経済コラムマガジン 平成9年2月10日より
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12/4/16(705号)
増税論議と政界

  • 条件付きの増税派
    今週は、まず財政に関する考えの違いを元に、政界のグループ分けを行う。本誌では、これまで大まかに財政再建派、構造改革派、そして積極財政派といった三つのグループ分けを行ってきた。しかし今回の増税騒動をきっかけにこの分け方を少し修正したい。

    ポイントは財政再建の方法論である。構造改革派は、小さな政府を目指すことから、財政支出削減による財政再建を主張する。政府の経済への関与をなくすことが経済成長に繋がると考える。たしかにこれも財政再建の一つの方法である。財政支出というものが恣意的に行われるため、社会の不効率を招いていると思っている。無駄な財政支出としては公共事業や公務員経費がよくターゲットにされる。

    一方、増税派は財政支出の削減はほぼ限度まで来ていると考えているため、財政再建には増税しかないないと主張している。このように一口に財政再建といっても、これを歳出の削減で行うかそれとも増税で行うかといった方法論で両者は大きく異なる。前者が構造改革派であり、後者が増税派である。


    ただ構造改革派は、「小さな政府」「効率的な社会」を目指す一種の社会構造改革運動から発生したものであり、財政にはそれほど興味はない。一方、増税派は、財政のバランスシートに興味はあるが、社会や経済にはあまり関心がない。実際、経済に疎い者が多い。つまり増税派こそ財政再建を目指す保守本流の勢力と言える。本誌もこれまで増税派のことを財政再建派と称してきた。つまりこれまでも財政再建派といえば常に増税派を念頭に置いてきたのである。

    しかし増税を認めれば、どんどん政府は大きくなると構造改革派は警戒している。したがって今回の増税論議で両者は激しくぶつかることになったのである。ただ今日増税派が勢力を増し、一方の構造改革派は一頃より弱体化している。「規制緩和などの構造改革によって経済成長が可能」といった構造改革派の虚言・妄言は今日なかなか通用しないのである。今、構造改革派は増税派の主張である「日本の財政が危機的」という話を「事実と違う」と必死に攻撃している。

    増税派と構造改革派の攻撃の的であった積極財政派は存在感を失っている。もっとも積極財政派が弱体化したからこそ、増税派と構造改革派の対立が激化したと言える。橋本政権や小泉政権の時代には両者は手を結んで、積極財政派を封じ込めていたのである。表には派手な構造改革派が立ち、裏では増税派がこれを支えるという図式であった。


    国会におけるこれら3グループの勢力図を筆者なりに眺めてみる。はっきりと構造改革派と目されるのは「みんなの党」くらいである。民主党と自民党は三者が混在している。ただ両党とも執行部を増税派が占めているため、全体としては増税派が優位である。ただここに来て条件付きで増税に賛成というあいまいな政治家の数が増えている。これが曲者である。

    本来なら増税に反対のはずの公明党は、自民党と民主党を睨みながら条件付きで増税に賛同しそうである。国民新党は条件付きの増税賛成派と亀井氏などの増税反対派に分裂した。さらに政局がからみ増税論議は混迷を深めている。


    自民党と民主党では構造改革派が衰退し、条件付き増税派が増えた。構造改革派と思われる小泉元首相の息子さえ「自民党は民主党の増税案成立に協力すべき」と言っている。日経新聞を始め大新聞だけでなく財界までも自民党は民主党の増税案に賛成すべきと主張している。


  • 日本再生会議の復活
    このように増税賛成者が多くなればすんなり増税が実現しそうであるが、それほど話は簡単ではない。まず経済の行方が問題である。リーマンショック後、日本経済も多少持直している。一部には大震災復興景気が見られる。またしばらく前までは金融緩和による世界的に株価の回復もあり、日経平均も1万円を回復した。円高も一服していた。つまりここまでは増税派に多少有利な風が吹いていた。

    しかし直近では世界景気の先行きが怪しくなってきた。金融緩和によって資金が流入し続けていた商品市場でも、先月述べたように資源価格の下落が始まっている。不合理な資源価格が調整され始めていると言えると同時に、これが世界景気の今後の動向を暗示していると筆者は理解している。為替も簡単には円安に向かうとは行かない。

    つまり日本の景気回復も今後難しくなると思われる。まず復興景気も今年の前半までと見られる。経済をミクロで見ても、ソニー、パナソニックさらにシヤープなどが大赤字である。リストラぐらいで回復するとは考えられない状況である。何故、財界が消費税増税に賛成なのか理解不能である(将来の社会保障経費の企業負担を小さくするためと考えられるが)。


    このような状況でもし経済が大きく落込む事態が起れば、増税論議は怪しくなる。曲者の条件付き増税派は態度を変える可能性がある。彼等は根っからの増税派ではなく、彼等はマスコミが作る世論動向や自分の党内での立場やポスト(出世)を睨みながら行動している。何がなんでも増税政策を進めるという狂信的な真正増税派の政治家は、民主党にも自民党にもそれほどいない。

    もし日本経済が落込み「増税なんてやっている場合じゃない」という世間の声が大きくなれば、条件付き増税派は態度を硬化させると思われる。彼等は一転して増税に反対に回るとか、増税する場合の条件をより厳しくすることが考えられる。近々総選挙があるとなれば、とても簡単には増税に賛成できないのである。もし増税のための条件を一段と厳しくすれば、事実上、増税はできなくなる。筆者はこの可能性があると踏んでいる。


    最後に積極財政派の動向である。昔、自民党の一大勢力であったはずの積極財政派は、増税派と構造改革派に押され段々と衰退している。彼等の存在感を最後に示したのは小渕政権の時であった。

    07/10/29(第502号)「日本再生会議の話」で取上げたように、増税派と構造改革派に対抗する積極財政派は、亀井派が主体となっていた日本再生会議に結集していた。この動きは橋本派の積極財政派にも及び、「経済活性化懇話会」なるものに発展した。さらにこれが他の派閥にも広がり「郵政事業懇話会」ができた。


    この「郵政事業懇話会」こそが、小泉首相が進める郵政民営化路線に徹底的に抵抗した勢力であった。たしかに表向きには「郵政改革」が対立点になっていたが、実態は積極財政派VS(構造改革派+増税派)の「政局」であったと筆者は見ている。「郵政改革」自体はたいしたテーマではなかった。実際、今国会で郵政改革法の見直し法案が与野党賛成で通る見通しである。

    今回の増税騒動も郵政改革騒動と非常に似ている。表向きはつまらない増税論議であるが(先週号で述べたように財政再建にも寄与しない増税)、実態は、自民党を巻込んだ民主党内の小沢一郎グループVS反小沢一郎グループといった「政局」という面が強い。今のところ条件付き増税派を取込んでいる反小沢一郎グループが優位に立っている。


    郵政選挙で自民党内の積極財政派は壊滅的になった。ただ郵政改革反対派の一部は自民党に舞い戻っている。また「構造改革と増税では日本経済はどうしようもなくなる」と考える良識派も党内に根強くいると思われる。

    民主党の中にも積極財政派がいることを筆者も知っている。民主党には意外と政府貨幣・紙幣発行論者がいる。彼等は積極財政派と見なしても良い。構造改革路線や増税路線が失敗することは目に見えている(既に破綻していると言える)。筆者は、今日必要なことは日本再生会議の復活であり新生日本再生会議の誕生と考える。結集のテーマとしては、12/3/26(第702号)「英国の永久債発行」他で取上げた「永久債の発行」と「永久債の日銀買入れ」といったものが面白いと思われる。



来週は、消費税増税をサポートしている論議を取上げる。

12/3/19(第701号)「過去の号の修正」のバックナンバーがおかしくなっている。原稿を探したが、筆者のミスで消去したようである。なんとかこれを解決するつもりなので、しばらく待っていただきたい。



12/4/9(第704号)「増税派の人々」
12/4/2(第703号)「松下政経塾政治家と増税」
12/3/26(第702号)「英国の永久債発行」
12/3/19(第701号)「過去の号の修正」
12/3/12(第700号)「本誌700号に寄せて」
12/3/5(第699号)「投資顧問AIJの事件」
12/2/27(第698号)「橋下維新政党へのコメント」
12/2/20(第697号)「地方自治体と通貨」
12/2/13(第696号)「デフレ経済下での増税」
12/1/30(第695号)「無税国家への道」
12/1/23(第694号)「世界的な金利低下」
12/1/16(第693号)「過剰貯蓄による災い」
12/1/9(第692号)「バーチャルな話」
11/12/19(第691号)「シミュレーションモデルの話」
11/12/12(第690号)「財政破綻のすすめ」
11/12/5(第689号)「「騒ぎ屋」の時代」
11/11/28(第688号)「技術進歩の恩恵」
11/11/21(第687号)「避けられる根本問題」
11/11/14(第686号)「物事の本質」
11/11/7(第685号)「組織の異端児的存在」
11/10/31(第684号)「組織の研究」
11/10/24(第683号)「気乗りしないTPPの話」
11/10/17(第682号)「解決策はユーロ離脱か」
11/10/10(第681号)「ポール・クルーグマン教授の変心」
11/10/3(第680号)「現実論者VS観念論者」
11/9/26(第679号)「世界的な「日本化」」
11/9/12(第678号)「欧州発のリーマンショック」
11/9/5(第677号)「野田政権の成立」
11/8/29(第676号)「円相場の今後の動き」
11/8/22(第675号)「欧米経済の変調」
11/8/15(第674号)「脱・反原発派の人々」
11/8/8(第673号)「食品安全委員会の問題」
11/8/1(第672号)「タウンミーティングの報告」
11/7/25(第671号)「意味の解らない暫定基準値」
11/7/18(第670号)「政府が明らかにすべきこと」
11/7/11(第669号)「放射線防護の専門家」
11/7/4(第668号)「ダイオキシンとプルトニウム」
11/6/27(第667号)「付加価値を生まない発電」
11/6/20(第666号)「付加価値と発電」
11/6/13(第665号)「ポスト原発はやはり原発」
11/6/6(第664号)「菅政権に対する不信任案騒動」
11/5/30(第663号)「ニューニューサンシャイン計画」
11/5/23(第662号)「原発と電力会社の経営」
11/5/16(第661号)「原発推進派と反・脱原発派」
11/5/2(第660号)「菅政権の迷走」
11/4/25(第659号)「放射線は身体に良い?」
11/4/18(第658号)「山を越えたか?」
11/4/11(第657号)「原子力の専門家」
11/4/4(第656号)「本当に重大な事は何か」
11/3/28(第655号)「電力不足で表沙汰になった事実」
11/3/21(第654号)「東日本巨大地震」
11/3/7(第653号)「日本が貿易立国という誤解」
11/2/28(第652号)「日本は本当に貿易立国?」
11/2/21(第651号)「関税以外の貿易障壁」
11/2/14(第650号)「TPPに関する推理」
11/2/7(第649号)「菅首相の消費税増税」
11/1/31(第648号)「モラルハザードの話」
11/1/24(第647号)「問題は分配ではない」
11/1/17(第646号)「永久債の日銀引受け」
11/1/10(第645号)「日本の経済成長シナリオ」
10/12/20(第644号)「難しい日本の経済成長」
10/12/13(第643号)「日本における新経済成長論」
10/12/6(第642号)「経済成長理論に対する批判」
10/11/29(第641号)「「ケインズはもう古い」?」
10/11/22(第640号)「不況下の反ケインズ政策」
10/11/15(第639号)「政治家に向かない職業」
10/11/8(第638号)「米政府に対するロビー活動」
10/11/1(第637号)「この日をつかめ(Seize the Day)」
10/10/25(第636号)「人民元安容認の経緯」
10/10/18(第635号)「本誌の中国経済の見方」
10/10/11(第634号)「「腹を括る」べき時」
10/10/4(第633号)「中国漁船の公務執行妨害」
10/9/20(第632号)「菅政権の行方」
10/9/13(第631号)「中央銀行の制度設計」
10/9/6(第630号)「日銀悪玉説」
10/8/30(第629号)「外為特会の31兆円の評価損」
10/8/23(第628号)「野田財務大臣を罷免せよ!」
10/8/9(第627号)「世界に広がるデフレ」
10/8/2(第626号)「米国もデフレ?」
10/7/26(第625号)「国債利払いの名目GDP比率」
10/7/19(第624号)「中国の日本国債購入」
10/7/12(第623号)「10年参議院選挙の結果」
10/7/5(第622号)「サミットの変質」
10/6/28(第621号)「各党のデフレ対策」
10/6/21(第620号)「菅首相の想定」
10/6/14(第619号)「EU市場混乱の本質」
10/6/7(第618号)「EU経済の混乱とIMF」
10/5/31(第617号)「議論の前提条件」
10/5/24(第616号)「現実離れの構造改革派」
10/5/17(第615号)「これも一歩前進か」
10/5/10(第614号)「一歩前進か」
10/4/26(第613号)「ガラパゴス症候群」
10/4/19(第612号)「マクロによる検証」
10/4/12(第611号)「ミクロで捉えた日本経済」
10/4/5(第610号)「何事もタイミング」
10/3/29(第609号)「政策提言の想定問答」
10/3/22(第608号)「政策提言(後半)」
10/3/15(第607号)「政策提言(前半)」
10/3/8(第606号)「税収と名目GDPの関係」
10/3/1(第605号)「政治ができる事」
10/2/22(第604号)「積極財政への雑音」
10/2/15(第603号)「経済と金融の間の緊張関係」
10/2/8(第602号)「第二回目キャンペーン」
10/2/1(第601号)「第一回目キャンペーン」
10/1/25(第600号)「日本の財政構造」
10/1/18(第599号)「財政非常事態宣言」
10/1/11(第598号)「10年今年の景気」
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