経済コラムマガジン 平成9年2月10日より
経済コラムマガジン




12/6/11(711号)
schole(スコレー、暇)の話

  • 唯一のギリシャ経済の再生策
    先週号で述べたように筆者もギリシヤのことをあまり知らない。ただschool(学校)の語源がギリシャ語のschole(スコレー)という話は聞いたことがある。schole(スコレー)は元々が「暇」という意味である。

    古代ギリシャでは労働は奴隷が行い、裕福な市民層の人々は暇にまかせスポーツや観劇に興じたり議論に花を咲かせていた。このような環境で、古代ギリシャではオリンピックが始まりソクラテスやプラトンなどの哲学者が生れた。そのうち暇な人が集まって話をしたり議論する所が、schole(スコレー)、つまりschoolになったのであろう。


    元々が「暇」つぶしが目的であったためか、schole(スコレー)で交わされる議論は、実際的、あるいは実用的なものではなく、日常生活にほとんど役立つものではなかった。だがこのようなことを好んだのが古代のギリシャ人と言える。今日のギリシャ人が、古代ギリシャ人のこの「血」や「気質」をどれだけ引継いでいるか分らないが、なんとなく古代ギリシャ人に似たところがあると感じられる。

    もっともヨーロッパ全体にギリシャのような雰囲気と伝統がある。労働は労働者階級の人々や奴隷(今日では移民)にまかせ、貴族などの支配層は芸術を楽しみ高邁な議論を行うことが自分達の生きる道と考えている。今日、このギリシャが難しい局面に立たされている(ギリシャだけでなくヨーロッパ全体とも言える)。


    ギリシャは手厚い年金制度を整え、また膨大な数の公務員を抱えている。政権が頻繁に変わるような厳しい政治情勢のもと、このような国民の人気取り政策が横行してきたのである。公務員が多いのもこの政治状況の反映であり、政権の支持者をどんどん公務員に採用してきたからである。

    経済的な競争力のないギリシャは、ユーロ加盟の前は通貨ドラクマを切下げることによって、なんとか国内経済を保ってきた。2004年のユーロ加盟後は、国債の発行が容易になり資金調達に苦労することはなくなった。特にサブプライムローン問題やリーマンショックの前までは、欧州には世界中から資金が集まりギリシャものその恩恵に浴した。しかし今日、この歯車が逆回転を始めた。


    ギリシャは公務員を減らし、もっと付加価値を生む産業を起す必要があると誰もが考える。しかしユーロに加盟したままでは、競争力はなくギリシャに投資する者はいないであろう。唯一ギリシャ経済再生の可能性があるとしたなら、ユーロから離脱しドラクマに復帰しこれを切下げることである(これ以外ではユーロ加盟国の財政を統合してギリシャに地方交付金たいなものを渡すことが考えられるがこれは実現が不可能であろう)。

    通貨切下げによってギリシャの人件費や地代に割安感が生まれ、投資を喚起することができる。実際、これまで財政破綻から再生したロシアやアルゼンチンは、自国通貨を大幅に切下げ難局をしのいだ(アルゼンチンは長い間、自国通貨を米ドルにペッグしていたことが間違いであった)。ただし通貨を切下げたばかりの国は信用がなく、投資が増えるまでには時間が掛ると思われる。ただ通貨の割安感で観光客は確実に増えるものと考えられる。


  • 会議は踊る
    一方、世界にはこのギリシャ人と正反対の人々の国がある。金儲けや経済が最優先の人々の国である。時としてこれらの国の人々は金儲けに手段を選ばない。産業スパイまがいの行為で他国の産業技術を盗んだり、他国の著作権を無断で使用しても平気な人々の国である。ギリシャ人にそのような事ができるはずがない。

    ギリシャ人にできるとしたなら、せいぜいドイツ人を見習って少しは勤勉になることぐらいであろう。実際、国内に仕事がないのでギリシャ人はドイツに出稼ぎに行っている(この話は前にもした)。ただギリシャ人がドイツ人と同じ人々になれるとは到底考えられない。もっとも筆者などは、むしろギリシャ人はギリシャ人のままでいてもらいたいものと思っている。これが実現できるとしたなら、自国通貨への復帰とこの通貨の切下げしかないと考える。


    大学が発祥した欧州では、school(学校)の語源がschole(スコレー、暇)であるように、大学は日常生活に役立つことを学んだり研究する所ではなかった。物事の真理を探究する学問、例えば神学や哲学、そして物理学や数学などと言ったものが大学で学び研究するものであった。工学や経営学などといった実際的で現実の経済活動と結び付きが強い学問は、軽視されているのか大学教育の対象ではない。このような教科は大学ではなく専門学校で教えられている。

    このようなことを背景に今日においても、欧州の大学では一般教養(リベラルアーツ)が重視されている(詳しい説明は省略するが実は筆者も日本の大学は一般教養(リベラルアーツ)重視で良いと思っている)。大学が大衆化されている日本や米国と違い、欧州では今日でも大学は一握りのエリートを養成するところである。このような大学出のエリートが欧州の政治の支配層となっている。


    しかしこの高邁な議論と観念論を好むエリート達はやや現実離れをしている。その特徴をいかんなく発揮しているのが、今日の欧州の経済・財政危機への対応である。エリート達は活発に議論を行い駆引きをやっているだけで結論を出さない。まさに「会議は踊る」状態である。そのうち時間がなくなり、ギリギリの瀬戸際で小出しの解決策を打出すといったことの繰返しである。

    17日にギリシャの再選挙が行われこの結果が注目されている。しかし今日、ギリシャはもうダメで次はスペインが危ないということがほぼ常識になっている。当然、その次はこの混乱がイタリアなどに飛び火するものと考えられる。このように欧州の経済・財政危機への対処はほとんど前進していないのである。


    根本的な解決策は、南欧諸国のユーロ離脱か、もしくは共同債の発行と欧州中央銀行(ECB)による共同債の購入と筆者は考えている。ユーロ加盟国に奉加帳を回すような欧州金融安定基金(EFSF)なんていかにも中途半端な対処療法である。ユーロ加盟各国の政権が変われば、どうなるか分らないような危うい存在の制度と筆者は見ている。

    ドイツなどの銀行は南欧諸国に対して多額の債権を抱えており、ドイツなどは必死である。ところが共同債の発行に対し頑固に反対しているのもこのドイツである。ドイツ人の考えていることは本当に解らない。ただ欧州各国にとって唯一の救いはユーロ安である。



来週のテーマは思案中であり未定である。



12/6/4(第710号)「ギリシャ化の話」
12/5/21(第709号)「単式簿記の世界」
12/5/14(第708号)「文春と朝日の関係」
12/4/30(第707号)「続・増税論議と文芸春秋」
12/4/23(第706号)「増税論議と文芸春秋」
12/4/16(第705号)「増税論議と政界」
12/4/9(第704号)「増税派の人々」
12/4/2(第703号)「松下政経塾政治家と増税」
12/3/26(第702号)「英国の永久債発行」
12/3/19(第701号)「過去の号の修正」
12/3/12(第700号)「本誌700号に寄せて」
12/3/5(第699号)「投資顧問AIJの事件」
12/2/27(第698号)「橋下維新政党へのコメント」
12/2/20(第697号)「地方自治体と通貨」
12/2/13(第696号)「デフレ経済下での増税」
12/1/30(第695号)「無税国家への道」
12/1/23(第694号)「世界的な金利低下」
12/1/16(第693号)「過剰貯蓄による災い」
12/1/9(第692号)「バーチャルな話」
11/12/19(第691号)「シミュレーションモデルの話」
11/12/12(第690号)「財政破綻のすすめ」
11/12/5(第689号)「「騒ぎ屋」の時代」
11/11/28(第688号)「技術進歩の恩恵」
11/11/21(第687号)「避けられる根本問題」
11/11/14(第686号)「物事の本質」
11/11/7(第685号)「組織の異端児的存在」
11/10/31(第684号)「組織の研究」
11/10/24(第683号)「気乗りしないTPPの話」
11/10/17(第682号)「解決策はユーロ離脱か」
11/10/10(第681号)「ポール・クルーグマン教授の変心」
11/10/3(第680号)「現実論者VS観念論者」
11/9/26(第679号)「世界的な「日本化」」
11/9/12(第678号)「欧州発のリーマンショック」
11/9/5(第677号)「野田政権の成立」
11/8/29(第676号)「円相場の今後の動き」
11/8/22(第675号)「欧米経済の変調」
11/8/15(第674号)「脱・反原発派の人々」
11/8/8(第673号)「食品安全委員会の問題」
11/8/1(第672号)「タウンミーティングの報告」
11/7/25(第671号)「意味の解らない暫定基準値」
11/7/18(第670号)「政府が明らかにすべきこと」
11/7/11(第669号)「放射線防護の専門家」
11/7/4(第668号)「ダイオキシンとプルトニウム」
11/6/27(第667号)「付加価値を生まない発電」
11/6/20(第666号)「付加価値と発電」
11/6/13(第665号)「ポスト原発はやはり原発」
11/6/6(第664号)「菅政権に対する不信任案騒動」
11/5/30(第663号)「ニューニューサンシャイン計画」
11/5/23(第662号)「原発と電力会社の経営」
11/5/16(第661号)「原発推進派と反・脱原発派」
11/5/2(第660号)「菅政権の迷走」
11/4/25(第659号)「放射線は身体に良い?」
11/4/18(第658号)「山を越えたか?」
11/4/11(第657号)「原子力の専門家」
11/4/4(第656号)「本当に重大な事は何か」
11/3/28(第655号)「電力不足で表沙汰になった事実」
11/3/21(第654号)「東日本巨大地震」
11/3/7(第653号)「日本が貿易立国という誤解」
11/2/28(第652号)「日本は本当に貿易立国?」
11/2/21(第651号)「関税以外の貿易障壁」
11/2/14(第650号)「TPPに関する推理」
11/2/7(第649号)「菅首相の消費税増税」
11/1/31(第648号)「モラルハザードの話」
11/1/24(第647号)「問題は分配ではない」
11/1/17(第646号)「永久債の日銀引受け」
11/1/10(第645号)「日本の経済成長シナリオ」
10/12/20(第644号)「難しい日本の経済成長」
10/12/13(第643号)「日本における新経済成長論」
10/12/6(第642号)「経済成長理論に対する批判」
10/11/29(第641号)「「ケインズはもう古い」?」
10/11/22(第640号)「不況下の反ケインズ政策」
10/11/15(第639号)「政治家に向かない職業」
10/11/8(第638号)「米政府に対するロビー活動」
10/11/1(第637号)「この日をつかめ(Seize the Day)」
10/10/25(第636号)「人民元安容認の経緯」
10/10/18(第635号)「本誌の中国経済の見方」
10/10/11(第634号)「「腹を括る」べき時」
10/10/4(第633号)「中国漁船の公務執行妨害」
10/9/20(第632号)「菅政権の行方」
10/9/13(第631号)「中央銀行の制度設計」
10/9/6(第630号)「日銀悪玉説」
10/8/30(第629号)「外為特会の31兆円の評価損」
10/8/23(第628号)「野田財務大臣を罷免せよ!」
10/8/9(第627号)「世界に広がるデフレ」
10/8/2(第626号)「米国もデフレ?」
10/7/26(第625号)「国債利払いの名目GDP比率」
10/7/19(第624号)「中国の日本国債購入」
10/7/12(第623号)「10年参議院選挙の結果」
10/7/5(第622号)「サミットの変質」
10/6/28(第621号)「各党のデフレ対策」
10/6/21(第620号)「菅首相の想定」
10/6/14(第619号)「EU市場混乱の本質」
10/6/7(第618号)「EU経済の混乱とIMF」
10/5/31(第617号)「議論の前提条件」
10/5/24(第616号)「現実離れの構造改革派」
10/5/17(第615号)「これも一歩前進か」
10/5/10(第614号)「一歩前進か」
10/4/26(第613号)「ガラパゴス症候群」
10/4/19(第612号)「マクロによる検証」
10/4/12(第611号)「ミクロで捉えた日本経済」
10/4/5(第610号)「何事もタイミング」
10/3/29(第609号)「政策提言の想定問答」
10/3/22(第608号)「政策提言(後半)」
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10/3/8(第606号)「税収と名目GDPの関係」
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10/2/15(第603号)「経済と金融の間の緊張関係」
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10/2/1(第601号)「第一回目キャンペーン」
10/1/25(第600号)「日本の財政構造」
10/1/18(第599号)「財政非常事態宣言」
10/1/11(第598号)「10年今年の景気」
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