経済コラムマガジン 平成9年2月10日より
経済コラムマガジン




13/9/2(767号)
消費税増税は雲行きが怪しくなった?

  • 三党合意の背景
    安倍政権は、有識者60人に対する消費税増税の是非についての意見聴取をスタートさせた。有識者の選定にあたり、特に増税反対派も含めるよう総理は指示した。消費税増税は既定路線になっており、増税賛同者が目立つこの会合であっても、数少ない増税反対論者は「最後の砦」となり得る。

    ただ物事の順番がおかしいことを人々は分かっているべきであろう。このような意見集約の機会を設けて後、あるいは並行して政治の場で消費税増税に関する審議を行うべきであった。しかしこのような意見聴取が全くない中で、野田前政権は強引に法案を成立させたのである。


    ここで消費税増税決定に至る政治の経緯を、筆者が理解している範囲で述べる。まず財政に疎いと見られた野田首相が消費税増税に邁進したことは異様であった。いくら財務大臣を経験し財務官僚に洗脳されたと言え、まことに奇妙な行動であった。筆者は、野田首相の消費税へののめり込みは、これとは別の理由があったと思っている。

    2010年の参議院選挙の直前、菅首相が唐突に消費税増税を打出し民主党は惨敗した。これによって参議院でねじれが生じた。このため野田民主党は、思うように法案を成立させることができなくなった。この状況を打開するには、野田民主党は野党自民党の協力を得るか、あるいはもう一歩進んで自民党と大連立を組む他はなくなったのである。


    当時の自民党総裁はガチガチの財政再建論者の谷垣氏であり、消費税増税は谷垣自民党も乗りやすいテーマであった。また一方の自民党にも、政権の基盤を危うくする消費税増税は民主党にやらせた方が得策といった考えがあった。自民党は、公明党と共に早期の衆議院解散を条件に法案成立に協力することにした。

    民主党の内部では次の衆議院選挙で敗北することが分かっていた。ただ自民党との協力関係が出来ていれば、自民党を中心とした次の政権において、民主党がこれに加われるのではないかといった思惑があった(当時、参議院では自・公は過半数を占めておらず当面民主党の協力が必要)。このような両党の思惑によって、とても成立するはずもなかった消費税増税法案が成立したのである。

    民主党と自・公の3党は衆参で圧倒的な多数を占め、全く議論もなく法案は成立した。揉めたのは反主流派が反対した民主党だけであった。民主党は、小沢一派を切捨て純化路線を採り、三党合意に漕ぎ着けた。一般の国民が消費税増税に様々な声を上げる間もなく、消費税税率を2倍にするといった乱暴な政策が決まったのである。消費税税率の大幅アップを選挙で掲げたことがなかったはずの民主党の主流派が、政権にしがみつくために行った博打が三党合意であった。


    しかしこの大博打は完全に裏目に出た。「ろくな事をしていないのに、消費税率の大幅アップだけを決めた」と有権者の大反発を受け、民主党は衆議院選挙で大敗北を喫した。あまりにも負け過ぎたため、民主党の存在自体がなくなった。

    民主党のもう一つの目算狂いは、自民党の総裁が財政再建派の谷垣氏から安倍氏に替わったことである。安倍総裁は、財政再建ではなくデフレ克服を前面に打出した。これらによって民主党の次政権への参加といった夢は完全に消えた。だいたい小選挙区制のもとで二大政党の連立なんて所詮無理な話である。


    また三党合意といっても、民主党は消滅寸前となり自民党の党首も交代した。ましてや増税に賛同した谷垣前総裁は、今日、自民党内で力がなくなっている。このように三党合意の主役達が消えてしまったのである。

    最も大事なことは、安倍新体制が財政再建ではなくデフレ克服に軸足を置いたことである。また打出した施策が少しずつ効果を生み出している。さらに安倍政権の「デフレ脱却」は国民の賛同を得て、安倍内閣の支持率は高い。このように三党合意の時とは、状況が様変わりしている。したがって今日、三党合意を見直すことは当然あってしかるべきである。


  • 愚か者の御用学者
    日本には、消費税増税による財政再建を目指す勢力があり、これまでも色々な工作を行ってきた。一年前の三党合意はこの大きな成果であった。筆者は、この時が財政再建派の頂点であったと見ている。しかし平家物語ではないが「驕れるもの久しからず」である。

    この一年の間に増税派は慢心の中にあった。日経新聞を始めとしたマスコミを押え、言いなりになる政治家や御用学者に囲まれ、来年4月からの増税実施は間違いない状況であった。しかし少しずつボロが出始めている。消費税増税の増収の大部分が、三党で言っていたような社会保障ではなく財政赤字の穴埋めに使われることが明らかになったことなどもその一つである。


    雲行きが怪しくなったのは、安倍総理が増税実施の判断の前に有識者の意見を聞きたいと言い出した頃からである。さらに総理は「60人の有識者の中に増税に反対する者も含めろ」と付け加えた。これは事務局が増税賛成派だけを集めることを警戒したからである。

    正直に言って筆者は、この有識者会議に期待をしていなかった。しかし二日目の有識者会合に宍戸俊太郎元筑波大元副学長が出席し「増税を数年延期、完全雇用の達成後に検討再開を」と反対意見を述べていた。宍戸さんは93SNA導入の際の国民経済計算調査会議の委員長をやっていたほどの見識者である。日本では極めて数少ない良心派の経済学者の一人である。このようなまともな意見が開陳できたのも、安倍総理の「増税反対派も含めろ」という指示が効いたからであろう。


    慢心していた増税派に何となく焦りが見え出している。本誌の13/6/24(第759号)「アベノミクスを牽制する人々」13/7/1(第760号)「日経新聞の論説の特徴」で取上げたような、御用学者や御用エコノミストの増税論にデタラメさが目立つようになった。このデタラメさが増税派の焦りを感じさせる。

    このような言動こそが増税実施には逆効果であろう。判断に迷っていた人々の中にもこのようなデタラメの論調を見聞きし、増税に懐疑的になった者が出てきたとしても不思議ではない。もっとも総じて御用学者には愚か者が目立つ。また愚かだから御用学者になったとも言える。彼等は13/6/17(第758号)「長期金利上昇で騒いでいる人々」で取上げたように、アベノミクスで金利が上がると騒いでいた。ところがその後、長期金利は下がりっぱなしである。特にシリア情勢の悪化により日本国債が買われ、30日には0.720%まで低下している(ただし筆者は、単純に金利低下を喜んではいない。アベノミクスがうまく行かないと市場が見ているとも受取られるからである)。


    驚いたことに30日深夜(31日未明)の朝まで生テレビ(テレビ朝日系)のテーマがなんと「激論 消費増税」であった。増税法案が成立し、既に決着がついたはずの消費税をまた取上げようというのだから尋常ではない。一般の視聴者にとっては「何を今さら」というテーマである。

    まさか適当なテーマがなかったので「消費税」を取上げたというわけではなかろう。ひょっとするとマスコミの一部に、消費税増税がすんなり実施されないのではないかという観測が出ているとも考えられる。ただ冒頭で述べたように今頃消費税の是非を論じるなんて、順番が違うのである。


    番組の中でパネラーの発言に集中砲火が浴びらせられた場面が二度ほどあった。五味廣文元金融庁長官は「日本は1,000兆円の債務を抱え、増税を見送れば財政破綻を招く」と御用学者のセリフをそのまま言っていた。これに対して日本政府の持っている多額の金融資産を無視しているうんぬんと他のパネラーから一斉攻撃を受けていた。さすがに他の増税賛成者からはこれに対して助け舟は出なかった(五味氏は、このようなバカげたセリフが誰にも通用すると思っていたのであろうか、ニガ笑いして誤魔化していた)。

    純債務残高で見れば日本の財政状態は他の先進諸国と遜色はない。総債務残高から差引く金融資産が他の国に比べ突出して大きいからである。また公的年金の残高も大きい。さらに日銀が多額の日本国債を買っているのだから、日本の実質的な純債務残高はもっと小さくなる。今回の「朝まで生テレビ」の中でこのことがもっと深く議論されるのではないかと一瞬筆者は期待した。しかしこのテーマはさらっと流され、他の話に移った。議論が肝心な所に来るとなぜか他のテーマに移るのがこの番組の特徴である。

    公明党の斉藤鉄夫議員は「消費増税で景気が悪くなっても、補正予算と低所得者層対策を行う」と何回も発言し、その度に他のパネラーから批難されていた。「増税して景気が悪くなり、そのために税金を使って対策を打てばまた財政が悪くなり、さらに増税が必要になるのではないか」と指摘されていた。これに対して斉藤議員は答えに窮しながらも同じ話を何度も繰返していた。この二人は批難されていたと言うより、完全にバカにされていたと感じられた。このような様子では、消費税増税実施の行方が怪しくなってきたのではないかとさえ感じられた。



来週は消費税増税推進派の焦りをもう一度取上げる。



13/8/26(第766号)「財政が危機という怪しい話」
13/8/10(第765号)「消費税増税は絶対に避ける道」
13/8/5(第764号)「消費税増税を促す包囲網」
13/7/26(第763号)「参議院選の結果を考える」
13/7/15(第762号)「アベノミクスの評価他2件」
13/7/8(第761号)「デフレに興味のない大新聞」
13/7/1(第760号)「日経新聞の論説の特徴」
13/6/24(第759号)「アベノミクスを牽制する人々」
13/6/17(第758号)「長期金利上昇で騒いでいる人々」
13/6/10(第757号)「雲行きが怪しいデフレ脱却」
13/6/3(第756号)「財政再建論者のサークル」
13/5/27(第755号)「財政の2010年問題」
13/4/29(第754号)「国民一律の年金」
13/4/22(第753号)「日銀のリスク資産購入」
13/4/15(第752号)「異次元の金融政策」
13/4/8(第751号)「久しぶりの「朝まで生テレビ」」
13/4/1(第750号)「不穏な中国と日本の安全保障」
13/3/25(第749号)「TPPの基本は友好」
13/3/18(第748号)「日本の雪崩的輸出の歴史」
13/3/11(第747号)「TPP交渉と日本警戒論」
13/3/4(第746号)「TPPの実態」
13/2/25(第745号)「有り得る軍事的衝突」
13/2/18(第744号)「群盲象をなでる」
13/2/11(第743号)「まず印紙税の廃止」
13/2/4(第742号)「「構造改革」と「規制緩和」の本当の姿」
13/1/28(第741号)「意志を持った「やじろべい」」
13/1/21(第740号)「金融政策に対する提言」
13/1/14(第739号)「年頭にあたり」
12/12/31(第738号)「中央銀行の働きの変化」
12/12/24(第737号)「日銀とFRBの違い」
12/12/17(第736号)「師走の総選挙の感想」
12/12/10(第735号)「建設国債引受け発言の波紋」
12/12/3(第734号)「先進国だからデフレ」
12/11/26(第733号)「総選挙の行方」
12/11/19(第732号)「残る経済成長路線」
12/11/12(第731号)「先進国における経済成長」
12/11/5(第730号)「投資と経済成長」
12/10/29(第729号)「プラスアルファーの議論」
12/10/22(第728号)「アラン・ブラインダー教授の文章」
12/10/15(第727号)「バランスを欠いた報道」
12/10/8(第726号)「中国からの撤退も視野に」
12/10/1(第725号)「中国の反日暴動に対する感想」
12/9/24(第724号)「本誌の中国問題ダイジェスト」
12/9/17(第723号)「技術流出と日本の伝承文化」
12/9/10(第722号)「技術流出の現状」
12/9/3(第721号)「知的所有権の話」
12/8/27(第720号)「最近の出来事」
12/8/6(第719号)「御用学者の話」
12/7/30(第718号)「増税マニア達は現実離れ」
12/7/23(第717号)「吉川洋東大教授の文章」
12/7/16(第716号)「消費税増税が待ち遠しい?」
12/7/9(第715号)「消費税は「鬼門」」
12/7/2(第714号)「増税騒動の感想」
12/6/25(第713号)「今日の諸情勢の変化」
12/6/18(第712号)「世界中「展望がない」」
12/6/11(第711号)「schole(スコレー、暇)の話」
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12/5/21(第709号)「単式簿記の世界」
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12/4/23(第706号)「増税論議と文芸春秋」
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