経済コラムマガジン 平成9年2月10日より
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12/12/10(735号)
建設国債引受け発言の波紋

  • 時代錯誤の改正日銀法
    安倍自民党総裁の日銀による建設国債の引受け発言が波紋を呼んでいる。筆者などの賛同する声がある一方、「悪性のハイパーインフレを招く」「日銀の独立性を何と考えいるのか」「日本の国債の信認が落ち、格下げに繋がる」など、予想通り猛反発を受けている。今週はこれらに反論する。その後の安倍総裁の発言は「アコード(協定)を結ぶなど、デフレ脱却に日銀の協力が得られるのなら、日銀法改正までは踏込まない」とトーンダウンしている。筆者は、現状においてはこれも止むを得ないのではないかと思っている。

    いくつかの先進国においては、今日まで、金融政策(インフレターゲットを用いた)によってインフレ(筆者は物価上昇と理解しているが)の抑制はうまく行っている。つまり日本でも、万が一にも急激な物価上昇に見舞われそうになった場合は、金融引締めを行えば良いのである。実際、ハイパーインフレなんて、戦争で生産設備の大半を失った場合や、新興国や発展途上国で過剰な需要が生まれた場合にしか考えられない。したがって少なくとも日本では、「悪性のハイパーインフレを招く」の批難は論外と考えるので、これ以上言及しない。


    「日銀の独立性」、つまり中央銀行の独立性の問題である。政府が勝手に財政支出を膨らませ、インフレ(筆者は物価上昇と理解しているが)を引き起すのを牽制するのが「日銀の独立性」である。しかし前述したように先進国では、当分、インフレなんて有りえない。さらにインフレターゲットを導入することによって、これは未然に防ぐことができる。むしろ先進国の経済にとって深刻な問題は、インフレではなく失業を引き起すデフレの方である。

    日本では政府がデフレを克服しようとしたのに、中央銀行がそれを阻害することが過去にあった。本誌でもその様子を99/9/27(第132号)「日銀の独立性(その1)」99/10/4(第133号)「日銀の独立性(その2)」で取上げた。経済オンチの橋本前政権の施策(同じく経済オンチの日経新聞などが強力に押し進めていた政策・・筆者が本誌を書きはじめたのはこのような状況を不満に思ったことが大きな要因であった)によって日本経済が急降下したため、これを立直そうと小渕首相は積極財政に転じた。この政策が効果を持つよう小渕首相は日銀に金融緩和を要請した。

    ところが速水総裁が率いる日銀の政策委員会は、これを拒否し金融緩和を行わなかった。このため金利は上昇し為替も円高に推移した。あえて政府の要請を拒否した背景には、前年(1998年)成立した日銀の独立性を高める日銀法の改正があった。


    改正日銀法は、バブル時代の超金融緩和政策を反省して成立したものである。しかし日本では既にインフレではなくデフレが大問題になる時代に入っていたのに、この日銀法の改正が実施されたのである。今日、時代錯誤の改正日銀法なのだから、再改正という声が出てきても当然である。

    このような速水日銀総裁に対して小渕総理は「俺の選んだ総裁ではないからな」と強い不満を示していた。たしかに速水日銀総裁は経済オンチの橋本前首相が任命した。どこまで日銀の独立性を認めるかという問題を棚上げにしても、政府の政策と整合性が全く取れないような金融政策を日銀が採ることは大問題であった。その後、速水氏と同様に日銀出身者が総裁に就いているが、速水総裁ほど酷い政策は採ってはいない。


    当時、日銀の様子を見てバーナンキ氏(現FRB議長)は「日銀幹部は一人(中原伸之審議委員)を除いてジャンク」と言い放ったほどであった。今日、「中央銀行(日銀)の独立性」は当り前の事と言っている観念論者は、このような事が過去にあったことを全く知らないか、頭がおかしくなっていて過去の事を完全に忘れているのである。

    98年の改正日銀法は、日銀出身の塩崎恭久氏が中心に取りまとめたものである。塩崎氏は安部総裁の盟友と目されたほどであり、前の安部内閣では官房長官に抜擢されている。安部総裁は日銀法改正について、最近、トーンダウンしているが、この辺りが関係しているのかもしれない。

    筆者は、日銀法を大きく変える必要はないと考える。ただ任命権者である首相が辞めた時には、前首相に任命された日銀総裁は進退窺いを出すべきと考える(慣行化すれば法律の改正は不要)。また筆者は、日銀は他の省庁と同格であり、総裁は他の大臣と同じと考えている。したがって大臣と同様、日銀総裁就任に国会の同意は必要はないと思っている。


  • 競馬の予想屋
    日銀による国債の買増しについて「日本の国債の信認が落ち、格下げに繋がる」という現実を踏まえない議論が横行している。まず格付機関自体に信頼性が全くない。筆者は、S&P、ムーディーズ、フィッチなどの格付機関は、競馬場までの道に並ぶ競馬の予想屋と何ら変わらないと思っている。貧弱な陣容で、民間の社債から各種のデリバティブ、さらに各国の国債まで格付しようと言うのだから無茶苦茶である。つまりこのような競馬予想屋程度の格付機関の格付をことさら重要視する人々(おかしなエコノミストや政治家など)が異常なのである。

    実際、これまで格付機関の格付が大きな問題になったことは数限りない。例えば、97年のアジア経済危機の時には、危機が表面化してからアジア各国の国債を何段階も一挙に格下げした。このような急激な急激な格下げをするのなら、格付なんて何の意味もない。

    とうとう米格付機関のS&Pに対して、先月、オーストラリア連邦裁判所は、投資家(豪州の複数の自治体)のデリバティブ(金融派生商品)の損失を損害賠償するよう判決を下した。S&PがトリプルAを与えていたオランダのABNアムロ銀行の金融商品の資産価値が、2年の間に90%も低下したのである。同様の提訴が他の国にも広がる気配を見せている。しかし筆者に言わせれば、そもそも格付機関の実力なんて競馬の予想屋と変わらないのだから(むしろ長年のファンがいる予想屋の方が真面目に予想を行っていて、よく当ることもある)、彼等の格付を頼りに多額の投資を行うことの方がおかしい。ちなみにS&Pは、この判決を不服として控訴すると言う。「自分達の格付は競馬の予想と変わらないのだから信用するな」と言いたいのだろうか。


    日本のように間接金融、つまり銀行が金融の中心として発展してきた国と、米国のような直接投資が中心の国がある。間接金融の日本の場合は銀行が融資する企業と親密な関係を築き、相手の信用度を見極め融資を実施するのが一般的であった(難点はコストが掛る)。ただバブル期には、このメカニズムが崩れ担保(要するに土地)さえあればどんどん融資を行い、日本の金融機関は多額の不良債権を抱えたのである。

    一方、米国は移民で成立っているような国である。また西部開拓時代に見られるように、人々の移動が頻繁に起る。つまり昔の米国のような社会では、間接金融なんて無理である。そのような状況で生まれたのが、格付機関と筆者は考えている。「あの会社(あるいは人)は信用があるが、こちらはダメだ」といった評価を行うのが格付機関である。このような情報を元に、資金の余裕のある人々は債券や株式を買っていたのである。


    しかし評価の対象が広がれば、格付機関の格付は当てにならなくなるのが当然である。また格付機関の収益構造が大問題である。格付機関の収入は、債券や株式を発行して資金を得たい企業が負担している。つまり格付機関は、格付を行う「お客様」に金をもらって格付を行うのである。そのような関係では、「お客様」である企業に甘くなるのは当り前である。

    中には格付機関に格付を依頼しない有力企業があり、そのような企業には格付機関が勝手な格付を行う。この勝手な格付に対して、企業からしばしば不満の声が出るといったトラブルがある。各国の国債の格付も、各国が格付の費用を負担するものではなく、勝手に格付機関が行っている。タダで行っているのだから、どの程度の力を入れて格付を行っているのか疑問である。


    そんな格付であるが、格付機関の格付変更がきかっかけで、国の経済にとんでもない影響が出るケースがある。韓国はウォン安を背景に輸出攻勢を行って、経済を支えてきた。しかし外貨が貯まり、いつウォン高になってもおかしくない状況であった。

    最近になって格付機関が韓国国債の格付を引上げた。これをきっかけに金融緩和で余っている世界中の資金が韓国になだれ込んでいる。ウォンは、現在急騰中であり、韓国経済に打撃を与え始めている(オーストラリアも似た状態)。このように国債の格付が上がることは、決して良いこととは限らないのである。



来週は、総選挙の結果にコメントを行いたい。したがって来週号のアップは17日か18日になる。

総選挙は、高速道路のトンネルの天井が崩落したり、北朝鮮がミサイルを飛ばそうとしたりで、自民党にフォローの風が吹いている。他の党が、何故、TPPや原発に飛びついたのか全く理解ができない。



12/12/3(第734号)「先進国だからデフレ」
12/11/26(第733号)「総選挙の行方」
12/11/19(第732号)「残る経済成長路線」
12/11/12(第731号)「先進国における経済成長」
12/11/5(第730号)「投資と経済成長」
12/10/29(第729号)「プラスアルファーの議論」
12/10/22(第728号)「アラン・ブラインダー教授の文章」
12/10/15(第727号)「バランスを欠いた報道」
12/10/8(第726号)「中国からの撤退も視野に」
12/10/1(第725号)「中国の反日暴動に対する感想」
12/9/24(第724号)「本誌の中国問題ダイジェスト」
12/9/17(第723号)「技術流出と日本の伝承文化」
12/9/10(第722号)「技術流出の現状」
12/9/3(第721号)「知的所有権の話」
12/8/27(第720号)「最近の出来事」
12/8/6(第719号)「御用学者の話」
12/7/30(第718号)「増税マニア達は現実離れ」
12/7/23(第717号)「吉川洋東大教授の文章」
12/7/16(第716号)「消費税増税が待ち遠しい?」
12/7/9(第715号)「消費税は「鬼門」」
12/7/2(第714号)「増税騒動の感想」
12/6/25(第713号)「今日の諸情勢の変化」
12/6/18(第712号)「世界中「展望がない」」
12/6/11(第711号)「schole(スコレー、暇)の話」
12/6/4(第710号)「ギリシャ化の話」
12/5/21(第709号)「単式簿記の世界」
12/5/14(第708号)「文春と朝日の関係」
12/4/30(第707号)「続・増税論議と文芸春秋」
12/4/23(第706号)「増税論議と文芸春秋」
12/4/16(第705号)「増税論議と政界」
12/4/9(第704号)「増税派の人々」
12/4/2(第703号)「松下政経塾政治家と増税」
12/3/26(第702号)「英国の永久債発行」
12/3/19(第701号)「過去の号の修正」
12/3/12(第700号)「本誌700号に寄せて」
12/3/5(第699号)「投資顧問AIJの事件」
12/2/27(第698号)「橋下維新政党へのコメント」
12/2/20(第697号)「地方自治体と通貨」
12/2/13(第696号)「デフレ経済下での増税」
12/1/30(第695号)「無税国家への道」
12/1/23(第694号)「世界的な金利低下」
12/1/16(第693号)「過剰貯蓄による災い」
12/1/9(第692号)「バーチャルな話」
11/12/19(第691号)「シミュレーションモデルの話」
11/12/12(第690号)「財政破綻のすすめ」
11/12/5(第689号)「「騒ぎ屋」の時代」
11/11/28(第688号)「技術進歩の恩恵」
11/11/21(第687号)「避けられる根本問題」
11/11/14(第686号)「物事の本質」
11/11/7(第685号)「組織の異端児的存在」
11/10/31(第684号)「組織の研究」
11/10/24(第683号)「気乗りしないTPPの話」
11/10/17(第682号)「解決策はユーロ離脱か」
11/10/10(第681号)「ポール・クルーグマン教授の変心」
11/10/3(第680号)「現実論者VS観念論者」
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