経済コラムマガジン 平成9年2月10日より
経済コラムマガジン




13/4/22(753号)
日銀のリスク資産購入

  • 公的年金積立金の大きな問題
    今週からまた政策提言を行うことにする。ところで黒田新日銀総裁の元で大胆な金融緩和がスタートした。今回の金融緩和に対しては「よくぞここまで踏込んだものだ」と評価するものから、「資金は実体経済に回らない」とか「インフレという副作用だけが起きる」と否定するものまで様々な声がある。まず筆者は今回の金融緩和政策に大賛成である。特に今週提言する政策はこれを踏まえたものである。


    さてほとんど報じられないが、日本ではとんでもない事態が進行している。公的年金の積立金が想定以上にかなり早く枯渇する可能性が出ているのである。04年の年金改革で「100年安心」と言われていた公的年金の積立金が2030年までさえ持たないという試算が出ている。

    これは主に三つの大きな想定違いが起っているからである。これらはいずれも年金財政の収入面で生じている。たしかに支出面でも年金受給者の平均寿命が想定より延びているため支出が想定以上に増えているが、金額的には大したことはなさそうなので今回は取上げない。

    収入面では、まず小子化によって新規の年金加入者が想定を下回っていることである。しかしこれは小子化だけが原因ではなく、正規労働者の減少(つまり非正規労働者の増加)が影響している。この対策として厚労省は、非正規労働者の厚生年金加入を企業に要請している。しかしこれがうまく行っているとは思えない。ただこれついてはこれ以上言及しない。


    収入面での二つ目の大きな想定違いは、年金加入者の収入が伸びず、それどころか逆に収入が減少していることである。厚生年金ならば、標準報酬の17%程度(17年度までに18.3%まで引上げ)を保険料として徴収している(雇用主が半分負担)。ところが平均標準報酬の月額は、00年度の31.8万円をピークにその後毎年減り続け、現在では30万円程度(09年度30.4万円)になっている。

    「100年安心」プランの想定では、この賃金が毎年2.1%上昇することを前提にしていた。それどころかリーマンショック後の09年度に、何とこの想定の上昇率を2.5%に引上げているのである。しかし前述のように賃金は、上がるどころか逆に下がっているのである。


    収入面のもう一つの大問題は、年金積立金の運用である。運用成績が想定よりかなり悪い。そして今週の本誌の本題が、この年金積立金の運用の問題である。ちなみに01年からの10年間の厚生年金の累積収益は29.0兆円であり、年間の平均利回りは2.76%である。ところが「100年安心」プランは、何と平均利回を4.1%と想定している。

    たしかに想定の4.1%を越えた運用成績の年もあるが、大半はそれ以下であり、それどころかマイナスの年も何回かあった。90年代前半までのように国債の利回りが4〜7%であった時代なら、4.1%の想定は納得できるが、利回りが1%を切っている現状ではまさに荒唐無稽である。

    このように収入は想定を大きく下回っている。特にリーマンショック後の経済の落込みによる賃金引下げと株価の下落などによって、猛スピードで年金積立金が減っている。


    ちなみに10/3/22(第608号)「政策提言(後半)」で公的年金(厚生年金、国民年金、共済年金)の積立額合計の推移を次の表で示した。

    (積立額合計の推移 単位:兆円)
    年 度積立金合計
    7836
    95162
    96171
    97179
    98186
    99193
    00196
    01195
    02197
    03197
    04198
    05193
    06191
    07188


    12年12月末の厚生年金と国民年金の積立金残高の残高は111.9兆円で、公務員共済の積立金の残高を約40兆円(推定)とすれば、合計が152兆円となる。つまり04年のピークより46兆円も減っている。さらに今後も年金受給者がまだ増えることを考えれば、極端なケースでは15年くらいで積立金が枯渇することは十分有り得るのである。

    たしかに積立金の急減は、08年以降のリーマンショック後の経済不調と株価下落といった特殊要因に大きな影響を受けている。したがって政権交代後、株価が急速に回復し為替も円安に転じているので現実的には、枯渇時期もう少し延びるものと考えられる。しかし安倍政権が永久に続くわけではない。特に賃金については大きな上昇をあまり期待しない方が良い。ところでこの年金積立金の枯渇についてはほとんど報道されていないので、一般の国民はこの年金財政の詳しい状況をほとんど知らないと思われる(薄々と気付いているかもしれないが)。


  • しょうがない話
    前段で筆者は、日本の公的年金積立金が大きな問題を抱えていることを示した。またこれには年金の収入面に三つの問題があることを説明した。この解決には、単純に「消費税増税」「年金支給額のカット」「年金支給開始年齢の引上げ」と世間でよく言われている。しかしもしこれらを実施すれば、日本のデフレは一層悪化することは確実である。これはデフレ脱却を目指す現政権の政策と明らかに矛盾する。

    ただある程度の「年金支給額のカット」は、厚生年金と公務員共済年金について避けることはできないと見ている。ただし国民一律の年金の導入によってこれを補填するという条件が前提である。これについては来週あたりで取上げる。


    筆者はこれらの安易な方法ではない解決を模索する。04年の年金改革で永久均衡方式から有限均衡方式(積立金を2100年までに一年分に減らす)に変更した。これは現実的な一歩であった。しかし100年というのはちょっと浮き世離れしている。問題は、受給者が圧倒的に多い団塊の世代の年金をどうやってやり過ごすかである。つまり100年プランではなく40年くらいのプランの方が現実的である。ただこれも年金問題の本質ではない。

    理想的な解決方法を見い出すためには、まず収入面の三つの問題点を一つ一つを見る必要がある。ただ「年金加入者の減少」と「標準報酬の引上げ(つまり賃金のアップ)」は政府が直接的に関与できない。せいぜい経済対策で景気を良くする事ぐらいしかない。また仮に経済状態が良くなっても年金加入者が増えたり、賃金が上がるという保証はない。政府は民間にこれらを要請する程度のことしかできないのである。何とも心もとない話である。


    ただ最後の年金の運用に関しては、政府がかなり踏込んだ措置を実施する余地があると筆者は考える。まず筆者は、年金積立金の運用を現行のようにリスク資産で行うことに強く反対してきた。特に厚生年金は、日本の株式と外貨建資産といったリスク資産での運用が29%を占めている(ただし外貨建資産についてどの程度為替予約を行っているか不明)。ちなみに共済年金はこの比率を10%程度に抑えている。

    だいたい公務員がリスク資産で年金資金の運用を行うことが大間違いであり、絶対に止めてもらいたい事である。おそらく厚労省はプロのファンドマネージャーに任せているから大丈夫と言うだろうが、そのような事は誰も信じない。運用に失敗すれば、政府が補填するか年金支給額を減額する他はなくなるのである。ましてや利回り4.1%の想定なんて荒唐無稽過ぎる。今日のようなリスク資産による運用を続けるならば、そのうち「地獄」を見る事態に遭遇する可能性が常につきまとう。筆者は、どうしても12/3/5(第699号)「投資顧問AIJの事件」で取上げた厚生年金基金の運用の大失敗を他人事とは見ることができない。


    そこで筆者は、政府が4.1%の利回りを保証する債券を発行し、公的年金の運用資金の全額(つまり152兆円)をこれに置き換えることを提案する。筆者は、政府が発行する債券として永久債(コンソル債)を想定している。ただこの永久債は特別なもので、市中には出回らないことを想定している(市中向けに発行すれば希望者が殺到し大混乱になる)。

    たしかに今日の超長期債(満期20年以上の国債)の利回りを考えると4.1%はちょっと高いと思われる。しかし厚労省が4.1%で想定しているのだからしょうがないのである。しかし資金運用による収入が確定するのなら、年金改革にとって大きな前進になると筆者は考える。


    この提案の一つの問題は、年金積立金で現在運用している資産(リスク資産も含む)の処理である。もし市中でこれらを全部処分すれば、確実に相場は大暴落する。そこで日銀がこれらの資産(リスク資産も含む)を全て購入するというのが筆者の考えである。日銀がリスク資産購入に一歩踏込んでいることを考えれば、決して非現実的ではない(元々筆者は日銀のリスク資産購入に消極的であった。これはインサイダー取引関与に繋がることを危惧したものであり、年金積立金の保有資産なら大丈夫と見る)。

    これによって政府は毎年4.1%の利息を年金財政に支出することになる。一方、日銀は買入れた資産から収益を得る(ここ10年の実績では2.76%)。つまり政府と日銀のトータルの損益を見れば、政府の支出額から日銀の収益を差し引いた金額がネットの政府の持出し額になる。おそらくある程度の持出しは覚悟することになる。これも厚労省が4.1%という高めの運用利回りを想定しているのだからしょうがないのである。ただ株価が上昇し、円安になっている(外貨建資産の価値が上昇)今日こそ、筆者のこの提案を実行する最後のチャンスと考える。



来週は今週の続きになる。



13/4/15(第752号)「異次元の金融政策」
13/4/8(第751号)「久しぶりの「朝まで生テレビ」」
13/4/1(第750号)「不穏な中国と日本の安全保障」
13/3/25(第749号)「TPPの基本は友好」
13/3/18(第748号)「日本の雪崩的輸出の歴史」
13/3/11(第747号)「TPP交渉と日本警戒論」
13/3/4(第746号)「TPPの実態」
13/2/25(第745号)「有り得る軍事的衝突」
13/2/18(第744号)「群盲象をなでる」
13/2/11(第743号)「まず印紙税の廃止」
13/2/4(第742号)「「構造改革」と「規制緩和」の本当の姿」
13/1/28(第741号)「意志を持った「やじろべい」」
13/1/21(第740号)「金融政策に対する提言」
13/1/14(第739号)「年頭にあたり」
12/12/31(第738号)「中央銀行の働きの変化」
12/12/24(第737号)「日銀とFRBの違い」
12/12/17(第736号)「師走の総選挙の感想」
12/12/10(第735号)「建設国債引受け発言の波紋」
12/12/3(第734号)「先進国だからデフレ」
12/11/26(第733号)「総選挙の行方」
12/11/19(第732号)「残る経済成長路線」
12/11/12(第731号)「先進国における経済成長」
12/11/5(第730号)「投資と経済成長」
12/10/29(第729号)「プラスアルファーの議論」
12/10/22(第728号)「アラン・ブラインダー教授の文章」
12/10/15(第727号)「バランスを欠いた報道」
12/10/8(第726号)「中国からの撤退も視野に」
12/10/1(第725号)「中国の反日暴動に対する感想」
12/9/24(第724号)「本誌の中国問題ダイジェスト」
12/9/17(第723号)「技術流出と日本の伝承文化」
12/9/10(第722号)「技術流出の現状」
12/9/3(第721号)「知的所有権の話」
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12/7/23(第717号)「吉川洋東大教授の文章」
12/7/16(第716号)「消費税増税が待ち遠しい?」
12/7/9(第715号)「消費税は「鬼門」」
12/7/2(第714号)「増税騒動の感想」
12/6/25(第713号)「今日の諸情勢の変化」
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12/6/4(第710号)「ギリシャ化の話」
12/5/21(第709号)「単式簿記の世界」
12/5/14(第708号)「文春と朝日の関係」
12/4/30(第707号)「続・増税論議と文芸春秋」
12/4/23(第706号)「増税論議と文芸春秋」
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