経済コラムマガジン 平成9年2月10日より
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12/7/2(714号)
増税騒動の感想

  • 現場からの突き上げ
    消費税増税法案が26日の衆議院を通過した。一般の国民が、少なくとも表面上は大した関心を示さない中での通過であった。大体、消費税増税に不満を持っていても、それを代弁する政党がなく政治家もいない。大手マスコミは、作為的に増税そのもののより政局、特に民主党の分裂騒ぎを取上げることに一生懸命であった。どう見ても彼等は、人々の関心が増税そのものに向かないような報道姿勢であった。つまり彼等は実質的に増税を強く推進してきた。

    大半の人々は「この経済低迷の日本においての増税なんて信じられない」と漠然と思っていたであろう。ところが「あれよ、あれよ」という間の衆議院通過である。日本人の従順な国民性を良いことに、政治家は勝手な思い込みで増税を進めてきた。


    しかし時間が経ち事の真相が明らかになるにつれ、今は呆然となっている人々も「何てことをしてくれたのだ」と段々と怒りを覚えるようになると筆者は確信している。たった3%や5%の増税と話を矮小化しようとする人々がいるが、ギリギリの状態で生活している者や、消費税の転嫁が難しく事業を閉じる業者といった追い詰められた国民もいる。それなら社会保障を受ければ良いではないかという声が出てきそうであるが、「それを潔」としないのが大半の日本人と筆者は思っている。

    今は隠れている「怒り」みたいなものが、次の選挙(衆議院と参議院)では爆発するのではないかと筆者は見ている。ただ直近では政治的な受け皿がないだけである。とりあえず世論調査では「支持政党無し」層が増えると思われる。次の選挙では、今回の増税を主導した民主党はもちろん、自民党と公明党も意外な苦戦を強いられると見ている。今はヒーロ気分の野田首相が落選するといった事態も有りうるのではないかと筆者は思っている。


    マスコミに登場する多くの経済学者やエコノミストは熱心な増税推進派である。彼等は「日本の税収は歳出を下回る異常な状態」と常識ぶって語る。しかしそのような状態でも日本の経済が低迷を抜け出せないことや、金利が異常に低く推移していることに彼等は一切触れない。


    日本の付加価値税である消費税の税率が欧州に比べ低いという指摘がある。しかし日本と米国は、所得税や法人税などの直接税を重点にした国である。一方、欧州は昔から付加価値税などの間接税を中心にしている。

    これは日本や米国は帳簿類が信頼できるのに対して、欧州はこれがいい加減なことが影響している。また欧州はどの国もアンダーグラウンドの経済の比率が大きく、直接税による公平な徴税が困難である。さらに国をまたぐ人の移動が簡単であり頻繁である。これも課税対象所得の把握を難しくしている。どうしても外形的(売上高のような外から見てもある程度判断がつく)に数字が掴める付加価値税に頼らざるを得ないのである。つまり決して付加価値税が進んだ税制というわけではない。


    ただ直接税中心の日本にも変化がある。法人や個人の所得の把握が段々難しくなっている。一つは海外との取引が増えてきたことが影響している。例えば海外子会社への部品輸出なんて、一定の範囲でどのようにも輸出価格を決められる。またタックスヘブンを利用する企業もある。大商社の中には日本で法人税を全く納税していないところもあるという噂を昔から聞く(政府は真相を公表すれば良いのに)。実際、大銀行は不良債権処理でここ15年くらいは法人税を納めていない。これらにせめて消費税くらいは納税させようという声には、たしかに筆者も一部納得せざるを得ないところがある。

    つまり末端の税務職員の苦労が大きくなっている。財務省が消費税増税にこだわるのも、このような「人の懐に手を突っ込んで徴税すること」が難しくなっている現場からの突き上げが影響していると筆者は思っている(だが後ほど触れるがこれは昔の話と筆者は見ている)。しかしこれらのような話は、今回の増税騒動でマスコミは一切取上げない。


    増税が実施されても、日本の財政状態は変わらないと考えられる。そうなればまた「増税」ということになる。はっきり言うが「増税」しても「歳出をカット」しても、日本の財政は好転しない。このことは常識のある人々は薄々気付いていることである。

    さらに上記で述べたように消費税増税が財源確保に都合が良いというのも昔の話と筆者は感じている。消費税は消費者が負担する税ということになっているが、それは業者が100%転嫁できた場合だけである。現実は、100%の転嫁はとても無理で、消費者と納税業者の両者が負担している。今日のように経済が不調では増税によって消費税の滞納が激増しそうである。

    利益のない納税義務者にも納税を迫るのが消費税であり、消費税が意外に過酷な税ということを末端の税務職員も徐々に気付いてきていると思われる。特に日本の業者は生真面目で、売上高を誤魔化しているケースは少ないと思われる(欧州は税率は高いが帳簿が当てにならない)。ただそう言うと必ず「それなら転嫁しやすいよう消費税を外税にしろ」という観念論者が現れる。しかしそのようなものは何の役にもたたない。もう財源を求めるには政府貨幣の発行や永久債の日銀買入、あるいはそれらに類した政策しかないのである。


  • 反対票がプラチナチケット
    正直に言って、これまで小沢一郎という政治家に筆者は好感を持っていなかった。中国に対する媚びた政治姿勢や小渕政権末期の訳の分らない連立離脱劇などに筆者も強い反感を持っている。しかしこの政治家の今回の造反劇と今後の活動には注目と関心を持たざるを得ない。

    ところで今回の造反劇で、筆者は「意外と造反者の数が少ない」と思った。頭がボケているマスコミや政治評論家は反対に「思ったより多かった」と言っている。一週間も経てば、今回やむなく賛成票を投じた民主党の議員の中にも「反対票を投じておけば良かった」と強く反省する者がかなり出てくると筆者は見ている。


    また大手マスコミは小沢新党への期待が「15〜16%」と極めて低く、今回の造反と新党構想は大失敗と断じている。しかし自民党や民主党の支持率もその程度である。むしろ民主党の支持率は現状よりずっと下がると筆者は見ている。

    彼等はまた連合の反発があり小沢新党はポスター貼りをやってくれる者もいないと指摘している。たしかに財界だけでなく連合までが今回の増税に賛成している。しかし「よくぞ増税をしてくれた」と感謝して民主党のポスターを貼ってくれる末端の連合組合員や、喜んで自民党のポスターを貼ってくれる商工業者もほぼ皆無であろう。労組や財界の幹部は本当に頭がおかしい。連合なんて膨大な積立ててきた組合費を組合員に返して解散した方が良い。

    民主党が次の選挙(衆議院と参議院)で大惨敗することははっきりしている。「その民主党の執行部に忠誠心を示して何になる」というのが筆者の感想である。「ポストを用意している」「選挙資金を十分支給する」「連用制導入で公明党の選挙協力が得られる」と執行部に言われ賛成票を投じているようだが、そんな程度では次の選挙で逆風をはね返すことはできない。勘の鈍い政治家もその事がだんだん分ってくるはずである。


    今回の増税劇ほど一般の国民の気持とマスコミの認識が乖離していることはめずらしい。消費税増税は消費に制裁を加え内需を縮小させることを意味する。また増税は間違いなく円高要因になる。消費減少と円高でメーカも生産拠点の海外移転を加速せざるを得ない。既にその徴候ははっきりと現れている。

    さらに金持の集まりとは思えない公明党までが賛成している。まさに異常な状態である。次の注目点は参議院の採決でどれだけ反対票が増えるかである。次の選挙では増税法案採決での反対票がプラチナチケットになる可能性があると筆者は思っている。


    情勢と状況が刻々と変わるため、本誌などでこのような時事的な事柄を取上げることは難しい。例えば一番注目しているのは小沢新党の行方であるが、今週号の発行までに様子が変わっているかもしれない(2日あたりに結論という話が出ている)。しかしそれを承知で話を進める他はない。とにかく前段で述べたように世間では消費税増税に賛成しかねる人々は多いはずである。しかし共産党や社民党を除けばそれを代弁する政治勢力がない。どうしても小沢新党に注目せざるを得ない。

    もっとも小沢氏の新党設立に人々があきていることは事実である。小沢氏がこれまでに作った政党の名を正確に言える人も少ないであろう。しかし今回はちょっと違うと筆者は思っている。

    元々小沢一郎という政治家は大衆人気がなく、また政策に通じているとは思えない。そのような政治家がここまで力を持ち得たのは、やはり世間の「風」を読むことに長けていたからである。今回は、民主・自民・公明の談合政治に世間の拒否反応が強いと読んだと筆者は思っている。おそらくそれは正解であろう。



来週も今週の続き。



12/6/25(第713号)「今日の諸情勢の変化」
12/6/18(第712号)「世界中「展望がない」」
12/6/11(第711号)「schole(スコレー、暇)の話」
12/6/4(第710号)「ギリシャ化の話」
12/5/21(第709号)「単式簿記の世界」
12/5/14(第708号)「文春と朝日の関係」
12/4/30(第707号)「続・増税論議と文芸春秋」
12/4/23(第706号)「増税論議と文芸春秋」
12/4/16(第705号)「増税論議と政界」
12/4/9(第704号)「増税派の人々」
12/4/2(第703号)「松下政経塾政治家と増税」
12/3/26(第702号)「英国の永久債発行」
12/3/19(第701号)「過去の号の修正」
12/3/12(第700号)「本誌700号に寄せて」
12/3/5(第699号)「投資顧問AIJの事件」
12/2/27(第698号)「橋下維新政党へのコメント」
12/2/20(第697号)「地方自治体と通貨」
12/2/13(第696号)「デフレ経済下での増税」
12/1/30(第695号)「無税国家への道」
12/1/23(第694号)「世界的な金利低下」
12/1/16(第693号)「過剰貯蓄による災い」
12/1/9(第692号)「バーチャルな話」
11/12/19(第691号)「シミュレーションモデルの話」
11/12/12(第690号)「財政破綻のすすめ」
11/12/5(第689号)「「騒ぎ屋」の時代」
11/11/28(第688号)「技術進歩の恩恵」
11/11/21(第687号)「避けられる根本問題」
11/11/14(第686号)「物事の本質」
11/11/7(第685号)「組織の異端児的存在」
11/10/31(第684号)「組織の研究」
11/10/24(第683号)「気乗りしないTPPの話」
11/10/17(第682号)「解決策はユーロ離脱か」
11/10/10(第681号)「ポール・クルーグマン教授の変心」
11/10/3(第680号)「現実論者VS観念論者」
11/9/26(第679号)「世界的な「日本化」」
11/9/12(第678号)「欧州発のリーマンショック」
11/9/5(第677号)「野田政権の成立」
11/8/29(第676号)「円相場の今後の動き」
11/8/22(第675号)「欧米経済の変調」
11/8/15(第674号)「脱・反原発派の人々」
11/8/8(第673号)「食品安全委員会の問題」
11/8/1(第672号)「タウンミーティングの報告」
11/7/25(第671号)「意味の解らない暫定基準値」
11/7/18(第670号)「政府が明らかにすべきこと」
11/7/11(第669号)「放射線防護の専門家」
11/7/4(第668号)「ダイオキシンとプルトニウム」
11/6/27(第667号)「付加価値を生まない発電」
11/6/20(第666号)「付加価値と発電」
11/6/13(第665号)「ポスト原発はやはり原発」
11/6/6(第664号)「菅政権に対する不信任案騒動」
11/5/30(第663号)「ニューニューサンシャイン計画」
11/5/23(第662号)「原発と電力会社の経営」
11/5/16(第661号)「原発推進派と反・脱原発派」
11/5/2(第660号)「菅政権の迷走」
11/4/25(第659号)「放射線は身体に良い?」
11/4/18(第658号)「山を越えたか?」
11/4/11(第657号)「原子力の専門家」
11/4/4(第656号)「本当に重大な事は何か」
11/3/28(第655号)「電力不足で表沙汰になった事実」
11/3/21(第654号)「東日本巨大地震」
11/3/7(第653号)「日本が貿易立国という誤解」
11/2/28(第652号)「日本は本当に貿易立国?」
11/2/21(第651号)「関税以外の貿易障壁」
11/2/14(第650号)「TPPに関する推理」
11/2/7(第649号)「菅首相の消費税増税」
11/1/31(第648号)「モラルハザードの話」
11/1/24(第647号)「問題は分配ではない」
11/1/17(第646号)「永久債の日銀引受け」
11/1/10(第645号)「日本の経済成長シナリオ」
10/12/20(第644号)「難しい日本の経済成長」
10/12/13(第643号)「日本における新経済成長論」
10/12/6(第642号)「経済成長理論に対する批判」
10/11/29(第641号)「「ケインズはもう古い」?」
10/11/22(第640号)「不況下の反ケインズ政策」
10/11/15(第639号)「政治家に向かない職業」
10/11/8(第638号)「米政府に対するロビー活動」
10/11/1(第637号)「この日をつかめ(Seize the Day)」
10/10/25(第636号)「人民元安容認の経緯」
10/10/18(第635号)「本誌の中国経済の見方」
10/10/11(第634号)「「腹を括る」べき時」
10/10/4(第633号)「中国漁船の公務執行妨害」
10/9/20(第632号)「菅政権の行方」
10/9/13(第631号)「中央銀行の制度設計」
10/9/6(第630号)「日銀悪玉説」
10/8/30(第629号)「外為特会の31兆円の評価損」
10/8/23(第628号)「野田財務大臣を罷免せよ!」
10/8/9(第627号)「世界に広がるデフレ」
10/8/2(第626号)「米国もデフレ?」
10/7/26(第625号)「国債利払いの名目GDP比率」
10/7/19(第624号)「中国の日本国債購入」
10/7/12(第623号)「10年参議院選挙の結果」
10/7/5(第622号)「サミットの変質」
10/6/28(第621号)「各党のデフレ対策」
10/6/21(第620号)「菅首相の想定」
10/6/14(第619号)「EU市場混乱の本質」
10/6/7(第618号)「EU経済の混乱とIMF」
10/5/31(第617号)「議論の前提条件」
10/5/24(第616号)「現実離れの構造改革派」
10/5/17(第615号)「これも一歩前進か」
10/5/10(第614号)「一歩前進か」
10/4/26(第613号)「ガラパゴス症候群」
10/4/19(第612号)「マクロによる検証」
10/4/12(第611号)「ミクロで捉えた日本経済」
10/4/5(第610号)「何事もタイミング」
10/3/29(第609号)「政策提言の想定問答」
10/3/22(第608号)「政策提言(後半)」
10/3/15(第607号)「政策提言(前半)」
10/3/8(第606号)「税収と名目GDPの関係」
10/3/1(第605号)「政治ができる事」
10/2/22(第604号)「積極財政への雑音」
10/2/15(第603号)「経済と金融の間の緊張関係」
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10/2/1(第601号)「第一回目キャンペーン」
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10/1/11(第598号)「10年今年の景気」
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