経済コラムマガジン 平成9年2月10日より
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13/1/14(739号)
年頭にあたり

  • 今年の経済の動向
    年頭にあたり、例年のごとく前段は今年の日本経済の動向を占うことから始める。まず株式市場の動きにも表れているように、少なくとも昨年よりは良くなると筆者は見ている。市場参加者に限らず、一般の人々も今年こそは経済が良くなると何となく思っているのではないであろうか。

    このように年初に「今年こそ日本経済が上向くのではないか」と世間の人々に期待を持たせるのも、筆者の記憶では何十年ぶりのことである。世の中の雰囲気が転換したのは、民主党が政権の座から去ることがはっきりした時点(つまり野田首相が解散を仄めかした昨年11月の中旬)からである。


    あのまま民主党政権がだらだらと続くようなら、本当に日本経済はどん底に向かっていたと思われる。もっとも日本経済の基礎的条件は今でも本当に良くない。まず尖閣問題に端を発した、中国における日本製品不買運動の影響がある。

    また自動車購入に係わるエコポイント制度の廃止に伴う自動車の購入減の影響も多少なりとも有り得る。エコポイント制度は需要の先食いであり、これからこの反動が待ち構えている。それにしても日本経済にとって良いことがほとんどなかった民主党政治は置き土産まで残していった。

    まあ成果と呼べるのは、国民新党が中心に進めた「中小企業金融円滑法」の成立くらいのものである。しかしこの法律は今年の3月に期限切れになる。この法律は借入金返済を猶予するものであり、法律の実効を上げるには、適用期間の間に日本経済の底上げを行う必要があった。ところが民主党政権は、全くこれを行わず、それどころか消費税増税と言ったトンチンカンなことに一生懸命であった。おそらくこのようなめちゃくちゃな民主党というものの再起はないと筆者は見ている。


    ただ政権が代わっても、民主党政治の置き土産も有り日本経済は簡単には上向かない。中国問題やエコポイントの反動などの影響は続き、12年10〜12月と13年1〜3月はマイナス成長も有りうる。また原発停止に伴う発電用燃料の輸入増による海外への所得移転も続き、この解決のメドは立っていない。

    つまり民主党政権を引き継いだ安倍政権はマイナスからのスタートになる。ただ政権交代がはっきりした途端、株価の上昇と円安がかなり急激に起っている。また円安が進むにつれ、これがまた株価を押し上げている。この円安と株価上昇が、いつ頃から、またどの程度、実態経済に良い影響を与えるかが注目される。今の円安と株価上昇が続けば、13年1〜3月のマイナス成長は避けられるかもしれない。


    このように今後の円レートの動きは重要であり、今後の日本経済の動向の一つのポイントになる。筆者は11/8/29(第676号)「円相場の今後の動き」の最後で、「日本政府が円高に無策と言え、いくらなんでも今日の円相場は高すぎる。筆者は、いずれ円安(一つのメドは購買力平価)に向かうものと思っている。ただ日本の経済政策(内需拡大に消極的で、経常収支の黒字が続くことに鈍感な経済政策)が将来も変わらないとすれば、何かをきっかけに再び1ドル40円への超長期のトレンドに向かうものと考える。」と予想した。

    筆者は、超長期のトレンドを別にして、当時の1ドル75、76円はあまりにも高すぎると思っていた。この異常な円高は、多分に投機的なマネーで支えられていると考えていた。つまり何かのきっかけで、逆転現象が起り一旦は円安に向かうものと見ていた。ところが一年以上も異常な円高が続いていたのだから驚きあきれた。たしかに欧州の金融危機の深刻化や消費税増税といった円高政策が続いたことが影響したと考えられる。


    しかし発電用燃料の輸入増で貿易収支が赤字になったり、中国での日本製品の不買運動などを考えると、当面、いつ円安に向かっても不思議はないと筆者はずっと思っていた。今日の円安はこれまでの反動(是正過程)と見れば良い。前述のように筆者は今回の円安のメドを、購買力平価の104〜107円(OECDは104円)程度と考える。

    ただ今日の円安が続けば、当然、日本の輸出が増えるため円安の条件の一つが崩れることになる。また今日の円安が投機マネーに支えられていることを考えると、この動きが何かのきっかけで反転することが十分考えられる。これらの事を総合的に考えると、筆者は100円を超える円安は難しいのではと見ている。


  • プラチナ硬貨
    経済というものは、時代と共に、あるいは周囲の状況の変化によってダイナミックに変化する。経済理論や経済政策もそれらに伴い大きく変わる必要がある。年頭にあたり今週はこれについて簡単に述べる。ところが昔に習った経済理論が絶対正しいと主張する経済学者やエコノミスト(マスコミ、政治家、官僚も同じでいわゆる教科書が絶対正しいと信じている受験秀才群)で溢れている。彼等はまさに思考停止状態である。しかしこの古臭い経済理論が一種の既得権のようなものになっていて、これが彼等の生活の糧になっている。彼等はこれから外れる経済理論や経済政策を「邪道」と何にも考えずに切捨てる。


    前回号で取上げた「中央銀行の独立性」もその一つである。「中央銀行の独立性」が当り前と語られたのは、金本位時代で金融政策なんて概念さえ怪しかった時代を背景にしている。また独立後の米国のように中央集権に抵抗がある国での発想である。

    今日では、少なくとも先進国においては中央銀行が政府の経済政策に協力することが当り前になっている。FRBのQE3やECBの無制限の国債買取りなどはその典型例である。安倍政権の日銀に対する数々の要求もこのような流れに沿っている。

    これを「日銀の独立性を脅かす」とか「ハイパーインフレが恐い」と言っている有識者と呼ばれる人々は、経済状況の時代的な変化に全くついてこられない人々である。筆者は、これらの人々を「思考の怠慢」、または既得権にしがみついている(デタラメな新古典派経済学を教えて生活してきた人々など)とずっと思ってきた。ただこのような人々は日本では一大勢力であり、安倍総理もこれら人々をなだめながら政策を推進しなければならない。


    真面目で優秀な経済学者は、環境や状況の変化に合わせ自分の考えを柔軟に修正する。ノーベル経済学賞のポール・クルーグマン教授なんかはその一人であろう。11/10/10(第681号)「ポール・クルーグマン教授の変心」で取上げたように、金融政策一辺倒という印象が強かった教授も財政政策の重要性を主張するようになっている。

    そのクルーグマン教授が、最近、プラチナ硬貨を発行することを主張し始め、米国では反響を呼んでいるという話である(1月10日日経新聞夕刊「ラウンドアップ」)。まさにセーニアリッジ政策そのものである。これは米国の法律では、金、銀、銅の硬貨の発行による国家の債務返済を制限されているので、この抜け穴として白金、つまりプラチナの硬貨を発行するというものである。

    具体的には米財務省が1兆ドルのプラチナ硬貨を発行し、米連邦準備理事会(FRB)に預ける代わりに得た1兆ドルを政府の歳出に充てるといったものである。もちろん教授はこれが実現するとは思っていない。教授は、今日、米国で大問題になっている政府債務の上限規定というもののばかばかしさを牽制するつもりなのである。米国にもティーパティーに代表されるような頑迷な(筆者の理解では古い経済の常識に捕われたあまり賢くない)人々が国の行末を危うくしている。


    元々このアイディアは、ある憲法学者が言出したものであるが、クルーグマン教授がこれは面白いと借用したのである。紙幣や貨幣の発行については、各国で色々な制限があり、米国の場合は硬貨の材質に制限がある。

    ちなみに日本は「通貨の単位及び貨幣の発行等に関する法律」で数々の制限がある。ただこの法律によれば、米国のような硬貨の材質には制限はない(紙でも良いので紙幣の発行ができる)。しかし09/2/9(第557号)「政府紙幣(貨幣)論の急な盛上がり」で述べたように発行単位に制限がある。

    具体的には「第五条  貨幣の種類は、五百円、百円、五十円、十円、五円及び一円の六種類とする。
    2  国家的な記念事業として閣議の決定を経て発行する貨幣の種類は、前項に規定する貨幣の種類のほか、一万円、五千円及び千円の三種類とする。
    3  前項に規定する国家的な記念事業として発行する貨幣(以下この項及び第十条第一項において「記念貨幣」という。)の発行枚数は、記念貨幣ごとに政令で定める。」
    となり最高額の500円硬貨でも、10兆円の政府貨幣発行となれば200億枚の鋳造が必要になり、とても現実的な話とは言えない。つまり現実の政策として実行するには、法律の改正が必要になると考える。


    米国ではこの他にFRBが持つ米国債の一部を償却するというアイディアが出ているという話である。FRBは国債発行額の15%程度を保有している(現在、QE政策で保有比率がもっと大きくなっていると思われるが)。本誌も日本政府と日銀の関係は「親会社と子会社の関係」であり、連結決算を行えば親会社と子会社の債権・債務(今日70兆円程度)が相殺されることをずっと主張してきた。実際、日本政府は、日銀の保有する日本国債に対して利息を払うが、日銀の収益は最終的に国庫に戻る。

    クルーグマン教授のプラチナ硬貨や中央銀行保有国債の償却の話などは、昔から本誌が主張してきたことばかりである(筆者としてはちょっと痛快)。米国も日本と同様、ようやくデフレ経済が一番の問題だと認識され始めたと考えて良い。そして日本がデフレに関しては世界のフロントランナーであったことが証明されたようなものである。そのうち先進国がデフレに陥るメカニズムも研究が進むと思われる。これについては不十分ながら本誌ではこれまでも取上げてきたつもりである。



来週号からは安倍政権に対する政策提言を行いたいと考えている。

本誌を書いている間に、安倍総理が「たかじんのそこまで言って委員会」に登場している。筆者も心配していたが健康には特に問題はないようである。ただ周囲から注意されていると思われるが、早口のしゃべり方はそのままであった。しかし筆者にとっては、このような話し方こそが率直で好感を持てる。むしろのっぺりした話し方をする政治家は信用できないと筆者は感じる(ところが一般の国民は、逆にこのような話し方が分りやすく好感を持っているようである。しかし詐欺師も同じようなしゃべり方をすることに気付く必要がある)。

番組では色々な話が出ていたが、日露関係の話が出て筆者も注目した(筆者はずっと注目していた)。筆者は4島全部はちょっと無理と思っていて(エトロフにはロシアの軍事基地がある)、最終的には3島返還が現実的と考えていた。ただ世界的に見てもロシア人も、中国人や韓国人に劣らず変わっているので今後のつきあいは難しいことを承知しておく必要がある。筆者は、安倍政権の間に、日露関係に何らかの進展があるものと思っている。



12/12/31(第738号)「中央銀行の働きの変化」
12/12/24(第737号)「日銀とFRBの違い」
12/12/17(第736号)「師走の総選挙の感想」
12/12/10(第735号)「建設国債引受け発言の波紋」
12/12/3(第734号)「先進国だからデフレ」
12/11/26(第733号)「総選挙の行方」
12/11/19(第732号)「残る経済成長路線」
12/11/12(第731号)「先進国における経済成長」
12/11/5(第730号)「投資と経済成長」
12/10/29(第729号)「プラスアルファーの議論」
12/10/22(第728号)「アラン・ブラインダー教授の文章」
12/10/15(第727号)「バランスを欠いた報道」
12/10/8(第726号)「中国からの撤退も視野に」
12/10/1(第725号)「中国の反日暴動に対する感想」
12/9/24(第724号)「本誌の中国問題ダイジェスト」
12/9/17(第723号)「技術流出と日本の伝承文化」
12/9/10(第722号)「技術流出の現状」
12/9/3(第721号)「知的所有権の話」
12/8/27(第720号)「最近の出来事」
12/8/6(第719号)「御用学者の話」
12/7/30(第718号)「増税マニア達は現実離れ」
12/7/23(第717号)「吉川洋東大教授の文章」
12/7/16(第716号)「消費税増税が待ち遠しい?」
12/7/9(第715号)「消費税は「鬼門」」
12/7/2(第714号)「増税騒動の感想」
12/6/25(第713号)「今日の諸情勢の変化」
12/6/18(第712号)「世界中「展望がない」」
12/6/11(第711号)「schole(スコレー、暇)の話」
12/6/4(第710号)「ギリシャ化の話」
12/5/21(第709号)「単式簿記の世界」
12/5/14(第708号)「文春と朝日の関係」
12/4/30(第707号)「続・増税論議と文芸春秋」
12/4/23(第706号)「増税論議と文芸春秋」
12/4/16(第705号)「増税論議と政界」
12/4/9(第704号)「増税派の人々」
12/4/2(第703号)「松下政経塾政治家と増税」
12/3/26(第702号)「英国の永久債発行」
12/3/19(第701号)「過去の号の修正」
12/3/12(第700号)「本誌700号に寄せて」
12/3/5(第699号)「投資顧問AIJの事件」
12/2/27(第698号)「橋下維新政党へのコメント」
12/2/20(第697号)「地方自治体と通貨」
12/2/13(第696号)「デフレ経済下での増税」
12/1/30(第695号)「無税国家への道」
12/1/23(第694号)「世界的な金利低下」
12/1/16(第693号)「過剰貯蓄による災い」
12/1/9(第692号)「バーチャルな話」
11/12/19(第691号)「シミュレーションモデルの話」
11/12/12(第690号)「財政破綻のすすめ」
11/12/5(第689号)「「騒ぎ屋」の時代」
11/11/28(第688号)「技術進歩の恩恵」
11/11/21(第687号)「避けられる根本問題」
11/11/14(第686号)「物事の本質」
11/11/7(第685号)「組織の異端児的存在」
11/10/31(第684号)「組織の研究」
11/10/24(第683号)「気乗りしないTPPの話」
11/10/17(第682号)「解決策はユーロ離脱か」
11/10/10(第681号)「ポール・クルーグマン教授の変心」
11/10/3(第680号)「現実論者VS観念論者」
11/9/26(第679号)「世界的な「日本化」」
11/9/12(第678号)「欧州発のリーマンショック」
11/9/5(第677号)「野田政権の成立」
11/8/29(第676号)「円相場の今後の動き」
11/8/22(第675号)「欧米経済の変調」
11/8/15(第674号)「脱・反原発派の人々」
11/8/8(第673号)「食品安全委員会の問題」
11/8/1(第672号)「タウンミーティングの報告」
11/7/25(第671号)「意味の解らない暫定基準値」
11/7/18(第670号)「政府が明らかにすべきこと」
11/7/11(第669号)「放射線防護の専門家」
11/7/4(第668号)「ダイオキシンとプルトニウム」
11/6/27(第667号)「付加価値を生まない発電」
11/6/20(第666号)「付加価値と発電」
11/6/13(第665号)「ポスト原発はやはり原発」
11/6/6(第664号)「菅政権に対する不信任案騒動」
11/5/30(第663号)「ニューニューサンシャイン計画」
11/5/23(第662号)「原発と電力会社の経営」
11/5/16(第661号)「原発推進派と反・脱原発派」
11/5/2(第660号)「菅政権の迷走」
11/4/25(第659号)「放射線は身体に良い?」
11/4/18(第658号)「山を越えたか?」
11/4/11(第657号)「原子力の専門家」
11/4/4(第656号)「本当に重大な事は何か」
11/3/28(第655号)「電力不足で表沙汰になった事実」
11/3/21(第654号)「東日本巨大地震」
11/3/7(第653号)「日本が貿易立国という誤解」
11/2/28(第652号)「日本は本当に貿易立国?」
11/2/21(第651号)「関税以外の貿易障壁」
11/2/14(第650号)「TPPに関する推理」
11/2/7(第649号)「菅首相の消費税増税」
11/1/31(第648号)「モラルハザードの話」
11/1/24(第647号)「問題は分配ではない」
11/1/17(第646号)「永久債の日銀引受け」
11/1/10(第645号)「日本の経済成長シナリオ」
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