- 金融機関の不良債権の処理
7月12日には参院選が行なわれる。参院選の注目点は「自民党の単独過半数獲得ができるか」と言うところであろう。過去の実績からも不況下における選挙では自民党は強い。また、とりわけ大きなスキャンダルもなく、さらに野党がこれだけ弱体化しているのだから、本来なら自民党が大勝しても不思議はない。これまでの実績の通りなら自民党が70以上の議席を占めて当然なのである。しかし、橋本総理の支持率の低迷もあって、これは相当難しい。自民党の幹部は、勝敗ラインを61とか65に低く設定し、既に予防線を張っている。筆者は、もし選挙前に橋本総理の退陣がはっきりしていれば、自民党が勝つことは確実と考えていた。 今回の選挙の争点ははっきりしない。各党とも「景気対策」を掲げているが、具体的な対策に大きな違いはない。ただ野党は「減税」を揃って掲げているのに対して、自民党は今年度の税制の改正の中で「減税」を考えるとしているため、「減税」の具体策を明示していない。しかし、「減税」が有権者にそれほどアッピールする政策とは思えない。各党も「減税」の財源を明示しているわけではなく、有権者は、「減税」が将来の「増税」に繋がる可能性を感じている。そもそも現状では「減税」の多くが貯蓄に回り、消費がそれほど増えないことも理解している。だいたい経済に話が及ぶと話の内容が複雑になり、選挙の争点には成りにくいのである。このような状況下で唯一争点となりそうな項目は「金融機関の不良債権の処理方法」である。政府自民党もこれについての具体策は、秋頃までに作成する予定であったが、各国から、特に米国からの要請が予想以上に強く、急遽、参院選の前までに骨子を固めることになった。 世間では、「金融機関の不良債権の処理」こそが一番重要な景気対策と言う人々が多いが、筆者はそうは考えない。たしかにこれ以上の金融機関が破綻があれば、景気には大きくマイナスに作用することは当然であるが、反対に「金融機関の不良債権」の問題が解決しても景気が上昇する保証はない。今回の不況は政府の経済政策が大きく影響している。政府の経済政策の間違いだけで不況になったとは言わないが、マクロ経済政策が間違ったことは否定できない。「金融機関の不良債権」が不況の元凶であり、この解決が一番の景気対策とすることは、これまでの経済政策が間違っていたことのスリ替えになる。そして筆者は、「金融機関の不良債権の処理」とは別に本来の景気対策が必要と考える。しかしこれらについてはまた別の機会に述べたい。 「金融機関の不良債権の処理方法」については各党でかなりニュアンスが異なっている。共産党と自由党は「預金者保護はおこなうが、銀行は一切救済しない」とし、特に自由党は「銀行の整理は法的処理に委ねる」としている。この両党の考えについてはこれ以上コメントをしない。反対に自民党と民主党は「預金者保護に止まらず、銀行の救済には公的資金を使うことも有り得る」と言う立場である。自民党と民主党の違いは、民主党が、「破綻銀行」や「破綻予備軍の銀行」を一旦国有化し、旧経営陣の責任を徹底的に追及した後に公的資金を投入することにしていることである。問題は「破綻予備軍の銀行」の取り扱いである。民主党は金融監督庁の銀行検査を厳しく行なうことによって、立ち行かなくなると思われる銀行を「破綻予備軍の銀行」として認定し、これらを国有化し、処理を行なうとしている。自民党の場合はもっと対応がマイルドであり、各銀行の自主性を重んじる姿勢であり、したがって経営陣への責任追及も甘い。自民党の方はせいぜい経営陣の退陣勧告くらいであろうが、民主党の場合は、経営陣の退陣に止まらず、退職金の没収や個人資産での弁償、さらには法律での罰則まで考えているらしい。たしかに日本においては、庶民感情から、銀行の経営者により厳しい民主党の主張が受け入れられやすいとも考えられる。 どうも民主党の場合は米国のRTCを想定した、日本版RTCを考えているようだ。米国のRTCは不動産投資で破綻した多くの貯蓄組合の経営陣の責任を追及し、何千人もの者を牢屋に送りこんだ。それと同時に公的資金を投入して不良債権を処理した。しかし、米国のケースは日本の銀行とは大きく違うのである。有罪となった経営者の多くは、立ち行かなくなった貯蓄組合に乗り込み、返済の当てもなく自分や親族の会社に非合法な融資を行ない、不良債権を膨らませたのである。米国のRTCの方は明らかな刑法犯を告発したのであり、日本の銀行とは事情が違うのである。 たしかに日本の銀行の場合にも、返済の当てもない非合法な融資が行なわれているケースがある。この場合には関係諸法で対処するのは当然であるが、今問題になっている大部分の不良債権は少なくとも形式的には合法的な融資の結果なのである。つまり刑法による経営陣の追及は一部のケースを除けば非常に難しいと考えられる。したがって民主党の考えは一般国民に受け入れやすいが、実効性に疑問があるのである。 どうして「銀行」に対しては世間の風がそんなに冷たいのか、これは銀行自身が考える必要がある。銀行はその破綻による影響が大きいため、その活動は色々な法律の規制と当局の監督の下にあった。この結果、銀行間の競争はいびつなものになった。しかしこのことは自由な銀行経営の阻害となった反面、銀行には確実な利益をもたらした。製造業は利益を将来の競争に備え、設備の更新や試験研究に使ったが、銀行は店舗の展開にも制限があり、利益を投資にではなく、皆で「山分け」してきたのである。つまり国の銀行への規制が、銀行員の高い給料を保証してきたのである。バブル崩壊後、莫大な不良債権が発生したのにも拘わらず、銀行員の待遇はほとんど変わっていない。資金の調達金利も低利で推移しており、銀行も一定の「利ザヤ」を確保している。つまり、破綻した場合の影響が大きいと言う理由で、一般の企業に比べ銀行は特別扱いされている状態であり、これが世間の反感をかっているのである。 サラリーマンなどの組織の人間にとって、仕事を進めるにあたって大切なことは、将来そのことが原因で起こりえるトラブルの責任をいかに回避するかと言うことである。通常、一つの経営上の決断が下されるまでには何人、場合によっては何十人もの責任者の承認が必要とされる。この手続きは、通常、各社の社内規定になっている。そして一つの経営上の決断に多数の「ハンコ」が必要になっており、結論が出るまでには相当な時間と労力を要する。しかし、この作業により責任は分散され、仮にその経営判断が間違っていても、形式的には誰も責任を負わないようになっている。サラリーマンのエネルギーの大半はこの「責任の分散」に使われているのである。例外として問題となるのは、このような手順を踏まず行なわれた経営判断である。しかし、大きな企業ではそのようなケースはまずないと考えられる。 銀行でも事情は同じである。今日問題となっている不良化している融資も銀行内の手続きを正しく採っているなら、誰も責任を負うことはないようになっているのである。不良債権の発生に対して、経営陣の経営責任を問うことはできても、それを行なうのは取締役会であり、最終的には株主だけである。したがって国が「公的資金を投入する」と言う理由で、「道義的」に責任を追及できても、経営陣を法律で罰すると言うことは事実上不可能である。 このような状況で、民主党の主張のように経営陣への罰則適用が「公的資金投入」の条件となれば、話は前に進まないのである。「金融機関の不良債権の処理」がどの程度重要なのか、筆者の意見を述べるのは別の機会に行なうが、これが本当に大切なら現実的な対応が必要となろう。経営陣への十分な責任追及なしで公的資金を投入することは、「モラルハザート」と引き起こすと言う意見もあるが、今が本当に非常事態なら、むしろあえて経営陣の責任を問うことなく、事を速やかに進めることの方が、国民経済が人質に捕られている現状では得策と筆者は考える。チャンスはそんなにないのである。 住友信託銀行による長銀の吸収合併が報道されているが、この合併で自民党の案にある「受け皿銀行」がどのように機能するかが注目される。
- 為替の行方
日米の協調介入により、円はドルに対して一時的に急騰したが、それ以降再び弱含みに推移している。「円安」ではヘッジファンドの行動などが噂されているが、もしこれが本当ならそのうち買い戻しがあるはずである。そのうち為替取引で誰が得をし、誰が損をしているのかはっきりしてくるであろう。ヘッジファンドがいつも高い利回りを確保しているなら、反対に大損している者がいるはずである。彼等は、日本では大変自由に行動できるらしい。これらのファンドも巨大化し、運用できる市場も限られているはずである。また欧米の市場が規制が厳しいため日本に活路を求めて来ているのなら由々しい問題である。 本誌は、いままで日々の相場にコメントすることをしていない。これは日々の相場は色々な要素で動くため予想が非常に難しいためである。しかし、数年のスパンで捉える中長期的な動きについての相場観と言うものはある。筆者の考えは一貫して「いつ円高に向かってもおかしくない」と言うことである。根拠は日本の大きな経常収支の黒字である。最近は資本取引が大きく、経常収支の影響が小さいと言う解説をよく耳にするが、これはおかしな話である。日々の為替の動きはそうかもしれないが、為替のトレンドを予想するなら経常収支は一番重要な要素である。資本の流れが永久に一方方向と言うなら別であるが、資本は常に「利」を求め、あるいはリスクを避けて動いているはずである。将来、為替が円高に進むと言うコンセンサスが市場にでき上がれば、円高メリットを求め資本の流れは変わるのである。そしてこれ以上の円安は困ると日米の協調介入が行なわれたわけであるから、両国政府の意志は表わされたことになる。後は市場参加者がどう考えるかである。 協調介入については金額も小さく、効果を疑問視する意見もある。たしかに協調介入の金額はけっして莫大なものではない。しかし、これは政府の意志を示すことに意義があるのである。日本の大きな経常収支を前提にすれば、為替が円高に進むのが正常なことであり、それを市場に示すのが介入である。特に今回の市場介入は協調介入であり、円安是正が各国の意志であることを示したことが重要である。 現在、円の為替レートは142円である。仮に、さらに一割円安になれば156円と言うことである。問題は、市場参加者が156円になった場合の「円」の世界経済に及ぼす悪影響をどう考えるかである。また、はたして各国政府がそのような事態をだまって見過ごすかと言うことである。このようなことを考慮すれば、円安方向の動きは窮屈になっていることを理解できるはずである。筆者の率直な感想を述べさせてもらうと、「今だに円売りドル買いを行なう行為はヘッジファンドなどに円の買い戻しと言う格好の逃げ場を提供するだけである」と言うことである。 政府日銀の為替市場への介入に合わせるように銀行が危機に陥るのが気になる。本誌では何回か、金融機関の信用不安の現状では、技術的に為替介入が難しいことを述べてきた。為替を円高に持って行こうとすれば、どうしても市場から円資金を吸い上げる必要があり、これが金融機関に資金の調達を難しくさせるのである。昨年暮れの大型金融機関の破綻時も政府日銀が円安阻止で動いていた時である。今回の介入時では長銀がおかしくなった。また今回も株価の下落が資金調達を一層難しくしていた。そこで筆者は、当局が今回の「株価の下落」に「カラ売り」がどれだけ関係しているのか調べるべきと考える。もちろん違法性があるなら厳正な対処が必要である。また、最近の「円の変動」そして「長銀の騒動」とヘッジファンドの係わりを是非知りたいものである。
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