経済コラムマガジン 平成9年2月10日より
経済コラムマガジン




13/10/7(772号)
消費税増税、次の焦点

  • 5兆円の経済対策と引換え?
    10月1日、安倍総理の消費税増税決定に関する記者会見が行われた。会見の内容は、事前に報道されていたものとほぼ同じであった。また2%のさらなる増税については「判断時期を含め適切に決断」と述べている。

    内容についての報道が先行していたため、特別な反響はなかった。人々は「やっぱりか」「しょうがない」と半分白けた気分でこの決定を受け止めている。はしゃいでいるのは、日本のマスコミだけである。特に日経新聞には、13/7/1(第760号)「日経新聞の論説の特徴」に登場した政治部次長の高橋哲史氏と経済部次長の瀬能繁氏を始めとし、各論説・編集委員の筆者から見ればいい加減でデタラメな論説が連日掲載されている(これらについては来週取上げる)。文章からはまるで自分達が国の行方を決めているような高揚感を伴った雰囲気さえ感じられる。


    増税は、5兆円の経済対策を引換えに決断されたというのが定説になっている。引出した5兆円の経済対策は、安倍総理が決断を引き延したことによって得られた成果という解説まである。たしかに否定できない話ではあるが、これについては後ほど言及する。

    昨年成立した増税法案は、景気条項に「経済の状態が思わしくない事態になれば、増税をストップできる」とある。つまりこれ以外の対応を行うには、もう一度法案を提出し直し法改正を行う必要がある。したがって経済状況がそれほど悪くなかったなら、すんなり増税を決断せざるを得ない立場に安倍総理は置かれていたと言える。

    たしかに4〜6月のGDP成長率は、それほど良くはなかったが(1〜3月より悪化している)、近年の低成長に馴らされている日本の人々の感覚ではまずまず好調と感じられる数字であった。つまり経済状況は、景気条項で想定されているまでは悪くはなかった。しかし大型補正予算を組んだのだから当たり前の結果である(特に公共工事の請負金額が、4月から7月までの間、極端に伸びている)。したがって増税に関しては、安倍総理は逃げ場のない状況に追い込まれていたと見て良い。


    5兆円の経済対策を引出したことを、安倍政権側の勝利という話が出ている。また検討とはあるが法人税減税の実施を総理は言明している。まず復興特別法人税廃止の1年前倒しが12月までに決まりそうである。法人税全体についても、実効税率の引下げが検討されることになっている。

    財務当局は、消費税を上げておきながら法人税の税率を下げるなんて、とうてい受け入れられないことと強固に反発していた。しかし官邸の意向が強く、当局を押切った形になった。13/7/15(第762号)「アベノミクスの評価他2件」他で述べたように、本誌も復興税には、ずっと反対していて超長期の国債を発行し復興事業の財源にすることを主張してきた。

    復興税は、法人税だけではなく所得税にも上乗せされている。法人税の上乗せ分が廃止されるのなら、所得税の分についても廃止すべきという声が当然起ってくるものと考える。特に所得税については、まだ25年間も上乗せが続くといったとんでもないものである。特に「キズナ」というセンチメンタな言葉で人々を愚弄しようとする魂胆が気にくわない。単純に国債(超長期国債)を発行して復興の財源にすれば良いのである。このようなことをやっているから、長期金利が0.6%台といった異常な経済状態になったのである(10年物の国債利回りが0.6%まで下がっているにもかかわらず、誰も資金を借入れて投資を行わないほどの需要不足状態)。


    もっとも筆者は、法人税の税率の引下げには反対しないが、12/11/19(第732号)「残る経済成長路線」で述べたように効果は大きくないと思っている。筆者はこれを財務省と経産省の闘いみたいなものと認識している。たしかに法人税率引下げによって、投資を呼込むことに成功した国はある。欧州ではルクセンブルクのような小国である。またオランダなんかも税の優遇を行って資本を呼込んでいる。これらの国に似ているのは、アジアではシンガポールであろう。

    いずれも小国が抜け駆け的に法人税率を引下げや各種の税優遇を行って、外国の資金の流入を促しているのである。しかし大きな主要国で極端な低税率の国はない。むしろアップルの租税回避問題などに見られるように、今後、これらの税優遇国が国際問題になると考えられる。日本は主要国と同程度の税率にするだけで良いと考える。この場合は、課税ベースや社会保障費の法人負担などを総合的に勘案する必要がある。


  • 馬鹿げている債務残高の法制化
    今後、安倍政権で問題になってくることは、新規国債の発行枠と筆者は見ている。筆者は、このような枠を設定すべきではないと考えるが、財務当局とその周辺部に洗脳された人々は新規国債の発行枠を「冒してはならない神聖なもの」と思い込んでいる。しかし国家は、国全体の総需要と総供給のスタビライザー機能を果す役目を負っているのだから、必要に応じて需要創出のための財政出動が求められる。この財政出動のために国債の発行を増やすことは当然あってしかるべきである。

    特に安倍政権は、デフレ脱却を第一のテーマに掲げているのだから、財政出動を新規国債の発行枠で縛ること自体がおかしい。また発行枠が単年度ベースで設定されていることを考えると、何年もかかるデフレ脱却をこのような短期思考の規定で制限することが馬鹿げている。


    増税と引換えとなる経済対策の策定で、官邸と財務当局との間でけっこう激しいやり取りがあったという(おそらく財源に関してであろう)。この過程で「新規国債の発行枠」を見直すという発言も出たようである。筆者はこれを当然と考える。

    財政再建論者や狂信的な小さな政府論者は、国の債務や国債の発行に枠をはめたがる。最悪のケースでは、国の債務残高や単年度の財政赤字額を法律で縛ることがある。財政が問題になった時、一時的な熱狂によって法律まで作ってしまうのである。


    この馬鹿げた行為によって苦しんでいるのが米国である。昨年の末から「財政の崖」問題を引きずっている。米国は、昔から法律で政府の債務残高に枠を設定しているが、これまで議会は「なあなあ」で上限を引上げてきた。しかし上下院のねじれによって、上限の引上げが困難な状態になった。

    また新年度予算は人質に取られ、予算は執行停止となり、政府機関の一部は閉鎖に追い込まれた。この影響でオバマ大統領のアジア歴訪は中止され、TPP交渉の年内妥結も不透明となっている。さらに今月17日には政府の債務は上限に達し、場合によっては米国債はデフォルトも有りうる状況に追い込まれている(大統領権限によって債務上限を引上げることも考えられるが、憲法解釈の問題が発生する可能性がある)。

    ところが米国債は買われ続け(金融緩和縮小の先送りを受け)、むしろ長期国債の利回りは低下している。市場は17日の債務上限引上げの期限問題は、何らかの解決をみると楽観しているのであろうか。ただ株式市場はこれに神経質に反応して不調に推移している。

    米国が法律で債務残高に枠をはめていることは本当に馬鹿げている。米国の良識のある経済学者やエコノミストもあきれている。中にはFRB(中央銀行)が購入した米国債を消却すると同時に、同額の政府債務を減額すれば済む話と切捨てる者もいる。実際に消却するかは別の話として、政府の債務限度を法律で縛ることのばかばかしさを指摘しているのである。


    日本は米国のことを笑っていられない。日本もこれと同じような法律を制定したことがある。08/4/7(第522号)「小泉的なもの」13/8/26(第766号)「財政が危機という怪しい話」で紹介したように、橋本政権は1997年11月に「財政構造改革法」を制定したのである。これは財政均衡を法律を作ってまで実現させようとしたものである。

    しかし次の小渕内閣がこの「財政構造改革法」とこれを推進する特別措置法のほとんどを停止した。もしこのような法律が存続し、政府の経済対策を縛っていたならとんでもない事が日本でも起っていたと思われる。特に日本は、米国と同様、国会でねじれが生じ一旦制定された法律(たとえ一時の熱狂で制定されたものであっても)が簡単には改定できない状況を経験したのである。


    安倍政権の経済政策を縛っている「新規国債の発行枠」も「財政構造改革法」の精神を受け継いでいる。ただ幸いにも法制化されていない。安倍政権にはデフレ脱却という大きな政策目標がある。これを達成するためには、大胆な財政出動が必要になって来ると筆者は考える。

    財務当局は、税収の増分や余っている復興予算、そして金利低下による国債費の余った分を差し出して、これらを財源にけちな補正予算を組むよう安倍政権に迫ったようである。しかしこの財源は事前に分かっていたものばかりである(予算作成段階で税収を堅く見積もり、金利を高く想定していた)。つまり財務当局は、安倍政権による新規の国債発行を強く牽制したのである。しかしこのような制限がつけられていては、デフレ脱却はとても無理である。これからの焦点は、安倍政権が12月に新規国債の発行を伴う効果ある経済対策を策定できるかである。



今回の消費税増税騒動においても、とんでもない虚言・妄言が飛び交った。来週はこれを取上げる。



13/9/30(第771号)「消費税にまつわる諸問題」
13/9/23(第770号)「「声なき声」が届くか」
13/9/16(第769号)「利払い額のGDP比率の推移」
13/9/9(第768号)「利払い額で見る財政の健全性」
13/9/2(第767号)「消費税増税は雲行きが怪しくなった?」
13/8/26(第766号)「財政が危機という怪しい話」
13/8/10(第765号)「消費税増税は絶対に避ける道」
13/8/5(第764号)「消費税増税を促す包囲網」
13/7/26(第763号)「参議院選の結果を考える」
13/7/15(第762号)「アベノミクスの評価他2件」
13/7/8(第761号)「デフレに興味のない大新聞」
13/7/1(第760号)「日経新聞の論説の特徴」
13/6/24(第759号)「アベノミクスを牽制する人々」
13/6/17(第758号)「長期金利上昇で騒いでいる人々」
13/6/10(第757号)「雲行きが怪しいデフレ脱却」
13/6/3(第756号)「財政再建論者のサークル」
13/5/27(第755号)「財政の2010年問題」
13/4/29(第754号)「国民一律の年金」
13/4/22(第753号)「日銀のリスク資産購入」
13/4/15(第752号)「異次元の金融政策」
13/4/8(第751号)「久しぶりの「朝まで生テレビ」」
13/4/1(第750号)「不穏な中国と日本の安全保障」
13/3/25(第749号)「TPPの基本は友好」
13/3/18(第748号)「日本の雪崩的輸出の歴史」
13/3/11(第747号)「TPP交渉と日本警戒論」
13/3/4(第746号)「TPPの実態」
13/2/25(第745号)「有り得る軍事的衝突」
13/2/18(第744号)「群盲象をなでる」
13/2/11(第743号)「まず印紙税の廃止」
13/2/4(第742号)「「構造改革」と「規制緩和」の本当の姿」
13/1/28(第741号)「意志を持った「やじろべい」」
13/1/21(第740号)「金融政策に対する提言」
13/1/14(第739号)「年頭にあたり」
12/12/31(第738号)「中央銀行の働きの変化」
12/12/24(第737号)「日銀とFRBの違い」
12/12/17(第736号)「師走の総選挙の感想」
12/12/10(第735号)「建設国債引受け発言の波紋」
12/12/3(第734号)「先進国だからデフレ」
12/11/26(第733号)「総選挙の行方」
12/11/19(第732号)「残る経済成長路線」
12/11/12(第731号)「先進国における経済成長」
12/11/5(第730号)「投資と経済成長」
12/10/29(第729号)「プラスアルファーの議論」
12/10/22(第728号)「アラン・ブラインダー教授の文章」
12/10/15(第727号)「バランスを欠いた報道」
12/10/8(第726号)「中国からの撤退も視野に」
12/10/1(第725号)「中国の反日暴動に対する感想」
12/9/24(第724号)「本誌の中国問題ダイジェスト」
12/9/17(第723号)「技術流出と日本の伝承文化」
12/9/10(第722号)「技術流出の現状」
12/9/3(第721号)「知的所有権の話」
12/8/27(第720号)「最近の出来事」
12/8/6(第719号)「御用学者の話」
12/7/30(第718号)「増税マニア達は現実離れ」
12/7/23(第717号)「吉川洋東大教授の文章」
12/7/16(第716号)「消費税増税が待ち遠しい?」
12/7/9(第715号)「消費税は「鬼門」」
12/7/2(第714号)「増税騒動の感想」
12/6/25(第713号)「今日の諸情勢の変化」
12/6/18(第712号)「世界中「展望がない」」
12/6/11(第711号)「schole(スコレー、暇)の話」
12/6/4(第710号)「ギリシャ化の話」
12/5/21(第709号)「単式簿記の世界」
12/5/14(第708号)「文春と朝日の関係」
12/4/30(第707号)「続・増税論議と文芸春秋」
12/4/23(第706号)「増税論議と文芸春秋」
12/4/16(第705号)「増税論議と政界」
12/4/9(第704号)「増税派の人々」
12/4/2(第703号)「松下政経塾政治家と増税」
12/3/26(第702号)「英国の永久債発行」
12/3/19(第701号)「過去の号の修正」
12/3/12(第700号)「本誌700号に寄せて」
12/3/5(第699号)「投資顧問AIJの事件」
12/2/27(第698号)「橋下維新政党へのコメント」
12/2/20(第697号)「地方自治体と通貨」
12/2/13(第696号)「デフレ経済下での増税」
12/1/30(第695号)「無税国家への道」
12/1/23(第694号)「世界的な金利低下」
12/1/16(第693号)「過剰貯蓄による災い」
12/1/9(第692号)「バーチャルな話」


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