文章」
12/10/15(第727号)「バランスを欠いた報道」
12/10/8(第726号)「中国からの撤退も視野に」
12/10/1(第725号)「中国の反日暴動に対する感想」
12/9/24(第724号)「本誌の中国問題ダイジェスト」
12/9/17(第723号)「技術流出と日本の伝承文化」
12/9/10(第722号)「技術流出の現状」
12/9/3(第721号)「知的所有権の話」
12/8/27(第720号)「最近の出来事」
12/8/6(第719号)「御用学者の話」
12/7/30(第718号)「増税マニア達は現実離れ」
12/7/23(第717号)「吉川洋東大教授の文章」
12/7/16(第716号)「消費税増税が待ち遠しい?」
12/7/9(第715号)「消費税は「鬼門」」
12/7/2(第714号)「増税騒動の感想」
12/6/25(第713号)「今日の諸情勢の変化」
12/6/18(第712号)「世界中「展望がない」」
12/6/11(第711号)「schole(スコレー、暇)の話」
12/6/4(第710号)「ギリシャ化の話」
12/5/21(第709号)「単式簿記の世界」
12/5/14(第708号)「文春と朝日の関係」
12/4/30(第707号)「続・増税論議と文芸春秋」
12/4/23(第706号)「増税論議と文芸春秋」
12/4/16(第705号)「増税論議と政界」
12/4/9(第704号)「増税派の人々」
12/4/2(第703号)「松下政経塾政治家と増税」
12/3/26(第702号)「英国の永久債発行」
12/3/19(第701号)「過去の号の修正」
12/3/12(第700号)「本誌700号に寄せて」
12/3/5(第699号)「投資顧問AIJの事件」
12/2/27(第698号)「橋下維新政党へのコメント」
12/2/20(第697号)「地方自治体と通貨」
12/2/13(第696号)「デフレ経済下での増税」
12/1/30(第695号)「無税国家への道」
12/1/23(第694号)「世界的な金利低下」
12/1/16(第693号)「過剰貯蓄による災い」
12/1/9(第692号)「バーチャルな話」


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