経済コラムマガジン 平成9年2月10日より
経済コラムマガジン




12/11/26(733号)
総選挙の行方

  • 「人物」本意の投票行動
    11月16日に衆議院は解散し、12月16日に総選挙が実施される。そこで筆者も、この選挙や今日の政治状況について何らかのコメントをしようと思っている。しかしどこに焦点を当てて話をすれば良いのか、本当に困る状況である。

    例えば政党について述べようとしても、政党が15もあっては困難を極める。どうしてそんなに多党化したのかを簡単に検証するだけでも、本誌の一週分のスペースが最低必要になる。そもそも今日の日本の「政治」を系統立てて語ることができる人は、ほとんどいないのではないかとさえ筆者は思っている。

    この政治的混乱の中で、有権者は投票する相手と政党を決めるのだから、これは大変なことである。正直に言って筆者自身も、誰に投票するか迷っている。仮に投票する政党が決まっても、自分の選挙区にその政党の立候補者がいないといった事態がある。このような状況では、今回の選挙に対して総合的なコメントを行うことはほとんど不可能と筆者は考える。


    そこで今週号は、今回の選挙にまつわる個別の事柄をいくつか取上げ、それらについて筆者の考えや感想(要するに好き勝手なこと)を述べることに留めようと思う。まず何を基準に、誰に投票すべきかということがよく話題になる。具体的には「政策」「政党」、あるいは「人物」かと言った具合である。

    今日の小選挙区制の導入は、選挙を「政策」「政党」を中心に持って行くことが狙いであった。ところが民主党の「マニフェスト破り」に見られるように、「政策」「政党」で投票しても、場合によっては意味がなく、時には裏切られることもあることが実証された。政治家にとっては、とにかく政権の座に就くことが何より重要ということなのであろう。


    そもそも本誌は、ずっとマニフェスト選挙というものを否定的に捉えてきた。マニフェスト選挙は英国の真似であるが、英国の政治がうまく行っているとは考えない。有権者の方も、各党のマニフェストを読んで投票している者は少数派と思われる。

    筆者は、むしろ立候補者の「人物」で投票した方が無難と考える。行政機構だけでなく、経済や外交なども一段と複雑になって、個々の有権者が「政策」や「政党」を見極めることが段々と難しくなっている。政治家にさえ、どの程度の情報や見識を持っているのか疑問に思われる者が沢山いる。

    今日と違い昔はずっと単純であった。米国と友好関係を続けるか、あるいはソ連や中国といった共産・社会主義国に近付くかといった争点があった。また経済成長のためにインフラ整備や企業の支援を行うという政党と、そのような予算は削って社会福祉に回せと主張する政党がはっきりと別れていた。憲法改正や皇室に対する考えも政党によって異なっていた。つまり有権者にとって少なくとも政党だけは選ぶ基準があった。

    中選挙区時代においては、自民党や社会党といった大きな政党は、同じ選挙区に複数の立候補者を立てていた。有権者は同じ政党の中からより気に入った一人を選ぶことが出来た。つまり中選挙区では、より「人物」本意の投票行動が可能であった。また中選挙区時代には政党の公認が得られなくとも、無所属で立候補し、当選後、希望の政党に入党するといったルートがあった(この方法で多くの活力のある政治家が産み出されてきた)。既成政党もこれによって活性化した。


    一見、小選挙区制の方が立候補者と有権者の距離が近いと人々は誤解している。たしかに中選挙区制の時の方が選挙区は多少大きかったが、同じ政党から複数の立候補者が出るので有権者としてはより身近な政治家を選ぶことができた。

    小選挙区制の導入によって、党の執行部の力だけが異常に強くなった。政党交付金の配分や選挙の公認権で政党全体を支配するようになったのである。小泉政権の郵政改革反対派の追出しや野田首相の立候補者への「踏絵」はその典型である。昔と違って、争点や対立点がぼやけてきた今日の時代になって、政党の執行部の力を強化する小選挙区制を導入したことが矛盾であり間違いであった。

    執行部に不満を持つ分子は、政党を飛出し、次々と新しいミニ政党を創ることになる。それならば小選挙区制の元では予備選を行えば良いという意見がある。しかしこの種の選挙には公職選挙法が適用されないので、不正な事(不正とは言わなくとも執行部の理不尽な圧力みたいなものが考えられる)が起っていても外部からは分らない。例えば自民党の総裁選での地方票なんてあてにならない。民主党の党員、サポータの票も実に怪しい。


  • 建設国債の日銀買入れ
    選挙が近付き、安倍自民党総裁の色々な発言が注目されている。今週はその中の一つを取上げる。そもそも07/9/17(第496号)「安倍首相の辞任劇」で述べたように、筆者は、安倍氏の復活を予想していたし期待もしていた。

    元々筆者は、自民党の支持者であり、自民党の総裁には「亀井」「平沼」「安倍」の順番が理想と公言していたほどである。ところが郵政改革騒動で亀井、平沼の両氏などが自民党を追われたので、自民党支持を止めたのである。また07/7/2(第488号)「ポンカス政党」で取上げたように、この騒動で多くの有能で気骨を持つ政治家が自民党を追われた(一部は自民党に舞い戻っているが)。


    しかし安倍自民党新総裁の発言を聞いていると、また自民党を見直して良いのではないかと思う今日この頃である。筆者が注目する発言の一つは建設国債の日銀引受けである。単なる金融緩和ではなく、建設国債の買入れを行うということは、公共投資予算を大きくするということが前提になる。またこれは所得を増やすマネーサプライの増加を意味し、好ましいことである。

    これは自民党の国土強靱化計画(10年間に200兆円の公共投資)に呼応するものと見られる。ただ筆者は、決してこの計画に反対するつもりはないが、なんとなく生煮えの感じがする。自民党時代においても公共投資が年々減らされてきたことを考えると、唐突感が否めないのである。


    また今日においては公共投資を急激に増やすことには技術的に難しい所がある。公共投資は年々減少してきたため(減少することに慣れてしまい)、社会の態勢が公共投資の急増に対応できない可能性がある。まず技術者や作業員の確保が難しい。また行政も、有為な公共投資を発案する力を亡くしている可能性がある。

    筆者は、公共投資を年間10兆円増やすだけでも困難を伴うと考える。拙速に公共投資を急激に増やせば、様々な問題が起ることも考えられる。筆者は、公共投資を増やすべきと考えるが、態勢が整わない中で予算を急増させれば、また「無駄な公共事業」という合唱が起ることを危惧する。


    建設国債の件は、日本のデフレ経済からの脱却の一環と理解できる。しかし公共投資の増加だけでは、とてもデフレからの脱却は難しいと筆者は言いたいのである。今日の日本では、公共投資以外でも予算の増額が必要なものが一杯ある。例えば防衛費や科学技術の開発費用などが考えられる。また年金などの社会保障も国の負担を増やすべきと思われる。

    たしかに建設国債の日銀買入れは面白いアイディアである。筆者は、普通の国債や永久債の発行と、これらの日銀の買入れを主張してきただけに親近感を覚える。ただ建設国債の日銀引受けという話が出ている。たしかに日銀が直接引受けることは、財政法で原則禁止されている。ただし国会の決議があれば直接引受けることは可能である。しかし建設国債を一旦市場に放出し、それを日銀が購入するのなら財政法の縛りは受けない(事実上、日銀の直接引受けと変わらない)。安倍総裁の発言がどちらを指しているのか今のところ不明である。

    筆者は、日銀が国債を直接引受けても良いと考えている。そのためには国会の決議が必要になるが、政治家はそれくらいの苦労はすべきと筆者は考える。日本のデフレ脱却がうまく行かないのは、日銀の努力が足りないからと主張する政治家は多い(日銀の金融緩和くらいではデフレ脱却は無理)。彼等は、自分達は何もしなくても良いと思っているのであろか。

    日銀マンは事実上の公務員である。しかも彼等は、日銀の一番重要な仕事は日銀券の価値を守る(つまり物価上昇を抑える)ことと思っている。その日銀に建設国債の購入を迫る必要があるのなら、政治が責任を持つべきである。「自分達は気が進まなかったが、政治家が無理強いをした」という形を採らざるを得ないと筆者は考える。


    選挙の公示日が過ぎると、本誌なんかも政治的な発言が難しくなる。つまり今週が最後の機会である。07/7/2(第488号)「ポンカス政党」で述べたように、筆者は自民党支持を止めていたが、安倍総裁の誕生によって自民党を見直しても良いのではないかと思っている。また問題の小泉元首相の親派(小泉チルドレンや小泉政権の幹部など)の大部分が既に消え、あるいは今回引退する。

    それにしても第三極の混乱振りが目立つ。筆者は、消費税増税が争点になるのなら第三極の躍進も考えられたが、そうならないようである。夫々の党首は興奮しているが、彼等の騒動を有権者は白けた思いで眺めている。

    筆者の関心は選挙結果後の政権の組合せに移っている。今日の政治のポイントは、衆議院ではなく参議院である。それを考えると縮小後の民主党がどのように新政権に対応するかが見どころと思っている。参議院議員がほとんどいない第三極の影響力はいずれにしても限定的である。



安倍自民党総裁の「建設国債の日銀引受け」「日銀法の改正」といった発言に対して、政治家やエコノミストから一斉に強烈な非難が出ている。「これは新興国や発展途上国の金融政策」と言っている。筆者は、これこそ真逆と思っている。日本が先進国だからこそデフレに陥り、このような非伝統的な金融政策が必要になってきたのである。来週はこの話をする。



12/11/19(第732号)「残る経済成長路線」
12/11/12(第731号)「先進国における経済成長」
12/11/5(第730号)「投資と経済成長」
12/10/29(第729号)「プラスアルファーの議論」
12/10/22(第728号)「アラン・ブラインダー教授の文章」
12/10/15(第727号)「バランスを欠いた報道」
12/10/8(第726号)「中国からの撤退も視野に」
12/10/1(第725号)「中国の反日暴動に対する感想」
12/9/24(第724号)「本誌の中国問題ダイジェスト」
12/9/17(第723号)「技術流出と日本の伝承文化」
12/9/10(第722号)「技術流出の現状」
12/9/3(第721号)「知的所有権の話」
12/8/27(第720号)「最近の出来事」
12/8/6(第719号)「御用学者の話」
12/7/30(第718号)「増税マニア達は現実離れ」
12/7/23(第717号)「吉川洋東大教授の文章」
12/7/16(第716号)「消費税増税が待ち遠しい?」
12/7/9(第715号)「消費税は「鬼門」」
12/7/2(第714号)「増税騒動の感想」
12/6/25(第713号)「今日の諸情勢の変化」
12/6/18(第712号)「世界中「展望がない」」
12/6/11(第711号)「schole(スコレー、暇)の話」
12/6/4(第710号)「ギリシャ化の話」
12/5/21(第709号)「単式簿記の世界」
12/5/14(第708号)「文春と朝日の関係」
12/4/30(第707号)「続・増税論議と文芸春秋」
12/4/23(第706号)「増税論議と文芸春秋」
12/4/16(第705号)「増税論議と政界」
12/4/9(第704号)「増税派の人々」
12/4/2(第703号)「松下政経塾政治家と増税」
12/3/26(第702号)「英国の永久債発行」
12/3/19(第701号)「過去の号の修正」
12/3/12(第700号)「本誌700号に寄せて」
12/3/5(第699号)「投資顧問AIJの事件」
12/2/27(第698号)「橋下維新政党へのコメント」
12/2/20(第697号)「地方自治体と通貨」
12/2/13(第696号)「デフレ経済下での増税」
12/1/30(第695号)「無税国家への道」
12/1/23(第694号)「世界的な金利低下」
12/1/16(第693号)「過剰貯蓄による災い」
12/1/9(第692号)「バーチャルな話」
11/12/19(第691号)「シミュレーションモデルの話」
11/12/12(第690号)「財政破綻のすすめ」
11/12/5(第689号)「「騒ぎ屋」の時代」
11/11/28(第688号)「技術進歩の恩恵」
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