経済コラムマガジン 平成9年2月10日より
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13/7/1(760号)
日経新聞の論説の特徴

  • デフレの問題点
    先週、日経新聞の経済教室に掲載された北坂真一同志社大学教授の「金利安定へ歳出削減を」という奇妙で荒唐無稽な文章を取上げた。しかし教授のこの文章だけではなく、日経新聞に掲載される経済に関するほとんど全ての論説が異常である。その異常さは、デフレ脱却を政策の中心に据えた安倍政権が発足してから特に酷くなった。

    しかもそれらの論調はほぼ一定の方向を向いている。異論は絶対に許さないといった雰囲気である。まるで巨大宗教団体の広報紙や独裁国家の機関紙と見間違う。今日の日経新聞は中国の人民日報やソ連時代のプラウダみたいなものと考えれば良い。ちなみに昔のプラウダは正しいのは日付けぐらいと言われたものであるが、今の日経新聞も同じレベルである。


    経済論説の全ての方向は「消費税増税と歳出削減」と「規制緩和による構造改革と法人税減税」である。要するに財政再建と構造改革である。そして一番の攻撃の対象は、アベノミクス第二の矢の財政出動や積極財政(機動的な財政政策)である。例えば長期金利が少し上昇すると、途端に財政健全化を訴える幼稚な文章が掲載される。北坂教授の文章なんてその典型である。

    たしかに以前から日経新聞にはこのような論調が根強くあった。しかし昔は数は少ないが、時たま財政出動や積極財政を唱える文章が載ることがあった。ところが最近ではそのようなことは皆無である。気持ちが悪くなるほど「財政再建」と「構造改革」ばかりである。


    これらの根源となると思われる文章が6月13日と15日の日経新聞に掲載された。論説「成長戦略 的を射たか」の「上」(宿題はまだ残っている)と「下」(「痛み」説く知恵絞る時)である。執筆者は「上」が経済部次長の瀬能繁氏、「下」が政治部次長の高橋哲史氏である。肩書きから両者は日経新聞の論説を代表するエースと推察される。

    両者の文章はよく似ていて、共に経済効率を高める成長戦略、つまり構造改革と、財政再建の必要性を訴えている。一方、財政出動には両者とも極めて否定的である。瀬能繁氏の言う宿題とは財政再建のことであり、高橋哲史氏は勝手に財政出動は限界に来ていると指摘している。

    ところで財政の累積債務を問題にした「財政出動限界説」は30年以上も前から唱えられてきたものである。しかし赤字国債増え続けているにもかかわらず、日本国債への需要は増え続け長期金利は下げ続けているのが現実である。これは国の借金が増えるスピードを上回って国民全体の貯蓄が増えていることを意味している。つまり国がもっと借金をして、需要を創出する必要があることを国債市場は示唆しているのである。両次長は、日本の財政に関して自分達の理解が完全に間違っていることに気付くべきである。


    両者とも国民に対して「痛み」に耐えることを説いている。しかし彼等はデフレ経済がなぜ問題なのか全く分かっていない。まず彼等はデフレの定義を物価の下落としていながら(OECDは2年連続の物価下落・・筆者はデフレをデフレギャップで捉えている)、デフレを問題としているところがおかしいのである。物価が下落すること自体は、日本国民全体にとって結構なことのはずである。

    デフレが問題なのは、これによって失業や倒産が増えたり、失業しないまでも給料がカットされるからである。さらに新卒者や再就職を求める人々の就職が難しくなることがデフレ経済のもう一つの問題である。物価上昇(彼等の言うところのインフレ)が全ての人々にとって悪影響があるのに対して、デフレは失業者などピンポイントで不幸な人々を生む。

    デフレの初期は、失業などの不幸に陥る人は限られている。しかし日本のようにデフレが進むと、親戚で一人くらいだったデフレで痛みを覚える人の数はだんだん増え、今日では家族で一人ぐらいが該当するようになった。つまり日本でデフレが社会問題化したのである。


    したがって安倍政権が、脱デフレを政策の中心に据えたのは正解であり、まっとうな方向である。ところが経済の新聞を自認する日経新聞はデフレの弊害について全くと言って良いほど理解していない(実際は分かっていながら知らないフリをしているとも思われるが)。日経新聞はデフレ経済を深刻に感じていない。だからデフレ脱却を目指すアベノミックスに対しても、的外れな論説を続けているのである。


  • 日経新聞の喜びそうなこと
    デフレ経済によって叩きのめされる人々(失業者など)がいる一方で、むしろデフレ経済が続くことによって利益を得る人々がいる。既に金融資産を形成した人々や高額の年金支給が保証されている人々(払い込んだ年金保険料よりずっと多額の年金を受取る予定)などである。これらの人々は、内心でデフレが続くことを願っている可能性が強い。

    したがって筆者は、資産形成を既に終わっている日経新聞(日経新聞は利益剰余金は2,600億円もある一方で借金がほとんどない、朝日新聞も利益剰余金は大きいが借金も大きい、毎日新聞は・・・)がデフレをむしろ助長する論説を続けることにある意味で納得している。ところが金持ちの日経新聞だけでなく、貧乏なメディアまでが盛んに安倍政権のデフレ脱却政策にいちゃもんを付けているのだから世の中は不思議である(毎日系の経済週刊誌はアベノミックスで金利が上がるとかいらぬ心配をしている・・筆者の想像では日経新聞関係者は笑っているだろう)。


    実のところ筆者は怒りを押さえながら今週号を書いている。消費税増税などで日本の一般の人々に「痛み」を求めているのが日経新聞などのメディアである。ところが彼等は図々しくも、「新聞」に消費税の軽減税率適用を求めてシンポジウムを先日開催しているのである。「ふざけるな」の一言である。ところで財政当局や一部の政治家との間で軽減税率適用の密約が既にできている可能性もあるのではないかと筆者は見ている。しかしもしそのような事が許されるのなら、安倍政権はお終いである。


    ちょっと話は変わるが、文春の芥川賞受賞作品が面白くなくなっている。筆者も、昔は受賞作を欠かさず読んでいたが、最近は月刊文芸春秋に掲載されている受賞作は時間の無駄と読み飛ばしている。文芸春秋社も受賞作によって話題作りをしようと苦労しているようであるが、つまらないものはつまらない。

    芥川賞受賞作品が面白くなくなったのは、候補作品が芥川賞の審査員の趣味や嗜好に合わせるようなものばかりになったことが一番の原因ではないかと言われている(筆者もそう思う)。つまり作家が読者ではなく審査員ばかりを向いているのである。大体、審査員の作家の作品が面白くないのに、彼等が選ぶ作品が面白いはずがない。


    日経新聞に掲載される経済論説がデタラメになったのも、芥川賞受賞作品がつまらなくなったのと共通していると筆者は思っている。先週、北坂教授の文章を「明らかに目的を持って日経新聞が書かせたもの」と述べた。もちろん日経新聞の直接の命令で文章を書いたわけではない。しかし執筆者が意識して日経新聞の喜びそうなことを書いていると見られる。

    芥川賞の審査員に該当するのが、日経新聞の場合は瀬能経済部次長や高橋政治部次長達と思えば良い。したがって日経に掲載されるには、両次長の思想や嗜好に沿った内容で文章を書く必要がある。つまり端的に言えば、両次長こそが日経新聞に掲載される経済論説の全てを書いているようなものである。


    このように日経のほとんど全ての経済論説の論調には、両次長を始めとした日経の幹部の強い影響が考えられる。そして両次長の文章を読めば解るように、両者の特徴はサプライサイド重視であり、財政均衡至上主義である。もしもう一つ加えるのなら非論理性ということになる。

    瀬能経済部次長はやたら財政健全化指向のドイツを持ち上げている。しかし今日、余裕のあるのに利己的なドイツに対して周りから財政出動するよう批難が出始めている。高橋政治部次長は、トウ小平の「先富論(富める者から先に富む)」を日本でも実行すべきと言っている。しかし前段で述べたようにデフレ経済下では、既に一部の者がまっ先に貧しくなっているのである。さらに格差を助長するような政策が望ましいと言っているのだから驚く。自民党の中にも日経新聞のような事を言っている者がいるが、実際にそのような政策を実施するようなら参議院選も危うくなる。



来週は今週の続きで、日経新聞によく掲載されるタイプの虚言・妄言をいくつか取上げる。



13/6/24(第759号)「アベノミクスを牽制する人々」
13/6/17(第758号)「長期金利上昇で騒いでいる人々」
13/6/10(第757号)「雲行きが怪しいデフレ脱却」
13/6/3(第756号)「財政再建論者のサークル」
13/5/27(第755号)「財政の2010年問題」
13/4/29(第754号)「国民一律の年金」
13/4/22(第753号)「日銀のリスク資産購入」
13/4/15(第752号)「異次元の金融政策」
13/4/8(第751号)「久しぶりの「朝まで生テレビ」」
13/4/1(第750号)「不穏な中国と日本の安全保障」
13/3/25(第749号)「TPPの基本は友好」
13/3/18(第748号)「日本の雪崩的輸出の歴史」
13/3/11(第747号)「TPP交渉と日本警戒論」
13/3/4(第746号)「TPPの実態」
13/2/25(第745号)「有り得る軍事的衝突」
13/2/18(第744号)「群盲象をなでる」
13/2/11(第743号)「まず印紙税の廃止」
13/2/4(第742号)「「構造改革」と「規制緩和」の本当の姿」
13/1/28(第741号)「意志を持った「やじろべい」」
13/1/21(第740号)「金融政策に対する提言」
13/1/14(第739号)「年頭にあたり」
12/12/31(第738号)「中央銀行の働きの変化」
12/12/24(第737号)「日銀とFRBの違い」
12/12/17(第736号)「師走の総選挙の感想」
12/12/10(第735号)「建設国債引受け発言の波紋」
12/12/3(第734号)「先進国だからデフレ」
12/11/26(第733号)「総選挙の行方」
12/11/19(第732号)「残る経済成長路線」
12/11/12(第731号)「先進国における経済成長」
12/11/5(第730号)「投資と経済成長」
12/10/29(第729号)「プラスアルファーの議論」
12/10/22(第728号)「アラン・ブラインダー教授の文章」
12/10/15(第727号)「バランスを欠いた報道」
12/10/8(第726号)「中国からの撤退も視野に」
12/10/1(第725号)「中国の反日暴動に対する感想」
12/9/24(第724号)「本誌の中国問題ダイジェスト」
12/9/17(第723号)「技術流出と日本の伝承文化」
12/9/10(第722号)「技術流出の現状」
12/9/3(第721号)「知的所有権の話」
12/8/27(第720号)「最近の出来事」
12/8/6(第719号)「御用学者の話」
12/7/30(第718号)「増税マニア達は現実離れ」
12/7/23(第717号)「吉川洋東大教授の文章」
12/7/16(第716号)「消費税増税が待ち遠しい?」
12/7/9(第715号)「消費税は「鬼門」」
12/7/2(第714号)「増税騒動の感想」
12/6/25(第713号)「今日の諸情勢の変化」
12/6/18(第712号)「世界中「展望がない」」
12/6/11(第711号)「schole(スコレー、暇)の話」
12/6/4(第710号)「ギリシャ化の話」
12/5/21(第709号)「単式簿記の世界」
12/5/14(第708号)「文春と朝日の関係」
12/4/30(第707号)「続・増税論議と文芸春秋」
12/4/23(第706号)「増税論議と文芸春秋」
12/4/16(第705号)「増税論議と政界」
12/4/9(第704号)「増税派の人々」
12/4/2(第703号)「松下政経塾政治家と増税」
12/3/26(第702号)「英国の永久債発行」
12/3/19(第701号)「過去の号の修正」
12/3/12(第700号)「本誌700号に寄せて」
12/3/5(第699号)「投資顧問AIJの事件」
12/2/27(第698号)「橋下維新政党へのコメント」
12/2/20(第697号)「地方自治体と通貨」
12/2/13(第696号)「デフレ経済下での増税」
12/1/30(第695号)「無税国家への道」
12/1/23(第694号)「世界的な金利低下」
12/1/16(第693号)「過剰貯蓄による災い」
12/1/9(第692号)「バーチャルな話」
11/12/19(第691号)「シミュレーションモデルの話」
11/12/12(第690号)「財政破綻のすすめ」
11/12/5(第689号)「「騒ぎ屋」の時代」
11/11/28(第688号)「技術進歩の恩恵」
11/11/21(第687号)「避けられる根本問題」
11/11/14(第686号)「物事の本質」
11/11/7(第685号)「組織の異端児的存在」
11/10/31(第684号)「組織の研究」
11/10/24(第683号)「気乗りしないTPPの話」
11/10/17(第682号)「解決策はユーロ離脱か」
11/10/10(第681号)「ポール・クルーグマン教授の変心」
11/10/3(第680号)「現実論者VS観念論者」
11/9/26(第679号)「世界的な「日本化」」
11/9/12(第678号)「欧州発のリーマンショック」
11/9/5(第677号)「野田政権の成立」
11/8/29(第676号)「円相場の今後の動き」
11/8/22(第675号)「欧米経済の変調」
11/8/15(第674号)「脱・反原発派の人々」
11/8/8(第673号)「食品安全委員会の問題」
11/8/1(第672号)「タウンミーティングの報告」
11/7/25(第671号)「意味の解らない暫定基準値」
11/7/18(第670号)「政府が明らかにすべきこと」
11/7/11(第669号)「放射線防護の専門家」
11/7/4(第668号)「ダイオキシンとプルトニウム」
11/6/27(第667号)「付加価値を生まない発電」
11/6/20(第666号)「付加価値と発電」
11/6/13(第665号)「ポスト原発はやはり原発」
11/6/6(第664号)「菅政権に対する不信任案騒動」
11/5/30(第663号)「ニューニューサンシャイン計画」
11/5/23(第662号)「原発と電力会社の経営」
11/5/16(第661号)「原発推進派と反・脱原発派」
11/5/2(第660号)「菅政権の迷走」
11/4/25(第659号)「放射線は身体に良い?」
11/4/18(第658号)「山を越えたか?」
11/4/11(第657号)「原子力の専門家」
11/4/4(第656号)「本当に重大な事は何か」
11/3/28(第655号)「電力不足で表沙汰になった事実」
11/3/21(第654号)「東日本巨大地震」
11/3/7(第653号)「日本が貿易立国という誤解」
11/2/28(第652号)「日本は本当に貿易立国?」
11/2/21(第651号)「関税以外の貿易障壁」
11/2/14(第650号)「TPPに関する推理」
11/2/7(第649号)「菅首相の消費税増税」
11/1/31(第648号)「モラルハザードの話」
11/1/24(第647号)「問題は分配ではない」
11/1/17(第646号)「永久債の日銀引受け」
11/1/10(第645号)「日本の経済成長シナリオ」
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