- 続日経新聞の提言
先週号7/6(第73号)「マスコミの驕りを考えるーーその1」に続き、今週号でも日経新聞の提言を取り上げ、検証する。
所得税の恒久減税や法人減税を実現、小さな政府を目指すことで経済の活力を引き出す
この提言は最近のマスコミの論調をよく表わすものであり、特に「小さな政府」は日経新聞の主張を象徴するものである。 しかし、まずおかしいのは「小さな政府」を目指すなら、減税を行なうと同時に財政支出の削減を主張すべきなのに、財政支出の削減の主張はどこにもないのである。これでは財政の赤字が膨らむだけであり、「小さな政府」に矛盾することと想われる。だいたいこれまで政府の累積債務を問題にしてきたのは当の日経新聞のはずであった。たしかに減税による景気刺激効果が期待されるが、日本においては極めて小さいものであり、これはこれまでの減税で実証済みである。つまり「減税による景気刺激効果」による税収の増加はほとんど期待できない。景気対策としての効果では「減税」は財政支出、つまり「公共事業」よりはるかに劣る。このことについては本誌でも1/19(第49号)「「小さな政府」を考えるーーその2」他で何回も述べているのでここでは繰り返さない。このことが分かっているだけに、制度減税には財政当局が消極的なのである。 「小さな政府」を主張する人々の唯一頼りとしているのは「減税の恒久化」である。つまり減税を恒久化すれば、減税が貯蓄に回らず消費に向くと言うのである。この理論的根拠は4/13(第61号)「恒久減税を考える」で述べたフリードマンの「恒常所得仮説」である。恒久減税と恒常所得仮説がどれだけ関係するか疑問であるが、減税を恒久化すれば消費性向が大きくなると主張しているのである。いったいこれにより何パーセントの消費が増えるのか、筆者はこれらの人々に問いたい。仮に増えても微々たるものであろう。そもそも「恒常所得仮説」自体が50年もの昔の仮説であり、星の数ほどある所得と消費に関する仮説のほんの一つにすぎない。このようなものが現在の日本の経済に適用できると真剣に主張することが不思議である。筆者は、理論上は減税の方法では今行なわれている「特別減税方式」の方が消費にプラスになると考えている。理由は、定額減税の特別減税の方がより消費性向が高い低所得者層に減税の恩恵が大きいからである。恒久減税を「金持ち優遇」だから反対しているのではない。恒久減税ではより消費性向が小さい所得層への減税額が大きくなるため、より大きな金額が貯蓄に回るからである。喜ぶのは証券会社など、顧客の資産を運用している者だけである。貯蓄過多の日本では、現在不足しているのは消費と投資であり、けっして貯蓄ではない。「特別減税」さえ効果がないのに、「恒久減税」に効果を期待する方が可笑しいのである。 しかし、「小さな政府」を主張する人々にとって、フリードマンは「神様」のような存在である。彼の考えでは、経済メカニズムが順調に機能するためには、政府の経済への介入を極力排除することである。彼によれば、政府が唯一行なうことは貨幣の流通量をコントロールすることだけである。極力政府の働きを排除することが、経済の運営がうまくやるための条件と考えているのである。筆者はこのような「小さな政府」論は一種の宗教と考えている。フリードマンはその教祖みたいなものである。そして彼の理論は極めて単純である。宗教として成り立つためにはこの単純さが必要である。たしかに市場に不均衡と言うものが発生せず、情報に片寄りがなく、人々がいつも合理的に行動すれば、この考えも成り立つのかもしれないが、現実は違うのである。 誤解してもらってはこまるのは、「筆者が減税を常に否定的に捉えている」わけではないことである。ただ、日本の経済の状態では景気対策として効果が乏しい「減税」を、世間が景気対策の切り札のように考えているからである。 筆者が危惧するのは、「減税」を行なうための財源として「公共事業費を削減しろ」と言う声が大きくなることである。これを行なえば、確実に景気にはマイナスに働く。むしろ理論的には、今は増税を行ない、それをそっくり公共事業などの財政支出に当てる方が経済効果は大きいのである。世間の論調はこれに真っ向から反対なのである。 ここまでは主に所得税について述べてきたが、問題は法人税である。法人税の場合は事情が複雑である。たしかに法人税を減税することは投資にプラスの側面がある。しかし、日本では「法人税を払うくらいなら設備投資を行ない、税額を小さくしよう」と言う働きがあるのも事実である。実際、日本における過剰生産設備を生んだ要素の一つとして法人税が比較的に高いことも挙げられるのである。一方、これだけの過剰生産設備と過剰在庫を考えると、法人税が10パーセントくらい安くなっても、どれだけ投資が増えるか疑問である。また、世界的に高いと言われている日本の法人税自体も、各種の引当金や減価償却の方法をなどを考慮した場合の実効税率ではそれほど高くないとも考えられるのである。このように法人税の減税は景気にプラスとマイナスの効果が考えられ、差し引きどれだけのプラスがあるか予測することは大変難しい。そもそも設備投資水準を決める要素は色々あり、法人税率はその一つに過ぎない。筆者は、これだけ落ち込んだ景気に対処するのに、法人税率の引き下げこそ景気対策の決定打と主張する人々のセンスが疑われるのである。
2,3年内の経済再生の展望を具体的に示し、企業や家計の不安心理を払しょくする
この提言はもっともらしいが、「小さな政府」を主張する日経新聞としては矛盾した考えである。提言はあきらかに政府に対してなされているものである。「小さな政府」論では極力政府の経済への介入を避ける必要がある。その政府に経済再生の展望を示させることがおかしいのである。そもそも「小さな政府」論では「不況」と言う経済の不均衡は発生しないはずである。景気が悪くなれば、価格が下がり、消費が回復すると考えるのである。また失業者が発生しても、賃金水準が下がり、失業は解決すると言うのが「小さな政府」の基本的な考え方である。むしろこのような市場の働きを阻害するのが政府の経済への介在と考えることが「小さな政府」の真髄である。このように「小さな政府」を主張する日経新聞が政府に経済の展望を期待すること自体が一貫性のない行動である。
- 続日経新聞の提言
日経新聞は一貫して「小さな政府」のキャンペーンを行なってきた。昨年の始め頃から行なってきた特集「2,020年からの警鐘」もこの線で編集されていた。この特集では政府の累積赤字を問題にし、将来の国民負担がこのように大きくなると脅かすようなものであった。そのためには「改革」を行なう必要があると主張していた。この「改革」の具体的内容ははっきりしないが、どうも「規制緩和」と財政支出を削減し、財政に頼らない経済を作ることと筆者は理解している。筆者はこの特集の影響を重視するのは、このような論調が政府が行なってきた経済政策に深く係わっているからである。実際この特集を引用して自民党の加藤幹事長が国会で代表質問を行なっており、橋本総理がそれに答えているのである。それ以降の政府の「財政再建路線」もこの特集の精神が生きており、97,98年度の予算もこの線で組まれたものである。「2,020年からの警鐘」の重要な執筆者の一人はある財政学者であり、政府の税調のベテラン委員である。彼は財政危機は既に8合目、9合目に達しており、財政再建を直ぐに行なわないと日本の将来は真っ暗であるとテレビなどに登場し、さかんに宣伝していたのである。つまり彼は「財政再建路線の広告塔」として働いていたのである。 このようなキャンペーンの甲斐もあってか、当時の各種世論調査では「財政再建」が最も重要な政府の政策と言う結果が出ていた。今日、マスコミでは97年度の緊縮予算が不況の元凶とされているが、このような「空気」を作ってきたのも日経新聞を代表とする当のマスコミなのである。最近この財政学者はテレビに登場し、景気対策として「法人税の減税」を主張していたのには、筆者もさすがにあきれた。 特集「2,020年からの警鐘」では、各種シンクタンクのシュミレーション結果を使用していた。しかし、シュミレーション結果を使うには計算の前提条件を吟味することが重要であるが、この特集ではこの前提条件はほとんど明らかにされていなかった。例えば年金の支給水準の設定によって、シュミレーションの結果は全く違ってくるのである。たぶんこれらのシュミレーションでは、現在の支給額を元に毎年のベースアップ率や物価上昇率をプラスして計算している可能性が高い。ベースアップ率や物価上昇率も過去の比較的経済成長率が高かった頃の実績の平均を使用していることも考えられる。だいたい将来ずっと、現行の年金支給水準が続くはずがないと考えるのが常識である。このような非常識的な数字を元にシュミレーションを行ない、こんなに国民負担率が大きくなると危機感を煽るような行為は問題である。むしろ議論すべきは現行の年金支給水準はとても維持できないことであり、それに対する対策であって、決してそれに備えて現在の財政支出を削減することを主張する議論への展開ではない。 今回の不況の原因を、マスコミでは97年度の緊縮予算に求める声が大きい。筆者は、緊縮予算がきっかけとなったと考えているが、これが全てとは思っていない。これについては来週号で述べることにする。しかし、ここまで述べてきたように、この緊縮予算が生まれたのも、日経新聞を始めとしたマスコミが将来の不安を実際以上に喧伝してきたことと無縁ではない。この際、マスコミは自分達の主張が間違っていたことを認めるべきである。ところがその日経新聞が日本経済の再生と銘うって、訳のわからないこれらの「提言」を行なっているからおかしいのであり、これは日経新聞の「驕り」と言う他はないのである。もっともこのような単なる「子供だまし」のようなマスコミの作った危機感や論理に乗って、「財政再建路線」を押し進め、緊縮予算を作成した橋本総理は不況の一番の責任者であることは間違いがない。 参院選の結果も、自民党に厳しいものであった。6/29(第72号)「参院選と経済を考える」で述べたように不況時の選挙で自民党が大敗を喫するのは異常な状況である。自民党支持者でも橋本総理に拒否反応を示しているのである。このような総理をなぜ選挙前に替えられなかった疑問であり、自民党幹部の責任は重い。参議院は解散がなく、今回当選した議員が後6年続けるのだから、党内のとるにたらない事情で、自民党支持者にもこんなに反感の大きい総理を替えなかったことは重大なミスであり、将来にも悔いを残すことになる。この選挙結果を受け、総理総裁の交代は確実の情勢である。筆者の希望は、次の総理こそは当選回数の多さと言うつまらない理由で選んでもらいたくないと言うことである。
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