経済コラムマガジン 平成9年2月10日より
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13/2/11(743号)
まず印紙税の廃止

  • 財政負担の有無
    3週前に13/1/21(第740号)「金融政策に対する提言」で金融政策を取上げた。まず最初に、金融政策についてもう少しコメントを付け加える。政府と日銀との間で協議が持たれ、日銀はインフレターゲットを認めるなど白旗を上げたことになっている。しかし実際の妥協案は、今の日銀の政策からそれほど踏出したものではない。例えば長期国債の買い切りオペ額も、今日の月額1兆8,000億円から2兆円へ、わずか2,000億円の増加に過ぎない。

    しかも買い切りオペ額の増額は、14年、つまり来年からである。多くの為替の専門家も、この程度の話でどうして円安が進むのか不思議に思っているであろう。とにかく実態が何であれ、「一段の金融緩和」という言葉に市場は反応しているように見える。とうとう白川総裁の交代時期が早まるという話が出ただけで、円安が進んだ。行き過ぎた円高の修正局面では、どのような話でも円安要因になるのであろう。


    ただ円安が好ましいと思っている筆者は、理由が何であれ円安が進むことを結果オーライと考える。また一旦円安の流れが始まると、この円安がさらなる円安を生むことになる(逆に円高の場合も、円高が続くことがさらなる円高の要因になる)。円安によって輸入物価が上昇し、これが国内物価を押上げるからである。つまり国内物価が上昇すれば、実質金利が低下し、これがさらなる円安の要因となる。

    とにかく日銀に関しては、何事も3月の総裁の交代以降という認識が安倍政権にはあるようだ。それにしても日銀法が改正された97年頃、「日銀の独立性」というものが当然のものと声高に語られていたのが嘘のようである。当時から筆者は、「日銀の独立性」を主張している人々は何も考えていないと指摘してきたが(本誌はずっと中央銀行は政府の政策に協調するのが当り前と主張してきた)、これが本当であったことが証明されたのである(次には構造改革、財政規律、地方分権などといった言葉がいかに空しいのか証明されるであろう)。


    デフレ脱却について、各方面で議論がなされ色々な政策がアイディアとして出ている。筆者は、政策は大きく二つに分れると理解している。一つは政府の財政負担を伴うものであり、もう一つは政府の財政負担が伴わないものである。後者は、端的に言えば政府の負担なしで民間に金を出させようという政策である。

    ただ両者の中間に、小さな減税や少額の政府補助金を伴う対策があると筆者は認識している。つまり少額の出費による政策によって、日本経済を活性化させようという試みである。例えばこれまでのエコポイント制度などが典型である。

    政府が少しの財政負担を行い、これで資金が滞留している民間(企業、家計)に金を使わせようという政策である。筆者はこれら中間に位置する諸政策は、政府の財政負担が伴わない政策の方に分類するのが妥当と考える。ところで競争力会議で議論されているのは、主に財政負担がないか、もしくはこのように財政負担が小さな政策である。筆者が持出した「中間に位置する諸政策」もここで討議されるものと考える。


    競争力会議は、財政規律を重視する人々や金融政策に疑問を持つ人々の期待を背負って始まった。ただ中には金融政策(つまり金融緩和)には賛同する人々も含まれているので多少複雑である。要するにこの会議のメンバーは政府の大きな財政負担に反対という立場だけは共通していると筆者は見ている。

    最初に言っておくが、筆者は、金(財政)を使わずに(あるいは少額の財政負担で)日本経済を活性化させるという政策を否定する気は全くない。むしろそれを可能にするような政策が競争力会議で飛出すのなら、筆者は競争力会議を見直すことになる。しかし正直に言って、今のところこの会議で出ているアイディアは陳腐なものばかりである。

    先週号で述べたように、もしこの会議の結論が「カジノの解禁」や「移民の受入れ」(あと考えられるのは建物の建ぺい率や容積率の緩和)なら、がっかりである。会議に参加すれば、日当や昼飯ぐらいは出るだろう。しかしこのような結果なら、筆者は日当と昼飯代は返せと言いたい。そこで、本来、競争力会議みたいな所で出て当然と思われる政策を筆者が提案したい。


  • プラスアルファーの効果
    筆者は、財政負担はあるがそれ以上の効果が期待ができる政策を提案したい。本誌でも一度くらい触れたと思っているが、それは印紙税の廃止である。このような政策は、競争力会議で出ても不思議ではないものである。しかし不思議なくらい全く世間では関心がなく、競争力会議で検討される気配もない。

    もっとも印紙税の廃止ぐらいでは、デフレ脱却は無理なことは解っている。しかし競争力会議で出ている諸アイディアに比べるなら、ずっと真っ当なものと思っている。デフレ脱却の補助的な政策と考えてもらって良い。もし競争力会議でこの程度の政策が提案されたら、この会議は成功であったと評価しても良いとさえ筆者は考えている。

    たしかにこの効果は、予測が難しい面がある。しかし筆者は、今、競争力会議で出ている諸政策も現実の効果に対する評価が難しいという点では同じと認識している。後はどれだけ理論的に優位性を説明できるかである。


    もし印紙税が廃止されれば、まず印紙税の徴収額(年間1兆5千億円)にほぼ見合う需要の増加が期待される。さらに乗数効果によって、乗数値倍の最終有効需要の増加が見込める。そして大事な事は印紙税の廃止が、意外なプラスアルファーの効果を生む可能性を持っていることである。筆者が思い付く効果は二つある。

    一つは印紙税の廃止によって、民間(企業、家計)の取引が活発化する可能性が高いことである。領収書に印紙が不要になり、また銀行の振り込み手数料がそれだけ安くなる。これでどの程度消費が活発になるか、筆者は正確には言えないが経済活動にかなり良い影響が有り得る。ただ先週号で触れたように、消費の所得効果と代替効果を考えると多くは望めないことは解っているつもりである。

    ほとんどの人々は気付いていないが、印紙税の存在が民間の商取引の障害になっていることは事実であり、デフレ脱却のためこれを取除くことは意義がある。ところで金融システムを破壊させかねない世界的な投機マネーの動きを制御する目的で、トービン税というものが考えられた。印紙税は、ちょうど民間取引におけるトービン税のようなものである。トービン税的存在の印紙税を廃止することは、効果が今いち読めなくともやってみる価値があると筆者は思っている。


    もう一つの効果として、手形取引の活発化というものが期待されると筆者は見ている。バブル崩壊後、手形などの民間の金融が縮小した。ところがこれを不良債権の増加によって、民間同士の疑心暗鬼が大きくなったからと分析した間抜けな計量経済学者がいた。しかし企業が手形の発行を抑え始めたのは、バブル経済の前からである。大きな理由は、印紙税の負担が重く企業がこれを節約したかったからである。手形を廃止することによって(期日現金払いに変更)、手形と領収書の印紙代が不要になる。

    昔の日本の金融の特徴は、民間金融が他国と比べ大きかったことである。これも互いの信用を重視する日本の風土が影響していたからと筆者は考える。手形は裏書きされ世間の間を貨幣のごとく流通していた。この手形制度が、今、崩壊の瀬戸際であり、手形割引業者も次々と廃業している。そこで印紙税廃止によって、倒産の心配のないような大企業が、手形をどんどん発行できるような環境を作るべきと筆者は考える。国債購入しか能がなくなった銀行の機能を補完するためにも、手形の復活が有効と思っている。


    どういう訳があるのか、減税と言えば構造改革派は法人税の減税しか言わない。しかし法人税減税は、大きく儲かっている特定の企業にしか恩恵がない。印紙税の廃止なら、個人から企業まで恩恵が広く行き渡るのである。

    ついでにこの話に関連し、へたな雇用政策を行うより社会保険料の企業負担のかなりの部分を国が肩代わることを考えるべきと筆者はこれまで訴えてきた。企業が正社員を増やしたいと思っても、社会保険料の負担が毎年のように増えては、躊躇せざるを得ない。ところが構造改革派は、このような全ての人々に好影響を及す諸政策にはほとんど興味がない(彼等が関心を示すのは、大きな利益を上げている限られた大企業の利害に関する事だけである)。一体、構造改革派というのはどういう人々なのだろうか。筆者は、デフレ脱却にメドが立てば、その次に法人税の減税も考えて良いといった程度である。



来週は、政策提言を中断し久しぶりに中国を取上げる。

読者の方から、739号のバックナンバーが消えているというメールをいただきました。調べましたところ、当方のミスが原因であり、即座に修正しました。ご連絡有り難うございます。



13/2/4(第742号)「「構造改革」と「規制緩和」の本当の姿」
13/1/28(第741号)「意志を持った「やじろべい」」
13/1/21(第740号)「金融政策に対する提言」
13/1/14(第739号)「年頭にあたり」
12/12/31(第738号)「中央銀行の働きの変化」
12/12/24(第737号)「日銀とFRBの違い」
12/12/17(第736号)「師走の総選挙の感想」
12/12/10(第735号)「建設国債引受け発言の波紋」
12/12/3(第734号)「先進国だからデフレ」
12/11/26(第733号)「総選挙の行方」
12/11/19(第732号)「残る経済成長路線」
12/11/12(第731号)「先進国における経済成長」
12/11/5(第730号)「投資と経済成長」
12/10/29(第729号)「プラスアルファーの議論」
12/10/22(第728号)「アラン・ブラインダー教授の文章」
12/10/15(第727号)「バランスを欠いた報道」
12/10/8(第726号)「中国からの撤退も視野に」
12/10/1(第725号)「中国の反日暴動に対する感想」
12/9/24(第724号)「本誌の中国問題ダイジェスト」
12/9/17(第723号)「技術流出と日本の伝承文化」
12/9/10(第722号)「技術流出の現状」
12/9/3(第721号)「知的所有権の話」
12/8/27(第720号)「最近の出来事」
12/8/6(第719号)「御用学者の話」
12/7/30(第718号)「増税マニア達は現実離れ」
12/7/23(第717号)「吉川洋東大教授の文章」
12/7/16(第716号)「消費税増税が待ち遠しい?」
12/7/9(第715号)「消費税は「鬼門」」
12/7/2(第714号)「増税騒動の感想」
12/6/25(第713号)「今日の諸情勢の変化」
12/6/18(第712号)「世界中「展望がない」」
12/6/11(第711号)「schole(スコレー、暇)の話」
12/6/4(第710号)「ギリシャ化の話」
12/5/21(第709号)「単式簿記の世界」
12/5/14(第708号)「文春と朝日の関係」
12/4/30(第707号)「続・増税論議と文芸春秋」
12/4/23(第706号)「増税論議と文芸春秋」
12/4/16(第705号)「増税論議と政界」
12/4/9(第704号)「増税派の人々」
12/4/2(第703号)「松下政経塾政治家と増税」
12/3/26(第702号)「英国の永久債発行」
12/3/19(第701号)「過去の号の修正」
12/3/12(第700号)「本誌700号に寄せて」
12/3/5(第699号)「投資顧問AIJの事件」
12/2/27(第698号)「橋下維新政党へのコメント」
12/2/20(第697号)「地方自治体と通貨」
12/2/13(第696号)「デフレ経済下での増税」
12/1/30(第695号)「無税国家への道」
12/1/23(第694号)「世界的な金利低下」
12/1/16(第693号)「過剰貯蓄による災い」
12/1/9(第692号)「バーチャルな話」
11/12/19(第691号)「シミュレーションモデルの話」
11/12/12(第690号)「財政破綻のすすめ」
11/12/5(第689号)「「騒ぎ屋」の時代」
11/11/28(第688号)「技術進歩の恩恵」
11/11/21(第687号)「避けられる根本問題」
11/11/14(第686号)「物事の本質」
11/11/7(第685号)「組織の異端児的存在」
11/10/31(第684号)「組織の研究」
11/10/24(第683号)「気乗りしないTPPの話」
11/10/17(第682号)「解決策はユーロ離脱か」
11/10/10(第681号)「ポール・クルーグマン教授の変心」
11/10/3(第680号)「現実論者VS観念論者」
11/9/26(第679号)「世界的な「日本化」」
11/9/12(第678号)「欧州発のリーマンショック」
11/9/5(第677号)「野田政権の成立」
11/8/29(第676号)「円相場の今後の動き」
11/8/22(第675号)「欧米経済の変調」
11/8/15(第674号)「脱・反原発派の人々」
11/8/8(第673号)「食品安全委員会の問題」
11/8/1(第672号)「タウンミーティングの報告」
11/7/25(第671号)「意味の解らない暫定基準値」
11/7/18(第670号)「政府が明らかにすべきこと」
11/7/11(第669号)「放射線防護の専門家」
11/7/4(第668号)「ダイオキシンとプルトニウム」
11/6/27(第667号)「付加価値を生まない発電」
11/6/20(第666号)「付加価値と発電」
11/6/13(第665号)「ポスト原発はやはり原発」
11/6/6(第664号)「菅政権に対する不信任案騒動」
11/5/30(第663号)「ニューニューサンシャイン計画」
11/5/23(第662号)「原発と電力会社の経営」
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11/5/2(第660号)「菅政権の迷走」
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11/2/7(第649号)「菅首相の消費税増税」
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11/1/24(第647号)「問題は分配ではない」
11/1/17(第646号)「永久債の日銀引受け」
11/1/10(第645号)「日本の経済成長シナリオ」
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