平成9年2月10日より
経済コラムマガジン


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98/7/27(第76号)


小淵新自民党総裁誕生を考える
  • 三候補の経済政策
    橋本総裁の辞任を受け、自民党では総裁選挙が行なわれ、小淵外相が新総裁に選ばれた。各種の世論調査では、小泉氏が一番の人気であり、一方経済界などは梶山氏を推す声が大きかった。それに対して、小淵氏の自民党以外での人気は極めて低いものであった。マスコミの主張では、自民党の選択は国民の意志に反するものと言うことになる。筆者の考えはこれに真っ向反対である。総裁が話合いでなく選挙で決まったことは評価されることであるが、三氏の主張する政策を吟味すれば、小淵氏の選択しか自民党にはないと考えられる。これについては先週号7/20(第75号)「橋本総理退陣を考える」で述べた通りである。筆者は、三氏のいずれの候補が最終的に総理になっても、自民党の政権と言うことになれば、実際の政策には大きな相違は生じないと予想している。ただ、小泉氏のようにはっきり物事を主張する政治家が総理になると、自分の主張と違う政策を進めることは非常に難しいことになる。主張が間違っている場合には軌道修正が必要になるが、このような政治家にはこれが困難なのである。つまり責任を追及するマスコミの格好の「餌食」になる可能性が強いのである。このことは橋本総理で実証済みのことである。
    次に三氏の主張していた経済政策に、筆者なりの簡単なコメントを行ないたい。小淵氏については、筆者の考えに近いのでここでは省略する。
    小泉氏については、マクロ経済政策が具体的ではなく不明である。しかし、行政改革への執念が一番強いことから、財政支出にも消極的にならざるを得ないであろう。むしろ氏の主張の特徴は大胆な行政改革であり、郵政三事業の民営化である。小泉氏は元々権力指向が強い政治家である。そのため一番力のある大蔵省にこだわりが強い。そのためか政務次官になる時にも大蔵政務次官にこだわり、かなりねばって大蔵政務次官になっているはずである。「郵政三事業の民営化」へのこだわりも氏がいわゆる大蔵族であることの延長線で理解すべきである。筆者も「郵政三事業の民営化」には基本的には賛成であるが、是非これを今やらなければ日本が持たないと言う問題とは考えない。むしろ、現在、民間の銀行がバブル期の過剰融資で、大量の不良債権を抱え苦しんでいるが、もし郵便貯金が民営化されていたなら、郵便貯金も農協と同様、不動産融資にのめり込んでいた事態が十分予想される。つまり「郵政三事業の民営化」がされていなかったことが日本では「不幸中の幸い」だったのである。筆者は、もし「郵政三事業の民営化」を行なうなら20年以上も前から、手を付けておくべきであったと考えている。もちろんその場合には民間の銀行の自由化も同時に進めることが必要であったと考える。全てがタイミングがずれているのである。
    筆者は、小泉氏が決して嫌いな政治家ではないが、その極端な発言がマスコミのあげ足取りに使われ、内閣を作っても早晩行き詰まることは目に見えているのである。また、氏は決して経済に強いとは考えられない。もっと経済が落ち着いた時点で活躍する場を見つけるべきである。自民党内では、氏に対する反発も強いが、これは大蔵省への反発でもある。しかし、このようないきさつはマスコミで報道されることはない。小泉氏自身も総裁に選ばれなかったことで内心ホットしているはずである。
    梶山氏は、小泉氏に比べ、老獪で柔軟性があり、総理総裁になっても案外こなすことができるとも考えられる。しかし、氏は元々そんなに経済に強い政治家ではなかったはずであり、最近の経済に対する積極的な発言のバックには誰かがいると考えられる。問題はこのブレーンである。筆者はこのバックのブレーンがかなり片寄った考えの持ち主と思われる。筆者は、氏が主張するように、今日の不況が金融機関の不良債権が原因とは考えていない。金融機関の不良債権が景気に影響を与え始めたのは最近のことと理解している。逆に金融機関の不良債権問題が表面化する前から景気は落ち込んでいたのである。むしろ景気の後退が金融機関の問題をさらに難しくしていると考えている。つまり氏の主張するように金融機関の問題が仮に解決しても、景気は回復しないと考える。また、景気が後退したままでは再び金融機関に問題が発生すると思われる。たしかにここまで来ると金融機関の信用不安は緊急の課題であるが、景気対策も同時に行なう必要があると言うことである。この点で小淵氏の方が事態を正しく理解していると考えられるのである。
    梶山氏のアイディアでは「金融機関の債権を徹底的に調査し、強制的に引当を行なわせ、債務超過の金融機関は強制的に閉鎖する」と言うものである。野党やマスコミにもこの考えは受け入れやすいと考えるが、問題は現時点では不良債権がどれだけあるか見積もるのことが難しことである。また、個別の債権について不良化するパーセンテージを見積もることも難しいことである。現在、金融監督庁と日銀が大手銀行の調査を行なっており、10月の始めには調査結果がまとまることになっている。しかし、これが公表されるとしても野党やマスコミは「これは信用できない」と騒ぐはずである。梶山氏や野党の考えではまだ何行かが潰れないと納得しないと言うことになる。筆者の考えは、これ以上、大手銀行は潰してはいけないと言うことである。このことは北海道拓殖銀行の破綻がどれだけ北海道の経済に打撃を与えているか考えると自明のことである。また一行破綻すれば、次はどこかと言う話になるはずである。つまり破綻する銀行があれば、話はそれで終わると言うことにはならないのである。筆者は、金融機関の不良再建の問題の解決にはどうしても「グレーの部分」が残るのはしかたのないことと考えている。世間では問題のある銀行は数行だけに限られると言う前提で話がなされているが、そうではなかったら話は違ってくるのである。筆者はそこで野党や梶山氏に問いたいのは、もし調査の結果、全ての大手銀行が債務超過だったら、全ての銀行を潰すと言うことなのかと言うことである。不良債権の評価方法によっては、このようなこともありうるのである。筆者が考える政府にとって必要なことは、大手19行は絶対に破綻をさせないと言う意志をはっきり内外に示すことである。
    今後問題となるのは事実上破綻している金融機関の取り扱いである。具体的には「会社更正法」の金融機関への適用である。現在の「会社更正法」をそのまま適用しては、その金融機関は事実上倒産することになり、混乱を招くことになる。つまり「会社更正法」を適用しない状態で、「会社更正法」を適用したような実効をあげる方法である。これには「会社更正法」を改正するか、あるいは特別法の制定を行なう必要がある。この問題については別の機会に述べたい。 

  • 小淵政権の人事
    今のところ党の三役は決定しているが、閣僚人事についてはまだ不明である。大蔵大臣に梶山氏を推す声があるが、筆者は反対である。理由は、前述したように、氏があまりにも金融機関の不良債権にポイントを置き過ぎているからである。またバックにいるブレーンも気になるところである。さらに大蔵大臣に民間人を当てる意見もあるが、これにも反対である。日本経済を正しく理解していると思われる「識者」は少なく、筆者が推薦できる人物は極めて限られている。またそのような方々ほど大蔵大臣なる可能性が小さいからである。反対に日本で多くの著名な「識者」と言われている人々がいかに「いい加減な発言」を繰り返してきたかは、本誌でもずっと指摘してきた通りであるが、むしろこちらの人々が閣僚になる可能性が強いのである。筆者は、大蔵大臣には、大蔵官僚の考えや行動パターンを十分理解し、彼等をコントロールできる政治家が適任と考える。
    また、一つ気になるのは作家「堺屋太一氏」の閣僚への登用が噂されていることである。閣僚と言うことになれば、経済閣僚と言うことになろう。氏は通産官僚の出身であり、今でも通産官僚の言動を擁護している場面を何回か見かけたことがある。氏は官僚の行動をよく非難しているが、どうも非難の対象は通産官僚以外の官僚のことのようである。筆者の感想では、通産省はビジョンをよく発表するがどれも空論的であり、観念的である。たしかに対外交渉には強い官庁であるが、マクロ経済に対する感覚が欠落している印象を受ける。最近の例では、「規制緩和によるセルフガソリンスタンドの解禁」がものすごい需要の拡大になることを喧伝していた。しかし、これは現実には全く普及せず、現在その数はようやく2桁を超えた程度であり、20パーセントのスタンドがセルフ化になるとした通産省の予想が大きく外れている。見るに無残な外れ方である。通産省は以前から、経済企画庁と並んで、規制緩和により、内需拡大が可能と主張し、その試算を行なっている。「セルフガソリンスタンドの解禁」も3,4千億円の需要拡大があると予想していたのである。結果は数億円の投資がなされただけである。通産省は規制緩和によりGDPが何パーセントも増えると試算を発表してきたが、中味はこのようないい加減な予想の積み上げである。むしろ、別の機会に規制緩和が内需を縮小するケースがあることを説明したい。とにかく問題は、このような規制緩和に係わる「迷信」が自民党の議員にも及んでいることである。「財政支出」を増やさなくとも内需が拡大すると言うのだから、だれでも飛びつくのは当り前である。このような「迷信」を信じている者が多いから、財政再建をむやみ急いだり、景気対策が遅れるのである。橋本総理にいたっては、昨年のデンバーサミットで訪米した際、「規制緩和で内需拡大を行なうから心配するな」とクリントン大統領にこれらの官僚が作成した資料で説明していたくらいである。
    筆者も日本でセルフのスタンドが普及することはないと思い、事前に石油関係者に話を聞いたが、その答も「セルフ化するスタンドはほとんどないはずである」と言うことであった。現実は全くこの通りになった。これは、いかに通産官僚が頭だけで物事を考え、末端の現実を理解していないかの証拠である。このような見込み違いがよくあるのが通産省である。もし通産省が民間の会社なら、今までに何十回も倒産しているような間違いを繰り返しているのである。橋本総理の一番の政策ブレーンも通産省から出向の秘書官と言われている。通産官僚の言う言葉は耳ざわりが良いが、現実的ではないと言うことを自民党もそろそろ気が付くべきである。






98/7/20(第75号)「橋本総理退陣を考える」
98/7/13(第74号)「マスコミの驕りを考えるーーその2」
98/7/6(第73号)「マスコミの驕りを考えるーーその1」
98/6/29(第72号)「参院選と経済を考える」
98/6/22(第71号)「為替介入の背景を考える」
98/6/15(第70号)「橋本総理と円安を考える」
98/6/8(第69号)「日本の金融を考える」
98/6/1(第68号)「経済への関心を考える」
98/5/25(第67号)「世論と経済政策を考えるーーその2」
98/5/18(第66号)「世論と経済政策を考えるーーその1」
98/5/11(第65号)「アンケートと経済政策を考える」
98/5/4(第64号)「今回の景気対策を考える」
98/4/27(第63号)「消費の限界を考えるーーその2」
98/4/20(第62号)「消費の限界を考えるーーその1」
98/4/13(第61号)「恒久減税を考える」
98/4/6(第60号)「今回の自民党の景気対策を考える」
98/3/30(第59号)「米国の対日経済要求を考える」
98/3/23(第58号)「新日銀総裁の就任を考える」
98/3/16(第57号)「今回の不況の深刻さを考える」
98/3/9(第56号)「日米の景気対策を考える」
98/3/2(第55号)「日経新聞と経済を考えるーーその2」
98/2/23(第54号)「日経新聞と経済を考えるーーその1」
98/2/16(第53号)「貸し渋りと景気を考える」
98/2/9(第52号)「政治と経済を考える」
98/2/2(第51号)「官僚と経済を考える」
98/1/26(第50号)「「小さな政府」を考えるーーその3」
98/1/19(第49号)「「小さな政府」を考えるーーその2」
98/1/12(第48号)「「小さな政府」を考えるーーその1」
97/12/22(第47号)「需要不足の日本経済を考える」
97/12/15(第46号)「景気の現状と対策を考えるーーその8」
97/12/8(第45号)「景気の現状と対策を考えるーーその7」
97/12/1(第44号)「京都会議と経済を考える」
97/11/24(第43号)「景気の現状と対策を考えるーーその6」
97/11/17(第42号)「景気の現状と対策を考えるーーその5」
97/11/10(第41号)「景気の現状と対策を考えるーーその4」
97/11/3(第40号)「景気の現状と対策を考えるーーその3」
97/10/27(第39号)「景気の現状と対策を考えるーーその2」
97/10/20(第38号)「景気の現状と対策を考えるーーその1」
97/10/13(第37号)「市場の心理を考える」
97/10/6(第36号)「公共事業とマスコミを考える」
97/9/29(第35号)「リクルート事件と経済を考える」
97/9/22(第34号)「ロッキード事件と経済を考える」
97/9/15(第33号)「住宅と貯蓄を考える(その2)」
97/9/8(第32号)「住宅と貯蓄を考える(その1)」
97/9/1(第31号)「労働組合と経済を考える」
97/8/25(第30号)「競争時代の賃金を考える」
97/8/18(第29号)「米国経済の生産性の向上を考える」
97/8/11(第28号)「米国の景気を考える(その2)」
97/8/4(第27号)「米国の景気を考える(その1)」
97/7/28(第26号)「内需拡大と整備新幹線を考える(その2)」
97/7/21(第25号)「内需拡大と整備新幹線を考える(その1)」
97/7/14(第24号)「香港返還と中国経済を考える(その2)」
97/7/7(第23号)「香港返還と中国経済を考える(その1)」
97/6/30(第22号)「日本の米国債保有を考える」
97/6/23(第21号)「投機と市場を考える」
97/6/16(第20号)「規制緩和と日米関係を考える」
97/6/9(第19号)「ビックバンと為替を考える」
97/6/2(第18号)「内需拡大と公共工事を考える(その2)」
97/5/26(第17号)「内需拡大と公共工事を考える(その1)」
97/5/19(第16号)「金利と為替を考える」
97/5/12(第15号)「規制緩和と景気を考える」
97/5/5(第14号)「為替の変動を考える」
97/4/28(第13号)「日本の物価と金利を考える(その2)」
97/4/21(第12号)「日本の物価と金利を考える(その1)」
97/4/14(第11号)「日本の土地価格を考える」
97/4/7(第10号)「当マガジン経済予測のレビュー」
97/3/31(第9号)「日本の株式を考える」
97/3/24(第8号)「たまごっちと携帯電話を考える」
97/3/17(第7号)「政府の景気対策を考える」
97/3/10(第6号)「オリンピックと景気を考える」
97/3/3(第5号)「為替レートの動向を考える(その2)」
97/2/24(第4号)「為替レートの動向を考える(その1)」
97/2/17(第3号)「日本の金利水準と為替レートを考える」
97/2/10(第2号)「国と地方の長期債務残高を考える」
97/2/1(第1号)「株価下落の原因を考える」「今後の景気動向を考える」

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