経済コラムマガジン 平成9年2月10日より
経済コラムマガジン




12/6/18(712号)
世界中「展望がない」

  • 座して死ぬより蜂起
    17日のギリシャの再選挙を始めとし、来週はG20やFOMCなどのイベントが続く。これらが経済に決定的な影響力を持つということはないが、市場ではその結果をまず見てからと今のところ取引が手控えられている。程度の差はあれ、経済が好調な国はない。震災の復興需要でインフレギャップが小さくなり世界の中では日本の経済は比較的良いといった間抜けな議論はあるが、日本が長期低迷から脱却する展望は全くない。

    この「展望がない」という言葉が、特に欧州の人々の気持を象徴している。ギリシャを始め、スペインやイタリアなどの南欧諸国は国債の利回り上昇によって、事実上、国債発行による資金調達の道が閉ざされている。ただ欧州諸国のどの国民も、南欧だけでなく自分の国の財政状況が悪いことを承知している。

    ところが緊縮財政路線を採る政権与党がことごとく選挙で負けている。この背景にも「展望がない」という人々の思いがある。国民は緊縮財政路線で事態が好転すると思っていない。緊縮策を採る政権に全く「展望がない」ことを人々は見透かしているのである。


    文芸春秋7月号の「ギリシャ、フランス「欧州危機」現地報告」がこの欧州の人々の様子をレポートしている。これはジャーナリストの広岡裕児氏が書いたもので、副題は「座して死ぬより蜂起を選んだ」となっている。タイトルは少々大袈裟であるが、欧州の人々の今の気持や考えを端的に伝えている。

    フランス人の多くは「税金を払っていないギリシャ人のためにフランス政府が自分達に緊縮財政を強いるのはおかしい」と考えている。このためサルコジ大統領は選挙で負けた。もっともサルコジ前大統領自身の成り金趣味や、お手盛りで自分の報酬を上げていたことも国民の不評をかっていた。

    一方、ギリシャ人は「自分達は真面目にコツコツと働いてきたのに、こんなに給料や年金がカットされるのはおかしい」と大きな不満を持っている。一般のギリシャ人は「悪いのは公務員をやたら増やしてきたこれまでの政権党」と考えている。先週触れたように、ギリシャでは政権交代が頻繁に起り政権に就いた政党が支持者やその関係者をどんどん公務員に採用してきた。実際、公務員を除くギリシャ人の働き振りは他の欧州諸国と遜色はない。


    リーマンショックで世界中の経済が急降下したため、各国は財政・金融政策を総動員してこれに対処した。欧州でも経済政策が採られていた。ところがギリシャが粉飾を行ってユーロ加盟を果たしていたことがバレ、ギリシャ国債の暴落が起った。またこのギリシャ国債暴落をきっかけに南欧諸国などの国債も売られた。これに慌てた欧州各国は一転して緊縮財政に転換した。10/7/5(第622号)「サミットの変質」で取上げたように、これがそもそもの間違いの始まりであった。

    ギリシャの経済は決して大きくないが、ユーロ加盟国政府やECB(欧州中央銀行)などの対応がもたついたため(ギリシャなどの支援に議会の承認が必要なケースもありやたら時間がかかる)、信用不安が他国に波及する事態となり問題はどんどん大きくなった。また問題はギリシャ一国の粉飾財政だけでない。リーマンショック前まで欧州諸国でバブル経済が起っており、この崩壊の影響が深刻であった。これはリーマンショック直後の財政・金融政策だけで解決するものではなかった。


    欧州の大きな経済問題はバブル崩壊によるものであり、マクロの対処が必要である。ところが一般の国民はこれを「分配」の問題として捉えている。「働きが悪いギリシャ人」「目先の利益を求め南欧諸国に資金を貸し込んできた銀行が悪い」などとヤリ玉に上がっている。安易な支援策を行えば、これまで見てきた通り国民の反発をかって次々と政権が倒れるのである。

    だんだん「住専国会」の頃の日本と似てきた。もっとも南欧諸国への支援を考えている政府の首脳達も問題の根源を理解しているわけではない。単に自国の銀行が不良債権を大量に抱える込むことを警戒しているだけである。このように一般の国民だけでなく政治家にも全く「展望がない」のである。


  • ユーロの導入と経済のグローバル化
    長期低迷を続けてきた欧州でバブル経済が起った。EUの拡大に伴って世界中から欧州に必要以上の資金が流入してきたことが原因である。たしかに資金の一部はEU加盟を果たした東欧諸国の建設に使われたが、かなりの部分が不動産投機などに流れた。またバブル生成の過程で銀行の信用創造機能が働き余剰資金がさらに増大し、これがまたバブルを加速させた。前段で紹介した広岡裕児氏のレポートによると、ギリシャでは銀行が勝手に個人の口座を作り「この金を使ってくれ」という話まであったという。

    欧州ではこのバブルの崩壊が今後も続くと見られる。例えば適正値から見るとスペインの住宅価格はまだ1〜2割は下がると観測されている。さらに日本のバブル崩壊の教訓では、対応を間違えると適正値をずっと越えるような不動産価格の下落に見舞われることが有りうる。いわゆるオーバシュートである。


    ちなみに都会議員で銀座のビルのオーナだった人の話では、自分のビルの評価がピーク時の10分の1まで下がったという(バブル期にとても10倍までは上がっていない)。これも橋本政権の失策があり、また小泉・竹中コンビが不良債権処理を急がせたからである。

    オーバシュートによる下げ過ぎ物件を買ったのが外資である。08/5/19(第527号)「ばかげた経済政策の連続」で取上げたように、ティファニーは銀座のビルを底値で買い高くなってから売却し大儲けをした(165億円の投資で215億円の利益)。EUの首脳陣や各国政府の対応を見ていると欧州でも不動産価格のオーバシュートが起りそうである。どうも中国資本がギリシャで盛んに物件を物色していて、ギリシャ国民の反感をかっているという話である。


    安全保障の話は別にして、EUは共同市場を創設することによって欧州の存在感を世界に示すということが目的であった。アジアや新興国が経済成長し、長期に凋落を続けていた欧州経済は相対的に存在感が薄くなった。これを逆転するのがEUの創設であり、EUの拡大であった。「経済を統合したEUは、人口やGDPで経済大国の米国に引けをとらない」といった具合である。しかしそれはあくまでも統計上の話に過ぎない。

    ギリシャを発火点にした財政・金融危機が起りその対応を見ていると、EUは、単なる疑似国家でありとても国家と呼べるものではなかったことが明らかになったと言える。EU統合は各国の主権を脅かさない範囲の緩い統合であった。そのような国の集まりがユーロという共通通貨を導入したことがそもそもの間違いと筆者は思っている。


    何度か述べてきたように、筆者はEUというものが加盟国だけでブロック化するものと思っていた。経済規模から見てもブロック化するのに適正と考えられた。また筆者は、ブロック化しなければ欧州諸国の手厚い社会保障制度や環境保護を重視する社会を維持することは難しいと考える。

    ところがEUはむしろグローバル化を選択している。EUでは南米や韓国とFTAやEPAの締結が進んでおり、また日本とのEPAが議題に登っている。FTAやEPAを締結するということは、経済上、実質的に締結先の国がEUに加盟することと同じである。またEU統合後、中国からの製品輸入が増えている。

    おそらくEUの首脳は、EUとしてまとまった方がFTAやEPAの締結交渉で優位に立てると踏んだのであろう。しかしEUの企業は、これらの貧弱な社会保障制度の国や環境保全に金を掛けない国の企業との競争にさらされるということになるのである。筆者は、EUがもし失敗と言われるのなら、原因はユーロの導入とこの経済のグローバル化と考える。



来週は、ギリシャの再選挙などの一連のイベントの結果を取上げる。



12/6/11(第711号)「schole(スコレー、暇)の話」
12/6/4(第710号)「ギリシャ化の話」
12/5/21(第709号)「単式簿記の世界」
12/5/14(第708号)「文春と朝日の関係」
12/4/30(第707号)「続・増税論議と文芸春秋」
12/4/23(第706号)「増税論議と文芸春秋」
12/4/16(第705号)「増税論議と政界」
12/4/9(第704号)「増税派の人々」
12/4/2(第703号)「松下政経塾政治家と増税」
12/3/26(第702号)「英国の永久債発行」
12/3/19(第701号)「過去の号の修正」
12/3/12(第700号)「本誌700号に寄せて」
12/3/5(第699号)「投資顧問AIJの事件」
12/2/27(第698号)「橋下維新政党へのコメント」
12/2/20(第697号)「地方自治体と通貨」
12/2/13(第696号)「デフレ経済下での増税」
12/1/30(第695号)「無税国家への道」
12/1/23(第694号)「世界的な金利低下」
12/1/16(第693号)「過剰貯蓄による災い」
12/1/9(第692号)「バーチャルな話」
11/12/19(第691号)「シミュレーションモデルの話」
11/12/12(第690号)「財政破綻のすすめ」
11/12/5(第689号)「「騒ぎ屋」の時代」
11/11/28(第688号)「技術進歩の恩恵」
11/11/21(第687号)「避けられる根本問題」
11/11/14(第686号)「物事の本質」
11/11/7(第685号)「組織の異端児的存在」
11/10/31(第684号)「組織の研究」
11/10/24(第683号)「気乗りしないTPPの話」
11/10/17(第682号)「解決策はユーロ離脱か」
11/10/10(第681号)「ポール・クルーグマン教授の変心」
11/10/3(第680号)「現実論者VS観念論者」
11/9/26(第679号)「世界的な「日本化」」
11/9/12(第678号)「欧州発のリーマンショック」
11/9/5(第677号)「野田政権の成立」
11/8/29(第676号)「円相場の今後の動き」
11/8/22(第675号)「欧米経済の変調」
11/8/15(第674号)「脱・反原発派の人々」
11/8/8(第673号)「食品安全委員会の問題」
11/8/1(第672号)「タウンミーティングの報告」
11/7/25(第671号)「意味の解らない暫定基準値」
11/7/18(第670号)「政府が明らかにすべきこと」
11/7/11(第669号)「放射線防護の専門家」
11/7/4(第668号)「ダイオキシンとプルトニウム」
11/6/27(第667号)「付加価値を生まない発電」
11/6/20(第666号)「付加価値と発電」
11/6/13(第665号)「ポスト原発はやはり原発」
11/6/6(第664号)「菅政権に対する不信任案騒動」
11/5/30(第663号)「ニューニューサンシャイン計画」
11/5/23(第662号)「原発と電力会社の経営」
11/5/16(第661号)「原発推進派と反・脱原発派」
11/5/2(第660号)「菅政権の迷走」
11/4/25(第659号)「放射線は身体に良い?」
11/4/18(第658号)「山を越えたか?」
11/4/11(第657号)「原子力の専門家」
11/4/4(第656号)「本当に重大な事は何か」
11/3/28(第655号)「電力不足で表沙汰になった事実」
11/3/21(第654号)「東日本巨大地震」
11/3/7(第653号)「日本が貿易立国という誤解」
11/2/28(第652号)「日本は本当に貿易立国?」
11/2/21(第651号)「関税以外の貿易障壁」
11/2/14(第650号)「TPPに関する推理」
11/2/7(第649号)「菅首相の消費税増税」
11/1/31(第648号)「モラルハザードの話」
11/1/24(第647号)「問題は分配ではない」
11/1/17(第646号)「永久債の日銀引受け」
11/1/10(第645号)「日本の経済成長シナリオ」
10/12/20(第644号)「難しい日本の経済成長」
10/12/13(第643号)「日本における新経済成長論」
10/12/6(第642号)「経済成長理論に対する批判」
10/11/29(第641号)「「ケインズはもう古い」?」
10/11/22(第640号)「不況下の反ケインズ政策」
10/11/15(第639号)「政治家に向かない職業」
10/11/8(第638号)「米政府に対するロビー活動」
10/11/1(第637号)「この日をつかめ(Seize the Day)」
10/10/25(第636号)「人民元安容認の経緯」
10/10/18(第635号)「本誌の中国経済の見方」
10/10/11(第634号)「「腹を括る」べき時」
10/10/4(第633号)「中国漁船の公務執行妨害」
10/9/20(第632号)「菅政権の行方」
10/9/13(第631号)「中央銀行の制度設計」
10/9/6(第630号)「日銀悪玉説」
10/8/30(第629号)「外為特会の31兆円の評価損」
10/8/23(第628号)「野田財務大臣を罷免せよ!」
10/8/9(第627号)「世界に広がるデフレ」
10/8/2(第626号)「米国もデフレ?」
10/7/26(第625号)「国債利払いの名目GDP比率」
10/7/19(第624号)「中国の日本国債購入」
10/7/12(第623号)「10年参議院選挙の結果」
10/7/5(第622号)「サミットの変質」
10/6/28(第621号)「各党のデフレ対策」
10/6/21(第620号)「菅首相の想定」
10/6/14(第619号)「EU市場混乱の本質」
10/6/7(第618号)「EU経済の混乱とIMF」
10/5/31(第617号)「議論の前提条件」
10/5/24(第616号)「現実離れの構造改革派」
10/5/17(第615号)「これも一歩前進か」
10/5/10(第614号)「一歩前進か」
10/4/26(第613号)「ガラパゴス症候群」
10/4/19(第612号)「マクロによる検証」
10/4/12(第611号)「ミクロで捉えた日本経済」
10/4/5(第610号)「何事もタイミング」
10/3/29(第609号)「政策提言の想定問答」
10/3/22(第608号)「政策提言(後半)」
10/3/15(第607号)「政策提言(前半)」
10/3/8(第606号)「税収と名目GDPの関係」
10/3/1(第605号)「政治ができる事」
10/2/22(第604号)「積極財政への雑音」
10/2/15(第603号)「経済と金融の間の緊張関係」
10/2/8(第602号)「第二回目キャンペーン」
10/2/1(第601号)「第一回目キャンペーン」
10/1/25(第600号)「日本の財政構造」
10/1/18(第599号)「財政非常事態宣言」
10/1/11(第598号)「10年今年の景気」
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