経済コラムマガジン 平成9年2月10日より
経済コラムマガジン




13/1/21(740号)
金融政策に対する提言

  • 長期金利の安定策
    政権が安倍自民党に代わり、政府の政策目標がデフレ経済脱却と明確に示された。まず日銀に金融政策での協力が申し入れられた。また補正予算の規模は過去最高額に近いものが予定されている。さらにこれらに加え「成長戦略」というものが練られている。

    ただ「成長戦略」の中味は全部出揃ってはいない。今のところ出ているのは、贈与税の非課税枠の拡大や住宅減税の増額と措置の延長などである。目新しいものとしては、従業員への給与を増やした場合、増加分の最大10%の法人税を減税するというアイディアが出ている(経済界からは既に反対の意見が出ている)。要するに「成長戦略」とは、民間に滞留する資金(老人の貯蓄や民間企業の社内留保)をいかに使わせようかという施策である。

    「成長戦略」に関しては、今後も色々なアイディアが出てくると思われる。ただこれらがどれだけの効果があるのかはっきりしない。しかし筆者は、これらの政策もどんどん行えば良いと思っている。もっとも過去においては、この種の「成長戦略」さえ行えば財政出動を行う必要がないとか、あるいは財政支出を削っても良いという声が必ず出ていた。しかし今回、そのような話が出ていないところを見ると、財政政策の有効性が認識されていると思われる。これは結構なことである。


    このようにデフレ脱却のための方策が次々と打出されている。そこで筆者も、今週から政府に対して政策の提言を行うことにする。もっとも本誌は、これまでもずっと政策提言を行ってきたつもりであり、目新しいことではない。

    まず今週は金融政策に対する提言である。安倍政権は、日銀に対して2%のインフレターゲット政策を共有するよう申し入れ、日銀もこれを承諾している。ところがこれを達成するための方策までは示していない。具体的な方策は日銀に任せるというスタンスである。


    ところで日銀は、これまでも1%のインフレターゲットみたいなもの(1%の物価上昇まで金融緩和政策は変更しない)を実施してきた。しかしこれさえ達成できないのに、どうやって2%の物価上昇を実現させるのか日銀内部の者は頭を抱えているのが現状であろう。元々日銀マンの頭は、インフレを抑えることで一杯であったのであり、いきなり「正反対の政策を考えろ」というのだからちょっと無理がある。

    日銀にETF(株価指数連動型上場投資信託)やREIT(不動産投資信託)をもっと購入させるというアイディアが出てきそうである。しかしこれによってどれだけ実態経済にプラスなのか不透明である。むしろ筆者は、この種の政策がインサイダー騒動みたいなものを引き起すような気がする。

    昔から、日銀に不動産を購入させるとか公共事業をやらせるといった荒唐無稽な意見が時々出る。しかしこれらは政府がやることであり、日銀の仕事ではない。一方で財源確保のために政府が所有している資産を売却せよという話をよく聞く。それなら政府が資産を売却し、民間ではなく日銀が買うという方法がある(たしかに簿価の安い国有財産を時価で売却し益出しを行うことが考えられる)。


    しかし筆者は、これらの政策と違うものを期待したい。政府は、日銀との間で政策協定を結ぶことになる。「2%のインフレターゲット政策」はその一つである。しかし今言われている政策協定で、スッポリ抜けているものがあると筆者は見ている。

    それは長期金利の安定である。不思議なことにこれまで日銀が関与するのは短期金利のみであり、基本的に長期金利は放置状態であった。日銀は長期国債の買い切りオペ(毎月1兆8千億円)を実施しているが、対象の中心は残存期間が3年未満のものである(額は少ないが10年超30年未満もオペの対象にしているが)。要するに日銀の金融政策はほとんど短期の金融市場しか及ばない形になっている。

    この仕組みが原因で、今日、短期金利が安定しているのに対して長期金利が時々上がったりして不安定になっている印象がある(まだ目立って上昇しているわけではないが)。今後、国債発行の増大が予想されるという声で、長期金利が上がる事態が有り得る。これには注意が必要である。


  • 日銀の国債購入限度
    筆者は、昔から日銀は長期金利にももっと関与すべきと主張してきた。しかし残存期間の長い国債を買い切れば、日銀の国債保有額がどんどん増えることになる。筆者は、それでもかまわないと考えるが、日銀は内規で国債の保有額に上限(日銀券の発行総額)を設けている。ただしこの内規は日銀が勝手に作ったものである。

    しかしこの内規に縛られる限り、日銀には長期金利を安定させる術がないのである。短期金利が高い状態なら、短期金利を下げることによって、裁定取引が起って長期金利も下がることが考えられる。しかし日本の短期金利は下限まで来ているので、この方法を採用しても効果は薄い。

    ちなみに米FRBは、QE2でツイストオペを行っている。これは短期国債を売り、長期国債を買うといったオペレーションである。このようにFRBは長期金利にも関与したのである。


    まさにここが盲点になっている。声高に日銀に金融緩和を迫る人々は多いが、この重要なポイントに言及した話はほとんど聞かない(少なくとも外部に漏れてこない)。日銀の内規にある国債購入限度額は、あくまでも一応のメドであり、科学的な根拠はない。

    日銀の言い分は、無制限の国債購入を避けるためといったものであろう。もし無制限に国債を購入するとなると、国債の直接引受けと変わらないことになると日銀は危惧するのである。しかし筆者は、安倍政権が政策を進めて行く過程で、長期金利がハネ上がることも有り得ると考える。


    日銀は、毎月国債の買い切りオペを行っていて、この額を数年前の1兆2,000億円から1兆8,000億円にかなり増やした。ところが不思議なことに日銀の国債保有額はほぼ70兆円と特に増えていない。筆者の予想では、既に内規の国債購入限度額に達している可能性がある。したがって買い切りオペの対象を残存期間のより短い国債にシフトしている可能性が高いと筆者は見ている。

    既に国債購入限度に達しているのなら、前述のように日銀には長期金利を安定させる方法がないということになる。今、安倍政権の政策に反対する勢力(エコノミスト、マスコミ、政治家など・・これまで経済予測を外しまくってきた人々)は「日本の国債の信頼が失われ、そのうち国債価格の暴落が起き長期金利が急上昇する」と吹聴している。筆者は、そのような事態は起るとは思わないが、長期金利の安定というものが必要であり、長期金利上昇に対して日銀が対処すべきとは考える。

    政府は日銀と政策協定を結ぶことになるが、この中に「長期金利の安定のための金融政策」という項目を入れるべきと筆者は主張したい。長期金利の目標設定と具体的な方策は日銀に任せても良い。筆者は、これには国債の保有額に上限(日銀券の発行総額)の撤廃、あるいは上限の引上げしかないのではと思っている。新しい日銀総裁の人選が話題になっているが、このような事柄に真面目に取組む人物が相応しいと思う。


    また政府と日銀は2%の物価上昇を行動目標に据えることになっている。しかしこの「2%の物価上昇」の「2%」の捉え方が問題である。今日の円安が続けば、当然、輸入物価が上昇しこれが国内の物価にもハネ返る。また将来、消費税の増税が実施されればその分物価は上昇する。

    しかし輸入物価の上昇と消費税の増税による国内の物価上昇分は、当然、協定の「2%」とは別枠のものである。政府はこれら数字について厳密に日銀と交渉すべきである。またこのような細かな事まで言及することによって、政府は真剣なのだと日銀に知らしめることが大事である。筆者は、とても今の日銀には「2%のインフレターゲット政策」に真面目に取組む雰囲気はないという感想を持っている。



円安と株価上昇に見られるように、安倍政権は順調にスタートを切ったと思われる。ポール・クルーグマン教授も安倍政権の経済政策をベタほめである。しかし筆者が危惧していたように、やはり安倍政権が推進している経済政策の足を引張る人々が出てきた。来週は、政策提言を中断し、安倍政権の置かれた難しい状況を取上げる。

イスラム過激派によるアルジェリアのガス施設襲撃で日本人の犠牲者が出ている。平和ポケの日本人には、なかなか理解ができない事態の流れである。このような地帯は、インターネットといった現代と宗教による治世、あるいは山賊や海賊の跋扈といったような近世以前の世界が混在している。このような状況は、なかなか我々日本人にはピンとこないものである。そのうち余裕が出てきたなら、本誌でもイスラム国家やアラブ社会といったものを取上げたい。



13/1/14(第739号)「年頭にあたり」
12/12/31(第738号)「中央銀行の働きの変化」
12/12/24(第737号)「日銀とFRBの違い」
12/12/17(第736号)「師走の総選挙の感想」
12/12/10(第735号)「建設国債引受け発言の波紋」
12/12/3(第734号)「先進国だからデフレ」
12/11/26(第733号)「総選挙の行方」
12/11/19(第732号)「残る経済成長路線」
12/11/12(第731号)「先進国における経済成長」
12/11/5(第730号)「投資と経済成長」
12/10/29(第729号)「プラスアルファーの議論」
12/10/22(第728号)「アラン・ブラインダー教授の文章」
12/10/15(第727号)「バランスを欠いた報道」
12/10/8(第726号)「中国からの撤退も視野に」
12/10/1(第725号)「中国の反日暴動に対する感想」
12/9/24(第724号)「本誌の中国問題ダイジェスト」
12/9/17(第723号)「技術流出と日本の伝承文化」
12/9/10(第722号)「技術流出の現状」
12/9/3(第721号)「知的所有権の話」
12/8/27(第720号)「最近の出来事」
12/8/6(第719号)「御用学者の話」
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12/7/23(第717号)「吉川洋東大教授の文章」
12/7/16(第716号)「消費税増税が待ち遠しい?」
12/7/9(第715号)「消費税は「鬼門」」
12/7/2(第714号)「増税騒動の感想」
12/6/25(第713号)「今日の諸情勢の変化」
12/6/18(第712号)「世界中「展望がない」」
12/6/11(第711号)「schole(スコレー、暇)の話」
12/6/4(第710号)「ギリシャ化の話」
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12/5/14(第708号)「文春と朝日の関係」
12/4/30(第707号)「続・増税論議と文芸春秋」
12/4/23(第706号)「増税論議と文芸春秋」
12/4/16(第705号)「増税論議と政界」
12/4/9(第704号)「増税派の人々」
12/4/2(第703号)「松下政経塾政治家と増税」
12/3/26(第702号)「英国の永久債発行」
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12/3/5(第699号)「投資顧問AIJの事件」
12/2/27(第698号)「橋下維新政党へのコメント」
12/2/20(第697号)「地方自治体と通貨」
12/2/13(第696号)「デフレ経済下での増税」
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12/1/16(第693号)「過剰貯蓄による災い」
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11/11/7(第685号)「組織の異端児的存在」
11/10/31(第684号)「組織の研究」
11/10/24(第683号)「気乗りしないTPPの話」
11/10/17(第682号)「解決策はユーロ離脱か」
11/10/10(第681号)「ポール・クルーグマン教授の変心」
11/10/3(第680号)「現実論者VS観念論者」
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