経済コラムマガジン 平成9年2月10日より
経済コラムマガジン




12/7/9(715号)
消費税は「鬼門」

  • 増税はけっこう「ワイルド」
    今回の増税騒動・増税論議で筆者が怪訝に思い不満なのは、消費税増税の財政や経済への影響がほとんど話題に出ないことである。たまに出ても「日本がギリシャのようにならないための増税」といった間抜けたものである。議論をリードしているマスコミは、もっぱら小沢一郎氏の動向と民主党の分裂騒ぎだけを取上げている。いくら日本のマスコミ人が、経済に疎いと言ってもこれは酷すぎる。

    マスコミに登場する日本の経済学者やエコノミストはほとんどが増税推進派である。自分はケインジアンと言っている経済学者までが増税推進の論調をリードしているのだからしょうがない。彼等は財務官僚にごまをすっているのであろう。


    今回の消費税増税騒動を見ていて、筆者は日本が長いデフレ状況から脱却できない理由を再確認した思いである。政治家もマスコミも「日本経済の長く続く不調」や「デフレ経済の弊害」といったものにほとんど関心がない。ただ選挙に備え、今回の増税に併せ野党である自・公は唐突に「100兆円だの200兆円の公共投資」を唱っている。

    ところが有権者は、自・公の公共投資計画について何も知らないので、民主党と談合して増税を進めているといった印象しか持っていない。特に自民党は、今回の増税騒動がなかったなら次の総選挙でかなり議席を回復し第一党に返り咲くことは確実であった。しかし消費税増税を民主党と一緒に推進したことが「あだ」となって、情勢は怪しくなった。


    実際、自民党と公明党は早く総選挙をやりたかっただけであり、本気で増税を推進したとは思えないふしがある。野田首相が増税に本気と知って、むしろ自民党と公明党は焦ったと筆者は感じる。増税に賛成するにあたり、両党は民主党政権に次々と難しいハードルを課した。

    ところが野田政権は自・公が示す条件をどんどん丸飲みした。最後に「小沢を切れ」といった常識では考えられないような条件まで持ち出した。ところがこれも小沢氏達が離党し新党を立ち上げることで実現した。自・公にとってまさに「万事休す」である。自・公は野田首相に抱きつかれ「無理心中」に引込まれそうである。唐突な公共投資計画は、支持者に対するせめてもの言い訳のつもりであろう。


    日本の政治の世界では消費税は「鬼門」になっている。消費税が原因で、竹下政権が崩壊し橋本首相が退陣した。その度に選挙で自民党は大幅に議席を減らしてきた。欧州各国などは政府が簡単に付加価値税の税率を変えることができるのに対して、日本は消費税の税率変更が国会の承認事項になっている。したがって消費税増税の話が出る度に政界を巻込んだ大騒ぎになる。

    今回の消費税の税率のアップ幅は、3%に次いで一年半後に2%と合計で5%である。ちょうど竹下政権が3%の消費税を導入し、橋本政権が2%の増税を行い、それぞれの政権が潰れた。つまり二つの政権を潰した増税幅を一気にやろうというのだから、今回の増税はけっこう「ワイルド」なのである。ところがこれほど「ワイルド」な増税に対して今のところ人々は比較的冷静かのように見える。これはマスコミが意識的に報道を小沢一郎氏の動向に集中させ、人々の関心が増税の中味に向かないように仕向けていることが一つの原因とさえ筆者は思っている。


    自民党の中には「面倒な消費税増税は民主党にやらせ、増税で民主党が潰れた後に政権に就けば楽である」という意見がある。しかしそんな旨い話はないと思っている。筆者は、人々は呆気にとられているだけであり今回の増税に対する反発はジワジワと広がるものと見ている。


  • 何故、増税を二度に分けたのか?
    日本で消費税が「鬼門」になっている原因についてもっと深く考えて見る。消費税増税がマクロ経済に悪影響を与えることは、当然、人々も気付いている。ましてやこれだけ長くデフレ経済が続いているのに増税なんて常軌を逸していると思っている。ただ日本の財政が危機とずっと聞かされ続けているので、増税を「しょうがない」と自分を納得させているだけである。

    しかしマクロ経済への影響を別にして、増税が実施される時期が近付くにつれ消費税自体に対する反発が強まるものと筆者は見ている。日本における消費税の納税額の把握がとても煩雑である。消費税の体系そのものは簡単であり、申告書もシンプルである。売上に消費税を上乗せしこれが「預かり消費税」であり、仕入に含まれる消費税分が「仮払い消費税」である。「預かり消費税」から「仮払い消費税」を差引いた金額が納税額になる。

    しかし企業によっては現場での「仮払い消費税」の把握方法が異なるようである。筆者は、日常の経理は単純に全て税込み価格で行い、納税額計算は帳簿(決算書)で行えば良いとさえ思っている。ただし費目によっては課税・非課税・免税などに別れる場合がある。その時にはそれ毎に費目(あるいは細目)を設定しておけば良いのである。

    つまり消費税額なんて、納税担当者が計算しこの担当者だけが知っておれば良いと思っている。ところが企業によっては、取引一件毎に消費税を把握しそれを積上げ集計し納税額の計算に使っているらしい。エンピツ一本買っても、本体価格と消費税額を別々に分けている。しかもそのような煩雑な事務作業を行っている企業が多いようである。国民経済から見たら信じられない膨大で無駄な労力が、たかが消費税計算に費やされている。

    考えて見れば、例えばガソリンには大きな揮発油税が課されているが、会社でガソリンを購入した時、本体価格と揮発油税に分けているところはない。消費税だけがこのような面倒なことをやっている。筆者は、これは消費税のスタート時、消費税の転嫁が難しいと思われ、観念論者達が「外税」が基本と言っていたことが影響しているのではないかと思っている。税務当局としては、それらしい消費税額が申告されれば良いはずなのにである。


    法人税や所得税の増減税の場合の計算の手間は一部の税務担当者の負担にとどまる。ところが消費税の税率変更の場合は、影響がほとんど全ての人々に及ぶ。税率がアップすれば、経理担当者はもちろん、予算管理担当や仕入担当の者達が「税込みだ、いや税抜きだ」と大騒ぎになる。

    この混乱を引き起す税率の引上げが1年半の間に二度も行われることになっている。しかも政治情勢によっては実際に増税が実施されるかどうか分らない。また最初の3%だけで終わるかもしれない。しかし増税に備えた準備は進めざるを得ない。何の利益にもならない消費税の増税のために、混乱と膨大な事務作業を覚悟しなければならないのである。事務の担当者は、今、とても憂つな気分であろう。


    筆者は今回の税率引上げを二度に分けた理由が分らない。おそらく二度にすることによって、国民を騙すことができ抵抗感が薄れるとでも思ったのであろう。まさに浅知恵である。今回の増税を推進している人々は、日本国民を「猿」程度の知能と見くびっているのである。国民も「自分達はばかにされている」と薄々感じている。

    前述したような税率引上げによる現場の混乱を考えれば、企業の事務担当者は、せめて増税は一度にしてもらいたいと思っているであろう。一気に10%の方が好ましいのである。このように日本の消費税には、経済的な負担を別にして常にわずわらしさが付きまとっている。これも日本人が律儀であることが災いしているのであろう。今の政治家や政府関係者はこのような事をまるで解っていない。筆者は、今日のところ国民はまだ呆気にとられ思考停止状態であるが、何かをきっかけに「反消費税」あるいは「反増税」に大きく動くものと見ている。



来週も消費税にまつわる話を取上げる。



12/7/2(第714号)「増税騒動の感想」
12/6/25(第713号)「今日の諸情勢の変化」
12/6/18(第712号)「世界中「展望がない」」
12/6/11(第711号)「schole(スコレー、暇)の話」
12/6/4(第710号)「ギリシャ化の話」
12/5/21(第709号)「単式簿記の世界」
12/5/14(第708号)「文春と朝日の関係」
12/4/30(第707号)「続・増税論議と文芸春秋」
12/4/23(第706号)「増税論議と文芸春秋」
12/4/16(第705号)「増税論議と政界」
12/4/9(第704号)「増税派の人々」
12/4/2(第703号)「松下政経塾政治家と増税」
12/3/26(第702号)「英国の永久債発行」
12/3/19(第701号)「過去の号の修正」
12/3/12(第700号)「本誌700号に寄せて」
12/3/5(第699号)「投資顧問AIJの事件」
12/2/27(第698号)「橋下維新政党へのコメント」
12/2/20(第697号)「地方自治体と通貨」
12/2/13(第696号)「デフレ経済下での増税」
12/1/30(第695号)「無税国家への道」
12/1/23(第694号)「世界的な金利低下」
12/1/16(第693号)「過剰貯蓄による災い」
12/1/9(第692号)「バーチャルな話」
11/12/19(第691号)「シミュレーションモデルの話」
11/12/12(第690号)「財政破綻のすすめ」
11/12/5(第689号)「「騒ぎ屋」の時代」
11/11/28(第688号)「技術進歩の恩恵」
11/11/21(第687号)「避けられる根本問題」
11/11/14(第686号)「物事の本質」
11/11/7(第685号)「組織の異端児的存在」
11/10/31(第684号)「組織の研究」
11/10/24(第683号)「気乗りしないTPPの話」
11/10/17(第682号)「解決策はユーロ離脱か」
11/10/10(第681号)「ポール・クルーグマン教授の変心」
11/10/3(第680号)「現実論者VS観念論者」
11/9/26(第679号)「世界的な「日本化」」
11/9/12(第678号)「欧州発のリーマンショック」
11/9/5(第677号)「野田政権の成立」
11/8/29(第676号)「円相場の今後の動き」
11/8/22(第675号)「欧米経済の変調」
11/8/15(第674号)「脱・反原発派の人々」
11/8/8(第673号)「食品安全委員会の問題」
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11/6/27(第667号)「付加価値を生まない発電」
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