経済コラムマガジン 平成9年2月10日より
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13/9/9(768号)
利払い額で見る財政の健全性

  • 重要な利払い額のGDP比率
    今日の消費税論議は、日本の財政状態についての検証が著しく欠けている。適切な検証がないまま日本の財政は、物凄く悪く、破綻寸前という話が常識になっている。筆者はこれが真っ赤な嘘であることをずっと主張してきた。もし日本の財政が本当に最悪ならば、だれも日本の国債なんて買わないはずである。ところが日本の国債はどんどん買われ、金利は歴史的低水準で推移している。

    筆者達は「日本の財政は悪くはない(問題はないと言った方が適切)」という説明をずっとしてきた。これを理解するため「政府の総債務残高のGDP比率ではなく純債務残高のGDP比率を使うこと」を提唱してきた。これも日本の財政が、他の国と異なって総債務残高から差引くことになっている金融資産(外貨準備や政府系金融機関への貸付など)が大きいからである。しかしこの手の説明がもう一つ説得力がないのか、日本の財政に問題がないという真実がなかなか浸透しない。


    そこで今週は、違った角度からの説明を試みる。まず借金の負担を計る基準は、借金の利払い額という認識が必要と言いたい。ところが財政問題が論じられる時、この重要な利払い額を取上げることはまずない。たしかに日本政府の借金は大きいが、金利が極めて低いため利払い額は決して大きくはないのである。しかし日本の財政問題では、この事実にほとんど触れられないか、あるいは意図的に避けられている。

    そこで本誌は、各国の政府の債務残高だけではなく利払い額のGDP比率を算出し、これで各国の財政の健全性を比較してみる。次表のGDP(2011年ー国際貿易投資研究所)、債務残高(総債務残高)、利払い額の単位は米ドル(10億ドル)である。なお債務残高はGDP×債務残高比率(%、直近)で算出し、長期金利(%)は直近(9月4日)のものを使った。また利払額は債務残高×長期金利で算出した。そしてまさに表の利払い額比率(%)こそが一番知りたい利払い額のGDP比率(利払い額÷GDP)のことである。

    各国の利払い額GDP比率
    国名GDP債務残高比率債務残高長期金利利払い額利払い額比率
    日 本5,897237.9214,0300.7761091.8
    米 国15,076106.5315,0752.8584312.9
    ドイツ3,59981.962,9501.935571.6
    フランス2,77490.292,5052.524632.3
    英 国2,42990.312,1942.885632.6
    カナダ1,73785.641,4882.682402.3
    イタリア2,197126,982,7904.3461215.5
    スペイン1,47884.081,2435.970745.0
    ギリシャ290158.5546010.3004716.2


    日本の利払い額のGDP比率は1.8%であり、主要国の中では小さく、日本より小さいのはドイツだけである。また財政が問題になっている南欧諸国はいずれも5%を越えている。これらの国々の利払い負担は、他の先進諸国よりずっと重いことが、この表からも一目瞭然である。つまり日本の財政がギリシャと同じくらい悪いとか言っている人々は、おかしいと思えば良い。

    さらにこの表で使ったのは総債務残高である。もし筆者達が主張している純債務残高で計算すれば、日本の利払い額GDP比率は1%程度(5兆円程度であろう)までさらに下がるものと考えられる(ドイツより良くなる)。いずれにしても「日本の財政は物凄く悪く、破綻寸前」ということは全く有り得ない話である。もし日本の財政が破綻するのなら、その前に世界中のほとんどの国の財政が破綻しているであろう。つまりこの日本の財政状況で、破綻寸前だから消費税の増税が必須と言っている人々は経済に疎いか嘘つきである。彼等は「白い」物を「黒い」と言い続けているのである。


  • 欠落している金利や利払い額の推移
    筆者は、前段の表を作成するにあたり、各国政府の債務に係わる利息、つまり利払い額をネットで捜してみた。各国の利払い額さえ入手できれば、簡単に利払い額のGDP比率は簡単に算出できるからである。ところがこれが全く見つからないのである。この肝心の利払い額を取上げる学者やエコノミストがいないのであろう。

    次に各国の総債務残高を捜したがこれも見つからない(グラフはよく見かけるが実際の金額がない)。しかし各国政府の総債務残高のGDP比率の数字は腐るほどあった。おそらく日本の財政がいかに悪いかを研究している学者やエコノミストが数多くいて、彼等が研究成果を次々とネットで公開しているからであろう。仕方がないので、この総債務残高のGDP比率とGDPから各国の総債務残高を算出した。また各国の長期金利は分かるので、総債務残高と長期金利から各国の利払い額を推計した。


    このように各国の利払い額が直接拾えないので、各国の長期金利を使って計算した。長期金利は、10年物国債の利回りである。もちろん金利の低い短期の借入や、逆に期間が長くもっと金利の高い超長期の借入がある。しかしどの国も10年国債での資金調達が大きいようである。

    また同じ10年物国債であっても、金利が高かった頃に発行されたものに対する金利負担はそれだけ重くなる。このように細部を見れば、実際の利払い額と長期金利で計算した利払い額との間には、当然、ある程度の差異が生じる。しかしこのことは承知している。さらに長期金利には直近のものを使っている。つまり今日の金利水準がずっと続いているといった仮定で算出した。

    このように利払い額のGDP比率の算出にあたって、いくつかの割切りを行っている。ただ目的が各国間の比較となれば、これらの割切りも許容される範囲内と筆者は考える。実際、各国の長期金利は同じ方向に動くケースが多い。


    また日本のGDPと債務残高は、ちょっと大きいような感じである(日本の債務残高比率もちょっと大き過ぎると感じられるが、これについての言及は割愛する)。これは2011年のGDPを使っていることが影響している。当時の円レートは79円程度と今日よりかなり円高であり、これで換算するとどうしても大きくなるからである。したがってドルベースの利払い額も大きくなっている。

    しかし総てのドル建ての数字が同じ割合で大きくなっているので、GDP比率を計算する時には互いが打ち消されている。つまり円レートの変動は、利払い額のGDP比率の計算結果に影響を与えていない。


    同じ借金でも消費者金融から高利で借りた場合の利払いの負担は重い。それに対して日本の銀行は、ほとんどゼロに近い金利で預金者から大きな金を借りている。しかし消費者金融から借入が問題になっても、日本のメガバンクの大きな借入額(つまり預金額)は問題になることはない。これは預金金利が極めて低いからである(中国の高利の理財商品とは好対照)。

    同様に日本政府は極めて低い金利で資金を借入れている。ところが政府の借金を消費者金融からの借入と同等に扱うような論調がある。金利がいくら低くても、国の借金は不健全という観念に染まっている人々がいるのである。


    筆者達が日本の金利が低くなっていることを指摘しても、御用学者は政府の借金が増えていることだけを問題にする。一見、泥試合になる様相である。しかし実際のところ政府の借金の増え方より、金利の低下のスピードの方が速い。これを客観的に確認するには、利払い額の推移を見れば分かるはずである(日本政府の利払い額は確実に小さくなっていると考えられる)。また各国政府の借金による実際の負担を比べるのなら、本誌が行っているような利払い額GDP比率を算出し比較すれば良い。

    ところが日本においてこのような研究はほとんど行われていないようである。今週号を作成するため、検索サーバを使ってみた。たまたま「国債利払い額、各国」で検索してみると、驚くことにトップに表示されたサイトは何と本誌の10/7/26(第625号)「国債利払いの名目GDP比率」であった(検索数は19万件余り)。筆者は、日本の財政状態を論じるには、金利や利払い額をも考慮することが必要と考えるが、日本の学者やエコノミストの間ではこれらに全く関心が払われていないのである。

    日本の学者やエコノミストが日本の財政を研究すると言った場合、いかに日本の財政が悪いかを分析することに尽きるようである。金利や利払い額の推移を考慮することは、日本の財政が悪いという結論を出すのに邪魔なのであろう。しかしそれでは「科学性」「論理性」「公平性」「客観性」など経済学の研究にとって重要な要素がないがしろにされる。このような異常な日本の財政に対する論議のまま、消費税増税が強行されようとしているのである。



財政の健全性を検証する際、金利と利払い額を見ることが重要ということを今週指摘した。来週はこれにまつわる事をさらに取上げる。

2020年の東京へのオリンピック招致が決まった。目出度いことではあるが、また費用捻出のための増税を言う者が現れそうである。この財政再建論者といういつもいい加減なことを言っている「貧乏神」が、これまで日本を不幸にしてきたのである。



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