経済コラムマガジン 平成9年2月10日より
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12/10/8(726号)
中国からの撤退も視野に

  • 「友好」という言葉の解釈
    今週は、今後の日本と中国の関係について述べる。72年の日中国交回復前後から、少なくともこれまでは日本側は外交姿勢として、日中友好というものを基本に据えてきた。この日中友好にのっとり、中国に対するODAの供与(中国側はこれを戦争賠償と捉えていたかもしれないが)や産業技術の供与を行ってきた。

    しかし当初、今日とは異なり民間(企業)の方は中国進出に極めて慎重であった。ただトウ小平の要請などに見られるように、最初は中国側の強い誘いがあり民間は中国での設備投資を開始した。したがって対中投資の初期の頃に造られたパナソニックの工場が、今回の暴動で壊されたことは皮肉としか言えない。

    以前から、日本は中国を政治体制が異なり異質な国と認識していた。しかし中国が解放・改革路線によって経済的に豊かになれば、国の雰囲気も変わり我々が考える「普通の国」に近付くのではないかと期待を持った。結局、これが幻想であったことをここ20年くらいの中国の行動が証明した。


    結果的に、中国が日中国交回復と日中友好条約締結した後の日中友好ムードの中で求めていたことは、日本からの資本と技術の流入、そして製品輸出先としての日本市場の解放だけであったことが明らかになった。今日、資本に関しては、中国が自前で外貨を稼いでいるので特に日本からの資本流入を当てにしていない。あえて必要とする資本と言えば、技術付きの日本企業による設備投資だけである。つまり中国がほしいのものは、あくまでも日本の「技術」だけである。

    日本には、中国に親日・知日派と反日・抗日派がいるという解釈がある。たしかに個人のレベルで見れば、ある程度の親日家がいると思われる。しかし政府や政治家のレベルでは、まず親日派はいないと筆者は見ている。筆者は、中国政府の上層部には「当分の間日本からの技術移転は必要であり、日本との揉め事は避けたい」と考える人々と「日本からの技術移転はもう十分であり、これ以上日本に対して下手に出ることはない」と言う者がいると思っている。前者を親日・知日派と、後者を反日・抗日派と日本の人々が勝手に感じているに過ぎない。


    筆者は、「友好」という言葉の解釈が、日本と中国の間でかなり異なっているのではないかと考える。日本人の解釈については、文字通りであり、特に説明は必要がないであろう。一方、中国人の「友好」の解釈は「戦闘状態にないとか、せいぜい揉め事がない状態」と言った程度のことと筆者は理解している。つまり日中友好と言っても、決して中国は日本に気を許しているわけではない。

    「人には家族と使用人と敵しかいない」と言っていると話題になった日本の政治家がいる。筆者は、ちょうどこの表現が中国にあてはまると考える。「使用人」を「属国」に置き換えれば、中国の他国に対する態度を示す。中国のデモ隊が日本を「小日本」と呼びながら行進しているのを見ると、日本が中国の「属国」で満足しないのなら「敵」と見なす他はないと脅しているようなものである。

    この「脅し」こそが中国の外交の特質である。今回の尖閣問題で、中国観光客のキャンセルが続出している。フィリピンも領土問題で中国と対立したが、これによって中国向けのバナナの輸出がストップしたり、日本と同様に中国からの観光客が激減したと言う。このように中国は観光客まで「脅し」に使っている。いまだ日本に根強くある「政治と経済は別物」というセリフが空しく響く。


    05/4/25(第387号)「鎖国主義への誘惑(その2)」で、72年の日中国交正常化交渉がまとまった夜の晩餐会で出された料理が「なまこ」だった話をした。つまり中国の首脳部は、72年当時、日本に対して屈折した感情を持っていたのである。たしかに戦前の日本の中国内における行為を考えるとやむを得ないと思われる面もある。

    しかし40年も経っても、そのような雰囲気を引きずっているのが中国である。さらに先週号で取上げた反日教育は今後も続けられるはずであり、そのうち中国は反日チルドレンで溢れることになる。筆者は、このような国との間で友好関係なんて絶対に有り得ないと判断する。


  • 理解不能な対中投資額の推移
    日本は、とても友好国とは言えない中国という国に多大な投資を行ってきた。まさに常軌を逸した行為である。おそらく今しばらくは日中関係は小康状態を維持すると思われるが、いつ何時、中国に進出した日本企業に今回以上の攻撃が加えられるか分らない。

    今回の対日企業に対する暴動を見ていても、官製の部分に加え、これに乗じ中国政府に反感を持つ勢力が紛れ込んでいると見られる。例えば筆者は今回の暴動に民主化活動家の影を見る(民主化活動家は、尖閣上陸を果たした香港の活動家だけではない)。彼等の狙いは中国の現行政府の弱体化である。中国国内に投資を続けている日本企業を攻撃することは、この目的に合致している。


    05年の反日デモや10年の尖閣での漁船衝突事件に続く今回の日系企業への襲撃である。筆者は、さすがに勘の鈍い日本の企業も中国からの撤退を真剣に模索し始めると考える。「チャイナーリスク」としゃれた表現がなされるが、実態はもっと酷いようである。

    日本のマスコミは報道しないが、中国外交の専門家も中国に関して既に「サジを投げている」のではと筆者は感じる。先日ようやく後任の中国大使が決まった(前任は中国大使に就任後、数日で急死)。この新中国大使は中国の専門家、いわゆるチャイナースクールではないようである。

    今回、後任の中国大使が決まるまでに時間が掛ったのは、外務官僚が次々と中国大使就任を固辞したからという。外務官僚は一般の日本国民が窺い知れないような中国の「危険」を知っているのではと思われる。中国を知っているからこそ外務官僚が「中国」から逃げ出しているといった印象を受ける。

    もし外務官僚でさえ逃げ出しているくらいなら、日本企業の中国撤退事業は難しくなりそうである。終戦間際にソ連が侵攻してきて、日本人は満州から逃げ出した。早く情報を掴んだ人々はいち早く逃げた。最後に残ったのは一般の開拓民であった。満州からの撤退は困難を極め、逃げる途中で残されたのが中国残留孤児である。


    筆者が驚くのは日本の中国に対する投資額さえはっきり掴めていないことである。9月24日の日経新聞のデータでは、ここ数年、日本の対中投資実行額は年間9兆円程度で推移している。ところがゴールドマン・サックスの資料では、日本の対中直接投資額は11年が126億ドル(9,800億円)となっている。さらに日経新聞の9月28日の中国特集では、日本貿易新興機構(ジェトロ)が中国ウェブサイトをもとに作成した実行ベースの対中投資額は、11年が60億ドルを少し上回り、12年の1〜6月が40億ドルとなっている。

    ただ05年や10年の騒動が有りながら、日本の中国への投資が減っていないことはたしかである。特に11年は、どの資料の数字でも対前年比で伸びている。11年と言えば、尖閣での漁船衝突事件が起り、フジタ社員の拘束騒動などがあった翌年である。しかも11年は中国経済の減速がはっきりしてきて、各国が中国への投資額を減らしている。つまり11年に対中の投資額を増やしたのは唯一日本だけである。ゴールドマン・サックスの資料では対前年比で74%増、日本貿易新興機構の数字では約50%増とある。


    正直に言って、筆者は日本の民間企業の対中投資額の推移は理解不能である。ただ筆者は、80年代末の土地バブル期の企業の行動と似ている思っている。当時は、隣が土地の売買で儲けたから、うちも土地に投資しようという感覚の時代であった。

    今回の騒動で、保険会社は、中国関連の事業に対する保険料率を大幅に引上げた。はっきり言って、保険会社は中国から逃げ出したのである。保険会社が逃げ出し、もし外務官僚も逃げ出しているのなら、中国に残された日本の民間企業は一体どうなるのか。中国進出をこれまで煽ってきた政府関係者、マスコミ、エコノミスト、ジャーナリストなどに意見を聞きたい。



中国関連の話はまたそのうち取り上げる。来週は、バランスを欠いた政治判断がなされたり、報道がなされている事柄について述べたい。



12/10/1(第725号)「中国の反日暴動に対する感想」
12/9/24(第724号)「本誌の中国問題ダイジェスト」
12/9/17(第723号)「技術流出と日本の伝承文化」
12/9/10(第722号)「技術流出の現状」
12/9/3(第721号)「知的所有権の話」
12/8/27(第720号)「最近の出来事」
12/8/6(第719号)「御用学者の話」
12/7/30(第718号)「増税マニア達は現実離れ」
12/7/23(第717号)「吉川洋東大教授の文章」
12/7/16(第716号)「消費税増税が待ち遠しい?」
12/7/9(第715号)「消費税は「鬼門」」
12/7/2(第714号)「増税騒動の感想」
12/6/25(第713号)「今日の諸情勢の変化」
12/6/18(第712号)「世界中「展望がない」」
12/6/11(第711号)「schole(スコレー、暇)の話」
12/6/4(第710号)「ギリシャ化の話」
12/5/21(第709号)「単式簿記の世界」
12/5/14(第708号)「文春と朝日の関係」
12/4/30(第707号)「続・増税論議と文芸春秋」
12/4/23(第706号)「増税論議と文芸春秋」
12/4/16(第705号)「増税論議と政界」
12/4/9(第704号)「増税派の人々」
12/4/2(第703号)「松下政経塾政治家と増税」
12/3/26(第702号)「英国の永久債発行」
12/3/19(第701号)「過去の号の修正」
12/3/12(第700号)「本誌700号に寄せて」
12/3/5(第699号)「投資顧問AIJの事件」
12/2/27(第698号)「橋下維新政党へのコメント」
12/2/20(第697号)「地方自治体と通貨」
12/2/13(第696号)「デフレ経済下での増税」
12/1/30(第695号)「無税国家への道」
12/1/23(第694号)「世界的な金利低下」
12/1/16(第693号)「過剰貯蓄による災い」
12/1/9(第692号)「バーチャルな話」
11/12/19(第691号)「シミュレーションモデルの話」
11/12/12(第690号)「財政破綻のすすめ」
11/12/5(第689号)「「騒ぎ屋」の時代」
11/11/28(第688号)「技術進歩の恩恵」
11/11/21(第687号)「避けられる根本問題」
11/11/14(第686号)「物事の本質」
11/11/7(第685号)「組織の異端児的存在」
11/10/31(第684号)「組織の研究」
11/10/24(第683号)「気乗りしないTPPの話」
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