- 日経新聞の提言
日本経済は依然混迷を続けている。破綻金融機関については「ブリッジバンク構想」と言う一応の解決への道筋が見えてきたが、実体経済の方は下降の途中であり、今だ底が見えない状態である。ただ唯一の救いは、政治家や政府が経済の深刻さを意識するようになったことである。昨年の今頃は「財政再建論議」がさかんに行なわれ、経済企画庁も「景気は依然底堅く推移している」と言っていたほどである。今は自民党の反主流派の一人である、当時の官房副長官であった与謝野氏も、「そんなに財政支出を削っては景気に悪影響を与えるのではないか」と言う自民党の党内の声に対して、「景気が悪くなるようなら規制緩和で対処すれば良いではないか」とのんきに答えていたくらいの認識しかなかったのである。しかし、当時は政府だけがおかしいのではなく、マスコミの論調も政府の財政再建路線を後押しするものであった。端的に言えば、マスコミにはこれまでの政府の経済政策を非難する資格はないのである。 そのマスコミも昨年暮れの大型の金融機関の破綻以来、政府に景気対策を求める論調に大転換を行なっているのである。ただ、経済の本質を理解している訳ではないので、主張も一本ズレていることには変わりがない。特に経済に関しては、日経新聞が色々提言を行なっている。今週号と来週号では6月29日付で行なわれている「経済再生への提言」について一つ一つ検証を行なうことにより、マスコミの言う通りの経済政策を行なっていては日本経済が持たないことを説明したい。
銀行の段階的整理や受け皿銀行の整備などを通じ、不良債権の最終処理を進める
銀行の不良債権問題が解決がどれだけ景気にプラスなのか筆者は疑問であるが、これ以上の金融機関の破綻が続けば、景気に大きなマイナスになることは事実と考えている。このためにも不良債権問題を急ぐことは政策としては正しいことは理解できる。また、これに関連し、不良債権問題の解決により、ダラダラと今も続いている地価の下落が止まれば、企業の設備投資を再開するきっかけにはなる。しかし、これはあくまでもきっかけであり、企業が本格的に増やすようになるには、一方では総需要政策が必要である。つまり、需要の増加が見込めない現状では、土地の下落が止まっただけではそう簡単には設備投資が増えるとは考えられないのである。 この提言では、銀行を整理に伴う借り手の企業への対応が不明である。経営に問題のない企業は、銀行が整理されてもあまり影響ないことは容易に理解できる。問題は「回収に問題あり」とする第二分類の企業とそれ以下の評価の企業への対応である。まずこの第二分類の企業への対処がはっきりしていないのである。多くの大手のゼネコンなどがこの第二分類と言われている。銀行の整理に伴いこれらの企業も破綻することになれば、その規模にもよるが、世間はパニックになる恐れがある。大手のゼネコンとなれば取引先が一万社を超えることもあり、その破綻の影響は銀行自身の破綻に劣らず大きいのである。住友信託と長銀の合併でも、さっそくこれが現実化している。筆者は、第二分類の企業に対しても、融資が継続されるような施策を施す必要があると考える。5年間などの期限を区切っての政府の保証を付けることにより、融資を継続させるようなこともその方法の一つであろう。これについては会社更正法との関係で別の機会にさらに述べたい。とにかく単純に銀行を整理すれば良いと言う考えは極めて危険である。 この提言ではっきりしないのは、公的資金の投入の是非と範囲である。預金者保護の観点からの公的資金の投入については、各方面からコンセンサスは得られていると考えられる。しかし、これは銀行が破綻した場合である。問題は、救済合併の場合である。吸収する側の銀行が吸収される銀行の不良部分までは引き取らない場合の処理である。政府自民党はこれも公的資金の投入の対象と考えいると思われるが、これは公的資金による銀行救済と捉えられる可能性がある。今後、マスコミはこの点を追及してくると考えられる。しかし、このようなケースでの公的資金の投入を認めないのでは、銀行の整理が進むはずがない。 マスコミは、銀行の整理と不良債権の処理を主張するが、公的資金の投入への態度をはっきりさせていないのである。これについてはマスコミには前科がある。「住専処理」の時である。マスコミは以前から「住専」については処理を急ぐべきであり、場合によっては公的資金も使うべきと主張していた。しかし、「住専処理」に国民の金を使うのかと野党が言い出すと、マスコミは180度主張を転換させ、公的資金投入反対の論陣を張ったのである。「住専処理」は当事者の利害が真っ向から対立しており、これを法廷にもちこめば、結論が出るまでに10年単位の時間を要することは確実であった。特に「住専」では、「銀行局長の念書」が出てきたりして、「銀行」「農林系金融機関」「政府」の利害が複雑にからみあい、「住専処理」のスキームができた時には筆者も「よくできたもの」と感心したほどであった。これほど「住専」の問題は難しかったのである。「住専処理」が終わった後は、政府は金融機関の不良債権問題の解決は進まなくなった。「住専処理」での公的資金投入反対の声でやる気を失ったのも原因である。また、一番複雑な「住専」を処理したのだから、後は各自が処理するのではないかと安易に考えたこともあろう。 そしてそれ以降、銀行の不良債権の処理は進まなくなった。時間が進むうちに景気も後退し、地価も下落を続け、さらに総会屋への利益提供問題などが浮上し、利益で不良債権を処理できる以上のスピードで銀行の経営環境が悪化していたからである。今後はアジアでの不良債権問題や銀行によってはデリバティブでの失敗などがこれに加わることになる。既に北海道拓殖は破綻し、長銀は行き詰まった。これらは「住専処理」後、政府の対応が事実上止まった結果とも言える。たしかに今回は米国からの「不良債権問題の解決」を迫る圧力もあり、政府自民党は政策を進め易い環境が整いつつある。しかしマスコミの対応は不明である。この日経新聞の提言に見られるように、肝腎なところは「不明」の状態であり、状況によりいつでも主張を翻すことができる状態にしているのである。 不良債権問題のように当事者の主張や利害が異なる場合には、常に解決には「あいまいさ」がつきものである。この「あいまいさ」を非難するのは簡単であるが、時間は待ってくれないのである。今回はマスコミの反発があるからと言って、銀行の整理を中断することはできないと言う難しい立場に政府自民党は立たされているのである。また、マスコミがこのような無責任の状態では、実際に銀行が破綻しなければ政府が具体的に動けないと言う厳しい現実があると言える。今後は、政府の長銀の不良債権処理に対するマスコミの対応が注目される。
以下は来週号。
- 為替介入の効果
先週号6/29(第72号)「参院選と経済を考える」 に続き、政府日銀の為替介入の効果について述べたい。世間では中央銀行の為替介入は規模的にも限度があり、効果も限定されていると言われている。そして為替介入の効果もそんなに長い間つづかないと言う指摘もある。たしかに一日の為替の取引額を考えると為替介入額は決して大きくない。しかし、筆者は「額」は問題ないと考える。為替介入によって当局の為替に対する意志を示せば良いのである。特に今回は米国との協調介入であり、これは世界の意志とも言えるのである。 経常収支を見る限り、客観的には円高に移行せざるを得ない状況にも拘わらず、円安が進んできたのである。これを押し進めてきたのは投機性の高い資金の移動である。投機であるから理由は「もっともらしいもの」なら何でも良いのである。ここで協調介入で世界の意志が示されたと考えるなら、投機筋も「円安」はそろそろ潮時と考え、今後は為替が円高に向かう確率は極めて大きいと考えられる。つまり政府中央銀行の意志を示すなら、為替介入は「1ドル」でも構わないのである。実際、報道によれば、日米の協調介入の際の介入金額はたったの19億ドルに過ぎないのである。 為替取引の多くが投機とすれば、これはゼロサムゲームである。つまり為替取引で利益を得る者がいる反面、これで損害を受ける者もいるのである。為替動向の流れを作っている国際的な投機筋は今回も大きな利益を得ているはずであるが、一方では損をしている機関投資家が必ずいるはずである。それと忘れてならないのは政府日銀は、為替介入と言う名のもとに為替取引を行ない、これまで損をしたことがないことである。例外は「円」が固定相場から離脱した際にドルを買い支え、損をした時だけである。政府日銀が介入する度にマスコミは、市場関係者の声として「介入による効果は限定的であり、効果は長続きしない」と伝えている。筆者は、このようなマスコミの報道をいつも複雑な想いで聞いている。今回政府日銀は130円近辺で200億ドル以上の為替介入を行なっている。為替水準がいつこれを超えるか注目される。 不況下の日本において、円高は決してプラスではないことを忘れてはならない。大体今日の円安傾向は、日本が米国に協調介入を依頼してから続いているのである。そして今回の協調介入が日本からの依頼によると言うことであるから、米国政府は、日本政府が一体何をしたいのか不思議な想いで日本経済の運営を眺めているであろう。ただ、米国政府としては、世界の経済に悪影響がある場合には、日本に政策の厳しく注文を突きつけざるを得ないのである。「財政再建」などやっている場合ではなかったのである。
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