経済コラムマガジン 平成9年2月10日より
経済コラムマガジン




13/4/8(751号)
久しぶりの「朝まで生テレビ」

  • 生産年齢人口と経済成長率の関係
    最近の経済論議には目新しい理論や目を引くようなものがない。昔から同じ人々が同じ事を言っているに過ぎない。ところで先週は、新しい体制に変わった日銀がかなり思い切った金融政策を決定した。しかし財政政策については、参議院選が終わるまで次の思い切ったものは打出されないと筆者は見ている。

    そんな中、久しぶりに朝まで生テレビ(田原総一郎氏の体調を考え録画であった)を観た。タイトルは「激論アベノミクス一本勝負」であった。しかし激論らしいものはなかった。どうも経済論壇もスランプのようである。筆者も半ば眠りながらこの番組を観た。


    ただちょっと注目される発言がいくつかあったので、それらを取上げる。番組の中で、ある経済学者の「日本の経済成長率の推移は生産年齢人口の伸び率の推移に一致する」という仮説が紹介された。つま少子高齢化が進む日本では、経済成長率が低下するのは当り前というのである。

    途端に、この話に対してパネラーから「だから移民を積極的に受入れる必要がある」「家庭に閉じこもっている女性を経済現場に動員する必要が有る」「やはり構造改革を急ぐべき」など例の虚言・妄言が次々と噴出した。筆者は、デフレギャップが大きくなりデフレが深刻になったため、安倍政権は、これを克服することを経済政策の中心に据えたはずと理解している。このデフレによって、投資は伸びず雇用情勢も改善せず、また雇用者報酬は毎年減り続けるなど、これが原因の問題が次々と起っているのである。

    ところが番組のパネラー達は、さらに日本の供給力を増やしデフレギャップを大きくするような政策を主張し始めたのである。さすがに途中でパネラー達も、自分達が矛盾した話をしている事にはたと気付いたようだ。急に「今年は新卒者の就職内定率が良くなった」といった訳の分らないことを言い出し始めた。このように日本を代表するような論客達の頭の中は相当混乱している。


    これも筆者は、日本が「言霊」の国で、日本人が言葉に弱いことが一因と考える。彼等は「生産年齢人口」の「生産」という言葉に過剰反応したのである。「生産年齢人口」とは15〜65才の人口である。たしかにこの範囲の年齢の人々は生産の中心になる(ただ15、16才や65才の人々が生産人口とは思われないが)。

    しかし同時にこの年齢層の中に消費者として大きな存在の年代を含んでいるといった重要な事を番組のパネラーは完全に忘れている(無視している)。総務省統計局のホームページで、年代別の消費金額を表示している。これによると消費金額は30才台、40才台でピークを打ち、50才台、60才台で極端に落ちる(70才で少し持直すがとても30才台に届かない)。この30才台、40才台を「消費年齢」と称して良い。つまり日本は大きく消費する世代の人口(消費年齢人口)が減ってきたから需要が伸びず、低成長になったと言った方がよほど説得力がある。


    たしかに30才、40才台は、子弟の教育費を支出し、車などの大型消費を行う。またこの年代で特に注目すべきは住宅の購入であろう。ローンを組んで住宅を購入するといったらこの年代である。60才以上でローンで住宅を買う人は稀であろうし、銀行も金を貸さないと思われる。02/12/16(第278号)「零細企業・個人の借入金問題」で示したように、ピーク時、日本の住宅新設着工戸数は年間170万戸を超えていたが、今日では80万戸程度まで減少している。つまり特に消費に関しては、30〜50才の人口が重要であり、この人口の割合が減少しているため(生産年齢人口が変わらなくても)、日本の消費に勢いがなくなっているのである。

    また日本の場合、経済成長は供給サイドはほとんど関係がなく、消費などの需要サイドを見るべきである。そして需要サイドということになれば、消費や住宅投資だけでなく、設備投資、純輸出そして政府支出(公共投資を含む)の動向までが関わってくる(細かい話をすれば在庫投資まで考慮する必要がある)。ここ十数年、特に設備投資と公共投資の減り方が顕著である。このように日本の生産年齢人口と経済成長率を関連付けて説明している経済学者こそ最低の詐欺師であるが、このような詐欺師に手玉に取られている論客達も問題である。


  • マネタリーベースと円安
    前段の話の最後辺りで、岸博幸慶大大学院教授が「やはり経済成長は資本の増加、生産性の向上、そして人口の増加で決まるのが原則(方程式)」と言い始めた。何か大学で教えている経済原論の一節のような発言である。本誌でもこの定式を08/9/15(第541号)「経済成長の定式(モデル)」10/12/13(第643号)「日本における新経済成長論」で取上げた。

    しかし10/12/6(第642号)「経済成長理論に対する批判」で述べたように、この定式が成立つのは、作ったものは全て売れ消費されるという古典派経済学の中心的教義である「セイの法則」が成立つ場合のみである。しかし歴史的に見ても「作ったものは全て売れ消費される」というのは、近代産業が興る前のよほど生産力が乏しかった時代か、大戦で生産設備が徹底的に破壊された戦後のドイツや日本で見られた一時的な現象である。

    ケインズは、当時の現実の経済(分析の対象にした英国)において、「セイの法則」は全く成立たないことを証明した。近代、先進国の経済では、有効需要が不足するのが一般的であり、作ったものが全て売れ消費されるといった「セイの法則」が適用できるのは極めて特殊なケースとケインズは指摘した。つまり「セイの法則」を前提とした古典派経済学を「特殊理論」と見なし、それに対して有効需要が不足するのが一般的であると反論した。そしてこの経済理論を集大成したのがケインズの「一般理論」である。


    ケインズの死後、ケインズの弟子のサミュエルソンなどによって、経済成長理論が盛んに研究されるようになった。ところがその理論は暗黙のうちに「セイの法則」を取入れたものであった(唯一、ハロッドだけが経済成長の過程で有効需要の不足が起り経済成長が不安定になることを指摘した)。これはサミュエルソン達の新古典派綜合から自ずと導かれる経済理論である(ただしサミュエルソンなどは後年ケインジアンに戻っている)。

    ところが日本の経済学界では、ケインズ理論を否定する新古典派(古典派経済学への先祖帰り)が盛んになり主流となっている。したがって今日、大学で教えられている経済学と言えばサプライサイド重視の新古典派の理論である。むしろケインズ理論は、財政赤字を拡大させ経済の構造改革を阻害するものとして否定的に捉えられている。

    「朝まで生テレビ」のパネラーのサプライサイド重視の意見を聞いていると、彼等も日本の経済学界の常識に強く影響を受けていることが分る。だからステッグリッツやクルーグマンが何を言おうと、頭には供給サイドしかないのである。したがって彼等の経済論と現実の経済の間には大きな隔たりが生じている。この距離を埋めるため彼等は屁理屈を連発し、ますます頭の中が混乱することになる。もし彼等が日本を代表する経済の論客ということならば、日本経済のデフレ脱却は遠い話である。


    番組に高橋洋一氏が出ていた。彼の持論は「各国の為替変動の要因は各国の金融緩和政策で100%説明できる」であった。ところが今回の番組で他の出席者から、今日の円安は貿易収支や経常収支が赤字になっていることが影響しているという指摘が出た。高橋氏はこれに対して「100%というのは言い過ぎで、70%くらい」とトーンダウンしているのが面白かった。

    どうも各国のマネタリーベースと為替変動の関係を言出したのは、ヘッジファンドのジョージ・ソロス氏のようである。これを示したのがソロスチャートと呼ばれるものである。ちょっと前までは、たしかに世界の為替相場は、このチャートが示すような動きを示していた。


    しかし筆者は、為替の動きがそんな単純なものとは思っていない。筆者は、特に中・長期的には経常収支に影響を受けたり購買力平価に収斂する傾向があると思っている。またもっと短い期間では、投機筋の思惑や様々な社会情勢に影響される。例えば信用不安や軍事的脅威の発生で、資金が逃げればその国の通貨は安くなる。昔、教科書問題が為替相場に影響を与えたことさえあった。

    さらに為替相場に影響力のある有力な市場関係者の声が相場を動かすことがある。例えばオピニオンリーダ的な者が「今回は金利差」と言えば、金利差の動きに合わせて為替相場が動いたりする。今回はジョージ・ソロス氏の「各国のマネタリーベース」という見解が主導権を握り、これによって為替が動いた部分があったことは否めない。

    半年前までの円高は、たしかに欧米のマネタリーベースの増加の影響はある。しかし低金利が限界に達していた日本とスイスを除き、他の先進国の金利は下がる余地があったことはたしかである。つまり日本とスイスを除いた先進国は、金融緩和がより効いたとも言えるのである。

    このような事情で欧米の金融緩和による金利低下が日本の円を相対的に押上げていた面があることを指摘しておく。もちろん欧州の金融不安も確実に影響していたと考える。このように70%でも言い過ぎと筆者は思っている。筆者が懸念するのは「日銀がマネタリーベースの増加政策さえ行っていれば円安になり株価も上昇する。したがって財政政策は不要である。」といった意見や雰囲気が広がることである。



来週は、日銀の今回の金融緩和政策を取上げる。

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