経済コラムマガジン 平成9年2月10日より
経済コラムマガジン




12/8/27(720号)
最近の出来事

  • セーニアリッジ政策への牽制
    本誌は2週間休刊していたが、その短い間に日本に関わる結構大きなイベントや出来事が連続して起り、また筆者にとって興味のある文章を見かけた。今週はその中のいくつかを取上げ、それらにコメントを行う。


    まずロンドンオリンピックである。日本は金メダルこそ少なかったが、全体的として事前の予想を上回る結果と言える。公的な支援が少ないにも拘わらず、日本の選手はかなりの活躍を見せてくれたと思う。また銀メダルと銅メダルが多いということは、次のオリンピックが期待される。

    銀座のメダリストの凱旋パレードもかなり盛上がった。ここのところずっと日本国民にとってろくな事がなかった(経済の長期低迷や消費税増税など)だけに、人々の鬱憤も貯まっていたのであろう。ただ観衆が50万人も集まったという話は疑わしいと筆者は感じる。大勢の人々が集まったのは事実ではあるが、50万という数字は警察が発表したものではないようである。

    銀座の凱旋パレードは、東京へのオリンピック招致ムードを高めることを狙ったものと考えられる。この効果もあってか東京へのオリンピック招致に賛成する人は増えているようである。一頃のような「オリンピックは税金の無駄」といった声は少なくなっている。筆者も東京でのオリンピック開催に大賛成である。


    8月6日付け日経新聞の経済教室に、猪木武徳青山学院大学教授の「インフレの惨禍を忘れるな」という文章が掲載されている。今日までずっとデフレ経済で苦しめられている日本のことを考えると、極めて唐突な話である。また消費税増税法案が成立し、もしこれが実施(景気条項があるので実施されるかどうか不透明)されれば、日本経済に一段とデフレ圧力が掛ることになる。それにも拘わらず猪木教授はハイパーインフレを警戒すべきと言っているのである。

    文書の内容はとても陳腐で、例のごとく第一次世界大戦後のドイツや第二次世界大戦後のハンガリーのインフレを引合いに出したものである。しかし両方とも極めて特殊なケースの話であり、今日の日本経済の問題にはほぼ関係がない。教授の一番言いたいことは「国債の引受け(日銀による)は禁物」である。


    しかし消費税増税が決まったのに、何故このような発言が飛出すのか不思議である。ところで日本国民の大半は、今日まで消費税についてあまり考えてこなかった。また消費税の増税についての話は聞いていたが、簡単には決まるとは思っていなかった。ところが不思議なことに与野党が談合し、あれよあれよという間に増税法案が通ったのである。

    消費税増税が決まって、国民は消費税について改めて考え始めている。増税の推進者達は、日本の消費税率が欧州の付加価値税の税率よりずっと低いと主張してきた。そしてこれが今回の増税の論拠の一つにもなっていて、日本国民もそう思い込まされてきた。ところが欧州で広く採用されている軽減税率を考慮すると、決して日本の消費税率が極端に低いということはない(英国みたいに食料品などの付加価値税率がゼロの国がある)。

    それどころか消費税が10%まで増税されれば、実効税率で日本消費税率は欧州の付加価値税率を上回る可能性が出てきた。そのうちこの事実は広く日本国民の知るところとなり、消費税増税に対する見方も大きく変わると思われる。そしてこの点が今回消費税増税を推進してきた人々が恐れているところであろう。少なくとも今後消費税率をどんどん上げて財政再建をしようなんて有り得ない話である(消費税増税によるデフレ圧力による税収減を別にして)。


    今後、社会保障費などの財政支出が増えることは確実であり、その財源が問題になる。ところが財源がないからといって消費税率を上げるという選択肢が無いことは、説明した通りである。もはや筆者達がずっと主張している「政府紙幣の発行」「国債(筆者は永久債発行を主張している)の日銀買入れ」といったセーニアリッジ政策の類しかない。

    筆者の想像では、政府関係者の間でも既にセーニアリッジ政策が現実の話として上がっている可能性がある。しかしセーニアリッジ政策の話が出れば、これまでの震災の復興税や消費税増税は何だったのかということになる。まさにこれを牽制するのが今回の猪木教授の「とにかくインフレは恐い」という話と筆者は理解している。

    しかし直近のデータで日銀は、既に81兆円近い国債を購入しているのであり、またそのような事実を猪木教授も承知しているはずである。それにも拘わらず「とにかくインフレは恐い」と言っているだから、まさに教授は「カマトト」と言える。最後に吉川洋東大教授と猪木教授の共通点について述べようと思ったが、長くなるので今回は止める。それにしても日本の経済学者は本当に情けない。


  • 二つの領土問題
    大きな出来事として、香港の活動家の尖閣諸島上陸とその後の中国国内の日本への抗議活動、そして韓国大統領の竹島上陸と天皇に対する問題発言があった。これらに対して日本の国民は久々に怒りを覚えている。中国や韓国の国内では「どうせ騒いでいるのは日本の右翼や保守派の者だけ」「野田政権が低支持率なのでパフォーマスをやっているだけ」と軽く思っていたふしがある。

    ところが今回は一般の日本国民が怒っているのである。どうやらこのことに気付き、両国政府も軌道修正を目論んでいる。しかしこれはうまく行かない。筆者は、特に日韓関係は悪くなる一方であり修復は困難と見ている。


    これらの話を進めるにあたり、筆者の知っている範囲で二つの領土問題に関して極めて簡単な説明を行う(正確さに欠ける点があれば判明しだい訂正する)。まず専門家ではないので細かい点は省略するが、尖閣諸島は間違いなく日本の領土である。台湾の李登輝元総統ははっきりと「尖閣諸島は日本領」と明言している(この発言で李元総統は中国で売国奴と批難されているが、昔の中国の教科書でも日本領と明記されているという話である)。

    ただし李登輝元総統は「尖閣諸島周辺の入会権」について言及している。戦前、台湾は日本の植民地であり、当時、台湾の漁民は自由に尖閣諸島周辺で漁を行っていた。ところが日本の敗戦で尖閣諸島が米軍の支配下に置かれると、台湾漁民は尖閣諸島に近付けなくなったのである。沖縄が日本に返還されたのだから、台湾漁民の尖閣諸島周辺での漁を再開させてくれというのが李登輝元総統の要望である。ただ日本と台湾の間には国交がなく、また中国が台湾は中国の一部と強く主張しているため、今のところ日本と台湾との間ですんなりと漁業協定を結ぶことは難しい。


    竹島の帰属が問題になったのは、1952年の李承晩ラインの設定からである。韓国の李承晩大統領が勝手に軍事境界線を引き、たまたまその中に竹島が入っていたのである。ところがこれは国際法上認められるものではなく、当時の米国も承認していない。しかしこれ以降、日本の漁船が韓国周辺で次々と拿捕されることになった。

    悪評高い李承晩ラインであるが、これが設定されたのには日本の漁船の側にも問題があった。日本の多くの漁船が韓国周辺(領海に入らなくとも)まで行って漁をしていたことが、李承晩ライン設定の大きな原因であった。戦後間もなくであっても、日本の漁船の性能は良く、韓国の近くまで漁に出掛けていたのである。これに対して韓国漁船は貧弱で性能が劣り、せいぜい沿岸での操業しかできなかった。このような事情を背景に李承晩ラインが強引に設定されたのである。

    ところでこの韓国船の性能や韓国人の操船技術のレベルを考えると、遥か彼方にある竹島のことを韓国人が「昔から訪れていた竹島は心の故郷」とまで言っていることが不可解である。一方、日本人は海洋民俗の血を引き、昔から周辺諸国へ自由に航行していた(周辺国で悪名高い倭冦はその典型)。とにかく海が苦手な中国人と韓国人が、遥か彼方にある尖閣諸島や竹島を「我が領土」「心の故郷」と言っていることが不思議なのである。また両方のケースとも当初は漁業と密接に関係していたところが興味深い(今日では原油などの海洋資源が問題になっている)。


    筆者は、中国や韓国との関係は100年単位、あるいは1,000年単位で考えるべきとずっと主張してきた。日本が両国との接触を増やせば友好関係が深まると考えるのは完全に間違いであり、むしろ逆であったことがはっきりしてきた。実際、経済関係が密になり、民間レベルの交流が盛んになるにつれ中国や韓国で反日ムードが高まり、一方、日本でも中国や韓国を嫌う人が増えている。

    今日、特に韓国との緊張が異常なほどに高まっている。韓国は絶対に引かない国であり、日本も引けないところまで来ている。筆者は、このままでは事実上の国交断絶まで行く可能性さえ出てきたと思っている。歴史的に日本と中国・韓国の間では、「疎」の時代と「密」の時代を順番に繰返してきた。これから相当の期間、日本と韓国の間では「疎」の関係が続くと筆者は感じる。しかし両国にとっては、むしろその方が好ましいのかもしれない。



来週は知的所有権に関する話をしたい。



12/8/6(第719号)「御用学者の話」
12/7/30(第718号)「増税マニア達は現実離れ」
12/7/23(第717号)「吉川洋東大教授の文章」
12/7/16(第716号)「消費税増税が待ち遠しい?」
12/7/9(第715号)「消費税は「鬼門」」
12/7/2(第714号)「増税騒動の感想」
12/6/25(第713号)「今日の諸情勢の変化」
12/6/18(第712号)「世界中「展望がない」」
12/6/11(第711号)「schole(スコレー、暇)の話」
12/6/4(第710号)「ギリシャ化の話」
12/5/21(第709号)「単式簿記の世界」
12/5/14(第708号)「文春と朝日の関係」
12/4/30(第707号)「続・増税論議と文芸春秋」
12/4/23(第706号)「増税論議と文芸春秋」
12/4/16(第705号)「増税論議と政界」
12/4/9(第704号)「増税派の人々」
12/4/2(第703号)「松下政経塾政治家と増税」
12/3/26(第702号)「英国の永久債発行」
12/3/19(第701号)「過去の号の修正」
12/3/12(第700号)「本誌700号に寄せて」
12/3/5(第699号)「投資顧問AIJの事件」
12/2/27(第698号)「橋下維新政党へのコメント」
12/2/20(第697号)「地方自治体と通貨」
12/2/13(第696号)「デフレ経済下での増税」
12/1/30(第695号)「無税国家への道」
12/1/23(第694号)「世界的な金利低下」
12/1/16(第693号)「過剰貯蓄による災い」
12/1/9(第692号)「バーチャルな話」
11/12/19(第691号)「シミュレーションモデルの話」
11/12/12(第690号)「財政破綻のすすめ」
11/12/5(第689号)「「騒ぎ屋」の時代」
11/11/28(第688号)「技術進歩の恩恵」
11/11/21(第687号)「避けられる根本問題」
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11/11/7(第685号)「組織の異端児的存在」
11/10/31(第684号)「組織の研究」
11/10/24(第683号)「気乗りしないTPPの話」
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