経済コラムマガジン 平成9年2月10日より
経済コラムマガジン




12/7/16(716号)
消費税増税が待ち遠しい?

  • 貧すれば鈍する
    消費税の増税法案は、衆議院を通過し次は参議院で審議される。今の流れなら多少の混乱があっても参議院でも可決され、法案は成立するものと見られる。したがって2年後には消費税の増税が実施されることになる。

    ただし同法案には景気条項というものが付いている。成長率などが一定の数値を下回った場合は増税の実施が延期される。ただこの付帯条件は絶対的なものではなく、実施はその時の政権が判断するということになろう。この点が消費税増税が実際に実施されるかの一つの「鍵」となろう。

    しかし世界の経済の見通しは暗い。また日本経済の先行きも怪しくなっている。増税法案が成立してもこの景気条項というものが足枷になる可能性がある。

    ところで増税の諸々に関係する人々は、実施の一年前になったら増税への準備を始めると見られる。実際、一旦準備を始めたら多少の景気の後退があっても増税実施を阻止することが難しくなる。したがってここ一年くらいの経済の動向が重要で、大きな経済の落込みがあった場合には増税の見送りも有りうるということになる。


    一年後、現在の野田政権が続いているか疑問である。経済の状況を別にして、一年後にどのような政治勢力が政権を担っているかが増税実施のもう一つの「鍵」になる。間違いなく来年までには総選挙が行われるであろうから、次の衆議院選挙後の国会の勢力図がガラッと変わっている可能性が大きい。それによっては、今日増税法案が成立しても実際の増税実施にはブレーキが掛る可能性がある。

    政界では鳩山新党の噂が出ている。また民主党と自・公の大連立という話が出ている。しかし小選挙区制の元では大連立は有りえない話である。まさに今日の政治情勢は渾沌としている。このような政治情勢の変化を考えると増税実施までにはまだまだ紆余曲折があると思われる。


    マスコミの報道は、消費税増税の問題点や弊害をほとんど取上げない。また民主党や自・公の支持者が本当に増税に賛同しているのかさえはっきりしない。メディアは連日ほぼ「反小沢」の話だけを取上げている。小沢一郎氏の政治家としての変節や個人的なスキャンダルばかりが話題になっている。また小沢新党は失敗ということになっている。筆者などにとってはどうでも良い話ばかりである。

    一見、日本のマスコミは何者かに支配されているかのように見える。しかし逆に05/2/14(第377号)「日本のマスコミの権力指向」で取上げたように、マスコミのインナーと呼ばれる談合組織が権力を握ろうとしているという見方もある。「俺達に逆らえば小沢一郎のように叩きのめす」と言いたいのであろうか。小泉時代からマスコミのこのような傾向が顕著になったと筆者は感じている。

    とにかく増税の問題点を全く取上げようとしない今日の日本のマスコミの姿は異様であり異常である。だいたい経営的に難しくなっているマスコミが多いはずなのに(テレビ・ラジオは宗教団体のCMを流し大新聞の子会社の印刷会社は宗教団体の新聞を印刷して何とか収入を得ている状況)、経済を冷やす増税を推進しようというのだから頭がおかしくなっているとしか思えない。まさに「貧すれば鈍する」状態である。それにしても小沢一郎氏を支持しているとは言えない筆者でさえ、今の大マスコミの小沢氏に対する「一斉攻撃」は不快なことである。筆者と同じ感想を持っている人々はかなりいると思われる。


  • 再々度「急がば回れ」
    消費税増税の影響について簡単に取り上げる。増税によって物の価格は上がるが所得は増えない。つまり消費者にとっては単純に物価の上昇という負担が増える。増税なのだから「当然」と言えば「当然」である。

    納税義務者である事業者にとっての増税の負担は、事業者の消費税を転嫁する「力」によって異なる。100%転嫁できる力のある業者は増税の負担はない。むしろ仕入に関わる消費税増税を抑えることができれば、このような力のある業者は利益を増やすことさえ可能である。

    反対に力のない業者は消費税増税分を上乗せして請求する前に価格を値引きせざるを得ない。政府は、増税を転嫁できるような環境を整備するというポーズを取るであろう。しかし全ての業者が100%の転嫁ができるということは絶対にない。そのうち必ず「消費税還元セール」というものを始める業者が現れ、他の業者もこれに追随せざるを得なくなる。筆者は、その時の経済状況にもよるが増税の転嫁は「70〜90%」程度と予想している。


    もちろん筆者は消費税増税に反対である。筆者達が主張しているのは、政府紙幣の発行や永久債の日銀買入といったセーニアリッジ政策の類である。ところが我々の力不足も有り、このような考えや政策がなかなか世間に浸透しない。その間に正反対の政策である増税が実施されようとしているのである。

    しかしものは考えようである。増税によって経済が落込んだり、増税が財政再建にほとんど寄与しないということがはっきりすれば、世間の認識が変わるのではないかと期待されるのである。それなら増税をさっさとやってもらうのも一つの手でないかと筆者などは考える。同じような事を00/11/13(第185号)「急がば回れ」でも取上げたことがある。増税には犠牲が伴うが、まともな政策への転換のためのコストと考えざるを得ない。


    消費税増税は、消費者の購買力の政府への移転であり間違いなく景気を冷やす。ただ消費税の転嫁分だけ物価が上昇するので、名目の消費金額はほとんど変わらないことになろう。政府は、増税分を社会保障に使うと言っているが、増税を推進している主なメンバーが財政再建論者であることからして言っていることが信用できない。

    今日のように政府が毎年少しずつ財政赤字を増やしているから、なんとか日本経済が持っている面がある。この財政赤字を縮小させようというのが今回の増税の狙いである。いわゆる「増税の食い逃げ」である。それにしても長期金利が下がり続けているのに(とうとう0.7%台まで低下)、日本の財政が危機的と言っている人々の気が知れない。


    消費税が5%上がると、物価は3〜3.5%程度上昇するものと推定される。それならば物価が3〜3.5%上昇するまで、実質的に政府の財政負担にならない政府紙幣の発行や永久債の日銀買入といったセーニアリッジ政策を行えば良いと筆者達は主張している。それを財源に社会保障や公共投資などを実施するのである(今日のように世界的な金余りの元では、どれだけ中央銀行が金融緩和を行っても効果は薄い。必要な政策は、財政支出によって所得を発生させるようなマネーサプライの供給を増加させることである)。

    物価は両者とも3〜3.5%上昇するが、増税の場合は経済活動を抑圧する。これに対して筆者達の政策なら、確実に経済活動が活発化する。消費者(国民と言って良い)は同じ3〜3.5%の物価上昇という負担を負うことになるが、前者が日本経済の低迷を招くのに対して後者は日本経済を活性化させる。

    ただ「年金生活者は物価上昇の負担だけを被る」という話が出そうである。それならば財政による年金の増額を行えば良い。同様に無収入の失業者の生活も苦しくなるが、経済が持直せば就職機会は爆発的に増えるはずである。


    筆者達の主張するような政策は世間的に認知度が低く、実際に行われるにはハードルが極めて高い。よほどの事がない限り関心さえ集めない。しかしその「よほどの事」が起るかもしれない。ひょっとすると今回の5%の消費税増税が、その機会を提供してくれるかもしれないのである。

    おそらく5%の消費税増税で今後の増税路線はコケると思われる(政治的にも経済的にも)。財政支出の一段の削減も無理とすれば、残るのは筆者達が主張するような政策である。そう考えてくると消費税増税が待ち遠しく感じる(もちろん冗談であるが)。



来週も今週の続きである。



12/7/9(第715号)「消費税は「鬼門」」
12/7/2(第714号)「増税騒動の感想」
12/6/25(第713号)「今日の諸情勢の変化」
12/6/18(第712号)「世界中「展望がない」」
12/6/11(第711号)「schole(スコレー、暇)の話」
12/6/4(第710号)「ギリシャ化の話」
12/5/21(第709号)「単式簿記の世界」
12/5/14(第708号)「文春と朝日の関係」
12/4/30(第707号)「続・増税論議と文芸春秋」
12/4/23(第706号)「増税論議と文芸春秋」
12/4/16(第705号)「増税論議と政界」
12/4/9(第704号)「増税派の人々」
12/4/2(第703号)「松下政経塾政治家と増税」
12/3/26(第702号)「英国の永久債発行」
12/3/19(第701号)「過去の号の修正」
12/3/12(第700号)「本誌700号に寄せて」
12/3/5(第699号)「投資顧問AIJの事件」
12/2/27(第698号)「橋下維新政党へのコメント」
12/2/20(第697号)「地方自治体と通貨」
12/2/13(第696号)「デフレ経済下での増税」
12/1/30(第695号)「無税国家への道」
12/1/23(第694号)「世界的な金利低下」
12/1/16(第693号)「過剰貯蓄による災い」
12/1/9(第692号)「バーチャルな話」
11/12/19(第691号)「シミュレーションモデルの話」
11/12/12(第690号)「財政破綻のすすめ」
11/12/5(第689号)「「騒ぎ屋」の時代」
11/11/28(第688号)「技術進歩の恩恵」
11/11/21(第687号)「避けられる根本問題」
11/11/14(第686号)「物事の本質」
11/11/7(第685号)「組織の異端児的存在」
11/10/31(第684号)「組織の研究」
11/10/24(第683号)「気乗りしないTPPの話」
11/10/17(第682号)「解決策はユーロ離脱か」
11/10/10(第681号)「ポール・クルーグマン教授の変心」
11/10/3(第680号)「現実論者VS観念論者」
11/9/26(第679号)「世界的な「日本化」」
11/9/12(第678号)「欧州発のリーマンショック」
11/9/5(第677号)「野田政権の成立」
11/8/29(第676号)「円相場の今後の動き」
11/8/22(第675号)「欧米経済の変調」
11/8/15(第674号)「脱・反原発派の人々」
11/8/8(第673号)「食品安全委員会の問題」
11/8/1(第672号)「タウンミーティングの報告」
11/7/25(第671号)「意味の解らない暫定基準値」
11/7/18(第670号)「政府が明らかにすべきこと」
11/7/11(第669号)「放射線防護の専門家」
11/7/4(第668号)「ダイオキシンとプルトニウム」
11/6/27(第667号)「付加価値を生まない発電」
11/6/20(第666号)「付加価値と発電」
11/6/13(第665号)「ポスト原発はやはり原発」
11/6/6(第664号)「菅政権に対する不信任案騒動」
11/5/30(第663号)「ニューニューサンシャイン計画」
11/5/23(第662号)「原発と電力会社の経営」
11/5/16(第661号)「原発推進派と反・脱原発派」
11/5/2(第660号)「菅政権の迷走」
11/4/25(第659号)「放射線は身体に良い?」
11/4/18(第658号)「山を越えたか?」
11/4/11(第657号)「原子力の専門家」
11/4/4(第656号)「本当に重大な事は何か」
11/3/28(第655号)「電力不足で表沙汰になった事実」
11/3/21(第654号)「東日本巨大地震」
11/3/7(第653号)「日本が貿易立国という誤解」
11/2/28(第652号)「日本は本当に貿易立国?」
11/2/21(第651号)「関税以外の貿易障壁」
11/2/14(第650号)「TPPに関する推理」
11/2/7(第649号)「菅首相の消費税増税」
11/1/31(第648号)「モラルハザードの話」
11/1/24(第647号)「問題は分配ではない」
11/1/17(第646号)「永久債の日銀引受け」
11/1/10(第645号)「日本の経済成長シナリオ」
10/12/20(第644号)「難しい日本の経済成長」
10/12/13(第643号)「日本における新経済成長論」
10/12/6(第642号)「経済成長理論に対する批判」
10/11/29(第641号)「「ケインズはもう古い」?」
10/11/22(第640号)「不況下の反ケインズ政策」
10/11/15(第639号)「政治家に向かない職業」
10/11/8(第638号)「米政府に対するロビー活動」
10/11/1(第637号)「この日をつかめ(Seize the Day)」
10/10/25(第636号)「人民元安容認の経緯」
10/10/18(第635号)「本誌の中国経済の見方」
10/10/11(第634号)「「腹を括る」べき時」
10/10/4(第633号)「中国漁船の公務執行妨害」
10/9/20(第632号)「菅政権の行方」
10/9/13(第631号)「中央銀行の制度設計」
10/9/6(第630号)「日銀悪玉説」
10/8/30(第629号)「外為特会の31兆円の評価損」
10/8/23(第628号)「野田財務大臣を罷免せよ!」
10/8/9(第627号)「世界に広がるデフレ」
10/8/2(第626号)「米国もデフレ?」
10/7/26(第625号)「国債利払いの名目GDP比率」
10/7/19(第624号)「中国の日本国債購入」
10/7/12(第623号)「10年参議院選挙の結果」
10/7/5(第622号)「サミットの変質」
10/6/28(第621号)「各党のデフレ対策」
10/6/21(第620号)「菅首相の想定」
10/6/14(第619号)「EU市場混乱の本質」
10/6/7(第618号)「EU経済の混乱とIMF」
10/5/31(第617号)「議論の前提条件」
10/5/24(第616号)「現実離れの構造改革派」
10/5/17(第615号)「これも一歩前進か」
10/5/10(第614号)「一歩前進か」
10/4/26(第613号)「ガラパゴス症候群」
10/4/19(第612号)「マクロによる検証」
10/4/12(第611号)「ミクロで捉えた日本経済」
10/4/5(第610号)「何事もタイミング」
10/3/29(第609号)「政策提言の想定問答」
10/3/22(第608号)「政策提言(後半)」
10/3/15(第607号)「政策提言(前半)」
10/3/8(第606号)「税収と名目GDPの関係」
10/3/1(第605号)「政治ができる事」
10/2/22(第604号)「積極財政への雑音」
10/2/15(第603号)「経済と金融の間の緊張関係」
10/2/8(第602号)「第二回目キャンペーン」
10/2/1(第601号)「第一回目キャンペーン」
10/1/25(第600号)「日本の財政構造」
10/1/18(第599号)「財政非常事態宣言」
10/1/11(第598号)「10年今年の景気」
09年のバックナンバー

08年のバックナンバー

07年のバックナンバー

06年のバックナンバー

05年のバックナンバー

04年のバックナンバー

03年のバックナンバー

02年のバックナンバー

01年のバックナンバー

00年のバックナンバー

99年のバックナンバー

98年のバックナンバー

97年のバックナンバー