経済コラムマガジン 平成9年2月10日より
経済コラムマガジン




13/10/14(773号)
虚言・妄言の判断基準

  • 特定のキーワード
    筆者は、経済論説や経済記事を読む時、これらの真偽(虚言・妄言なのか)を判断する基準を持っている。この基準はリトマス試験紙のようなものであり、今日のように虚言・妄言が溢れている時代においては是非とも必要である。しかしそれは案外簡単なことではある。虚言・妄言の判断は、文章の中に特定のキーワードがあるかどうかである。

    判断基準となるキーワードはいくつかあり、その一つが「潜在成長率」(これに関連して潜在GDPも含む)という言葉である。他には07/5/14(第481号)「インフレへの警戒感」で取上げた「インフレ率」といった言葉である(考えが大雑把な米国人はこれを平気で使っている)。何故、物価上昇率といった定義のはっきりした用語を使わないのか不思議である。仮に需要不足で不況になっても(つまりデフレギャップが生じている)、様々な要因で物価上昇が起りうる(例えば輸入品の価格高騰などによって)。

    つまりこの場合、デフレなのにインフレという奇妙なことになる。どうしてもデフレという現象を認めたくない人々がいるのである。頭が混乱している彼等は、苦し紛れにこれをスタグフレーションという言葉を創ってまで誤魔化している。この根底には古典派経済学の「セイの法則、つまり作ったものは全て消費される」といった虚言・妄言の元祖みたいなものが存在している。


    今週はまず「潜在成長率」を取上げる。筆者は、この言葉に出会うと途端に文章の内容全体が信用できなくなる。このような文章の最後は必ず「だから潜在成長率を高める施策、つまり構造改革が必要」となっている。

    日本で公表されている潜在成長率は、1%とか2%と異常に小さい。この分析の基になっているデフレギャップ(GDPギャップとも呼ばれているので今週はこれで統一する)も、わずか数パーセントとこれも極めて小さい。これらのことを取上げたのが06/2/27(第426号)「潜在GDPとGDPギャップ」06/3/6(第427号)「GDPギャップのインチキ推計法」他である。


    ポイントは生産要素(生産設備と労働)の稼働率である。本当にGDPギャップが数パーセントというならば、生産設備の稼働率は100%に近いはずである。それこそ景気は超過熱状態であり、投資減税などによって刺激しなくとも、競って生産設備へ民間投資が行われているはずである。しかしこのようなことは今日の日本で有り得ないことである。

    何と政府のGDPギャップの算出では、日本の生産能力の天井を物理的な生産力の最大値ではなく、過去数年の平均や基準年の総生産高(つまりほぼ名目GDP)を天井とみなしている。つまり実際の生産力の天井を100%としているのではなく、過去数年の平均や基準年の総生産高を100%と設定しているのである。これによって潜在GDP成長率は異常に小さく算出される。つまり政府が公表しているGDPギャップと潜在GDP成長率は大嘘そのものである。

    実際(本当)の総供給力(つまり本当の潜在GDP)は、政府が公表している潜在GDPよりずっと大きい。したがって日本は供給サイドに問題はなく、06/3/13(第428号)「コンビニ弁当の話」で説明したように、需要さえ増えればどれだけでもGDPは増やすことができる(つまり経済成長は可能)。


    需要を増やすには、国民の所得(正確には可処分所得)を増やせば良い。また所得を増やすためには「所得を生むマネーサプライを増やすことが必要」とずっと筆者は主張してきた。そして「所得を生むマネーサプライを増やす」には、政府の財政支出を増やすか減税を行えば良い。

    安倍政権が発足し、日本がデフレであることが共通認識になったことは一つの大きな進歩である。しかし問題の対策であるが、日本には財政出動(政府支出の増加や減税)をどうしても避けたい勢力の抵抗によって有効な政策が打てない状態にある。それどころか消費税が増税される始末である。また財政出動を避けたい勢力は、異常に小さく操作(算出)した潜在GDP成長率という言葉を使いたがる。彼等は「日本の潜在GDP成長率は小さいから、財政出動を行っても、財政赤字が増える一方でインフレ(正確には物価上昇)になるから実質GDPは伸びない」といった大嘘を平気でつく。

    日経新聞10月7日の経済指標(18面)に経済部次長・瀬能繁氏がコラム「消費踊り場、投資は踊るか」を書いている。訳の分からない文章の最後に「構造改革で潜在成長率を高める」「処方箋ははっきりしているが」と例のごとく虚言・妄言を並べている。だいたい政府公表の潜在GDPとGDPギャップは過去の数字を基に算出したものであり、これを今日高めるなんて何を言っているのだ(どのようにこれらが算出されているのか知らないのでは)。やはりここでもリトマス試験紙の有効性が示されていると言える。せめてこのような言葉は文章の最初に出してほしいものである(文章全体を読むのは時間の無駄)。


  • 頭のおかしい「カマトト」
    前段で述べたように、日本の経済論壇は虚言・妄言で溢れている。これをチェックし判断する有効な手段が、特定のキーワードがあるか確認することと指摘した。そして今回の消費税増税騒動でも数多くの虚言・妄言が飛び交った。

    そこで次に消費税論議にまつわる虚言・妄言を取上げる。ここでも特定のキーワードによる虚言・妄言のチェックが有効である。筆者がリトマス試験紙に使っているのは、「日本の財政は危機的」の他に、「財政ファイナンス」「ハイパーインフレ」「金利の突然の高騰」などである。


    さすがに今日では「財政赤字が続くとハイパーインフレが起る」と言っている大馬鹿者はほとんどいなくなった。筆者達は前から彼等に「あなたの使っているシミュレーションプログラム(新古典派プログラム)に重大な欠陥があるのでは」と言ってきた。そもそも今日の深刻な問題は需要不足によるデフレの方である。むしろ政府・日銀の2%の物価上昇目標の実現が危惧されているほどであり、「ハイパーインフレが恐い」なんて間抜けた事を言っている状況ではない。しかしこの言葉も虚言・妄言を見破るリトマス試験紙の一つではある。

    「財政ファイナンス」と「金利の突然の高騰」は今回頻繁に使われていた。特に「財政ファイナンスと見られると、日本国債が叩き売られ金利が高騰する」といった組合せで使われていた。以前は「財政赤字によって、ハイパーインフレが起り金利が高騰する」という組合せであったが、今回は組合せが変わったのである。


    まず「財政ファイナンス」とは聞き慣れない言葉である。どうも日本の学者かマスコミの造語のようである。つまり世界に通用しない経済用語であり、一般的にはマネタイゼーションと呼ばれているものである。本誌で主張している「政府貨幣(紙幣)発行」や「日銀による日本国債購入(特に筆者は永久債の発行とその日銀購入を主張)」などがそれに該当する。つまりセーニアリッジ政策である。

    彼等、つまり財政再建至上主義者達は奇妙な言葉を造ってもマネタイゼーションを阻止したいのであろう。しかし日本においては日銀による日本国債の購入は既に昔から行われてきたことである。それどころか、黒田日銀になり、新規に発行された国債までが間を置かず日銀に買われている。事実上、日銀による日本国債の引受になっているのである。つまりマネタイゼーションは実際に行われている。


    それを「財政ファイナンスと見られると、日本国債が叩き売られ金利が高騰する」と訳の分からないことを言っている。つまり既に財政ファイナンス(マネタイゼーション)とやらは現実に実施されている。実際に行われているのに「財政ファイナンスと見られると〜」と言っている財政学者や御用学者はまさに頭のおかしい「カマトト」である。

    最も注目すべき点は、既に財政ファイナンスとやらがなされていても、日本では金利が全く上昇しないことである。上昇するどころか金利はむしろ低下している(金利急騰なんてどこの国の話なのだ)。もっとも日銀が積極的に国債をどんどん買っているのだから金利が下がるのが当たり前ではある。


    また日銀が保有する日本国債に対して政府は一旦金利を払う。しかしこの金利(経費などを差引いて)は最終的に国庫に戻ってくる(雑収入に計上)。つまり日銀が購入した国債は、実質上、金利負担のない国の借金である。

    さらに政府と日銀の関係は、政府が親会社であり日銀が子会社になる。したがって子会社である日銀の親会社である政府に対する債権である保有国債は、両社を連結決算する際、相殺(債権債務の相殺)される。しかしほとんどの国民は、これらのことを聞かされていないか、気付いていない。むしろ国民に気付かさないために「財政ファイナンス」といった造語まで造って煙幕を張っているのであろう。

    一層のこと日銀が発行された日本国債を全て買い切ってしまえば良いのである。これを行えば日本の財政問題は解決する。もっとも「全て〜」というのは言い過ぎという声があるかもしれない。それならば日銀が国債購入を増やすことに合わせて財政支出を増加させ、目標の2%の物価上率を大きく越えそうになった時点でこれを止めることにすれば良い。


    このように今回の消費税騒動でも虚言・妄言が炸裂していた。面白いことは、このような虚言・妄言を吐く者は一つのキーワードだけではなく、いくつもの怪しい言葉を使う。どこかにキーワードを満載した手本でも有るのだろう。もちろん前段で取上げた潜在GDP成長率や潜在GDPも彼等が好んで使う経済用語である。



経済論壇に溢れる虚言・妄言について話し始めると切りがない。これについてはまた取上げることにする。来週は、安倍総理を支えている政治勢力について述べたい。



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